猫、拾いました   作:秋の月

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この作品は12話程で完結する予定です。完結したら番外編でも出そうと思いますが、まだ先の話になるでしょう(恐らく年内完結は無理です)


5話 猫、決意する

ふとアイドルについて考えてみた。個人的なイメージだが輝いている様に見える。歌や踊り、パフォーマンスの技能が高いとか、歌詞や振り付けが良いとか、そんな事じゃない。笑顔だ。人気のアイドルは全員自然な笑みを浮かべている。あれが作り物なら、彼女達は役者を目指せる。作っている場面もあるが、大体が自然のものだ。自信や応援、励ましがあるから。夢を叶えたいから、掴めそうだから。そんな彼女達の思考は知らないが、そう感じる。そしてそれは思考だけじゃない。笑顔を作り、激しく踊ることは難しい事だ。単純に体力。如何にレッスンを、体力作りや体調管理を徹底しているか伺える。初心者の俺でも分かる、彼女達の頑張り。だから観ている俺も頑張ろうとか、応援しようとかなるのだ。そして彼女達の様に輝きたいと思う人もいるのが当然の事だと思ってしまう。きっと彼女もその一人だろう。倍率の高いオーディションで勝ち残り、厳しいレッスンを重ねている彼女も、夢を勝ち取る為に止まらない。わざわざ地元を離れた彼女の勇気と強さは尊敬に値し、普段の学校性を見ても努力家だと伺える。

 

ただ、彼女は疲れていた。学校では猫を被り、相談も出来ず、周囲が着々と売れ始める。彼女の同期であるニュージェネレーションやラブライカのデビューライブを観させてもらった。雰囲気と言うべきか、抱いている感情は似ている様に感じたし、周囲の部屋に配慮して踊って貰ったが技術面では前川も負けていない。でも選ばれなかった。売れないでは無く、選ばれない。正確に言うならば、デビュー予定はある。でも一番ではない。それが彼女の心を痛めていた。

 

彼女も人間だ。そして努力家だ。人以上に努力している。持っている素質を超えるくらい。でも選ばれたのは彼女じゃない。彼女は選ばれなかった。悲しむのも無理はない。「もっと努力を重ねろ」なんて言葉は根性論過ぎるし、「大丈夫、きっと選ばれるから」なんて無責任過ぎるし、トップに立ちたい人にかける言葉じゃない。疲れるのも無理は無い。だから手助けしたかった。友達が殆どいない俺だが、見てられなかったんだ。辛そうにしていて、夢を諦めようとしていた彼女が。自尊心に傷が入った彼女が。

 

―――

 

開かれた数Ⅰのノートは白紙のままだ。それもそうだ。除湿され過ごし易くなったこの部屋は眠りを誘うのだから。黒板に書かれた文字が突然現れたかの様に思える。ただ書き連なる数式を慌てて書き写していると、教師が「次に進む」と言い、書いている途中で消されていく。続きの式や文章が分からない俺は無けなしの気力が消え去り、机に顔を置く。やってられるか、と自業自得な事象を心の中で罵り、気怠そうな態度を表す。こうしていると、また黒板の文字が突然現れたかの様に思える。そして写せないでいる。ぼっち道を極めた俺は写してもらう相手も居らず、そのまま理解を深められず「分からない」となるのだ。全く困ったものだ。

 

「じゃあ今回はこれまでな」

 

チャイムと同時に終わり、数学教師は出ていく。ただ教科書の内容を写すだけの授業、それも途中計算省いて。そんな授業は本当に意味があるのだろうか。意味が無いとするなら、初めから捨てておいて正解かもしれない。

 

「...クソだるい...」

 

心の声が漏れた。途中で書き途切れているノートを閉じ、次の教科を卓上に置くとまた机に顔を置く。次は物理...端から捨てた教科だ。担当もよぼよぼの爺ちゃんで寝ていてもスマホを弄っても弁当を食べてもバレやしない。だからこの人の授業は軽い無法地帯、学校と言う規律と秩序が守られ、人権が蔑ろにされた支配地域の中のオアシス、支配地域の管轄外。

 

余談だが、権利は義務を果たして漸く手に入るらしい。つまり義務教育でもなく、バイトもせずに学びに明け暮れるはずの俺達には権利がない。つまり人権が無い。

 

思考の海に沈むのはこれくらいでいいだろう。後は寝る。どうせ号令なんて無いのだから。

 

―――

 

「なあ、唐突だけどいいか?」

 

「どしたにゃ?授業の半分は寝ていた長門クン」

 

「アイドル、仮にスタートラインに立ったらどうするんだ?」

 

「ふぇ?いや、それは色々なテレビに出て、歌ったり話したり、大きな舞台に出てみたり...やっぱり、トップアイドルを目指したい」

 

その夢は大きいものだ。そして、叶えるられるのは片手で数えられるくらいの狭き門。精神的に傷つきやすい、辛い仕事。

 

「どれだけ大変か分かってるか?」

 

「...もちろんにゃ。寮を逃げ出してここで過ごしてるみくには叶いそうもない夢にゃ」

 

でも...と彼女は続ける。

 

「Pチャンはそんなみくでも大丈夫だと、寧ろPチャンが謝ってきた。それに応援してくれる人がいるの...」

 

「だから、みくは頑張る!それは険しい道だけと、頂点を掴みに行くから!ちゃんと応援し続けて欲しいにゃ!」

 

その目は強かったし、輝いて見える。夢なんて漠然としか考えず、大層なもんを持ち合わせていない俺にとっては、何だか希望の華って感じがする。そうだ、こんな所で立ち止まっている暇なんて無いんだ。立ち止まらない限り道は続くのだから。

 

「俺は応援する事を止めない。前川、お前が止まらない限り俺は応援する。だからもう家を出しても大丈夫なのか?」

 

「それはちょっと待ってほしいにゃ」

 

そうそう立ち直れるものでは無かったか...まあ仕方ないのか...。

 

「冗談では無いぞ。立ち直れたなら、戻る気になったら何時でも元ある場所に帰っても良いからな。俺は止めたり無理に追い出したりしないから」

 

「...うん。でももう少し甘えさせてもらうにゃ」

 

毎朝起こされ、食事も作って貰ってる俺の方が甘えさせてもらってる気がするのだが、きっと気の所為なのだろうか。憑き物が取れた彼女の瞳は、微かだが、光が見える。

 

「それじゃあご飯作るにゃ!」

 

「おう、美味いもん期待して待ってるわ」

 

俺が普段着けてるエプロン(猫の刺繍が施されてる)を着けると、機嫌が良いのか一回転し、ニコニコと笑顔を浮かべている。やっぱりアイドルだな。武内さんもきっと、この笑顔が良いのだと判断したのだろう。無表情のアイドルなんて、それは寂しいのだから。いや、アイドルだけではない。普通の、どこにでも居るような人間にも言えることだろう。俺なんかどうだ。学校では喜怒哀楽を見せない、いや誰も見ないと言うべきなのか。とにかく無表情の姿が映るのだと思う。まあ、それを聞いたところで直そうかなんて思わないけど。

 

「お~ねがい~シ~ンデレラ~」

 

ただ、彼女も決意したのだから、俺も変わる必要があるのかもしれない。いや、変わるのは外面的な部分なのだから、自分を偽る事になる...いや、学校と家じゃ全然違うのだから、こう言う場面を押せればいいのか?でも家は家、外は外...使い方が間違っているような気もしないではないが、仮面くらい使い分けしてもええじゃないか。

 

「長門チャンは外だと感情の起伏が小さいように思うんだけど、何で?」

 

「...家のテンションで学校行くとかぶっちゃけると恥ずかしい」

 

感情の起伏が少ないやつの常套句「恥ずかしい」やっぱりこれに行き着いてしまう。だからと言って学校のテンションを家に持ち込むと、絶対鬱病になる。間違いなく死んでしまう。難儀なものだよ。

 

「...そ、それだけなの?」

 

「あんまり馴れ合うって言うか、そう言う機会が無くてね。親が議員とか関係無しに恥ずかしがり屋だから、友達と言う友達が少ないのよ」

 

そもそも同級生が少ないが。

 

「なら、長門チャンに勇気を与える為にも頑張らないと」

 

「アイドルだからか?」

 

「それもあるけど、壊れそうだったみくに勇気をくれたのは長門チャンだから。今度はみくが与える番だよねって」

 

やはり前川は良い奴だ。トップアイドル目指せるのではと言う期待が強くなる。

 

「はい、みく特製オムライス!召し上がって!」

 

「...和食は「お魚は嫌だにゃ」...そうか」

 

頂点を目指すだけではなく、好き嫌いは無くそうぜ...猫キャラ演じるなら...。




間を開けて書いたりして、なんかコレジャナイ感...

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