現死神~鈴木悟~   作:ザルヴォ

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導入となります。


鈴木悟視点1

「・・・ん?」

 

 目を開けるとそこは”草原”だった。

 

 視線を下に向けると、そこには見慣れた骨の体、黒いローブ、手には完成してから初めて持ち出したギルド武器〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉が握られている。

 

 先程までナザリック大地下墳墓の玉座の間で静かに終わりを待っていた筈だが、いったいこれはどうなっているのだろうか?

 サービス終了が延長になったのならこの体はまだ玉座に座っているはずだ。

 順次サーバーを落としていて、ナザリック大地下墳墓のデータが消された結果自分が草原に放り出されたのならばギルド武器も消滅しているはずだ。

 

「・・・まさか」

 

 サービスが終了したはずなのに残っているアバター。見渡す限り広がる草原。これはもう間違いない。

 

「ユグドラシル2が始まったんだ!」

 

 糞運営だと思っていたが最後の最後にこんなサプライズを仕込んでいるとは思いもしなかった。『やっほーい!』とはしゃいでいたがふと疑問が浮かんできた。

 

「そうだ、魔法とかどうなってんだろ?」

 

 新しくサービスが始まったなら様々な部分で仕様が変更されている可能性が高い。そう思いコンソールを開こうとしたが――――

 

「ん?どうやって開くんだ?」

 

 今までと同じように操作しようとしたがコンソールが開く気配は無い。恐らくこれも仕様変更されたのだろう。色々と試していると突然頭の中にイメージが浮かんでくる。自分のMP、使用できる魔法、効果範囲、リキャストタイムについての情報が流れ込んでくる。

 困惑しながら遠くに転がっている岩に向かって指を突きつけ、呪文を詠唱する。

 

火球(ファイヤーボール)

 

 突きつけた指の先で炎の玉が膨れ上がり、打ち出される。火球はそのまま岩に着弾して燃え上がる。

 その様子を愕然としながら眺めていると、ふつふつと高揚感が巻き上がってくる。

 

「すげー!どうやってんのかしらないけど、すげー!!」

 

 何をどうしたらコンソール無しで操作できるようになるのかは無学な鈴木悟には理解できない。VRはここまで進化したのかと感動しながら次はスキルを試してみる。

 

 〈下位アンデッド作成 スケルトン〉

 

 意識を集中させると同時に瞬時に、周りの空中から沸き立つように骨格標本のようなモンスターが出現する。

 

「よし!え~っと・・これはどうやって動かすのかな?」

 

 脳内で動かそうとしてみるが、スケルトンはピクリとも動かない。悩んでいると頭から何か線のような物が伸びている感じがした。その線は目の前のスケルトンに繋がっているような感覚がある。まるでラジコンみたいだなと思いながら命令を下してみる。――歩け。

 するとスケルトンがガチャガチャと歩き出す。

 

「おー、できたできた。にしてもコンソールを廃止するとか思い切ったことするな~」

 

 困惑したが、コンソールから魔法を選択してカーソルを移動させなくていい分発動が早くなっている気がする。

 そのまま魔法やスキルを次々試していく。

 

 

 

   ◆

 

 

 

 「・・・ッハ!?」

 

 つい熱中してしまった。気が付くと周囲は燃え尽きたり凍り付いたりと荒れ放題になっていた。遠くではアンデットの群れが一糸乱れぬ動きでコサックダンスを踊っている。

 

「いかんいかん明日、じゃない今日は四時起きだというのに」

 

 はしゃぎすぎて時間を忘れてしまった。今何時かわからないが、流石に今すぐログアウトして寝ないとまずい。しかしひとつ問題があった。

 

「ログアウト・・・どうやるんだろ?」

 

 四苦八苦しながら色々と試してみるが、ログアウトできる気配はない。しだいに焦燥感が生まれてくるが、どうしようもない。

 

「仕方ない。寝落ちしかないか」

 

VRMMOではユーザーの精神状態が一定以上に高まったり、意識が失われたりすると自動的にログアウトするようになっている。プレイ中に寝てしまう・・いわゆる寝落ちも例外ではない。ユグドラシルのためにちょっと高い椅子を買っているが、ベッド代わりになるような物ではない。

―――起きたら体バキバキになってるな。

 

 周囲は大惨事になっているので、少し離れて無事な草むらに寝転ぶ。柔らかな草の感触とどこか青臭い匂いが漂ってくる。――匂い?

 電脳法によって味覚と嗅覚は仮想世界では完全に削除されている。触覚はあるがそれも制限されたものであり、こんな精密な感触はしないはずだ。

 それにナノマシン補給アラームも鳴っていない。最後に水を差されないよう多めに接種してきたとはいえ、さすがにもう切れているだろう。

 

 慌てて起き上がり周囲を見渡す。そこには先ほどの惨状が広がっている。――おかしい。自然オブジェクトは破壊されてもすぐに元に戻るはず。しかしそれはいつまでたっても戻る気配は無い。となると考えられる可能性はひとつだ。

 

「夢か」

 

 きっとこれはユグドラシルを惜しむ気持ちが生み出した夢なのだろう。それならコンソール無しで魔法が使えたり、ログアウトが出来ないのも説明がつく。

 ――なら目が覚めるまでこの世界を楽もう。

 

 そう思い再び草むらに寝転ぶと、柔らかな感触と降り注ぐ太陽の光を楽しむのだった。




「ログアウトされない、魔法が使える、五感がある。・・・夢だな!」

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