猫、拾いました   作:秋の月

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書き溜め無し、この先の明確な話の筋無し、そんな見切り発車の物語


本編
プロローグ


オタク文化が広く定着しつつあるこの世には、争いが絶えなかった。その中でも過酷な天下取り合戦が行われている業界があった。それは『アイドル業界』

曰くアイドル業界は一種の偶像崇拝を行う宗教であり、各地に布教をし回っている状況であり、自身の人気の為に人生を売り、容姿や技術を極めている。また裏では水商売に手でも出しているのかと疑われている。そんな悪意の蔓延する業界で、足を踏み入れた者がいた。そして目立つ事なく、悲しみと嫉妬で埋もれて...耐えれず逃げたした。

 

 

 

―猫、拾いました―

 

纒わり付く湿気と暑さに蝕まれながら、俺は買い物袋をぶら下げ帰宅していた。今日の晩飯は好みのハンバーグを贅沢に二個食いするぞと意気込みながら、公園の横を通ろうとすると、ブランコに揺られながらしけた顔したクラスメイトの姿があった。前川みく、俺のクラスに知らない奴は居ないだろう。何故なら前川は俺のクラス のクラス委員長だからな。しかし何で猫耳をしているのだろう。趣味か?随分と可愛らしいが。

 

「何しけた面してるんだ、前川」

 

「え?...あぁ、長門クンか...」

 

「何があったか知らねぇが、もうそろそろ家に帰らないと不味いんじゃねぇの?知らんけど」

 

前川はなんか寮に暮らしていると言っていたが、うちの学校はそんな寮暮らしするような学校なのだろうか。中学の頃からの友人は、鉄道企業に就職したいと意気込み池袋の高校に行ったらしいが、うちの高校は普通の公立高校、頭も普通より少し上な程度で、部活も活発じゃないし。

 

「...帰りたくない」

 

「あ?何だって?声小さくて聞こえねぇよ」

 

「...帰りたく...ひっく!...ないよ...」

 

前川は突然泣き出した。急に泣き出したもんだから、俺はただただ慌てていた。

 

「おお、ま、前川どうした!?まさか口調キツかったか!?ご、ごめん!謝る!謝るから泣き止んで!」

 

普段は真面目な前川がこんなにも泣き出すなんて、きっと何か悪い事があったのかもしれない。

 

「もしかしてあれか?怖いお兄さんに脅されてるのか?それなら俺がぶっ飛ばしに行くからな!」

 

「うぅん。違うの...っく、そうじゃないの...うぅ...みくが...みくが悪いの...」

 

「...一体何やらかしたのか知らんが、取り敢えず家に来て落ち着いて話せ。お茶と茶菓子くらいなら出してやるからよ」

 

「...ぅん」

 

どうやら相当参っているらしい。俺の中の彼女のイメージはとにかく真面目。勉強に置いても、生活に置いても。俺はよく宿題を期限までに持ってこない人間なのだが、その事についてよく前川からお叱りを受ける。自分はどれだけ良くない事か認識している 上でやっているのだが、中にはそれを快く思わない奴も居て、更に容姿も優れているのもあり、何度か告白されているが、全て断っていて、女子からの反感も買っている。正直それは人の勝手だと思うが、こうも陥れようとするのだろうか。

 

「着いたぞ、ここが俺んちだ...取り敢えず入れよ」

 

前川は黙って頷くと、家の中に入る。一緒にリビングまで行っているが、借りてきた猫のように大人しかった。差詰め猫を拾ったって所か?まあ前川は人間だがな。

 

「それで...何があったんだ?話せるか?」

 

「...嫌になっちゃったの...」

 

「え?」

 

「同期の子が...どんどんお仕事貰って、表舞台に立つ中...みくはお仕事が一つも来ないで...ずるずると...。寮に住んでる子も、お仕事楽しかったって...その気が無くても...みくの心は傷ついて...そのまま逃げ出しちゃったの...」

 

思ったよりもドロドロしているらしい。てか仕事って...。

 

「なに?まさかあれ?隠れて芸能人やってるーってカミングアウト?」

 

「...みくは名前も知られてないアイドルにゃ...」

 

アイドル?にゃ?それよりも俺は地雷を踏んだらしい。前川すまん。

 

「まあ、取り敢えず...サイン貰っていいか?」

 

ここだろうなと思いながら、色紙を取り出す。

 

「...みくのでいいの?」

 

「あぁ、寧ろくれ、家宝にするからな」

 

売れないと悩んでいるみたいだが、オーラと言うかなんと言うか、彼女は将来的に売れる気がする。

 

「キャラ作りとかしても、見てくれは良くても舞台に立てるのはほんの一握り...狭い道だな、アイドルって」

 

「みくよりも可愛い子がいっぱいいるし...みくなんて...」

 

相当ナイーブな気分らしい。しかし追い打ちをかけるようで悪いが言わなくてはならない...。

 

「キツイ言葉かもしれないが、スタートラインすら立てていないと思うんだ」

 

「うぅ...」

 

やはり萎んでしまったか...。

 

「まあ、スタートラインに立ってないと言うことは、自分を磨く為の時間が残っている事だ。そうだな...有名なアイドル...高垣楓っているじゃん」

 

「...うん」

 

「高垣楓とお前を比較して勝っている所って何だと思う?」

 

「...分からない」

 

そう言うのは自分が知らないとなのになぁ...。

 

「練習出来る時間だ。仕事で忙しい人は人付き合いも必要になってくる。そうなると割かなくてはならないのはプライベートや練習時間だ。でも前川は仕事が無く、あるのは先の見えない練習時間...」

 

「...馬鹿にしてるの?」

 

「いや、そんだけ練習時間があるなら、他に追いつけるし、技術さえ自分のものにすれば使える幅が広がるわけだ。歌の技術を得たら歌手も目指せるだろう。服装を栄えさせたり、ファッション技術が上がればモデルも目指せるし、踊りを極めたならダンサー、話術を磨けばバラエティーも可能だ。それらを極める時間が前川にはあるって事を自覚しろ」

 

「...でも...」

 

「でももストもねぇよ。それに仕事って受け身の姿勢じゃ降りてこねぇだろ。常に攻めの姿勢が大事なんだよ」

 

「...それにみんなに合わせる顔も...」

 

一度負のスパイラルにハマってしまうと、抜け出すのに時間がかかる...解決策は時間...なら。

 

「なんだったら家を使わせてやる。空き部屋もあるしな」

 

会社側としては、どこの馬の骨とも知らぬ男が、自社のアイドルとひとつ屋根の下で過ごすなんてたまったもんじゃないと思うが...一度負の環境から抜け出さなければ前川が壊れる。偽善なのか、過ぎたお人好しなのかはさて置き、クラスメイトが不幸に会うなんて、聞いたら罪悪感に浸ってしまう。

 

「そ、そんな...悪いよ...」

 

相手を思っての行動だが、初手で嫌だと言うものだと思っていた。

 

「じゃあ、取り敢えず飯でも食ってけよ」

 

「...そ、それじゃあお言葉に甘えて」

 

と言っても惣菜の和風ハンバーグに、昨日作って余ったひじきときんぴら位だが。

 

「惣菜と残りものだからすぐに出来るからな、座って待っててくれ」

 

ハンバーグを皿に乗せ、電子レンジで温めている中、冷蔵庫からタッパーに入ったきんぴらとひじきを取り出す。自炊している学生の冷蔵庫はこんなものなのだろうか、比べた事ないから知らないが、他にも居るなら興味がある。少しだけだが。朝の弁当で余った分の米を茶碗によそうと、丁度電子レンジでの調理(温めだけだが)が終わったようだ。

 

「ほら、男子高校生の飯だ」

 

「は、ハンバーグだにゃ!」

 

さっきまでの雰囲気が無かったかの様に元気になった。もしかしたら空元気かもしれない、もしかしたら女優の如く元気を演じているのかもしれないが、表面上は元気になっていた。俺の分のハンバーグをわけただけあって良かった。

 

「でも何で二つもあるの?」

 

「一つ明日の弁当にしようかと」

 

「でも惣菜の消費期限って...」

 

「男子高校生は基本そんなの気にしないから」

 

「...ふーん」

 

疑っている様だが事実そうだ。今回はそんな予定が無かっただけで、普段は消費期限切れていようが食うのは俺だけだからな。そんなの気にしてすら居なかった。

 

「なら見てあげようか?お世話になる次いでに」

 

「良いのか?別に戻れるなら寮に戻ったって...むしろ周囲からしたらそれを望んでいるんじゃないか?」

 

「でも今戻ったら、きっとみくの心は傷ついちゃうの...みくを救うと思ってお願い!プロデューサーには許可貰ったから!」

 

「仕事速くないか?」

 

どうやらこちらの外堀から攻められていたようだ。形勢逆転、今のこの場での王者は、食を支配下に置いた、猫の方らしい...。

 

取り敢えず、いつまで続くか分からないが、猫との生活が始まるらしい。

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