バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

64 / 66
いよいよ最終回です!


第六十四話 夢

ココロとの激闘からまもなく、サヨはリゲル団の解散を宣言した団員は、リンコや四天王、ジムリーダー達の助けを受けながら新たな人生を歩み出した。これによりリゲル団は名実ともに崩壊。シンシューに平和が戻ってきたのである。

 

 

 

 

 

さて、それから数日後。アヤはシグレタウンに程近い草原に来ていた。ある人と待ち合わせているのだ。

 

「あっ、来た」

 

遠くの方に目を凝らすと、緑の絨毯と透き通った青空の間に2つの黒い粒が現れた。よく見れば、それは仲良く連なった2つの人影のよう。片方は楽しげにぴょんぴょん動き、もう片方は見守るように落ち着いている。ヒナとサヨだ。

 

「話は聞いたよ!やっぱり、アヤちゃんはるんっ♪てするー!」

 

ヒナはアヤに出会うが否や、思いっきり飛びついてきた。その体はほのかに温かい。それは、姉の優しさに包まれているからであろうか。

 

「ヒナ!いくら友達でも、いきなり飛びついては迷惑じゃない!」

 

「え〜、いいじゃ〜ん!」

 

喚くヒナを、サヨは呆れたように無理やりアヤから引き剥がす。しかし、その表情はどこか優しく、穏やかだった。今まで何度も彼女と顔を合わせてきたのに、まるで別人と会ったかのような錯覚をしてしまうほど。だが、よくよく考えれば、それほど変なことではないかもしれない。今までのサヨはリゲル団という名の呪いに洗脳されていた状態だった。しかし、今は洗脳から解き放たれ、本来の自分を取り戻したのである。そう考えるとサヨはもはや別人にも見える。そう思って、アヤは彼女の顔を見た。

 

「あっ……!」

 

しかし、サヨは彼女と目が合うと視線を逸らした。

 

「サヨさん……?」

 

と、アヤが首を傾げるとサヨは曇った顔をむけた。

 

「すみません……、アヤ……。いえ、アヤさん。あなたとどういう顔で接すればいいか分からなくて……」

 

「た、確かに……。私たち、色々あったからね……。でも、気にしなくていいよ。もう終わったことだし!」

 

「そう言ってくれるのはありがたいのですが……、どうしても気にしてしまって……。でも、これだけは言わなければなりません。アヤさん、ヒナとずっと仲良くしてくださってありがとうございました。そして、リゲル団の元リーダーとして謝らせてください。本当に、申し訳ありませんでした。もちろん、あなた1人だけに頭を下げても意味ないということは理解しています。私は、自分のくだらない感情と甘い誘惑に唆されシンシュー地方のあらゆる人やポケモンに迷惑をかけてしまいましたから……」

 

「サヨさん……」

 

アヤが呟くと、サヨは改めてアヤの目を見つめ直した。

 

「この罪は、仮に私が何回死んだとしても償いきれないでしょう。でも、私はこの一生で出来る限りの償いをしなければならない。だから、もう一度ポケモントレーナーとして、1人の人間として、ヒナの姉として自分を鍛え、考え直すために旅に出ます」

 

彼女の想いは確かだ。向けられる視線が、アヤにそう語っている。

 

「そっか……。これから仲良くなれるかなって思ってたんだけど……残念だな。でも、ヒナちゃんはいいの?せっかくお姉ちゃんと一緒になれたのに、また離れ離れになっちゃって」

 

ところが、アヤの思いとは裏腹に、ヒナは全然悲しそうとも寂しそうともしていなかった。むしろ、何故か嬉しそうにしている。

 

「うん、いいよ!だっておねーちゃんと約束したもん。『納得行くトレーナーに成長できたら必ず帰ってくる』って。だから私は待つよ。例え、何年何十年経とうが、私はおねーちゃんを待つよ。だから、いってらっしゃい!おねーちゃん!」

 

ヒナが大きく手を振ると、サヨは微笑み返し、少し真面目な表情でアヤに深く頭を下げた。

 

「それでは、私はもう行きます。少しでも早くヒナのところに戻るために、時間を無駄にはしたくないので」

 

サヨは再び草原と空の狭間に向かって1人で歩いていった。アヤとヒナは、サヨの姿が狭間に消えても、何も言わずにずっとそこを見続けた。

 

 

 

 

 さて、その日のお昼過ぎ、ヒナと別れたアヤはとある街の喫茶店にいた。実は今日、彼女はリンコとも会う約束をしていたのだ。

 

「それで、その時ヒナちゃんが……」

 

「ふふ……、そうなんですね……」

 

強者のベールを脱ぎ捨て、ガールズトークに花を咲かせるアヤとリンコ。しかし、30分程話したところで、リンコが『お話ししたいことがある』と場を仕切り直した。

 

「は、話し……?」

 

アヤは身構えた。何が自分がしたであろうか?いや、していない。色々な悪い予感が頭の中をグルグル回る。しかし、リンコの話は思わぬ角度から飛んできた。

 

「単刀直入にいいます……。アヤさん、新しいチャンピオンになりませんか……?」

 

「えっ……?チャンピオンって……シンシューポケモンリーグの?」

 

アヤは初めに耳を疑った。しかし、雰囲気的に違う。次に夢かどうかを疑った。だが、自分の頬をつねると確かに痛む。間違いない。この話は幻聴でも幻でもないのだ。そうと分かった途端、アヤの体中から驚き感情が飛び出した。

 

「わ、わ、私がチャンピオン!?なんで!?シンシューのチャンピオンはリンコさんじゃ……」

 

リンコはコーヒーを一口飲むと、そよ風が草木を揺らす風景を、窓越しに見た。

 

「私がチャンピオンになってから随分と長い年月が経ちます……。そろそろ、このシンシューに新しい風を吹かせるのも悪くないかなって……思ったんです。私はもう……チャンピオンとしてやりたい事はやり尽くしましたし……。アヤさんなら……強いですし……優しいし……シンシューの新しい顔にふさわしいと思うんですが……どうでしょう……?」

 

今ここで頷けば、アヤは名実ともに最強のポケモントレーナーとして、シンシューに君臨することになる。周囲からの喝采の嵐を浴びることも間違いない。まさに、夢のようなである。しかし、アヤの首は縦に動かない。横にしか動かなかった。

 

「ごめんなさい、リンコさん……。私には他に夢があるんだ」

 

時に手振りを交え、時には興奮のあまり立ち上がり、子どものようにはしゃぎ、アヤは夢を語った。夢と希望が化学反応を起こし、大爆発したのだ。

 

「そうですか……。それなら……、私はアヤさんの夢を応援しますよ……。シンシューのチャンピオンは……私に任せてください……」

 

リンコは目を細め、アヤとともに彼女の夢を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後の朝、アヤの夢を叶える日がきた。アヤの夢とは『全ての地方を回り、全てのポケモンと仲良くなること』である。そのために今、彼女は故郷のシグレタウンをまたもや旅立とうとしているのだ。

 

「荷物はよし……。忘れ物なし!よーし、新しい冒険の始まりだ!」

 

研究所の前で、アヤは大きく深呼吸。そして、見送りに来た母親、マリナ博士、ヒナ、リンコ、そして歴戦の手持ち達の方を向いた。

 

「あ、アヤちゃん。本当に自分のポケモンを全部置いていくの?1匹くらい連れていった方が……」

 

「大丈夫ですよ、マリナ博士!ナエトル一緒に旅立った時の私とはもう違うんですから!1人で大丈夫です!道中で、新しい仲間を増やしますから!」

 

アヤがそう言った途端、彼女の全身を激痛が走った。カブトプスが抱きついてきたのだ。ついでにムクホークも辺りをバサバサ飛び回っている。

 

「ドダァ」

 

「ネール……」

 

「サナァ……」

 

「レジギガガ……」

 

ドダイトスもハガネールも、サーナイトもレジギガスも、涙が出そうな声を漏らす。みな、アヤとの別れが惜しいのだ。

 

「そんなに寂しがらなくても大丈夫だよ。必ずまた会えるから。今度会う時は、いっぱい新しい仲間を連れてくるからね!」

 

満面の笑みを目に焼き付けると、ムクホークとカブトプスは主人から離れた。

 

「アヤちゃん、どこかでおねーちゃんに会ったらよろしくね!」

 

「あなたの夢が叶うことを……祈っています……」

 

ヒナの見慣れた無邪気な顔と、リンコの静かな優しさにもこれでしばらくお別れだ。名残を惜しむように、アヤは長く、硬く、彼女達の手を握りしめた。そして、最後に母親と少し話し、研究所に背を向けた。天気は晴れ。眩しい朝日も、門出を祝福している。

 

「それじゃあ、いってきまーす!」

 

アヤは、夢への第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

  

 やがて、アヤの姿は見えなくなると、アヤの母親は家に帰った。そして、マリナ博士はアヤから預かったモンスターボールを手に取った。

 

「よし、裏庭に行こう。そこが、みんなの新しい家だからね。あ、それと、私とも仲良くしてね!」

 

その傍らでは、リンコがサザンドラを出していた。今日はヒナとお出かけである。

 

「さぁ……、乗ってください……」

 

「うん!」

 

ヒナ語を乱射しながら、彼女はサザンドラに飛び乗る。と、その時、遠くの方からかすかに悲鳴が聞こえた。

 

「ん……?」

 

思わずヒナはリンコと顔を見合わせる。その瞬間は、この悲鳴は空耳ではないかと、彼女たちは思った。しかし、悲鳴は確かに聞こえる。しかも、だんだん大きくなっていた。そして、間もなく声の主が現れた。今さっき旅立ったばかりのアヤだ。しかも、大粒の涙を浮かべている。

 

「ど、どうしたの!?」

 

研究所の前でしゃがみこむアヤのところに、マリナ博士達が駆けよった。話を聞けば、アヤは1番道路に入って早々に、うっかりコラッタの巣を壊してしまい、コラッタに追いかけまわされていたようだ。

 

「どうしよ~。1番道路に行きたいけど、コラッタが~!ヒナちゃん、何とかして~!」

 

お世辞にも、数日前にシンシューを救った英雄とは思えない情けない姿だ。ちなみに、頼りにされたヒナはというと、泣きわめくアヤそっちのけで笑い転げていた。一方のリンコは、しゃがみこむアヤの背中をさすり、心配そうな表情を見せている。が、よくよく見れば表情の節々が微妙に笑っていた。流石の彼女も、笑いを完全にこらえるのは無理だったようだ。

 

「しかたないなー。アヤちゃんが始めて旅立った時と同じように、初心者用のポケモンを1体プレゼントしてあげるよ!」新しい門出のお祝いだと思って受け取って!」

 

「本当ですか!?」

 

ガバッとアヤの顔が上がった。

 

「本当だよ。ちょうど今日も全種類いるし、前はいなかったガラル地方のポケモンもいるよからね!」

 

「博士、ありがとうございます!」

 

アヤはマリナ博士から、初心者用ポケモンのリストを受け取り、ヒナとリンコとともに覗き込んだ。

 

「アヤちゃん!私と同じミズゴロウにしようよ!」

 

「モクローは……どうですか……?ジュナイパーになれば……ゴーストタイプになるんで……オススメですよ……」

 

「あっ、もう一度ナエトルは!?」

 

「ヒバニー……かわいい……」

 

頭を抱えて悩むアヤを挟んで、ヒナとリンコは大盛り上がり。当の本人は、次々現れるオススメポケモンに振り回され、新しいパートナーを全く決められない。

 

「いっぺんに色々言われても、逆に困るよー!」

 

アヤはまた悲鳴を上げた。どうやら、彼女の新しいパートナーが決まるのは当分先のようだ。果たして、彼女はどのポケモンを選ぶのか。そして、そのポケモンとどのような旅路を歩むのか。アヤの冒険は、まだまだ続く。

 




今まで長い間、ありがとうございました!これにて完結です!
ちなみに、この小説の続編を咲野皐月さんが書いてくれています!
https://syosetu.org/novel/219035/
彩ちゃん達の冒険の続きが見たい方は、ぜひ読んでみてください!

追記
次回作は、ハーメルンには投稿しないかもしれません。今後の作品情報は、Twitterで公表するかもしれないので、次回作が気になる人はぜひフォローしてください!私のマイページからフォローできるようにしておきます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。