この作品は、深夜テンションと作者の強い妄想で出来ている。そしてこの作品を、全国のみくにゃんPに捧げます。
いつも通りの物理の授業、俺はいつも通り授業が始まると同時に机に伏す。何言ってるか分からない奴の授業が飯食った後の午後の授業で聴けるかと聞かれた、俺は「無理だ」と即答出来る。そんなのはいつもの事だ。
ただ、いつもと違い俺を起こしてくれる隣の奴は、今日に限って居ない。いつも通り進んでいるのに、いつもと違って空白が生まれている。ただ俺は知っている。隣の奴は決して体調を崩したわけでは無いのだ。本当に彼女は苦労しているんだな...。
隣の奴...前川は、今日仕事が入りここには居ない。友人の活躍を聞くのはとても喜ばしい事だが、あっと言う間に過ぎていく学校生活を送る時間が、仕事で潰れてしまうというのは考えものだ。でも、そこまでしてやりたい事だと俺は分かっているから口を出せない。俺ができるのは、彼女がアイドルとしてトップに君臨する様見届けるだけだ。...支えてやれるのが一番だが、俺はアイドル事情も分から無いどころか、その資格が無い。俺はプロデューサーでは無いからな。俺らの今はイレギュラーでしか無い。こんなぼっち、高校卒業した頃には忘れられているさ。
なんだか、それは嫌だと思うあたり俺はぼっち出来ていないみたいだがな。
(前川...頑張ってるのかな?)
なんて考えていたら、物理の次の数Aまで終わっていた。完全にやらかしたか。
「長門、後で職員室に来いよ」
あっ...。
―――
「はぁ...」
数A教師にこっ酷く叱られてしまった。同じ話を何度も繰り返して、怒鳴り散らすと言うクソみたいなものだったが、正論も混じっていたのもあり言い返せなかった。殴ってくれれば文句の一つ二つ言えたのに、これだから口だけの小心者は...。いや、これは八つ当たりでしかねぇな。そんな事言ったら成績が真っ赤になっちまう。
「こってり絞られたんだってな長門」
「...近江だったか。馬鹿にしに来たのか?」
「まさかな。関わりすくねぇがそんなガキみてぇな事はしねぇよ。取り敢えずこれでも聞いて元気出しな」
差し出されたイヤホンを耳にすると、サビの部分なのか盛り上がっていた感じだった。「振り返らず前を向いて」か...。
「渋谷凛か...」
「お、しぶりん知ってるとは...長門って結構コアなドルオタ?」
...そうか、普通ならまだ名前が出てきたばっかのアイドルは知らないもんな...。
「ドルオタな訳じゃない。ただ知ってただけだ」
前川は自分が売れず周りが売れている事に嫉妬していた筈なのだが、それでも仲間の活躍は嬉しく思っているらしい。それってわざわざ寮飛び出さなくても解決した事じゃないのか...?と思っているのはここだけの話。
「ふーん...じゃあ知ってるか?前川がアイドルなのも」
「知ってるぞ、今日もそれ関係で学校来てねぇからな」
「仕事関係も知ってるのか...こりゃ一本取られたわ」
まあ、家出る前に言ってたからな...CDデビューが決まったって、今日リハーサルだって。平日にやるか?都合があるからって学生アイドルをわざわざ平日学校休ませてまで連れていくのか?おかしいと思うけど、前川は乗り気だったし...。
「みくにゃんもCDデビューするのかなぁ...」
「...シンデレラプロジェクトのメンバーは、遅かれ早かれCDデビューが決まっている。だからそのうち出るだろう」
「いや、そうなんだけどさ...ほら、前川ってクラス委員長としても頑張ってるからよ、絶対アイドルとしても頑張ってると思うんだわ。だから報われて欲しいなってクラスメイトとして、一ドルオタとして思うんだわ」
...驚いたな。人間醜さの塊で、何考えてるか全く分からねぇと思ってたんだが、こいつの言葉の重みに偽りなんてない。一人のオタクとして、クラスメイトとして応援しているだけの、ただのファンである姿だった。
「...ふっ、その言葉、本人に伝えたら喜ぶぞ?」
「いいや、俺は陰ながら応援したいんだよ」
...良いクラスメイトを持ったな、前川。
「で、隣の席の長門は前川の事どう思ってんの?」
「...どうって?」
「そりゃあ好きかどうかだろ。意外かもしれないがそういう話が好きでな」
「...友達として、な...」
当たり障り無く答えると、近江は不服そうに顔を顰めた。おい、そんなこの答えじゃ不満か...?
「いやいや、あんな可愛い子が隣の席だったら惚れるだろ、なんか色々気にかけられているみたいだしよお前」
「アイドルに恋とかダメだろ、アイドルは恋愛禁止なんだろ」
仮に好きだとしても、その定義があるから世間は許さない。それくらいこのドルオタなら分かるはずだ...。
『ま、前川!?急にどうした!?』
急に抱き着かれた事と、彼女の身体が柔らかかったなと邪な思考が突然脳を過ぎ、顔を抑える。ダメだ...彼女はアイドルなんだ...手を出しては...穢しては駄目なんだ...!
「...?346プロは恋愛禁止とか、そう言うのは無いぞ?」
「...は?」
...こいつは何を言ってるのか?恋愛可能?まさかな...。
「いや、楓さんとか三船さんとか、年齢的に見ると結婚していてもおかしくない人だって居るし、男がいるって理由で人気が落ちる程度のアイドルなんて二流とか思ってる様な所だ。ファンがどう感じるかは別だがな。まあ、ウサミン推しとかは寧ろ彼氏作ってくれー!って言ってるけどな」
言葉が出なかった。いや、彼女の事を好きかと聞かれると俺は「よく分からない」としか言えないのだが。今まで聞いてきたものとは違う価値観で、自分が田舎者すぎて流行りについていけて無いなと感じさられて、思考が止まった。
「お、おいしっかりしろよ...本当に知らねぇのか...」
「え、嘘...アイドルも恋愛するのか...」
衝撃的だった...いや、引退したアイドルが結婚だとかは分かるのだが、現役でも恋愛するのか...。
「そりゃそうだ。前川見れば分かるだろ。アイドルだって一人の人間なんだよ。しかも青春を謳歌している女の子だ。恋愛だってしたいに決まってるだろ。普通の俺だって卯月ちゃんみたいな彼女欲しいって思ってるんだからよ」
「...ッ!」
それもそうだ、なんて感じさせられた。彼女らも人間だ。俺はそれを見失っていたかもしれない...。でも...
「だったら尚更だ。前川は...俺が気を許せる数少ない人物だ。ただ俺には...地味で根暗なぼっちの俺には...高嶺の花過ぎる」
自分とは釣り合わない。街中で十人すれ違ったなら八人『地味』と答える様な見た目だ。残りの二人は無関心。
「...?派手では無いがお前別に顔は悪くないだろう。目は死んだ魚みたいだがな。ヒッキーか何かか?自分のこと卑下し過ぎてねぇか?」
「そんな事は無い。事実周りからの陰口は耐えない。こんな奴が前川と釣り合うはずが無い」
「いや陰口はあっても酷いことは言われてねぇし、原因自分じゃん。話せない訳じゃないのだから周りと会話しようぜ」
「やだ恥ずかしい」
「まさかとは思うが今まで根暗やってるのはそれが理由って訳じゃ無いだろうな!?」
すまねぇ、そのまさかなんだ。
「えぇ...オタク言われている陰キャ野郎がただの恥ずかしがり屋とかなんだよこのオチ...」
文句言うなよ、俺だって話せてるなら話しているよ。
「こう...なんて言うんだろうか...覚悟を決めた時とか、目上の人に対してだとか、話さないと行けない場面とかなら恥ずかしさも気にならないんだが、日常生活とかになると...家とか気の許せる友人とかだと、もっと砕けた感じで話せるんだ...」
「うわっ、ややこしい...」
文句言われたから話してるんだろうが。
「なんだ、それなら簡単だ。お前俺のいるグループ来ねぇか?安心しろ、俺の信用出来るやつで集まってるグループだからな、一人二人増えてもなんら問題はねぇよ」
「は?別にいいよ...一人が嫌なわけでは無いんだからよ...」
「そう言うなよ、ここで語り合った仲じゃねぇか」
「いや...しかし」
「あーもう面倒くせェなお前!俺と友達になれって言ってるの!」
その言葉を聞くと、過去の映像がフラッシュバックしてくる。
『うじうじしてるんじゃねぇよ!友達になろうぜ!そして一緒に電車乗ったりサッカーしたりかけっこやろうぜ!』
一緒に東京に出てきた親友も、似たような感じだったな...俺は昔から変わんねぇのか...。
「...ははっ、分かったよ。友達になろうぜ」
『...友達?よく分かんないけど......いい響きだね...』
―――
「えぇ!?友達できたの!?長門チャンに!?」
「お前はその発言が失礼だと考えないのか?」
驚いた。恥ずかしがり屋で、一人でいるのがかっこいいと思っていそうなみくの好みな顔をしているぼっちな男の子に友達が出来たなんて、どう言う風の吹き回しなのかな?熱があるのかな?なんて思うみくは自分で考えておきながら些か失礼だななんて思う。でもそれくらい衝撃的だった。ついにCDデビューが決まり、夢への一歩を掴み取ったと思ったら衝撃的なニュースが入るもんだから、みくの思考は爆発寸前だった。それは語尾の「にゃ」を忘れるほどの衝撃だった。なんだったらこのまま化け猫から完全に人間になるくらいの衝撃だ。
「さっきか失礼なこと考えるんじゃありません!明日のご飯抜きにするよ!」
「それだけは勘弁して欲しいにゃ!?」
「なら魚を入れる」
「もっと酷いにゃ!?」
夢への一歩を掴んだみくに酷いことをしないで欲しいにゃ!
「もう...」
「それは俺の台詞だと思うのだが、もういいや...。それよりもだ」
「?どうしたの」
「...CDデビュー、おめでとう」
真っ直ぐ、真剣に視線を送ってきたと思ったら、急に穏やかな笑みを浮かべて祝の言葉を発するのだから、この子は本当にあざといと思うけど、ものすごく嬉しい...。
「...ありがとう、長門チャン」
実を言うと彼に伝えたい言葉がある。でもこれはまだ残しておきたい。これを言うには...まだ早いから。でも、絶対に言う。言わないとこの鈍感で、自信が無い男の子には伝わんないから。
投稿している作品全体を見て久し振りに4000文字を越えた気がします。
軽くキャラ説明
近江
長門のクラスメイトでドルオタ。好きなアイドルは三船美優。