猫、拾いました   作:秋の月

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みくにゃん側のお話

後半は殴り書き気味


6話 猫、夢を描く

『やったよ凛ちゃん!未央ちゃん!私達ライブが出来るんですよ!』

 

『やったねアーニャちゃん!CDデビューだよ!』

 

事務所ではそんな声が響く。周りもそんな吉報に心から祝福の言葉を浮かべていたが、みくはそんな気持ちじゃ無かった。

 

なんでみくじゃ無かったのか。なんで彼女たちなのか。そんなのは分かってる。彼女たちも努力を重ねていたって。でもそんなのみくも同じ。でもスカウトされた子たち以上にみくは頑張って、オーディションに受かった。なのに先に越されていく。寮でもデビューが決まったアイドルの子が喜んでいて、それでもみくはおめでとうなんて言えずに、黒い何かが心の中を渦巻いていた。みくは辛かった。頑張ってもデビューすら掴めない自分に、それ以上に素直におめでとうと言えない自分が惨めで。そこからは寮を逃げ出すように駆け出した。周りの子達はみくなんかに目もくれず喜びを分かちあっていた。

 

アイドル、諦めようかなとも思った。

 

夢と現実は違う。みくは事務所で思い知らされた。

 

 

でも、そんなみくに話しかけ、手を差し伸べた男の子が居た。その子はクラスでいつも一人で居て、可哀想に思って、気にかけようかと思った隣の席の子。顔は結構好みだけど、宿題は出さないくらいズボラだし、話は得意じゃなさそうだし、近寄り難い雰囲気を出している、男の子。でもみくはきっと甘えたかったのかな。みくはそんな男の子の家に居候させてもらった。軽い子と思われたのか、単に女の子として見られていないのかは分からない。でも、学校じゃ見せないような彼の優しさに触れて、少し気になり始めた。

 

その男の子は長門 聡と言う子は、クラスでは「顔はいいけど話す価値の無さそうな冴えない男」と言う烙印が押され、浮いている。どうにかしてあげようにも、クラスでは好印象でもなく、更に言うならば昼休みは何処か消えてしまう。

 

でも話してみて分かったけど、彼はどこにでも居そうな恥ずかしがり屋の男の子、でも他人に優しく出来る男の子。深くは聞いたりしなかったけど、彼がくれたお惣菜のハンバーグ。あれはきっとその時に一人で食べるように買ったものだとみくは気付いていた。だって、彼は結構食べる子だから。彼のためにご飯を作っていて気付いた事だけど。それに休みの日は一人で走ったりしているみたいだ。その時間を割いてもらい、猫カフェに着いてきて貰ったんだけどね。

 

彼は凄かった。とにかく猫チャンに好かれ、猫チャンも彼の言う事を聞く。素直に凄いと思った。彼曰く「熊にも愛された」との事だけど、疑いの余地が無いくらい事実だと思った。そして彼が地方出身だと、そして議員の息子さんだと知ったのもその時だった。でもいまいち今の学校に来た理由が分からない。可愛いお嫁さんを貰いに来た...そんな雰囲気では無さそう。でも目的無しに来る所では無い筈だから、東京は。友達も東京の学校に通ってると言っていたのに、その友達とは違う学校に来ているのだから、違う目的はあると思う。でも分からない。と言うより、彼が何を考えているかは分からない。学校に行く時も黙り込む、授業態度もお世辞にも良いとは言えない。昼休みどころか、休み時間に誰かと過ごしてる姿だけでなく、姿が見えないか寝てるか。友達作りを端から諦めてる感じがする。そんなに学校居辛いのかな?どうして友達を作らないのかな?どうして学校で喋ろうとしないのかな?

 

みくも良く分からなくなる。昼休みどこに言ってたか聞くと「ベストプレイス」と曖昧な事だけ言ってはぐらかす。本当に静かに居たいのだろうけど、ちょっと心が痛い。でもみくを応援してくれるファンでもある彼は、みくに元気をくれる。なんか死に掛けの演技も混ざってる気がするけど、学校の人で応援してくれる数少ない人...そう考えると少し照れる。でも学校では...なんて考えると心がぐちゃぐちゃになる。優しさを独占したい少しの気持ちと、その優しさの恩返しがしたい気持ちと、彼の環境を良い方向に変えたい...。そんな三つの思いが混ざり、みくを掻き乱す。ただ...あんまり人間味が無い彼も、一人の人間だった。

 

『家のテンションでいくと、恥ずかしい』

 

意外だった。心の底で薄く「あ、この子もしかしたら一人で居るのが格好良いとか思ってるかもしれない」なんて事考えていたから、ただの恥ずかしがり屋だと知って、なんか楽になった。

 

...咄嗟に言ったけど、勇気を与えるか...。

夢と現実の狭間に立ち、何もかも失いかけたその時にみくを助けてくれた、無愛想だけど優しくて、でも恥ずかしがり屋で、心の底...ではないと思うけど、リラックスした姿をみくだけに見せてくれるその男の子。こんなみくでも応援してくれる、学校では唯一のみくのファン。なんか、暖かい。時には意地悪もされるけど、みくの作った料理を美味しそうに頬張る、男の子。偶に何言ってるか分からなくなるし、学校じゃ全く話そうとしない、ズボラで英語が全くできない隣の席の問題児。

 

でも頑張れと背中を押してくれるのも、本来の私の姿を知ってるのも、勇気を一番に与えたいと思わせたのも彼だ。

 

...ちょっと前までは「少し気になる隣の席の男の子」だった。クラスの子も彼の事を「根暗そうか陰キャ」とか「雰囲気が顔を台無しにしている」とか「オタク」とか馬鹿にした感じで、委員長としてどうにかしてあげたいと思ってただけだった。

 

でもこれは持っちゃダメな感情。でも一人の女の子として許して欲しい事。でも絶対に口出来ない事。いっそみくの事を嫌いになってと思うほどの感情。

 

皆からはよく思われてなくて、いい所を知ってるのは学校でみくだけだと思うと、嬉しく思うと同時に、自分の醜い独占欲に自己嫌悪し、彼の良いところを知って欲しいと強く思う。みくの心は矛盾している。自分でもどうすればいいのかな?どうしようもないのかな?なんて不安に思う。でも...

 

『今日も美味い飯ありがとな』

 

彼の嬉しそうで、満足そうで、幸せそうな顔を見るとどうでも良くなっちゃう。猫は単純じゃないけど、みくはとても単純だった。自分でも不思議だけど、どこかすっと入ってくる気持ちいい感情。

 

『お前が止まらない限り、俺は応援する』

 

どこか死ぬの?と思わせるような表情で、でも気合が入った顔で、言ってくれた時は天に昇るほど嬉しかった。思わず鼻歌交じりに料理してしまう程。

 

きっとみくは惚れちゃったんだよ。弱みに付け込まれたと言われれば事実そうだし、どこかたらしな感じもするし...複雑だけど、この感情は今のみく...アイドルのみくか抱いてはいけないものだと分かっている。だけど、この気持ちに嘘はない。まあ、アピールしても気付いてくれそうに無いほど彼は鈍感な感じがする。これはみくの思い込みでは無く、事実彼は周りの意見より悪く自分を見ている節があり、みくに好意が向けられている事に気付く素振りも勘違いする素振りも無い。流石に女として自信無くすよ...。

 

 

でもみくは決めたんだ。みくはトップアイドルの座を掴み取る。これは曲げないし、諦めない。多分挫折と言うか、躓く事があると思う。それでもみくは諦めない。応援してくれるファンがいる限り、想い人の事を思う限り、諦めない。応援してくれたから、勇気をくれたから。今度はみくの番。ちゃんと見てて欲しいなー...なんてね。

 

一途なネコチャンなみくに見蕩れてにゃん!

 

...あざといかな?

 

―――

 

「...」

 

みくの作ったオムライスを凝視し、長門チャンは固まった。チャン付なのは親しさを込めたからだよ。

 

『勇気をあげるにゃ(ハート)』

 

「...」

 

彼は驚きのあまり言葉が出ないのだろうな、軽く引いているのか、後者だったらみくのダメージは計り知れない。

 

「ど、どういう意向?」

 

軽く動揺している長門チャンは、重そうな口を開き聞いてきた。気まずいかな?

 

「ちょっと、メイド喫茶に近付けたにゃ」

 

ナナちゃんからの情報を元に計算された仕業...これには誰も勝てない。生暖かい目で見られたんじがするにゃ...、

 

「ま、なんだ...ありがとな、美味しく頂く」

 

その照れ顔も、みくを嬉しくさせて、みくも少しずつでも頑張ろうと思った。

 

 

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