BLESS A CHAIN   作:柴猫侍

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*13 本能と理由

 未知とは恐怖だ。

 対峙せねばならないと分かっている時に未知の相手と戦う時、大抵の人間はまず恐怖を覚える。

 未知に喜びを覚えるのは、それこそ根っからの戦闘狂か、マッドサイエンティストの域に達する研究者くらいだろう。

 

 だが、生憎焰真と恋次の二人はどちらにも属してなかった。

 故に未知の虚を目の前にして恐怖を覚え、すぐさま対応できるようにと身構えることができたのだろう。

 

「来るぞ!!」

「おう!!」

 

 虚が地面を蹴って飛び出したのを目の当たりにし、焰真が叫ぶ。

 彼の言葉を受け、飛び跳ねるようにして左右にそれぞれ回避行動に移る。その間を抜けていく虚は、開けた大口で軌道上にあった極太の樹の幹に噛みつき、バリボリと煎餅でも噛み砕いているかのような乾いた音を響かせて咀嚼した。

 その咬合力たるや、二人に更なる警戒心を抱かせるには十分。

 

「噛まれたら一たまりもねえぞ!!」

「分かってる! 鬼道で動きを止める!!」

 

 そう叫ぶや否や、焰真は依然として木を咀嚼する虚目掛けて鬼道を放つべく、詠唱を始めた。

 

「自壊せよ、ロンダニーニの黒犬。一読し・焼き払い・自ら喉を掻き切るがいい―――縛道の九『(げき)』!!」

「オッ」

 

 刹那、虚の体は赤い光に縛られる。

 霊術院の一年目に習うような下級鬼道ではあるものの、完全詠唱であるならば多少の時間稼ぎにはなるハズ。

 そう踏んでいた焰真であったが、

 

「オア゛ッ!!」

「ッ……もうかよ!」

「下がれ、焰真!! 吼えろ―――『蛇尾丸』!!」

 

 瞬く間にして拘束を解かれ歯噛みする焰真の前に出た恋次は、斬魄刀を解放し、刃節を伸ばすように振り回し、虚の体を拘束してみせた。

 既に鎖で雁字搦めであった虚であるが、他者による物理的拘束があるならば話は別。

 先程の鬼道とは違い、動けないと言わんばかりに身体を振るって拘束を振りほどこうとする虚だが、それが外れることはない。

 

「蛇尾丸ごと縛れ! なんでもいい!」

「急に無茶言うな! っそ……! 雷鳴の馬車、糸車の間隙」

 

 一見拘束に成功しているように見える光景であるが、本能的にまだ足りていないと察した恋次の切迫した訴えにより、更なる縛道による追撃を行う焰真。

 

「光もて此を六に別つ―――縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』!!!」

 

 六つの光の帯が、蛇尾丸ごと虚の体に突き刺さる。

 こうなってしまえば、最早容易に抜け出すことはできない。何故ならば、上級の縛道になるほど、肉体だけではなく相手の霊圧さえも封じる効果が付与されるからだ。

 霊体の膂力は霊圧に依存する。

 それはつまり、肉体だけを拘束しても霊圧で無理やり解かれる可能性があるが、霊圧の方も縛ればより解かれる可能性が低くなるということ。

 

「六十番台の縛道……へへっ、中々やるじゃねえか」

「はぁっ……はぁっ……鬼道は……元々得意じゃないんだ。大分……無理してる……」

「そうかい。じゃあ、一先ず俺がこいつ見張ってるから、今の内に伝令神機で先輩呼び出してくれ」

「っ……あぁ……」

 

 息も絶え絶えとなっている焰真は、事態を伝えるべく懐に仕舞っていた伝令神機を取り出し、早速電話をかける。

 流石にこの虚は自分たちの手には余る―――その判断からだ。

 他の十一番隊士であれば真っ先に拘束されている虚に斬りかかってもおかしくはないが、焰真はそこまで好戦的な性格ではない。より堅実に、より基本に忠実にと行動に移る。

 

 先輩たちがやって来たのは、連絡してから五分と立たぬ内であった。

 その間虚は微動だにせず、ただただ口腔から涎を垂らして立ち尽くしているのみ。

 

「あ、あれがあいつが虚になった姿だって?」

「確かに見たんス、俺ら! 因果の鎖みてえなのが胸についてて、それで……!」

 

 事の顛末を伝える恋次に対し、やって来た先輩たちは半信半疑であった。

 だが、最終的にはそのような話などどうでもいいと言わんばかりに、先輩の一人が斬魄刀を抜いて、依然として拘束されている虚の前に立つ。

 

「まあ、なんだ。誰が虚になろうと死神の俺たちはぶった切るだけだろ」

 

 虚が元同僚であろうとも、斬ることに対して一切の躊躇いを持たない先輩。

 一瞬手を伸ばして制止しようとした焰真であるが、斬魄刀は虚の罪を洗い流すもの―――延いては虚としての魂魄を整の魂魄に昇華させるものであることを思い出し、たたらを踏んだ。

 

 しかし、

 

「っ……でもやっぱり十二番隊に来てもらって、しっかり調査してもらってからの方が―――」

 

 いざ知り合いが斬られると思うと止められずにはいられなかった焰真。

 だが、彼が言葉を発したのと時を同じくし、拘束されていた虚は、口から口だけがある触手―――否、極太の鎖を吐き出すではないか。

 

「なっ……!?」

「なんだぁこりゃあ!!?」

「くそ、斬れ!! 斬れぇ!!!」

 

 思いもよらぬ行動に出た虚を目の当たりにし戸惑う面々。

 しかし、そこは十一番隊だ。焰真と恋次を除く隊士たちはすぐさま抜き身の斬魄刀で、謎の行動に打って出る虚に斬りかかった。

 

「オァ゛!」

「ぐあ!」

「づぁ!!?」

 

 そうして斬りかかる隊士を鎖で一蹴した虚。

 次の瞬間、虚はなんとその鎖についている口で己の体を貪り始めた。知っている者が見れば、タコが己の触手を食する姿を彷彿とさせる光景であるが、人型の虚が見せる己の体の捕食は悍ましい以外の感想が出てこない。

 鎖で一蹴された隊士たちが立て直す間、一心不乱に己の体を食した虚は、やがて鎖だけとなって地面に転がる。

 

「じ、自害しやがったのか?」

 

 自害であれば、どれだけよかったことか。

 それに気が付くのは直ぐだった。

 

 力なく地面に転がっていた鎖が、まるで生物のように蠢き、大きく体をうねらせて跳躍したのだ。

 鎖の先には先程虚を捕食した口が開かれている。

 その口が向けられている先に居たのは―――焰真だ。

 

「っ……―――!?」

 

 咄嗟に斬魄刀を構え、鎖の噛みつき攻撃を防ぐ。

 しかし予想以上の勢いに斬魄刀を押され、鎖の口が、そしてそこに生えている鋭い歯が焰真の肩に到達した。

 

「ぐぅっ!!?」

「焰真ァ!!」

 

 既に伸びた刃節を元に戻していた恋次が、解放状態のまま焰真に噛みつく鎖に斬魄刀を振るう。

 だが、恋次が斬りかかるよりも前に、鎖の方から焰真の体から口を離し、大きく飛びのいた。

 

「ゲェーッ! ゲェーッ! ゲェーッ!」

「な、なんだ? 急に吐き始めやがって」

 

 突然の鎖の嘔吐に戸惑う恋次。

 一方で焰真は既視感の有る光景にハッとする。まだ小さい頃、この鎖よりも巨大な虚に噛まれた際も、途端に虚は自分から口を離して嘔吐し始めた。

 それはまるで自分が虚の餌には適していないと言われているような感覚だ。

 一般的に、霊的濃度の高い魂魄は虚にとって美味とされている。

 俗に言う霊感のある者は元より、死神ともなればそれは大層なご馳走となろう。

 それにも拘わらず、死神である焰真を食べかけた虚が拒絶する魂魄とは―――、

 

「不味くて助かったみてェだな」

「皆まで言うなっ、ちくしょう……!」

 

 自分の体質に助けられたと気が付いた焰真は、結果的に自分の実力で助かった訳ではないことに悪態をついた。

 

 そして焰真は、嘔吐中で隙を晒している鎖に向かい指先を向ける。

 

「逃がさねえぞ! 破道の四『白雷(びゃくらい)』!!」

「行け、蛇尾丸!!」

 

 焰真の指先から一条の光線が放たれると同時に、恋次もまた蛇尾丸での追撃を行う。

 しかし、それらの攻撃を軽やかに避けてみせた鎖は、遅れて斬魄刀を構えて肉迫してくる死神に相対した。

 

「おらァ!」

「グゲッ!!」

 

 振り下ろされた斬魄刀。

 すると鎖は、余りにも呆気なく断ち切られ、蛙が潰れたような悲鳴を上げて地面に転がった。

 

「ひゃっは! どんなもんよ!」

 

 すばしっこい鎖を真っ二つに斬り伏せた先輩は得意げに声を上げる―――が、死んだと思われた鎖は予備動作も見せずに飛び跳ね、無防備になっていた先輩の胸に齧りついた。

 

「な、なんだと!!? ちくしょう、離れやが……ぎゃあッ!?」

 

 肉体に密着している相手には長物と化す刀。

 故に素手で鎖を引きはがそうとした先輩であったが、握った拳は鎖の至る所に生まれた口に噛みつかれ、肉を少々食いちぎられた。

 その痛みに悶絶し、地面にのたうち回る先輩。しかし、数秒後にはピクリとも動かなくなる。

 

「ヒ、ヒギ、ヒギィィィイイ!!?」

 

 慟哭の如き悲鳴が周囲に木霊した。

 鎖はまたもや己の体である鎖をその口で貪り、あっという間に喰い尽くされる。すると先輩の体は呆気なく弾け飛んだ。

 

「そんな……嘘だろ……!?」

 

 この間、一分にも満たない。

 次々と命を貪られていく光景に戦慄する焰真であったが、再度眼前に広がる光景には、絶望に似た感覚を覚えた。

 

 はじけ飛んだ霊体が集まる。

 それは白い粘土のような代物。

 見たことのあるような胴体、脚、そして腕が生まれ、最後にはたった今はじけ飛んだ先輩の顔が生まれ、そこに再び先程の虚とまったく同じ仮面が覆いかぶさる。

 

「嘘だろ……」

 

 己を食い尽くして消えたハズの虚が、またもや目の前に誕生する。

 二度目の光景を前に、得体の知れない恐ろしさを覚えた。強大な敵を相手にした時でも、ましてや単純に見た目が恐ろしいという訳でもない。

 

「他の魂魄に寄生して霊体を乗っ取る虚か!?」

「クソが!」

 

 焰真の憶測を聞いた恋次は、自分が乗っ取られてはかなわないと、再び蛇尾丸を振るって虚の体を縛る。

 だがしかし、虚は絡まる蛇尾丸の刀身が絡まる直前に、胴体と刀の間に足を割り込ませていた。そして体が縛り付けられた瞬間、自分を抑え込もうとする刀身を足蹴にし、伸縮性の高い刃節を千切ったではないか。

 刃節を千切られた刀身は、バラバラと分かれた刀身を地面にばらまく。

 

「なッ……!?」

 

 伸縮性が高いということは、ある程度の衝撃であれば吸収できることを意味する。

 多少の足掻きであればなんとかなるだろうと踏んでいた恋次であったが、まさか蹴りだけで蛇尾丸を千切られるとは思ってもいなかったのは、数秒呆気に取られた。

 

 一方虚は、まだ戦意を滾らせて斬魄刀を振りかざしてくる隊士に向かって跳躍する。

 腕を胴体に縛り付けられるようにして拘束されていることから、一見攻撃能力は低そうだ。

 だが、それは間違い。

 すれ違いざま、虚の頭部が目にもとまらぬ速さで動いたかと思えば、次の瞬間に頭がなくなっていたのは隊士の方であった。

 

 頭部を失った体は首の断面から血の噴水を見せる。

 虚はというと、食いちぎった隊士の頭部を骨ごと咀嚼し、実に旨そうに喉を鳴らして飲み込んだ。

 

 その時、ようやく焰真はある事実に気が付いた。

 

「あ、あいつ……」

「どうした、焰真?」

「霊圧……さっきより高くなってないか?」

「―――!」

 

 戦慄する恋次。霊圧探知能力はそこまで高くない彼ではあるが、集中すれば霊圧の上下はある程度感じ取ることができる。

 ―――確かに霊圧は高くなっていた。それもちょっとどころの話ではない。まるで死神一人分の霊圧を上乗せしたような上昇率だ。

 

 それはたった今喰らった隊士の霊圧か、はたまた直前に乗っ取った隊士のものか。

 数秒の思案の後、頭部だけを喰らうよりも全身乗っ取った方が上昇率が高いハズと結論付けた焰真は、緊迫した様子で叫んだ。

 

「撤退しましょう! こいつには勝てない! せめて応援を―――」

「そんなまどろっこしいことしてやれるか!!」

「敵に背ぇ見せるくらいなら死んだ方がマシよ!! 臆病者は勝手に失せてろ!!」

 

 しかし、その甲斐虚しく残った隊士のほとんどは虚に立ち向かっていく。

 『なんで』と言わんばかりに立ち尽くす焰真であったが、始解を解いて元の刀剣状態に戻した蛇尾丸を手にした恋次が駆け寄り、彼の肩に手を置いた。

 

「薄々気が付いてんだろ」

「……は?」

「あんだけ強ェんだ。逃げようとすれば追われて犠牲が出る。最悪、全滅だってあり得る」

「ッ……その全滅を防ぐために、俺は!」

「ああ、わかってる。だからお前が応援呼んでくれ。殿は俺たちが勝手に勤めるからよ」

「恋次?」

「だから……―――後は頼んだぜ」

「恋次!!」

 

 駆け出す友の背に、伸ばした掌は届かない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 自分だけが時に残されるような―――そんな不思議な感覚を覚えた。

 

 斬魄刀を手に駆け出していく友に届かなかった手を、今度は懐の伝令神機へと伸ばし、応援を呼ぶための連絡をつける。

 だが、その間に無謀にも虚に立ち向かっていた恋次を含めた隊士たちは、虚の激しい攻撃に苦戦していた。

 

 焦燥の余り、通話の内容は欠片ほども覚えてはいない。

 しかし、通話を終えるや否や、伝令神機を放り出して駆け出した。

 冷静な判断などは出来ない。通話している間にも、虚の攻撃を喰らった隊士が体の至るところから血を吹き出し、時には四肢をもがれて地面に転がっていたからだ。

 

 焰真もまた戦いの輪に入る。

 

 鋭い一閃で斬撃を加えようとするも、あえなく躱され、反撃と言わんばかりに腹部に蹴りをもらった。

 鈍い衝撃が腹部から全身に響きわたった焰真は、蹴られた際の衝撃のまま後方へ吹き飛び、そのまま木の幹に激突する。

 

 デジャヴだ。

 ああ、あの時と似ている。

 腹部に走る鈍痛と背中に走る激痛。大きく体を揺さぶられた焰真の意識は朦朧としていた。

 

(あの時と……なにも変わってない)

 

 隔絶した力の前では、弱者は弱者。

 一矢報いることさえできない。

 

(あの時と……なにも!)

 

 斬魄刀を杖代わりに立ち上がる焰真は、再び虚へと立ち向かう。

 数度斬魄刀を振るい、反撃をもらって吹き飛ばされる。そしてまた立ち上がり、虚へ立ち向かう。

 その間恋次や他の戦える隊士も共になって虚に立ち向かったが、誰一人として虚に有効打を与えることはできなかった。

 

 それからどれだけ時間が経っただろうか。

 焰真にとってはとても長いような短いような、まるで夢現にも似た感覚であったが、気が付いた時には立ち上がることさえままならぬほどに身体はボロボロになっていた。

 

 恋次もまた倒れ伏し、最早生きていることを確かめることさえできない。

 

 虚は、そんな彼を喰らおうと顔を迫っていた。

 

(させない)

 

 血塗れの体を起こし、傍に転がる斬魄刀を今一度握る。

 

(なんのために死神になったんだ、俺は)

 

 立ち上がろうと腕を踏ん張るも、あと少しの所で力が抜ける。血を流しすぎたのかもしれない。

 

(立てよ……立てったら立つんだ!)

 

 血反吐を吐きながら、最後の力を振り絞り、左手も地面に突き立てる。

 その際、腕に巻き付けていたペンダントの五芒星が、ちょうど掌と地面の間に挟まった。

 だが、それもお構いなしに焰真は力を込める。

 

 

 

(―――救う為に死神になったんだろうが!!)

 

 

 

 歯が砕けんばかりに食い縛る焰真が体を起こした……その時だった。

 

『お早う』

 

 美しい星が瞬いていた。

 否、人だ。どこかで見たことのあるような瞳の色。しかし、うまく思い出せない。

 

『必死ね。そんなにお友達を救いたいの?』

「え……」

『あら、聞こえなかった? じゃあ、もう一度訊くわね。そこまで必死になってお友達のことを救いたい?』

「あ……たりまえだ」

 

 周囲の景色が止まっているような時間だった。

 その中で焰真は目の前の女性と言葉を交わす。

 唇で薄く弧を描く彼女は、やおら屈んだ上半身だけ起こした焰真の左手にそっと掌を重ねる。

 

『じゃあ、なんで救いたいの?』

「それは……」

『答えられないの?』

「っ……人を救うのに、そんな大層な理由が必要かよっ……?」

 

 そう焰真が答えれば、女性は呆気にとられたように目を丸く見開いた。

 蒼玉のような右の瞳と、紅玉のような左の瞳が焰真を射抜く。

 

『―――キ……キャッキャッキャ! 大層な理由? 確かに“大層な理由”はないのかもしれないわね。でも、“理由”ならある』

「……?」

『それが答えられない内は、私は貴方に全てを委ねることはできない』

「それってどういう―――」

『でも、貴方の救いは私の救い。だから救ってあげる』

 

 柔らかく焰真の左手を五芒星のペンダントごと包み込んだ女性は、妖しい笑みを浮かべる。

 そして桜色の唇を彼の耳元に寄せて囁く。

 

『覚えておいて。どうして貴方が“救いたがり”なのか。その理由を―――』

 

 刹那、ペンダントの五芒星と斬魄刀が共鳴するように光輝く。

 目を見開いた焰真は、『まさか』と女性に目を遣った。

 

「あんたは……」

『話は仕舞い。精々死なないようにね、焰真』

 

 女性は青白い光―――否、炎に包まれて消えていく。

 それが夜空に瞬いていた星が、夜明けにともなって消えていく光景を彷彿とさせ、焰真に得も言われぬ空虚感を覚えさせた。

 しかし、その空虚感が満たされるほどのチカラが斬魄刀を中心にあふれ出す。

 ハッとして目を遣れば、斬魄刀の鍔が五芒星へと変化し、たった今女性を包み込んでいたような色の炎が刀身に迸っているではないか。

 

 

 

―――イケる。

 

 

 

 そう直感した瞬間、焰真は体に走る痛みなど忘れて立ち上がり、斬魄刀を振りかざした。

 

 

 

 ***

 

 

 

「もうすぐだね、一角」

「ああ」

 

 焰真の応援要請を受け派遣されたのは、同隊の上官にあたる一角と弓親と他数名。その中でも特に足の速い二人が、こうして先行してきたのだったが……、

 

「っ、なんだァ!?」

「炎……!?」

 

 雨空で薄暗い辺りを眩い光で照らしあげるのは、天を衝かんばかりに猛々しく燃え盛る青白い火柱だ。

 余りにも巨大な火柱。だが、熱さは微塵も感じず、只管に清廉な神々しさを覚えてしまうような光を放っていた。

 

 その炎がどのような代物か、今はまだ誰にも分からない。

 

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