猫、拾いました   作:秋の月

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みくにゃんみたいな彼女が欲しかったと嘆く、秋の半ば。暑さが苦手でも、夏が恋しいと思う...文香Pです。


3話 猫、彼と学校に行く

朝の目覚めは食欲に働きかける様な匂いだった。こんがりと焼けたトーストに、ベーコンの良い匂いが俺の部屋まで届いていた。ベッドから出ようとすると、前川が猫柄のエプロンを制服の上に着用して部屋に来た。

 

「長門クン!ご飯出来たから来て欲しいにゃ!」

 

時計を見ると七時よりも前を指していた。部屋着のままリビングに行くと、テーブルの上にはトーストにスクランブルエッグ、ベーコンにトマトとレタスとカマンベールチーズのサラダが並べてあった。

 

「おぉ、美味そうだな」

 

前川は牛乳を取り出し、それをコップに注いでいた。

 

「ふふーん!美味しそうでしょう!」

 

思いの外エプロンと言う姿がとても似合っているのはアイドルと言う肩書きがあるからなのか、単に女子力が高いのか分からないが、似合わないという言葉は形を潜めていた。

 

「あぁ、それにエプロン姿似合ってるぞ」

 

「うん!ありがとう!それじゃあ早速食べよう!」

 

朝から結構テンション高めだなぁ...一体何時に起きたんだよ...。

 

『いただきます』

 

兎も角、俺はベーコンを齧った後に、トーストを齧る。それは市販のものなのだが、俺が作るものと全然違っていて、口の中に広がるベーコンの旨味、トーストのバーターの風味、全てが俺と違った。それどころかこの味は母親より美味いかもしれない。

 

「美味い。こっちに来てこんな美味い朝食を食べたのは初めてだ」

 

「本当!?良かったにゃー、口にあって」

 

「毎日食っても飽きないかもな」

 

「それは大袈裟にゃ!」

 

「冗談じゃないが、冗談だよ」

 

「どっちにゃ!?」

 

前川は料理も出来てノリがとても良い。しかも勉強が出来て頭も良い...中々優秀な人材だと思うぞ。

 

「まあまあ、あんまりカリカリするな。リラックスリラーックス」

 

「落ち着けるかぁ!?」

 

前川はあれだな。関西人気質なのだろう。独特のツッコミがそれを表している。

 

「ご馳走さま。でも安心して、ご飯美味しかったから。毎日食うとなると楽しみが食事になるかもしれない」

 

「んにゃ!?そ、そういう事を平気な顔で言うにゃー!早く着替えてくるにゃ!!」

 

羞恥からか真っ赤になった顔で、前川は俺をリビングから追い出す...しかし、ここの家主俺なんだよなぁ...将来尻に敷かれる運命を辿るのだろうか、なってみないと分からないな。

 

部屋に戻ると地元から一緒に飛び出した友人からの定期連絡が来ていた。

 

《期末試験近付いているけどそっちはどうだ?俺は専門科目が何言ってるかさっぱりなんだよ。換算キロとか擬制キロってなんだよ...》

 

《知るか、こっちは英語以外普通だよ》

 

少し...いや、結構特殊な高校行った奴の自業自得だろう。地元の...少し離れているが工業科とかに行けば良かったものの...俺が人の事言える立場では無いけども。

 

それよりも早く着替えないと、少し時間が危ない。

 

―――

 

「それじゃあ行くか」

 

「ちゃんと鍵は締めた?」

 

「我が家はオートロックです」

 

俺の住むマンションから学校までは徒歩で十分弱、東京都内ではあるものの、中心と少し離れた郊外の街なので、通学路は一軒家と集合住宅の組み合わさった閑静な住宅街だ。駅からも一、二キロは離れており、駅前の華やかさと比べると物足りない。でもこの物足りなさが好きだ。華やかなものを並べても、いざ足りなくなった時の喪失感は酷いものだ。それに比べて最初から欠けているこの空間は、喪失感を和らげてくれる。いや、駅まで距離は無いのだから、物足りなさは行って補えばいいのだが、それは野暮というものだ。

 

国道沿いの大通りに出ると、先程とは打って変わって騒がしくなる。通り沿いには都心に向かう社会人や、これから学舎に向かおうとする若者が多くいる。

 

「長門クンは誰かが居ても静かに行くんだね...」

 

「まあ、持ちネタが少ないのと、こう言う時間は思索に更けるのがルーティンワークなんだ」

 

「そうなんだ」

 

俺は決して話上手と言う訳ではない。自分から話を振るよりも相手の話題に一言二言言うだけの人間だ。話上手はこの道を進むだけでも話題は上がるだろうが、話下手な俺はこの道を進むと自分の世界に入り込む事が出来る。それは意識してと言うより、気付いたらである。

 

「変に会話してしくじるよりも、ダメージの喰らうことのない思索の方が気が楽なんだ」

 

「でもコミュニケーション取らないと寂しいと思うな...」

 

その言葉には一理ある。寧ろコミュニケーション取れない奴が社会で通用するとは思えない。その観点から言えば回転寿司屋のタッチパネルはコミュ障製造機と呼べるだろう。

しかし、しかしだ。

前川はクラス委員長を務めていて、持ち前の真面目さや明るさ、ルックスなどから支持や人気はあるだろう。更にアイドル活動が成就したらその人気に拍車がかかるだろう。反対に俺は田舎の権力者の息子で、地元を飛び出したものの、クラス内で浮き沈みする事なく、定位置でぬるま湯に浸っているだけの凡人だ。強いて言うならば、動物に好かれやすい事が取り柄だろう。俺と彼女とは正反対だ。とにかく目立つ彼女、目立つ事を恐れる俺。コミュニケーション以前の問題だ。住む次元が違うと言えよう。今はひとつ屋根の下共に過ごしているが、それを見た周囲が言う言葉はこれに尽きる。

 

『釣り合わない』

 

俺の考えからすれば前川には少し養生を取るべきだと思う善意からの行動だ。ただでさえ彼女はクラスでも先陣を切り道を作っているのだから。そんな彼女が無理をして心身を壊すと、クラスや彼女の職場にひびが入る。そうなるくらいなら自分にヘイトが来る方が良いだろう。方や美少女、方や冴えない男。どちらに悪が飛ぶのかは自明の理だ。目立つ事は嫌いだ。ただ何も出来ずに知り合いが壊れていくのはもっと嫌いだ。俺は感情に身を任せている人間、夏目漱石が言うに「騙される者」だ。

 

「長門クン?表情暗いけど...体調良くないの?」

 

現実世界に強制ログインをさせられると、前川が覗くように俺の顔を見ていた。

 

「あぁ、悪い。どうやら今日は思考回路が暗いらしい。仮病を使って休むよ」

 

「それは許さないにゃ」

 

そりゃそうか。それこそ自明の理だ。

 

「二限の英語が、しんどい」

 

「...英語嫌いなんだっけ」

 

英語だけではない。化学や物理ももはや何を言っているのかさっぱりだ。

 

「...勉強、見てあげようか?」

 

「いや、手を煩わせるのは悪い、自力でどうにかする」

 

今までもそれで赤点を回避し続けた。今回も大丈夫だと慢心をする訳では無いが、回避する努力はするつもりだ。

 

―――

 

教室に入ると、前川は会話の輪に入って行き談笑を始めた。それとは反対に俺は席に着くと同時に鞄から文庫本を取り出し読み始める。寝た振りと読書は外部からのコンタクトを遮断する為の障壁であり、自分だけの世界を作り上げる為の儀式だと思っている。このフレーズはどこか十四歳頃に発症する病気を沸々と思い出させる感じだが、事実読書中や昼寝中に妨害に走る愚者は居なかった。偶に空気読めない奴がクラス内で巫山戯ていた時に席にぶつかったりした事があったがそれくらいだろう。と言うか元気が有り余っているなら外に出て発散すればいいのにと昔から思っているのだがそこら辺はどうなのだろうか。気にしてはいけないのか。まあ、それは良い。さっきから前川がチラチラとこちらを伺っている様に見えるが、俺はこれに答えるべきなのか。魔女狩りに遭いたく無ければ俺はここで反応すべきなのだろうが、生憎な事に俺は人間で、アイデンティティーを持っているのだ。自分を壊してまで答えたくは無いな。前川には悪いが用があるならこちらに話しかけて欲しい。

 

そうだ、ここで一つ弁明しなくてはならない事がある。俺の語はやや暗い事があるが、それは気分によって左右される。ご機嫌な時の思考、行動は基本明るいが、朝方や不機嫌な時は今みたいになる。俺がいつも「友達を作ると人間強度が下がる」などとほざく人間では無いことを知って欲しい。いやそんな事は言わないけど。普段はろくな事を考えていない。何故朝は迎えるのかとか、友達の定理とか。普段からこんな感じなのか俺は...。客観的に見たら根暗のぼっちなのか...いやそう演じている(やや強制的に)から仕方が無い事だけど。

 

「ほら、席着け。ホームルームやるぞ」

 

でも演じていると、時は早く進む。そう、まるで魔法にかけられたかの用に...。




最近精神的に疲れてる感じがします。
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