BLESS A CHAIN   作:柴猫侍

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*45 UNMASKED.

 向けられる五つの卍解の切っ先を前にしても、藍染の綽々とした佇まいは変わらない。

 例え隊長格と言えど、息苦しさを覚えるほどの濃密な霊圧が辺りを包み込んでいるにも拘わらずだ。

 ひたすらに悠然。そびえ立つ山を、その地を駆ける獣が動かせるハズもないように、藍染も彼らに対してその程度のものだと認識していた。

 

「藍染様」

「いい、要。私一人でやる」

「っ……は!」

 

 忠誠心より加勢せんと言わんばかりに一歩前に出張る東仙。

 しかし、他ならぬ藍染の声により制され、市丸と同じように藍染の背後へ飛び退く。

 

 ただ、その程度で余波から逃げられるほど卍解は甘くはない。

 空を覆い尽くす巨大な影。それは白哉の千本桜景厳の億を超える刃であった。一度、狛村をも倒した藍染に様子など見ることなく、彼は手掌にて刃を操っている。千本桜景厳の刃は、手掌で操れば念にて操るよりも速度は上がるのだ。具体的に速力は二倍となる。しかし、体感ともなれば刃が波濤となって襲い掛かる様は、それ以上の速さと迫力を敵に与えるだろう。

 

 そして、宙を轟々と踊っていた千本桜景厳は、藍染の居る場所目掛けて舞い落ちていく。

 轟音と震動。双殛の丘を削る千本桜景厳の刃は、そのまま双殛の反り返るような形状の丘を貫き、下へと穴を穿つほどの勢いだ。

 

「おおおおおっ!!!」

 

 そこへ畳みかけるように振るわれるのは、狛村の黒縄天譴明王の刃。

 刃だけでも、瀞霊廷に建てられている建物を超える長さを有す刃は、一度振るうだけで旋風を巻き起こし、これまた大地を砕き割るほどの威力を誇る。

 それを、千本桜景厳の刃に続けて振るう狛村であったが、砂煙が一部分膨らんだ光景を、皆は見逃さなかった。

 

 余りの速さにその姿を捉えることは容易ではなかったが、誰が出てきたなど予想はつく。

 

 特に傷を負っている様子もなく、千本桜景厳と黒縄天譴明王の刃から逃れた藍染は、左手に煌々と光を放つ霊圧を収束させていた。

 

 彼の口は紡ぐ。

 

―――破道の八十八『飛竜撃賊震天雷炮(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)

 

 大虚の虚閃が可愛く思えるほどの霊圧の光線が瞬く。

 狙いは狛村。そして、彼の後ろに佇む黒縄天譴明王だ。黒縄天譴明王は所有者と繋がっている特異な卍解であり、狛村が傷を負えば黒縄天譴明王が、黒縄天譴明王が傷を負えば狛村もまた傷つく。

 そうした関係上、仮に両方へ同時に攻撃が命中すれば、単純に考えてダメージは二倍となろう。

 

 藍染の鬼道は、詠唱破棄の九十番台でさえ隊長の狛村を倒すほど。

 番号にさほど差の無い飛竜撃賊震天雷炮ならば、黒棺同様、直撃すれば一撃でやられかねない威力を誇るハズだ。

 故に狛村は、黒縄天譴明王の刃を盾のように自身の前へ構える。

 

 刹那、藍染の放った飛竜撃賊震天雷炮が刃へと到達する。

 最初こそ、文字通り天を震わせるほどの霊圧の光線を防げていた刃であったが、次第にその巨大な刀身に蜘蛛の巣が広がるように、罅が入っていく。

 不味い、と思った時にはすでに刃は砕け、狛村の眼前に閃光が瞬いた。

 

「―――縛道の八十一『断空(だんくう)』」

 

 しかし、寸前にて瞬歩で狛村の前に立った白哉が、八十九番以下の鬼道を防ぐ防御壁を自身と狛村の前に作り出す。

 飛竜撃賊震天雷炮は八十八。理論上は防御可能―――のハズだった。

 

「っ!」

「なん……だと!?」

 

 瞠目する白哉と、驚愕の声を上げる狛村。

 彼らが驚く理由は、白哉が放った断空さえもが藍染の鬼道によって破壊されかけていたからであった。

 

―――道理など、私の前では無意味だ。

 

 そう言わんばかりに、今尚断空に罅を入れている藍染の鬼道からは、悍ましい程の霊圧を放っていた。

 

 そして、爆発。

 天を衝かんばかりに巻き上がる爆炎は、空を一瞬夕焼けのように赤く染め上げる。

 それだけの爆炎を巻き起こした鬼道の射線上の地面は大きく抉れていた。途中からは、狛村の黒縄天譴明王、白哉の断空によって横側へ逸れた霊圧の余波が、それでも深々とした溝を描いている。

 

「ほう……」

 

 目の前の光景を作り出した張本人たる藍染は感嘆の声を漏らす。

 彼の見立てでは、白哉の断空さえも破砕し、隊長二名を諸共撃破する算段であった。

 

「素晴らしい卍解じゃあないか、阿散井くん」

「……へっ!」

 

 強がるように笑うのは、蛇の骨を模した長大な刀身でとぐろを巻くような形によって、自身諸共白哉と狛村を覆い隠し、藍染の鬼道を防いでみせた恋次であった。

 

「済まない、阿散井副隊長」

「いえ。二人とも、大丈夫スか」

「……済まぬ」

 

 刀身たる無数の刃節に罅こそ入ってしまっているが、無事に二人を守った恋次に、義理堅い狛村は勿論、白哉も素直に礼を告げる。

 同じ六番隊として活動した時間もまだ数か月と日も浅く、白哉が不愛想なこととルキアのことについて各々の想いを抱いていたことも相まって、若干すれ違っていた二人。しかし、上司と部下として、互いに一定の敬意を有していたからこそ、こうしたやり取りもできた。

 

 そして、連携も。

 

「隊長! 仕掛けます!」

「ああ」

 

 柄を強く握りしめ、自分を奮い立たせんと声を上げる。

 

「―――狒骨大砲(ひこつたいほう)ォ!!」

 

 恋次が柄を振り抜けば、それに応じて巨大な刀身も雄叫びを上げて動く。

 霊圧で繋がっている刃節。そこへ、柄から流れる赤い霊圧が流れていき、頭骨たる部分の口腔に霊圧が収束する。

 次の瞬間、赤い光を放つ霊圧の光線が藍染目掛けて爬行していく。

 

 しかし、それだけではない。その光線の周囲を渦巻くように、白哉の千本桜景厳の刃が覆っているではないか。

 二重の攻撃だ。それを目の前にフッと笑う藍染は、あえて宙に跳ぶことを選ぶ。

 そうすれば、軌道が直線である狒骨大砲は躱せる。

 だが、狙っていたように白哉の千本桜景厳の刃が、宙に居る藍染を包み込むよう球状に展開した。

 

―――吭景(ごうけい)千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)

 

 三百六十度全方位からの刃の襲来。並の相手ならば塵も残らぬ千本桜景厳の技の一つだ。

 空に手を翳す白哉は、花弁のように閃く刃が藍染を覆い尽くしたのを見計らい、掌をグッと握ってみせる。

 それに呼応し収束する刃の集合体たる球体。あの花弁が完全に収束した時、中に居る者が辿る運命は―――圧殺だ。

 

 刹那、花弁が散る。

 

「成程」

 

 それは藍染が刃を振るい、千本桜景厳の刃を斬り払ったことによる光景であった。

 たった一振り。それで白哉の手加減なしの一撃を退かせたのだ。

 

 ただ、それは白哉の想定内。本命は、藍染の真下と真上。両方から肉迫する黒い影だ。

 

月牙(げつが)―――」

劫火(ごうか)―――」

 

 真上より、漆黒の刃に赤黒い霊圧を纏わせた一護が、天鎖斬月を頭上に振りかざしている。

 真下からは、刀身に青白い炎を迸らせる焰真が、星煉剣を低い位置に構えていた。

 

天衝(てんしょう)ォ!!!」

大炮(たいほう)ォ!!!」

 

 そして、両者の全身全霊の一撃が放たれ、激突した。

 唸る黒と白は、藍染を中心に渦を巻くようにうねっていく。

 

「―――付け焼刃の連携にしては上出来だ」

「!」

「しかし、私には到底届き得ない」

 

 鮮血が宙を舞った。

 藍染のものではなく、技を放った一護と焰真のものがである。背中や肩から噴水のように血を噴かせる二人の表情には、即席の連携にしては出来過ぎている挟撃を繰り出したにも拘わらず、認知する間もなく斬撃の合間を潜り、どこからともなく現れた藍染への驚愕と畏怖が滲んでいた。

 

「クソ!!」

「君もこの短期間で素晴らしく成長したものだ」

「!?」

「素直に称賛に値すると言っておこう」

 

 焦燥のままに、天鎖斬月の超速を以て肉迫する一護であったが、すれ違ったと認識する間もなく背後から藍染に語り掛けられたことにより、驚きの余り息を呑んだ。

 

―――殺られる。

 

 剣八と戦っていた時とは違う畏怖を覚えた。

 飢えた猛獣が目の前に居るのとはてんで違う。手の届かない高みに居る存在―――次元が違うとでも言おうか。隔絶し過ぎている力は、敵の能力関係なしに一護に己の死を錯覚させた。

 

()っ!」

 

 しかし、そんな藍染目掛けて回り込んだ焰真が星煉剣を振るった。

 この一閃は容易く躱されてしまったものの、尚も焰真は回避に徹する藍染に、息もつかせぬ怒涛の猛撃を仕掛けていく。

 天鎖斬月にも負けずとも劣らない速さ。白哉や恋次、狛村などの卍解とは違い、一護のように纏う形の卍解である彼の星煉剣は、単純なスペックも通常時よりもずっと上昇しているのだった。

 

 それでも藍染には当たらない。あまつさえ、フッと笑う彼が口火を切った。

 

「君もだ、芥火くん」

「っ!」

「私が部下に引き込んだ時とは比べ物にならないほど、君の力は成長した。空座町での破面の実験……そして、ディスペイヤーとの戦いはとても有意義だったよ」

「は……?」

 

 焰真の連撃から距離をとるように退いた藍染が、淡々とした口調で語る。

 その内容に焰真も思わず目を見開いた。

 

「どういう……」

「分からないかい? 君が空座町へ駐在任務に就いた時、数多く相まみえた破面は私が用意したと言っている」

「……っ!」

「しかし、残念だった。破面でさえ浄化する君の力を検証するためとはいえ、ディスペイヤーの命を無駄にしてしまったことにはね。私の作った実験虚とは言え……ね」

「―――!!!!!」

 

 点と点が、ようやくつながった。

 ディスペイヤーを殺したのは藍染。それが直接的か間接的かなどは関係ない。救えるハズだった命を弄び、心にも思っていないことを口に並べているのだ、彼は。

 

 次の瞬間、焰真は鬼のような形相で藍染に斬りかかっていく。

 声にもならない雄叫びを上げ、藍染に斬りつけられた部位から迸る血を刀身に塗り、霊圧を桁違いに上昇させる。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)と同じ原理か)

 

 迫りくる焰真を前に、藍染は冷静に分析する。

 血を媒体に霊圧を格段に上昇させる能力を、藍染は二つ知っていた。

 

 一つは、元十番隊隊長である志波一心の斬魄刀『剡月(えんげつ)』。己の血を刀身に吹きかけることで、迸る炎を大きく、そして激しく燃え盛らせるというものだ。

 そしてもう一つ。それは虚を超越した存在である破面―――その中でも特に強力な個体が、自身の血と霊圧を媒体にし、空間を歪ませるほどの虚閃を放つのだ。

 

 焰真の場合、後者が該当する。

 藍染は知っていた。瀞霊廷の映像庁と呼ばれる部署しか知り得ない存在を。井上織姫や茶渡泰虎が該当する能力者の通称を。そして、その詳細を。

 そんな彼らのように、焰真に虚としての力が僅かでも内在しているというならば、王虚の閃光の如き強大な一撃を放ててもおかしくはない。

 

 刹那、青白い炎が藍染の視界を覆う。

 

 

 

―――劫火滅却(ごうかめっきゃく)

 

 

 

 超広範囲に燃え広がる浄化の炎だ。

 例え、完全催眠で五感を錯覚させられようとも、全方位への飽和攻撃であるならば関係ない。単純に攻撃範囲から抜け出すしか逃れることができない炎は、双殛の丘全てを包み込んでいった。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 まさに渾身の一撃。

 かなりの霊圧を消費した焰真は、肩で息をするほどに疲弊していた。

 

「―――この程度か」

「っ!」

 

 刃が、焰真の脇腹を貫く。

 

 焰真が振り返れば、冷徹な表情を浮かべている藍染が佇んでいた。劫火滅却を受けても尚、平然とした表情で。

 

「久しく痛みというものに触れていなかったが……」

「そん……な……!」

「拍子抜けもいいところだ」

 

 驚愕した面持ちを浮かべる焰真を前に、藍染は彼の脇腹に突き刺した刃を振り抜かんと柄を握る手に力を込めた―――が、微動だにしない。

 

「!」

「あんたは……」

 

 そうさせているのは焰真だ。

 緋真からもらった手甲が刃で裂けるのも厭わず、鏡花水月の刃を固く握りしめる焰真が、今にも泣き出しそうな顔を浮かべている。

 

「あんたはどれだけ……!」

 

―――罪を犯したんだ。

 

 言葉には紡がなくとも、聡明な藍染はすぐさま察した。

 先程の驚きも、攻撃が通用しなかったことではなく、藍染が犯した罪の多さに驚愕していたという訳だ。

 

 怒っているのではない。嘆いているのではない。ただ、彼は哀しんでいるのだ。

 藍染が手にかけ失われた命への多さに。

 

 興味は自分ではなく、自分が手にかけた先のものにある―――そう思った藍染は眉を顰める。

 苛ついた訳ではないが、自然と鏡花水月を握る手にも力が入った。

 しかし、焰真は尚も苦悶の声を漏らしつつ、藍染に刃を振り向かせまいと、

 

「縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』!」

「!」

 

 己ごと藍染を縛った。

 焰真と藍染に突き刺さる六つの光の帯。例え相手が隊長……否、それ以上の実力者であろうとも一瞬でも隙は生まれるハズだ。

 その一瞬を衝ける超速を有す者が、この場には居る。

 

「黒崎一護!!」

 

 吐血しながら焰真は吼える。

 

「俺ごとやれ!!!」

 

 刹那、太陽に暈がかかる。

 それは天鎖斬月を構える一護が、逆光を利用するよう、太陽を背に藍染に跳びかかったことにより生まれた光景だ。

 意を決したかの如き様相の彼は、漆黒の刀身に白哉との決着をつけた時以上の霊圧を纏わせている。

 

(一撃だ! この一撃に……全部懸けるっ!!)

 

 相手と自分の力量差が離れているという事実は、嫌でも知っている。

 故に、出し惜しみなどはしない。己の全てを絞り出すように霊圧を滾らせる。

 その間、一護の顔面には白い物体と共に、禍々しい仮面が浮かび上がっていった。それは白哉との戦いの最中にも出現した虚の仮面だ。しかし、今度は自我を呑まれるなどという事態には陥らず、寧ろ一護自身予想し得なかったほどの霊圧が刀身に収束していった。

 

 そして、叫ぶ。

 

「月牙天衝ォォォオオオ!!!」

 

 漆黒の三日月の如き斬撃が、焰真ごと藍染に放たれる。

 真上から下へと放たれた斬撃はそのまま双殛の丘に到達し、あまつさえ双殛の丘の一部を斬り落としたではないか。

 霊圧の余波は旋風を巻き起こし、一時は台風の中心であるかの如く視界は不明瞭と化す。

 

 そんな中、漆黒の霊圧が特に爆ぜた宙から、三つの影が丘の上に降り立った。

 

「……まさか、そこまで虚化を扱えるようになっていたとは想定外だ。つくづく君には驚かされる」

 

 一つは、月牙天衝を受けて罅の入った眼鏡を取り、それを握り潰す藍染だ。

 

「……嘘だろ」

「流石に今の不意打ちだけじゃダメか……」

「っつーか、あんた大丈夫なのかよ!?」

「平気だ」

「マジかよっ!?」

 

 もう二つは、無論一護と焰真だ。

 虚の仮面が砕け散った一護は、全身全霊の一撃を放ったことによって疲労困憊の様子だが、藍染に脇腹を刺され、尚且つ一護の月牙天衝の巻き添えも喰らったハズの焰真の方が平然としているではないか。

 これには思わず仰天した一護がツッコみを入れるが、焰真は神妙な面持ちを崩さぬまま、斬魄刀を構える。

 それに応じて、一護も気合いを入れ直すように深呼吸をし、今一度藍染へ視線を送る。

 

 戦いは仕切り直し。

 

 しかし、ここまで大技で一撃も藍染にこれといった傷を与えられてはいない。

 

「勝てんのかよ、あんな奴にっ……!」

「……いや、その必要はもうなさそうだ」

「は? ―――……っ!」

 

 何を言っているのだろうと怪訝な表情で焰真に目を向けようとした一護であったが、刹那の間に藍染に迫る影。

 

「動くな。筋一本でも動かせば」

「即座に首を刎ねる」

 

 四楓院夜一と砕蜂。

 新旧隠密機動総司令官及び、同隊第一分隊『刑軍』統括軍団長 兼 二番隊隊長。

 

 彼女たちを皮切りに、次々と双殛の丘へ各地に居た隊長格が集ってくる。

 一、八、十三番隊隊長、一、二、七、八、九、十番隊副隊長、真央霊術院学院長。そしてどこからともなく降ってきた白道門門番兕丹坊に加え、海燕の妹である志波空鶴。

 数々の実力者たちが双殛の丘に集い、反逆者たる藍染、市丸、東仙の身柄を拘束している。

 これだけの戦力があれば、いくら藍染であろうと逃走は不可能だろう。

 

 そう伝えるよう柔らかい笑みを投げかけてくる焰真に、一護はガチガチに強張っていた肩の力を抜く。

 

「終わりじゃ、藍染」

 

 今度はしっかりと服を着ている夜一が告げる。

 しかし、藍染は不敵な笑みを浮かべるばかりだ。

 

「―――済まない。時間だ」

『!!?』

 

 直後、藍染たちに差す光。

 夜一の声に応じ、それぞれの者達を拘束していた者は即座に離れる。

 それは大虚が同族を救うために放つ“反膜(ネガシオン)”と呼ばれる光。一度光に包まれたが最後、光の内と外は干渉不可能な完全に隔絶された世界となる。

 

 反膜を放つ大虚は双殛の遥か頭上にて、巨大な空間な裂け目を生み出し、何体も顔を覗かせていた。

 さらにその奥には、三日月と間違えかねないほど巨大な目が浮かんでいる。

 おぞましい虚の霊圧は瘴気のように地へと降り、瀞霊廷を穢しているようだと焰真には思えた。

 

 しかし、深追いするのは悪手。

 今はただ歯を食いしばり、彼らが遠のいていく光景を見ることしかできない。

 

 堪らず狛村が東仙に“正義”とは何かを叫ぶものの、長年築き上げた情でさえ、彼を止めることは叶わなかったようだ。

 そのことに、また焰真は心を痛ませて顔を歪ませる。

 

「……大虚とまで手を組んだのか」

 

 ルキア救出のため、護廷十三隊を退いた身でありながら駆けつけてくれた浮竹が、焰真が見たこともないような面持ちで藍染を見上げ、問いかける。

 

「何の為にだ」

「高みを求めて」

「地に堕ちたか、藍染……!」

「……傲りが過ぎるぞ、浮竹」

 

 推し量ることさえ憚られる意味を持つ言葉を投げ交わす浮竹と藍染の二人。

 その最中、藍染は髪を掻き上げ、より明瞭となった視界で足下に居る者達を見下ろす。

 

「最初から誰も天に立ってなどいない。()()()も、僕も、神すらも。だがその耐え難い天の座の空白も終わる。これからは……―――」

 

 

 

 

 

 私が天に立つ。

 

 

 

 

 

 完全に仮面を脱ぎ捨てた藍染の言葉。

 その瞬間、反射的に焰真は声を上げた。

 

「俺は!!」

 

 複雑に絡み合う感情を滲ませた声色。聞いているだけで心が痛くなってしまうような声音で彼は紡ぐ。

 

「あんたを……止めます……っ!!!」

 

 宣誓だ。

 道を違えた恩師を正そうとする一人の死神の―――。

 

 だがしかし、藍染はそれを鼻で笑うかのような冷笑を浮かべ、大虚の群れが居る空間―――黒腔(ガルガンタ)の中へ向けて踵を返す。

 

 

 

「さようなら、死神の諸君」

 

 

 

 上司、同僚、部下。長年共に時を過ごした者達と彼は、あまりにも呆気なく袂を別った。

 

 

 

「そしてさようなら、旅禍の少年」

 

 

 

 遠く、遠くへ彼の姿が消えていく。

 初めて見た時は憧れとして在った背中が、今は止めるべき敵として。

 

 

 

「人間にしては、君は実に面白かった」

 

 

 

 哭くように閉じる空の裂け目。

 残る景色は、どこまでも続く晴天だけだ。

 

 しかし、焰真の足元には点々とした染みが広がりいくのであった。

 

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