BLESS A CHAIN   作:柴猫侍

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Ⅷ.HEAT THE SOUL
*67 空の玉座を巡る戦争


 虚圏にて繰り広げられた死神と破面との死闘。

 織姫救出のため、仲間と共に虚圏へ赴いた一護は新たな力を得ることにより、第4十刃であるウルキオラを撃破し、見事織姫を救出することに成功する。

 そして、現世の空座町の模造の町(レプリカ)に居る藍染たちを止める為、ルキアと恋次と共にマユリたちの手を借り、黒腔を通って現世へと向かい始めた。

 

 だが、戦いは一護たちが黒腔へ突入するよりも前に始まっていたのだ。

 

 

 

 時は、藍染たちが現世に侵攻した直後に遡る。

 

 

 

 ***

 

 

 

 模造の町の上空には、剣呑な雰囲気を漂わせる二つの陣営が睨み合っていた。

 吹き荒ぶ風もどこか重苦しく、転移させられた空座町の住民とは違いそのまま残った整の魂魄や虚は呼吸一つさえままならないほどの重圧をその身に受け、中には耐え切れず霊体が崩壊する者さえ居る。

 

 それほどの重圧―――霊圧を放つ者達は、尸魂界と虚圏の二つの世界において上位に位置する強者たちだった。

 

 一方は、護廷十三隊。

 尸魂界の瀞霊廷に居を置く死神。

 

 虚圏へ応援に赴いた隊長たちを除き、元柳斎を筆頭とする集った隊長格は錚々たる顔ぶれだと言えよう。

 

 そんな護廷十三隊に挑まんとするのは、大逆の徒・藍染が引き連れる破面の軍勢。

 数多の魂魄を犠牲にして生み出した崩玉を用い、虚としての限界を超えた一筋縄ではいかない強大な敵だ。

 総数としては3桁に届くか届かないかしか居ない破面であるが、今回藍染が引き連れてきた破面は少数。それだけで、今回姿を現した破面が精鋭たちであることを死神たちに思わせた。

 

「おーおー、おいでなすったぜ」

「みたいですね」

 

 上空を吹き抜ける風を受けて靡く隊長羽織を押さえる海燕が、呑気な口調で隣に佇む副官に声をかける。

 その副官こと焰真は、特に臆する様子もなく落ち着いた声音で応えた。

 世界の命運を分ける最前線たる場に集った戦士の一人である彼は、他の死神(とある一人を除いて)と同様に、覚悟を決めた面持ちで敵を見据えている。

 

「ひーふーみー……数はどっこいどっこいですね」

「だなぁ」

 

 味方と敵の戦力を比較する焰真に対し、海燕は生返事をしながらチラチラと見つめてくる。

 

「……なんですか?」

「いや、意外だったからよ。お前が朽木と一緒に行かなかったことがな」

「そんなことですか」

 

 はぁ、と呆れたようにため息をする焰真。

 海燕が口にした旨は、一護の元へ恋次と共に駆けつけたルキアのことであった。普段から彼らと付き合っている焰真ならば、共に付いていくだろうというのが海燕の考えであった。

 しかし、現に焰真はこの場に居る。

 心配なり信頼なり、どのような想いを胸にこの場に居るのか―――海燕が知りたかったのは、たったそれだけだ。

 

 その問いに、焰真はあっけらかんと答える。

 

「意外も何も、俺は色々悩んでここに居るべきだって考えただけです」

「ほー」

「俺は……護廷十三隊の死神なんですから」

「……生意気言いやがって!」

「う゛っ!?」

 

 神妙な面持ちで語った焰真に対し、海燕は容赦なく尻に蹴りを入れた。無慈悲だ。

 空気をぶち壊す一撃に抗議するような視線を焰真は海燕に送るが、当の海燕は知らぬ存ぜぬといった顔で口笛を吹き、あらぬ方向を見上げている。

 緊張もへったくれもない―――が、大分強がっていた体はほぐれた。

 

「いやぁ、若いっていいねぇ」

 

 そんな上司と部下のやり取りを横目に呟いたのは、副官を瀞霊廷に置いてきた八番隊隊長こと京楽だ。

 世界の命運を分ける戦いとは言え、全ての戦力を駆り出して“護廷”の名を掲げる護廷十三隊が瀞霊廷の守護を疎かにする訳にもいかず、八番隊副隊長こと伊勢七緒は瀞霊廷で留守番である。

 

 焰真と海燕のやり取りを見て、七緒のことが愛おしくなった京楽は、護廷十三隊も若い世代へと変わっていっていることを感じ取り、自分も老けたものだと哀愁を漂わせてため息を吐く。

 

「皆、退がっておれ」

 

 不意に元柳斎の厳かな声が響く。

 グラグラと燃え滾る霊圧の胎動を感じ取った面々が彼へ視線を向ければ、普段杖として封印されている斬魄刀が解き放たれているではないか。

 

「万象一切灰燼と為せ」

 

 抜かれた刀身に炎が揺らぐ。

 

「流刃若火」

 

 爆発するように立ち上る炎が、元柳斎の刃を振るうに伴って藍染たちの元へ駆け抜ける。

 そして、悠然と佇んでいた藍染、市丸、東仙の三人を取り囲んだではないか。そのまま炎が消えることはなく、延々とその場に留まり続けている。

 

 城郭炎上(じょうかくえんじょう)。焱熱系最強最古である流刃若火の炎を以て、相手を取り囲む至ってシンプルな技だ。

 しかし、灼熱の炎から抜け出すことはそう容易ではない。

 これで死神たちが懸念していた十刃との戦いの最中に藍染たちが手を出す心配は少なくなったと言えよう。

 

「さて、ゆるりと潰して征こうかの」

 

 淡々と述べる元柳斎だが、その細目に覗く闘志までは隠せない。

 味方さえ伏せなければならなかったほどの炎を放った元柳斎に、否応なしに死神たちの気は引き締められる。

 

 そんな中、焰真が見据えていた敵は一人。

 

(アルトゥロ……)

 

 浅からぬ因縁を持つ相手だ。

 当のアルトゥロは憮然とした佇まいを崩してはいないものの、喉元を刺すような威圧感は姿を現してから一瞬も消えていない。

 彼を含め、十刃は恐らく四人。気だるげな男、老いさらばえていない肉体の老人、金髪碧眼の女。彼らに加えて複数名の従属官が傍らに立っている。

 

 激戦は必至だろう。

 

 そう思っていれば、老人の破面の周りに佇んでいた破面たちが忙しなく動き始め、骨を用いた玉座を組み上げたではないか。

 これから戦場となる場で座り込むなど、油断とも取られかねない余裕を見せる老人の破面だが、それは有り余る己の力への自信ともとれるだろう。

 

 そんな彼は、従属官に指示して転柱結界の要となる柱への虚による攻撃を仕掛けた。

 しかし、重要な場所に何の守護も置いていないはずもなく、呼び寄せられた虚は待機していた一角、弓親、檜佐木、吉良の四人に敢え無く斬り捨てられる。

 虚が呆気もなく倒される光景を見るや否や、続けざまに彼は従属官へ破壊を命じた。

 

「ポウ、クールホーン、アビラマ、フィンドール。潰せ」

『は! 陛下の仰せのままに!!』

 

 名を呼ばれ東西南北の柱へ向け散開する破面たちは、柱を守護する死神たちと相対するのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……随分とデケぇ新手が来たな」

 

 風死に付く血糊を振り払う檜佐木の前に降り立ったのは、常人より一回りも二回りも大きい体躯を有す破面、ポウであった。

 

「私はバラガン陛下の従属官の一人、チーノン・ポウ。名はなんだ、死神」

「檜佐木修平。九番隊副隊長だ」

「九番隊? なんだ貴様、東仙要の部下か」

「……『元』、だ」

 

 自身の中に渦巻く感情を押し殺すよう、喉から絞り出した声を放つ檜佐木。

 そう、今は敵の間柄だ。踏ん切りをつけなければ命を落とす。

 自分に言い聞かせる檜佐木は、深呼吸をして戦いへ臨む意気を改める。

 

 だが、そんな檜佐木を鼻で笑うようにポウは口火を切った。

 

「東仙要は死神を裏切った、いわば死神もどき。そんな死神もどきの下で働いていた貴様は死神に満たん取るに足らぬ敵」

「てめェ……言わせておけば」

「死神ですらない相手に、我が神である王の下で戦う我等が負ける由はない。立ち塞がる敵も、恐れるものも」

「……恐れるものも、か。底が知れるぜ」

「なに……?」

 

 今度は檜佐木がポウを鼻で笑う番だった。

 

「神の下で戦うから恐れるものがない……か。どうやらてめえは俺と対等には程遠いらしい」

「……そうだ。貴様と私では勝負にならぬということは、我が神である王が誰より理解しておられる」

 

 不遜な物言いをするポウに対し、檜佐木は風死を構える。

 彼にとって『恐怖』とは特別なもの。

 それを教えてくれたのは、他ならぬ東仙だ。裏切り者である東仙だが、受けた恩と教えは裏切りとはまた別の話。

 

 今もこうして檜佐木が戦える理由を、彼は与えてくれた。

 

 その恩義に報いるべく、檜佐木は負けられない。

 恐怖がないと宣う破面にも、敵となってしまった恩師にも。

 

 

 

 

 恐怖を胸に抱き、檜佐木はいざ戦いへ臨む。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……最初に訊いておきたい。君は何席だ?」

 

 初めての邂逅にてそう問いかけてきたのは、顔のほとんどが仮面で覆われている長髪の男破面、フィンドール・キャリアスだ。

 

「……三番隊副隊長、吉良イヅル」

 

 席次と共に名前も告げたのは吉良であった。

 名ではなく席次の問いかけに疑問を覚えつつ身構える彼に、フィンドールは指を立てて言い放つ。

 

「それでは俺も副隊長相当の力で戦うとしよう」

「……なに?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「はいはいはいはぁ~~~い、ちゅうも~~~く♪」

 

 凡そ戦場に似つかわしくない声を上げる紫色で癖のある長髪を靡かせる筋骨隆々の男破面は、バチコーン! とウインクを決めた。

 

「バラガン陛下の第一の従属官、シャルロッテ・クールホーンが来ましたよォ~~~♡」

「お、おう……」

 

(なんだ、弓親にどことなく似てやがるな……)

 

 クールホーンから溢れ出るオーラに、どことなく弓親と同じオーラを感じ取った一角は、得も言われぬ表情で鬼灯丸を構える。

 

 それから流れる静寂の時間。

 吹き抜ける風はどことなく肌寒い。

 

「……なによっ! なんか『美しい』とか『ビューティフル』とか感想の一つでも言ってみなさいよ!! 気が利かないわね、このパチンコ頭!!」

「知るかっ!!」

 

 あまつさえ言いがかりをつけられ罵られ、遂に一角も怒鳴る。

 

「ったく、とんだ色物野郎と当たっちまったぜ」

「あら? アタシに色があるって? アンタ、見る目あるじゃない」

「言ってねえよ!」

「そうね……このアタシの驚嘆と称賛を受けるに値する美貌を前にすれば、敵であっても褒め言葉の一つ漏れてしまうのは仕方のないことよ」

「聞け!!」

 

 如何せん話が通じない。

 貧乏くじを引いてしまったとため息を吐く一角は、気を取り直すように鬼灯丸を構え直し、好戦的な笑みを浮かべてみせる。

 

「……まあ、ホントに色物かどうかは戦ってみりゃあ分かるか!」

「あらあら、幾らアタシが魅力的だからって襲うっていうのはナンセンスじゃない?」

「襲うかぁ!!」

 

 コメディッチックな空気を漂わせる一角とクールホーンの二人もまた、他の場所同様命を賭した戦いを開始するのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「うおおおおお!! ()ってやる()ってやる!! ()ってやるぜえ~~~~……って! オイ!! なんでオメーも一緒にやんねーんだよ!!」

「……なんだ、一角に似た敵と当たっちゃったね」

 

 一方その頃、弓親と相対していたのは謎の儀式の参加を強要していた男破面、アビラマ・レッダーだ。

 事前の打ち合わせもなしに戦闘前の謎の儀式をする部分に、同僚である一角を似ていると弓親は感じた。

 

「てめえ……この互いをブチのめしてやるって気持ちを叫びに込めて互いを鼓舞する戦いの儀式に参加しないなんざ、とんだフヌケ野郎だぜ」

「はぁ~……やれやれ、これだから野蛮な虚は。美徳ってものが分かってないね」

「なんだと?」

 

 弓親のため息交じりの批判に眉を顰めるアビラマ。

 そんな彼に構うことなく、弓親は不敵な笑みを浮かべて続ける。

 

「僕ら十一番隊は戦いに命を懸けてる連中でね。そんな儀式をやる暇があったら、とっくに刀で語ってる連中なのさ」

「ほお……成程な」

 

 藤孔雀を構える弓親を前にし、アビラマの口角は鋭く吊り上がった。

 

「……いいぜ、その顔。戦いの顔だ!」

「!」

 

 臨戦態勢に入った弓親を前に斬魄刀を抜いたアビラマは、惜しむことなく解号を口にする。

 

「頂きを削れ―――『空戦鷲(アギラ)』!!」

「……咲け―――『藤孔雀(ふじくじゃく)』」

 

 目の前の猛々しい鷲を前に、優美な孔雀は偽りの刃を広げた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「回りくどい」

 

 反抗する者を黙らせる眼差しを放つ老人の破面―――バラガン・ルイゼンバーンに言い放ったのは、アルトゥロであった。

 

「何じゃ、アルトゥロ」

「貴様の余興に付き合うのは耐えられんと言っている」

「小童が。儂に口が過ぎるぞ」

「事実を述べただけだ」

 

 味方であるにも拘らず物々しい空気を漂わせる両者。

 それも致し方のないことだ。アルトゥロもバラガンも、かつては虚圏における巨大な勢力を有していた頭目。さらには実際に軍勢をぶつけ、血で血を洗う戦争を行っていたのだ。

 部下に情を持っていた訳ではない。ただ、どちらも命令されることを良しとする柄ではなく、指揮官面をして事を進めるバラガンの姿がアルトゥロの癇に障ったのだ。

 

 “王”と“大帝”。反目し合うのは当然のこと。

 

 故に、互いの考えを尊重することもなく己が思うままに動く。

 

「貴様の真似はまどろっこいのだ」

 

 苛立たしいと言わんばかりの声音を吐きながら、アルトゥロは自身の人指し指の腹を親指の爪で傷をつけ、血を流す。

 

「柱を壊せばいいだの、それを守護する死神を潰せばいいだの……もっと単純な手があろう」

 

 刹那、アルトゥロの突き出した指先に灰色の光が収束する。

 霊力と血を代償に莫大な霊圧を解き放つ“王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)”。照準は、無論敵である護廷十三隊だった。

 不敵な笑みを浮かべるアルトゥロは、表情が強張っていく死神の様子を見て悦に浸る。

 

死神(やつら)ごと柱を()し飛ばせばいい! 畏れをその身に刻んで去ね、王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

 鈍い音が響く。腹の奥底を揺るがすような重低音だ。

 大気を力の限り押し退ける閃光は一直線に護廷十三隊の元へと突き進む。

 

「うぉお!? ヤベいですよ隊長!! 逃げましょうって!!」

「そうだな。お前の鈍重な足では逃げ切れんな」

「ええ、俺だけ死ぬんですか!?」

 

 迫りくる破壊の閃光を前に逃げ出そうとする大前田に対し、砕蜂は焦る様子を一つも見せていない。

 不自然なほど落ち着いている砕蜂に対し違和感を覚える大前田は周囲を見渡す。

 数名ほど、肌を焼くような莫大な霊圧に顔が強張っているものの、誰も逃げ出す様子は見せていない。

 

 先頭に立つ元柳斎が一切動く気配を見せないからこそであった。

 

―――『避ける必要もない』

 

 そう言わんばかりの元柳斎の佇まいを信じ、ほとんどの者が無様に逃げる様子を見せずに居たのだった。

 だが、ただ一人その場を離れて元柳斎の前に繰り出すではないか。

 

「卍解」

『!』

 

 流刃若火の煌々と燃え盛る赤い炎とは違う、神々しささえ感じる青白い炎が護廷十三隊の前に壁となって燃え上がる。

 それはアルトゥロの放った王虚の閃光を受け流すようにして左右へ拡散させていく。

 

 閃くマント。

 看守のような黒衣を身に纏った死神は、目の前で燃え盛る青白い炎の光から目を守るために深く被っていた帽子を上げ、王虚の閃光が消えると同時に晴れて明瞭になった景色を見遣る。

 

「―――『星煉剣(せいれんけん)』」

「ほう」

 

 アルトゥロの王虚の閃光から護廷十三隊を守ったのは、卍解した焰真であった。

 そんな彼へ感心するように長い白い髭を撫でる元柳斎は声を漏らす。

 

 一方で、アルトゥロは自身の攻撃を防がれたことに不快を露わにした顔を浮かべている。

 宣戦布告としては上出来の立ち回り。ふぅ、と一息ついた焰真は卍解を解きながら踵を翻し、元柳斎の前に跪く。

 

「総隊長、御怪我は」

「態々防ぐ程のものでもなかったんじゃがのう」

「あれ?」

 

 思っていた反応と違う。

 お節介であったと言わんばかりの口振りに、『頑張ったのに……』とやや気落ちする焰真であったが、そんな彼を横目に元柳斎は遠く―――敵を見据えて言葉を漏らす。

 

「しかし、驕る小童の鼻っ柱をへし折るにはちょうど良かったの」

「……」

 

 挑発的な物言いにアルトゥロの眉間に刻まれる皺は深くなる。

 “傲慢”の死を司るアルトゥロは元来気が長い方ではない。自らの攻撃を防がれた上でこうも挑発されれば、彼の怒りは既に頂点を迎えている。

 

 一歩、アルトゥロの足が前へ進む。

 

「芥火」

「はい?」

 

 不意に日番谷が焰真の隣にやって来た。

 

「アルトゥロは俺が相手する。構わねえな?」

「……いいですけど、一体どうして」

「面子ってモンがあるのさ」

 

 アルトゥロの相手をすると宣言する日番谷に問いかける焰真であったが、答えを返してきたのは京楽であった。

 その間に、日番谷はプイと焰真から顔を逸らして颯爽とアルトゥロの元へ向かっていく。

 

隊長(かれ)には隊長(かれ)の、ね」

「……はぁ」

「さてと……僕はあの強そうなお爺ちゃんを相手しましょうかねっと。一応、この中じゃ古参だし。隊長は隊長でも古参だからっていう面子あるのも、また厄介なとこだね、っと」

 

 飄々と面子について語った京楽は、古参の隊長の面子を守るために、強者の風格を漂わせるバラガンの下へ向かう。

 途中、京楽の前には二人の従属官が立ちはだかる。

 どうやら、バラガンと戦う前に彼らを京楽は相手どらなくてはならないようだ。

 しかし、京楽ならば十刃ではない従属官の二人程度十分に相手どれるだろう。もしも苦戦するようであれば必要に応じて加勢すればいいだけの話。

 

 そう思案する焰真が横に視線を遣れば、今度は砕蜂が金髪碧眼の女破面―――ティア・ハリベルの下へ隠密機動の名に恥じぬ瞬歩で赴く。

 一拍遅れて大前田も付いていくが、従属官三人に睨まれビクリと肩を跳ねさせていた。若干不憫さを覚えずにはいられなかった焰真だが、肩をパンと叩いてくる海燕に意識を向けさせられる。

 

 視線で訴えられる先。

 そこには気だるげそうな男破面―――コヨーテ・スタークと、黄緑色の髪の少女破面―――リリネット・ジンジャーバックが居る。

 

 無言のまま、アイコンタクトだけで意思疎通した二人は、瞬歩で二人の前に赴く。

 

「よーう。俺らの相手はお前だな」

「……はぁ」

「……なんなんだよ、いきなりため息吐きやがって」

 

 気を削がれると言わんばかりの様子の海燕に、そんなため息を吐いた張本人であるスタークは眠そうな眼差しで海燕と焰真の二人を交互に見遣る。

 

「俺、あんたらみたいなのが苦手なんだよ。なんつーか、俺はこの戦いが終わるまでぼんやりと過ごしてえしな」

「はあ?」

「だが、そっちのあんちゃんだ」

 

 スタークが視線で示す先に佇むのは焰真だ。

 問題がある―――そう言わんばかりの口振りだった。

 

「そっちのあんちゃんみてえなのが一番気味が悪ィ」

「……どういう意味だ」

 

 含みのある言い方をするスタークに、焰真は眉を顰めた。

 

「どーもこーも……あんた、自分で気づいちゃいるのか知らないが、殺気を微塵も感じねえ」

「……」

「なのに、俺達を斬ろうっつー戦意をバリバリに出してきやがる。普通、斬ろうって相手には少なからず殺気向けるもんだろ?」

 

 焰真の放つ“気”に矛盾を指摘するスターク。

 だが、聞きに徹していた海燕からすれば『だから何の問題があるというのか?』という話である。

 

 殺意がなく戦意はある。

 言葉通り受け取れば、戦いこそするが殺されることはないという風に聞こえるだろう。

 ならば、死なないのだから問題はないのではないか?

 そう考えた海燕であったが、スタークはその言葉の奥に踏み込んだ。

 

「つまり……だ。あんた、どういう訳か絶対相手を殺さねえ自信かなんかがあるから、こいつ(リリネット)のことも全力で斬りにかかるだろ」

「え゛っ!?」

 

 ここでようやくリリネットは声を上げた。

 この場に来ている以上、少なくともスターク以上にはやる気に溢れているリリネットだが、お世辞にも従属官足り得る実力は有していないことを自覚している。そのため、アルトゥロの王虚の閃光を真っ向から防いだ相手に狙われれば一たまりもないことはすぐに理解できた。

 

「シュっ、スターク!」

「……少し落ち着け」

 

 あからさまに焦り、果てには噛んだリリネットを宥めるスタークは、『だから』と目の前の二人へ告げる。

 

「こいつに手を出してくれねーなら、俺は他の連中の戦い終わるまでぼんやり待って過ごして―――」

「断る」

 

 食い気味に言い放たれた拒否の言葉。

 闘志を瞳の奥に灯す焰真は、煉華を抜き放ち構える。

 

「この間にも、仲間が命かけて戦ってるんだ。命かけて仲間が戦ってる間、のうのうとしてる奴は仲間じゃない」

「そう……かい」

 

 焰真が言う『仲間』とは、今尚虚圏にて戦っているでルキアたちのことだ。

 彼らが傷つき、それでも織姫を救わんと刃を振るっているにも拘らず、時間を無為に費やすことなど許せるものではない。

 

 そのように焰真が言い放った『仲間』という一言に一瞬反応したスタークは、少しばかり俯いて呻いた後、やや鋭くなった瞳を焰真たちへ向け、徐に片手をリリネットの頭に置いた。

 

「それじゃあ仕方ねえ……トばすぞ、リリネット」

「お、おうっ!」

 

 一瞬にして張り詰める空気。

 大体の敵の前に護廷十三隊の死神が配置した。

 それを見計らい、元柳斎が(ふういんじょうたい)に戻した流刃若火で霊圧を固めた足場を叩いて一喝する。

 

 鬨の声は上がる。

 

「かかれ!!! 全霊を賭してここで叩き潰せ! 肉裂かれようと骨の一片まで鉄壁とせよ!! 奴等に尸魂界の土を一歩たりとも踏ませてはならぬ」

 

 

 

 空座決戦、開戦。

 

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