オタクの俺が転生したら、エロ漫画の竿役になっていたんだが?   作:トゥワンネ

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絢瀬絵里②③

目の前の医者、絢瀬絵里からは敵意も悪意も感じない。これぞ絵里ちゃん。かつてアニメの中で見たような、穏やかな目をしている。

 

「今日はどうしたのかしら?」

「どうしたもこうしたもありませんよ。聞いてください、お医者さん。突然変な女に拉致られて監禁され、終いにはこんな傷まで負っちゃったんです、ほら。」

 

嫌味な口調で非難の目を向け、俺は医者に自分の肩をこれ見よがしに見せつけた。

 

「あら?何ともなっていないようだけれど…。」

 

いや、何ともなっていないようだけれど…じゃねえわ。じゃあなんで俺はここに来たんだよ。舐めてんのかクソアマ。

 

そう毒づきかけたその瞬間、俺は気付いた。今までずっと存在を主張し続けていた焦げるような痛みが、さっぱり消えてなくなっていた。驚きのあまり自分の肩を掴む。俺の肩は、火傷なんてしていなかった。

 

「いいや、違う!確かに俺の肩は火傷してたぞ!アンタも見ただろ!?」

「い、いえ…私が見た限り、そんなものは…」

 

おいおい勘弁してくれ、なんで俺がドン引きされなきゃならんのだ。キチガイと話してるのは俺じゃなくてアンタの方みたいじゃねえか…

 

「ま、まあいいわ。もしあなたが肩に異変を感じているのなら、レントゲンを取ってみましょう。骨から来ている痛みかもしれないわ。」

 

いや、何も言えねえ。だってもう痛みないもん。どうすりゃいいんだこの状況。金もねえんだぞ?これじゃ俺は単なる冷やかしじゃねえか。迷惑ここに極まれりって感じだ。

 

とにかく言われた通り、俺は傍らのベッドに寝転がる。絢瀬絵里は、横たわる俺の隣で機械の電源を入れた。

 

刹那。

 

ガッッッチャーーーーーーン!!!!!!!

 

壁から爆音が鳴り響き、2人は一斉に壁を見た。

 

えぇ…。見ると、フェラーリが思いっきり壁を突き抜け停止していた。なんだそれ。アクセルとブレーキ踏み間違えたって、ここまでぶち抜けることはねえだろ…

 

それだけで話は終わらない。フェラーリの突っ込んだ壁の棚には、様々な薬がコレクションのように並べられていた。その中の1つ、最も怪しそうな紫の液体の入ったグラスが宙を舞い、遠心力で蓋が取れ、中身の液が飛び出した。液体は、放物線を華麗に描き、驚いている絵里ちゃんの、半開きの口に飛び込んだ。

 

いや、超天文学的確率だろ。そうか、やっと気付いた。もう第2エンドは始まっていたんだ。今回の作者さんも、きっかけは練らないタイプらしい。

 

となると、今の薬は間違いなく媚薬に似た何かだろう。しかもめっちゃ強力なやつ。

 

うずくまる絵里ちゃん、可愛いなあ。さあ俺はベッドに寝てるんだ、いつでも襲ってこいよ、グッバイ童貞、フォーエバー童貞。結局前世はフォーエバー童貞だったなあ、どうでもいいけど。

 

そのとき。

 

「本当にすみません!!大丈夫ですか!?お怪我は…」

 

いや、嘘だろ?フェラーリの運転手が車から降りて、こっちに向かってきた。これはまさか…

 

タイミングを見計らったかのように、絢瀬絵里はすっくと立ち上がり、一瞬の動きで運転手を押し倒し、着ていたポロシャツを剥ぎ取った。

 

「いやああああああ!!!!!!!」

 

叫んだのは俺だ。いや絶対無理だから。NTRじゃないけど、NTRみたいなもんだ。俺が乱入して、3Pするのだって嫌だよ。こんな可愛い子とほかの男とがヤってんの、見せつけられるなんて絶対に嫌だ。こんなシチュ、地雷なんてレベルじゃねえ。例えるなら…いや、不謹慎だからやめとこう。

 

とにかく俺は一心不乱に絢瀬絵里を運転手の男から引き剥がした。火事場の馬鹿力で彼女をベッドに放り投げ、俺は運転手を睨む。

 

運転手は気絶していた。どうやら、押し倒されたときに頭を打ってしまったらしい。当然の報いだ、ざまあみろ。竿は俺だけで十分なんだよッ!

 

対して絢瀬絵里を見た。彼女は、先ほどの獰猛な攻勢とはうって変わって、ぐっすり眠りこけていた。試しに揺すってみたが、全く起きる気配を見せない。うお、胸マジで柔らけえ…

 

はあ、わかったぞ。

 

俺は横たわる2人を尻目に診察室を駆け出て、病院の裏に回った。この辺りで車が突っ込んだはずだが。

 

案の定、壁は外傷一つ負っていなかった。

 

これは俺の推測だが、この不可解な一連の出来事は、俺が絢瀬絵里とセックスをすることで終わる。

 

逆に言えば、セックスしないと出られない部屋に閉じ込められた、ってことだ。いやいや、こんなにハイスケールだったとは。恐るべし。

 

もう一度戻ってみようかとも思ったが、その必要はないだろう。窓の外から医院の中を覗くと、ナースや患者の姿が確認できた。通常運転をしていることだろう。

 

***

 

しかし、腹が減った。物理法則は平気で無視するくせに、腹が減るとかいう概念はあるのか。変な世界だな。

 

仕方がないので、近くで飯を調達することにした。食い逃げになってしまうが、なんとかなるさの精神だ。

 

すぐ近くに、蕎麦屋があった。『芹江綾』。誰だよ、創業者か?センスねえ名前つけんじゃねえ。

 

看板以外は普通のようだったので、立ち寄ってみた。

 

中には人っ子一人いなかった。おっかしいなぁ、確かに営業中の文字が見えるんだが。食い逃げをする分際で、一丁前に店員を呼ぶ。反応はない。仕方がないので、奥に立ち入る。

 

厨房の奥に小部屋を発見。和室のようだ。誰かいるのかな?勝手に入るのも気が引けるところだが、靴を脱いで中を覗いた。

 

***

 

見なかったことにした。いや、正確には、見なかったことにしたかった。俺は本意に反して、和室に入った。

 

俺の目の前では絢瀬絵里が縛られ、床に寝かされていた。特に悪いシチュエーションではないようだ。だが、それよりも俺の目は、明らかにこの場に相応しくない、蕎麦粉や水といった材料や、綿棒やまな板、タオルといった蕎麦の調理器具に釘付けになった。

 

え、なに?俺はこの状況下で蕎麦打たなきゃいけないの?なんだよそれ…これが第3エンド?

 

とりあえず、蕎麦を打てというならば蕎麦を打つ。適当に水と蕎麦粉を合わせてこねてみた。おお、意外と楽しいぞ、これ。

 

目の前では、縛られた絢瀬絵里が踠いていた。だが、そんなことは気にならない。俺は職人になりきり、ひたすらこねた。気が付けば綺麗な蕎麦生地が完成していた。

 

ここでふと、思い出す。そういえばアレだ、以前AVでこんなシチュのものを見た気がする。確かそのAVだと、生地をこね終わった職人は、目の前の女優に蕎麦粉をかけて、女優の身体をこね始めるのだった。

 

その時感じたのは、怒りだった。食い物は、必ずそれを作った人がいる。どんな食い物でも、それを作った人は丹精込めて育てたり、加工したりしたはずだ。それを無駄にするようなことが許されるのか?食い物の命を捨て、作った人の気持ちを無下にすることが許されるのか?否、そんなことが許されるはずがない。

 

俺は自分がこねた蕎麦生地を丸め、小さくして左手に持った。続けて立ち上がり、キザっぽく言ってみた。

 

「絢瀬絵里、また次のエンドで会おう。」

 

彼女はこちらに一瞥もくれず、静かに寝そべっていた。俺は蕎麦屋を出た。

 

またこの世界から脱却することは出来なかった。まあ別に、一生ここで過ごすのも一興かもしれないが。そんなことを思いながら、俺は丸めた蕎麦生地を齧った。

 

たかが素人のこねた蕎麦生地である。だが、空腹、自分で作った達成感。こんな素晴らしい調味料はあるまい。一流シェフが振る舞う高級イタリアンよりも、何倍も美味い。俺はそう感じた。

 

 

 

 

 

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