BLESS A CHAIN   作:柴猫侍

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*56 カウント・ゼロ

 白い、いや黒いのか?

 

 忌々しい陽の光を浴びてからの記憶が曖昧だ。

 だが、何よりも体が痛い。痛いのに痛くない。よく分からない、ナンダコレハ?

 時折鮮烈な痛みを覚えては、何も感じない虚無の時間が訪れる。それが途轍もなく恐ろしい。

 

 ヤダ、ヤダ、ヤダ。痛いのも痛くないのもイヤだ。

 熱い? 寒い? 温かい? 冷たい? 訳が分からない。今目に見えている白くて黒い景色も現実なのか夢かも分からない。

 

 恐イ、怖イヨ藍染様。言ッタジャナイカ。自分ニ付イテクレバ、アラユル苦痛カラ解放スルッテ。

 

 ナノニ、ナンダコレ?

 苦シイヨ。

 痛イヨ。

 

 だんだん感覚がなくなってきた。

 もう、生と死の境界さえおぼろげだ。……いや、元より死を喰らい生き続けるオレたちに、その境界を設けることこそが愚かな真似なのかもしれない。

 

 ソロソロ、意識ガ遠ノイテキタ。

 

 でも、何故だ。

 

 何デダロウ。

 

 あんなにも忌々しかった陽の光が、今になって案外悪くなく思うのは。

 

 温カデポカポカデ、トッテモ眠クナッテキチャッタ。

 

 ……このまま眠りにつくのも、悪くはないな。

 

 

 

―――オヤスミナサイ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 亀裂の入る音が氷漬けになった部屋に反響する。

 直前まで収束していた王虚の閃光は、コントロールを失い原型を留められなくなって拡散。四方八方へとエネルギーが飛び散り、ただでさえ戦闘の余波でもろくなっていた建物に数々の孔を穿つ。

 ガラガラと音を轟かせて瓦礫が落ちる中、容器の中の液体ごと凍り付いていたアーロニーロの頭部が床に転がり落ちる。

 

 苦痛に歪んでいるようにも、安らかに眠っているようにも見える表情を浮かべて事切れたアーロニーロ。

 彼らが転がる先には、一つの表情が佇んでいた。

 

 髪飾りをつけ、死覇装とは違う着物も身に纏う美しい女の氷像。だが、それは決して氷塊を削って生み出されたものなどではなく、本当に中に人間が居る上で、斬魄刀から解き放たれた冷気により己さえも凍り付いたことにより生まれたものだ。

 眠っているかのような安らか顔だが、口は半開きであった。

 

白霞罸(はっかのとがめ)

 

 それが彼女―――ルキアが凍り付く直前に唱えた卍解の名。

 刀身から解き放たれる白い霞のような冷気が、周囲を氷結させるという至って単純な能力を有している。

 しかし、単純さは直接的な攻撃力に直結し易い。焰真との鍛錬の中、短い期間で習得に至った卍解は、そもそも卍解が習得しても尚使いこなすには十年の鍛錬を必要とすることから、まだ制御も不十分ではなく、自分自身さえも巻き込んでしまうほどの威力を発揮する。

 

 まさしく諸刃の剣。敵を一撃で倒さなければ、自身に張り付く氷が融けるまでの間、無防備なところへ攻撃を叩き込まれ、そのまま粉々に砕かれてしまうことだろう。

 だが、今回は無事アーロニーロを倒すに至った。

 そんなルキアは依然として凍り付いたままであったが、背中側や建物の各所より差し込む陽の光で徐々に体を拘束する氷が融けていく。

 

「―――すはぁ」

 

 そして、体の大部分の氷が融けた瞬間、ルキアは仮死状態から息を吹き返した。卍解も解け、純白の着物も元の漆黒の死覇装へと変化する。

 次第に熱を取り戻す体。そこへ取り込まれる空気は、鳥肌が立つほどに冷え切っていたものであったが、朦朧となっている意識を覚醒させるにはちょうど良い刺激になった。

 

 意識が覚醒し、視界も明瞭となっていく。

 同時に体中の痛みも蘇ってくるが、自分が今なお生きていることをルキアに自覚させる。

 

「勝った……のか」

 

 まだ動きがぎこちない手を握り、目の前の骸を見下ろす。

 いずれアーロニーロの体も、氷が融ければ虚圏の霊子の一部となるよう霧散するだろう。

 そんな彼に向けて、ルキアは数秒黙祷した。たとえどのような相手であれ、確かに生きていた命だ。

 

―――死神の斬魄刀は、虚も救うためにある。

 

 副隊長である友が、よく新入隊員に説く言葉を思い出しつつ黙祷を済んだルキアは、袖白雪を鞘に納めて外に出た。

 より陽の光を感じられる野外―――いや、ここは虚夜宮の中であるのだが、それを感じさせぬ青空と太陽を仰ぐルキアは、アーロニーロと戦う少し前に霊圧が急速に小さくなった泰虎へ意識を向ける。

 

「! これは……」

 

 泰虎の霊圧を探る最中感じ取った、彼の霊圧の回復。それだけで全てを察したルキアは、踵を返した。

 戦いが終わり次第、泰虎の救助へ向かうつもりであった彼女だが、この様子であればわざわざ自分が出向く必要もなさそうだ―――と。

 

(独りの恐ろしさも、救いに来てくれた仲間が傷つき倒れていく恐ろしさも私にはわかる……ならば!)

 

 ズキズキと痛む体を、四番隊ほどでないにしろ扱える回道で回復を試みるルキア。

応急処置が終わり次第、織姫の下へ急がんとする彼女は、懺罪宮で一人孤独に怯えていた日々を思い返し、胸の内に更なる闘志の炎を燃やすのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なん……だと……?」

 

 ザエルアポロは信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。

 完全なるイレギュラー。ここは、恋次の卍解を封じるべく様々な仕掛けを施していた部屋だったハズ。

 それにも拘らず恋次は口にした―――『卍解』と。

 そして目の前には、録霊蟲に記録されていたものとは全く異なる姿をする恋次が佇んでいるではないか。

 

「卍解は姿を変えるものなのか……っ!?」

 

 驚愕と歓喜が入り混じるザエルアポロの表情。

 一方、恋次は黙して身に纏う卍解の感触を確かめていた。

 背中から伸びる巨大な狒々の骨を模した腕が一つ。そしてもう一方では、背中から伸びる蛇の連なる骨が、右手に握られる蛇尾丸に似た形の刀身につながっていた。

 

 巨大な蛇の骨、という印象が強かった狒々王蛇尾丸とは一風変わった姿。

 蛇と狒々。両方の意匠を強く印象づけるその卍解の名は、

 

「―――『双王蛇尾丸(そうおうざびまる)』」

 

 半分しか斬魄刀に認められていなかった狒々王蛇尾丸とは違い、もう一方―――オロチ王にも認められた、真の卍解。

 

「もうちょい後までとっておくつもりだったんだがよ……仕方ねえ」

 

 あくまでザエルアポロに収集されていたデータは、未完成の卍解である狒々王蛇尾丸だけ。

 その後、鍛錬の果てに得た力である双王蛇尾丸までは彼のデータにはなく、狒々王蛇尾丸を防ぐための仕掛けとやらも通用しない。

 

 本当であれば、狒々王蛇尾丸で様子を見るつもりであった。

 狒々王蛇尾丸でどうにかなるのであれば、それだけで倒し、霊力を温存できる。

 そうでなければ、双王蛇尾丸という新形態を披露し、動揺した一瞬の隙を突くといった戦法もとれたことだろうが―――今となっては後の祭りだ。

 

―――その『嘘の名を呼ぶことで力をセーブする』という考えは、かつて所属していた十一番隊に居る隊士の一人が、真の斬魄刀を秘匿するために行っていることとは、恋次は知らなった。

 

 体に満ち満ちる力は、狒々王蛇尾丸とは比べ物にならない。

 ビリビリと肌を焼くような荒々しい霊圧は、恋次自身に畏怖を覚えさせると同時に、彼を奮い立たせていく。

 

「十刃。こいつを出したからには覚悟しやがれ」

「……少し驚いた。が、君の卍解の能力も僕の予想の域を出ることはない」

 

 『何故ならば』とザエルアポロは短く応答する。

 

「始解のデータも、以前の卍解(ひひおうざびまる)のデータも僕の手元にあることを忘れるな。始解とまったく共通点のない卍解はないハズだ。ならば、君のその双王蛇尾丸とやらの能力もたかが知れているさ」

「そいつは……」

 

 柄を強く握り締める恋次。

 その際の擦れて生まれる震えが体全体に伝播し、背中につながる狒々と蛇の骨をも震わせる。

 カタカタ、ケタケタ。見下す科学者に対し、獰猛な獣が二匹、嘲笑うように小刻みに揺れた。

 

 彼らに催促され、主たる恋次もまた獰猛な笑みを浮かべて駆けだす。

 

「―――()ってから確かめやがれ!!」

「ふんっ」

 

 指を鳴らすザエルアポロ。

 すると、どこからともなくやや人型から外れた異形の者達が、壁や天井、はてには床を突き破って登場する。

 彼らの登場に瞠目する恋次であったが、敵が数体増えたところで臆する彼でもない。

 

 そんな構わず突進する彼に、ザエルアポロは一歩も退くことなく得意げに語る。

 

「『従属官(フラシオン)』。僕ら十刃には、支配権の証明として№11(ウンデシーモ)以下の破面から直属の部下を選ぶ権利が与えられる。それが従属官だ」

 

 ただし、ザエルアポロの従属官は特殊であり、彼自身が改造した虚を破面の素体としている。異形であるのはそれが主な理由だ。

 

「さて……この数の破面を、以前の卍解よりも小さくなったそれで突破できるかい?」

 

 嘲笑うかのような問い。挑戦状ともとれる彼の言葉が紡ぎ終えられると同時に、従属官たちは恋次めがけて突撃していった。

 餌に群がる蟲の如く群がる従属官。

 たとえ、以前よりも強化された卍解といえども、このような状況では狒々王蛇尾丸の方が、その巨大さを存分に生かして敵を一層できたことだろう。

 

 それに対して双王蛇尾丸は、右手のガントレット状の蛇の頭骨から伸びる刀身と、人の身長程度の狒々の腕一本のみ。

 余りにも拙い。寧ろ、敵を威圧するのならば狒々王蛇尾丸の方がよかっただろう。

 

 そう―――。

 

「狒々王!!」

「なにっ!?」

 

 巨体が宙を舞う。それは寸分の狂いもなくザエルアポロの立っている場所めがけて落ちてくるが、彼は寸前のところで響転で落下地点から離脱する。

 何が起こったのかと、従属官たちが群がる場所に今一度怪訝な眼差しを向けるザエルアポロが目にしたのは、狒々の腕で次々に従属官をあしらう恋次の一騎当千する姿だった。

 

 恋次より一回りも二回りも大きい従属官を押し返し、持ち上げ、そして放り投げる。

 拳を振るう従属官に負けじと拳を握って振り抜けば、次の瞬間には従属官の拳が砕け、血飛沫を通路に広げていた。

 

(まさか!)

 

 狒々王と叫び、狒々の骨腕を振るう恋次を目の当たりにし、ザエルアポロは一つの結論にたどり着いた。

 

―――あの小さな腕に狒々王蛇尾丸の(パワー)が凝縮されているのか!?

 

 そうとしか思えぬほどの馬鹿力を見せる狒々王は、次々に襲い掛かる従属官を千切っては投げ千切っては投げの光景を繰り広げ、瞬く間に呼び寄せた従属官を一掃してしまったではないか。

 返り血に濡れる恋次。元より緋色に染まる彼の髪や狒々の腕は、敵の鮮血で一層赤く彩られるも、活を入れるように高めた霊圧でそれらを弾き飛ばす。

 

 舞い散る血を掻い潜り、彼は今度こそザエルアポロめがけて吶喊する。

 その最中、彼は蛇の頭骨を模したガントレット状の柄を握り締め、雄叫びを上げた。

 

「オロチ王!!」

「! 盾!!」

 

 侮るべき相手ではない。未解放でまともに喰らえば致命傷は必至だと察したザエルアポロは、指を鳴らし、新たな頑強な肉体の従属官を二人ほど呼び寄せる。

 彼らを一列に並ばせて完成した即席の肉壁の陰で、ザエルアポロはほくそ笑んだ。

 

 恋次の双王蛇尾丸は、未完成であった狒々王蛇尾丸とは違い、恋次が取り扱いやすいよう小さな形に力が凝縮されている。

 得てして巨大な形状になりやすい数々の卍解の中、取り回しの利く小さな形状であることは、凡そ普段通りの感覚で扱え、存分にポテンシャルを生かし切れるというメリットがあるだろう。

 

 だが、その一方でリーチを犠牲にしているとザエルアポロは見た。

 どれだけ刀身に力が凝縮されていようと、当たらなければどうということはない。

 

 勢いを殺させ、自分は相手の手のギリギリ届かない位置まで下がる。それがザエルアポロの基本的な立ち回りであった。

 しかし、此度はそれが致命的なミスだ。

 

「しゃらくせえ!!」

 

 盾となるよう、ダブルバイセップスのポーズをとる従属官に刀身を突き刺す恋次。

 本命のザエルアポロが居るのは、もう一人を挟んだ先だ。

 

 だが、今の恋次にとって彼はすでに射程内であった。

 

「決めてやるぜ!!」

「なん……だとっ!?」

 

 恋次がガントレットを握り締めて霊圧を込めれば、巨大な霊圧の蛇の頭骨が現れ、その(アギト)を大きく開いてみせた。

 喰らおうとする対象は無論、ザエルアポロ。

 

 牙は既に剥かれた。

 

 もしもの時のために探査神経を鋭く尖らせていたザエルアポロも、盾である肉壁に視界を阻まれた状態では、恋次の攻撃の出の速さに対応し切ることはできなかったのだ。

 そして、驚愕と焦燥を孕んだ瞳を見開くザエルアポロに放たれる。

 

「双王蛇尾丸―――蛇牙鉄炮(ざがてっぽう)!!!」

 

 牙が噛み合わさって起こる炸裂。

 撃鉄を起こしたかの如き音が通路に響きわたり、遅れて舞い上がった砂塵が旋風と共に通路に吹き荒んでいく。

 

 恋次が刀身を従属官から抜けば、血は出ることなく、黒々と焼けた―――否、炭化した肉片がバラバラと床に零れ落ちる。

 恋次の目の前に居た従属官は勿論、背中側に居たもう一人の従属官でさえ、蛇牙鉄炮の一撃により炭化した肉体を晒した後、反響する音の揺らぎでバラバラと崩れ落ちた。

 

 そんな肉壁二つが消え失せることで、ようやく恋次は目の当たりにする。

 

「どうだ、科学者。有意義なデータってのはとれたか?」

 

 肉体の悉くが焼け爛れ、腹回りに至っては消し飛び、黒く焦げた背骨が辛うじてつながっているザエルアポロの姿を。

 

「……返事がねえなら行かせてもらうぜ」

 

 視線の先の物体を物言わぬ骸と断じた恋次は、卍解を解いて踵を返す。

 

「俺達に立ち止まってる時間なんざねえんだ」

 

 そう吐き捨て、恋次は依然蛇牙鉄炮の炸裂音の反響が突き抜ける通路を抜けんと駆けだした。

 駆け足の音が延々と響き、いつしかザエルアポロが吐血して倒れた頃、彼の下に一人の破面がやってくる。顔の右半分に髑髏の仮面を被る、儚げな印象を与える縦セーターを身に纏う女性だ。

 

ろ゛……がっ……

「はい、ザエルアポロ様。ご用はなんでしょうか?」

 

 第8十刃の従属官の一人、ロカ・パラミア。

 普段はザエルアポロの人形(ぶか)として働くこともあれば、他の破面の治療などの雑務を行う彼女は、主人たるザエルアポロが瀕死にも拘らず、眉毛一つ動かさず、血反吐を吐きながら掠れた言葉を紡ぐザエルアポロに耳を傾ける。

 

ごっぢに゛……

「はい。ザエルアポロさま゛っ……!?」

 

 突如、二人から伸びる影が、歪に蠢いた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「はぁ~~……」

 

 深々と息をつくザエルアポロ。

 無傷同然の裸体を晒す彼は、足下に転がる干上がったロカを足蹴にし、忌々しそうに通路の奥へ視線をやった。

 自分のプライドをズタズタにした死神は、まだそう遠くには行っていないハズ。

 何度も引きつった目元は、最早痙攣に等しい動きを見せている。それこそが彼の感情の荒波を表しているというものだ。

 

「見たことのない術でも、霊圧はお前のものだ……拡散して、ダメージを減らすぐらいのことはできるんだよ……!」

 

 それでも死にかけた。

 それがどれだけ屈辱的か。

 

「阿散井恋次……くっくっく! 君をどれだけグロテスクに殺してみせるか考えていると、笑いが止まらないよ……!」

 

 クツクツと笑うザエルアポロ。

 だが、その眼鏡の奥に覗く瞳に笑みはなく、ただただドス黒い憎悪に染まっているのだった。

 

 第8十刃(オクターバ・エスパーダ)、ザエルアポロ・グランツ。

 司る死の形は“狂気”。

 

 恋次は、未だ彼の凶刃(メス)から逃れられない。

 

 

 

 ***

 

 

 

「す、すげっス……あっちこっちでおっきな霊圧が……」

「……そうだな」

 

 緑髪の小さな破面―――ネルを抱えながら走る一護は、彼女の言う霊圧を感じ取りつつ、歩みを止めなかった。

 各所でぶつかり合う強大な霊圧。いずれもすでに止んだ模様だが、仲間たちの霊圧は健在だ。無事白星を勝ち取ったと見ていいだろう。

 そして何よりの僥倖は、一度は消えたと思っていた泰虎の霊圧が、感じ取れるまで回復していたということだった。

 

 傷の具合こそ分からないものの、回復しているのであれば、当分死に至ることはないハズ。

 つまり、現時点では全員健在だ。誰一人欠けていない。

 

(早く井上を見つけて帰るんだ……!)

 

 当初の目的である織姫さえ救出できれば、目的は完遂される。

 

(井上、待っててくれ……!)

 

 あの心優しい少女が、自分たちを裏切って藍染たちに付くハズがない。

 そう自分に言い聞かせ、心根の優しい彼女を信じて突き進む一護は、光の差し込む扉をまた一つ潜り抜けた。

 

「っ……!!?」

 

 そして目の当たりにする。

 

「久方ぶりだな、死神」

「てめえは……!」

「わざわざ死にに来るとは殊勝なことじゃあないか」

 

 不遜な眼差しで一護たちを階段の踊り場から見下ろす人影。

 忘れることはない。仲間たちを半殺しにし、空座町の大勢の住民の命を刈り取った、一護にとって怨敵と言っても過言ではない破面。

 

「アルトゥロ……!」

「ほう、私の名を憶えているのか。自らの力量も測れず、わざわざ死地に乗り込んでくるような足りぬ脳味噌にしては上出来だ」

「あ……あぁあ……あぁぁあぁ……!」

 

 剣呑な空気を漂わせる二人に対し、一護の傍らに居るネルは、現れたアルトゥロの姿と霊圧に体を強張らせ、震えていた。

 それも仕方がないことだ。間違いなく十刃レベルの霊圧を有す彼を前に、幼く力もない彼女が耐えられるハズもない。

 だがしかし、それでも震えた口でネルは何かを伝えようとする。

 

「セ……」

「っ、ネル大丈夫か!?」

「セ……セ……!」

「セ? 『セ』がどうしたってんだ!?」

「セぇ……っ……!」

 

 今にも泣きだしそうなネルは、嘔吐しそうになるのを我慢するように生唾を呑み込んだ後、濡れた(まなこ)でアルトゥロを視界に捉え、彼に指さした。

 

 

 

 

 

「―――第0十刃(セロ・エスパーダ)……アルトゥロ・プラテアド様……!」

 

 

 

 

 

「なん……だとっ……!?」

「そうだ。そこの子どもの言う通りだ」

 

 瞠目する一護を他所に、アルトゥロはおもむろに襟を引っ張り、色白な肌をしている体の肩口を露わにする。

 そこに刻印されていたのは“0”の数字。

 情報の限りでは10人居る十刃。その内の0番が指し示す意味とは、すなわち、

 

破面№0(アランカル・セロ)、アルトゥロ・プラテアド。私こそが、最強最古の破面だ」

 

 立ち塞がる壁は―――一護にとって、余りにも強大であった。

 

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