猫、拾いました   作:秋の月

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お久しぶりです。

番外編の投稿です。


番外編
番外編1話 猫、彼の実家に遊びに行く


「…すごい…田舎にゃ…」

 

「……ほっとけ」

 

地元路線でも栄えている方の駅…であるが周辺には背の低い建物ばかりだ。これが地元の中心駅と言うのだから俺は結構な田舎に住んでいるんだなと上京してから何度考えたことか。そりゃ熊が出るような田舎なんだ。仕方ない。

 

ここは山口県内を縦貫するローカル線の中間の町。県内で唯一海と面していない町らしい。

 

「じゃあ三十分くらい歩いてくぞ」

 

「…一時間じゃ無いだけましだったにゃ…」

 

街の中心地と言うのに相変わらず閑散としていると思いながら、夏の日差しを浴びて歩き始める。隣の前川は純白のワンピースに麦わら帽子と、どこかの令嬢を彷彿させる見た目をしていた。普段着ている猫柄の服はどこに行ってしまったのだろう。

 

「公私混同しないんじゃ無かったのか?」

 

「緊張してるんだよ!察してよ!」

 

緊張…?あぁ。

 

「それは悪かったな」

 

「分かればいいにゃ!分かれば!」

 

だから格好も清楚なものだったのか。ここまで道行く人が二度見してた事は言うべきか…?

 

「ただ、アイドルと言う自覚くらいは必要じゃないか?やっぱり」

 

346プロがいくらなんでも恋愛に寛容的だからと言ってもな…。世間的には如何なものか。

 

あの後前川の人気はうなぎ登りだった。今じゃテレビでも観ることがある様な人気アイドルとなった。彼女が人気になって嬉しいと思う反面、どこか遠くへ行ってしまったなんて言う疎外感も感じ無い訳では無い。だから今日も少なくなってきた休みを利用して来ているらしい。何でも「長門チャンの家に遊びに行きたい」らしい。それでいいなら良いのだろうが…。

 

「…日焼け止め塗っておいて正解だったよ…」

 

「俺は良いや。焼ける時は焼けるんだ」

 

帰りに母親の日傘でも拝借するか。

 

―――

 

「…立派な門だね…ここなの?」

 

見慣れた我が家に着いた頃、太陽はますます強く照らし始めた。

 

「そうだぞ?庭が綺麗な家なんだ」

 

「長門チャンもそっち側だったか…」

 

「俺も?」

 

正門の戸を開くと出迎えてくれたのは日本庭園と愛犬の賢だった。

 

ワンワン

 

「おぉ、賢久しぶり。相変わらず元気にしてるんだなぁ。シロとクロも元気にしてるか?」

 

ワンワン!

 

賢が向いた方向を見ると愛猫のクロとシロがじゃれあっていた。相変わらずあの二匹の仲は良いなぁ。

 

「このワンちゃん人間の言葉を理解してるの?」

 

「人間の生まれ変わりなのかって思うくらいには理解してるよ。それに賢くて勇敢な愛犬だ」

 

賢を撫でていると、こちらに気付いたシロとクロがこっちにやって来た。二匹とも横にくっついて来ると「撫でろ」と言いたげに身体を擦り付けてくる。こんな所も相変わらずだな。

 

「おぉ…可愛いにゃ…」

 

「クロもシロも撫でてやるから離れな」

 

空気を読んだ賢は少し離れた所で腰を下ろした。

 

「あと紹介したい子が居るんだ。この子なんだけどな」

 

二匹とも耳がピクっとして前川を見た。少し警戒気味だが、撫でてやるとそれも解れている。

 

「この子は前川みくって言うんだ。俺の可愛い彼女さんなんだ。是非宜しくやってくれ」

 

ニャーニャー

 

「お、おぉ…スゴいにゃ…可愛いにゃ…もふもふ…」

 

随分トリップしている様だ。

 

ワン!

 

「どうした賢…っと、父さんか。ただいま」

 

「お帰り聡。帰って来たら親に顔を出すのが当然だろう。シロとクロと戯れている女の子は聡が連れて来たのか?」

 

「そうだよ。前川みくって言う俺の可愛い彼女だよ」

 

「…東京で一皮向けたのか。可愛い嫁を掴んだんだな。…猫が随分と好きそうだな」

 

普段から表情が硬く厳格な父も、苦笑いを浮かべている。まあ、ここに来るまでの緊張が完全に解れきっているからな。

 

「聡美を見ている様だ。あいつも生粋の猫好きでな。一緒に学校から帰っている時、猫を見つけたら追い掛けに行くんだ。警戒心の高い野良猫も、俺の顔見たら逃げ出すのに、聡美の笑顔を見ると自ら擦り寄って来ていたものだ」

 

「シロもクロも母さんが拾ってきたんだっけ」

 

「あぁ。子猫の時神社の境内で捨てられていたのを拾って来たみたいなんだ。今じゃ二匹とも立派に成長しているからな。ようやく懐いてくれたんだぞ?」

 

実家出た時は懐かれてなかったからなぁ父さん。

 

「長かったね」

 

「あぁ」

 

「ふへへぇ……はっ!?あっ、お、おっ、お義父さん!?」

 

「気付くの遅いぞ前川」

 

「は、初めまして!私長門チャ…聡くんの同級生で付き合わせて貰ってます前川みくです!みっともない姿を見せてごめんなさい」

 

「気にする事は無い。私も少し懐かしい気持ちになったから。前川さんと言ったね、聡をよろしく頼むよ」

 

そんなに手のかかる奴か俺は。

 

「人と付き合うのが苦手な奴だから、君みたいな子と出逢えたみたいで良かった」

 

「…!ありがとうございます!」

 

「あぁ、こちらこそ。…ところで君をどこかで見た事ある様な気がするんだが…」

 

…そう言えば母さんはアイドル好きだったな。

 

「えぇ!?嘘!?アイドルのみくにゃん!?なんでうちに!?…なんかインタビュー会ったっけ?」

 

「おい聡美、まず息子の姿に気付きなさい」

 

「あ、聡お帰り」

 

『ノリ軽い(にゃ)!?』

 

いくらアイドル好きだからって息子の優先順位を下げるとはどう言う了見だおい。

 

「賢、いくらなんでもあれは無いよな」

 

ワン!

 

「クロもシロも気付いたら二人だけの世界入り込んでるし…俺の気持ちが分かってくれるのは賢だけだぜ…」

 

ワンワン!ペロペロ

 

「こらこら、舐めないの。気持ちは伝わってるよ」

 

前川の方を見ると、母さんにサインを強請られ、それを見た父さんは困り顔をしていた。

 

「聡美はテレビでアイドルを見かけると、人が変わるんだ。恐ろしいだろ?」

 

「…そうだね」

 

人と言うのはここまで変わるものなのだろうか。本当に恐ろしいものだ。

 

「そろそろ上がるか?長旅で疲れているだろう」

 

「少し抜けてたけど、ここまで長かったんだよなぁ…さすがに疲れたよ」

 

「なら荷物を置いて来なさい。あと四郎君もそろそろ着くらし「長門さんお邪魔しまーす!」噂をすれば…だな」

 

「おっ!聡久し振り!一緒に東京出たのに全く会わなかったな!」

 

「一回電話掛けたくらいか?相変わらず元気そうだな」

 

幼馴染みの四郎は相変わらず元気そうだったが、前川を見た途端に身体が硬直した。

 

「ん?どうした四郎」

 

「さ、聡サン?あ、あの可愛い女の子は…?」

 

「ん?あぁ、彼女」

 

「なんだ〜彼女かぁ…ん?彼女!?俺が野郎と戯れている間に!?いつからだ!」

 

「お前が電話かけた一週間後くらい?」

 

「うせやろ」

 

…確かに実感湧かねぇな…。俺もこいつの立場だったら信じてなかっただろう。

 

「長門チャン、前言ってたお友達?」

 

「あぁ、こいつがアレだ」

 

「親友をアレ呼ばわりとはけしからんヤツめ。っと自己紹介か。筑紫四郎、こいつの昔からの友達だ。一応俺も東京の学校通ってるんだ。よろしくな」

 

「前川みくです!よろしくお願いします」

 

「前川みく…どこかで聞いたような…まあ、いいや。そんな事より乗ってきた夜行がさぁ――」

 

四郎の趣味トークは長い事で有名だ。この場は全て父さんに押し付けてトンズラしよう。

 

「か、彼置いといて良いの?」

 

「構わない。どうせしばらく喋り続けるさ」

 

「そ、そうなんだ…」

 

父さんも昔は旅していたらしく、楽しそうに聞いているけどね。

 

―――

 

「ここが俺の部屋だ」

 

ここだけ時間が取り残されている感じがする。勉強机の下のカラーボックスの中には、まだ三年の頃使ってた教科書が入れっぱなしで、壁には集めた古ポスターや写真が貼ってある。最後に出た時もこんな部屋だった。ホコリが散らばってない事を除き、家を出た頃となんも変わっちゃいない。

 

「和室って感じがするにゃーごろごろー」

 

「あざといぞ…」

 

引っ越した先は洋室で、ベッド続きだったが…昔はこうして畳の上で寝そべっていたな。

 

「俺の部屋はたまにシロとクロが寛ぎに来るんだ。きっと待ってたら…ほら来た」

 

襖に似合わぬ猫用の入口を押して二匹とも入ってきた。

 

「猫ってさ、人が何してようが構ってくる自由奔放な生き物だよ。頑張ってる時も、悲しい時も、嬉しい時も、寂しい時も…構わず向こうはやってくる。呼んでないのに勝手にやってくる。でも、なんだか生き生きとしているんだ。この二匹。元々捨て猫で、人間に怯えてもおかしくないのにな。自由で羨ましいよ」

 

この二匹が最初から懐いていたかと聞かれると、そうでは無い。最初のうちは怯えていた。でも正面向いて接していくうちに、気付けば立派になっていた。なんだか前川とシロとクロは似たものどうしかもしれないな。

 

「シロとクロにすっかり懐かれたな」

 

猫は警戒心の強い生き物だが…前川相手には腹を向けて「撫でろ」と言っている様に思える。クロもシロも前川に感じる何かがあったのかもしれない。

 

「嬉しいにゃ〜…」

 

すっかり惚けてあまり話を聞いている様には見えないな…ヨダレ垂れてるぞだらしない…。

 

でもまあ、こんな気が抜けてる彼女だって、ステージに立てば一気に可愛くてカッコイイアイドルとなる。不思議なものだ。どこか感じ取れる何かがあった。陰ながら必死で努力していることも知っている。でも、気付いたらそれが表に、多くの人が知る存在になっていた。不思議だ…。ただの同級生だと思っていたら、実はアイドルで、気付いたら彼女になっていた。これが長い人生の中の瞬間の出来事なのだから、驚きしかない。その瞬間は、俺にとって大切で、楽しいものになったけどな。

 

ありがとう、言葉には表せないが…そう思っている。見つけさせてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。気を掛けてくれてありがとう。

 

「聡、ご飯何が良い?」

 

母さんが襖を開けて聞いてくる。下世話な笑みを浮かべないだけありがたいな。

 

「久しぶりに焼き魚が食べたいな」

 

「待つにゃ」

 

我に返ったその猫には感謝の気持ちでいっぱいである。しかし、この猫を俺はつい弄りたくなってしまう。

 

「良いじゃねぇか」

 

「良くないにゃ」

 

こんな軽い言い合いが楽しい。少し怒った前川の口調だが、顔付きはなんだか楽しそうだったな。

 

――番外編Fin――




私自身、山口どころか神戸より西は訪れた事が無いので完全に空想です。少しだけ舞台地は調べましたが…。

次の番外編は何を書きましょうか…文化祭とか面白いかもしれませんね。
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