現死神~鈴木悟~   作:ザルヴォ

6 / 13
エンリとの出会いまで


鈴木悟視点2

「うう、夜の森怖いよぉ・・」

 

 あれからゴロゴロしているのにも飽きて、歩き回っていると森を発見した。ワクワクしながら探索しようと思ったのが運の尽きだ。どんどん森の中に入っていく内に日が暮れていった。それに気づいて急いで森を出ようとしたが、何も考えずに歩いてきたので今自分がどこのいるのかもわからなかった。そうしてる内にあっという間に真っ暗になってしまった。

 アンデッドのスキルとして〈闇視(ダークヴィジョン)〉があるので視界は開かれているのだが、そういう問題ではない。夜の森に一人きりというシチュエーション自体が怖いのだ。

 

「たっちさん・・ペロロンさん・・助けて・・・」

 

 そんな泣き言を言いながら夜の森を彷徨い歩く骸骨。傍から見ればこちらの方がよっぽど怖いが、彼にそんな事を気にする余裕はない。雰囲気が怖いと思うのはもちろんだが、もう一つ悟を追い詰める物があった。

 

 ――ぶいいいいいいいいいい!!

 

「ひぃ!?」

 

 そう、時節飛んでくる羽虫。張り詰めた緊張感の中、突然飛んでくるそれはどんどん悟を追い詰めていく。

 

「ううう・・・・あ、そうだ!〈絶望のオーラ〉使えば寄ってこないかも」

 

 エフェクトが鬱陶しかったので、〈常時発動型特殊技術(パッシブスキル)〉はすべて切っていたが、この状況なら使うべきだ。すがる思いで〈絶望のオーラⅠ〉を発動する。悟の周囲に暗黒のオーラが広がっていき――――

 

 ――――ザワザワザワザワザワ――――

 

 その瞬間、周囲にいたすべての蟲がオーラにあてられて蠢き出した。

 

「キャアアアア!!」

 

 

 

   ◆

 

 

 

「・・・・・・あ」

 

 気づくと朝になっていた。アンデッドの特性で睡眠や気絶は無効となるが、どうやらあまりの事態に放心状態になっていたようだ。

 

「・・・もう二度と〈絶望のオーラ〉使わない」

 

 そう誓いながらスキルを解除する。

 

「まだ夢から覚めないのかなぁ」

 

 そんな事を言いながらも、ここまできたら流石に実感する。これは夢ではなく現実なのだと。というより今までリアルだと思っていた世界こそが夢だったのかもしれない。

 

「タブラさんが言ってたな、たしか胡蝶の夢だっけ」

 

 蝶になって飛んでる夢を見た人間が、自分が夢の中で蝶になったのか、それとも夢の中で蝶が自分になったのか、自分と蝶との見定めがつかなくなったと言う話だ。

 しかし理由がどうであろうと関係ない。悟にとっての〈現実(リアル)〉の世界は環境汚染が進み、保護マスク無しでは外を出歩けない程だった。家族も恋人もいない。かけがえのない友人がいたユグドラシルもサービスが終了してしまった。あちらの世界に未練は無い。むしろブルー・プラネットが愛した自然が広がるこの世界のほうがよほど良いのではないだろうか。ただし――――

 

「人を探そう。文明・・あるよね?」

 

 もう野宿はこりごりだ。

 

 

 

   ◆

 

 

 

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)生命感知(ディテクト・ライフ)

 

 効果範囲を拡大させた魔法で人間大の生命を探知する。するとそう遠くない場所に四つの生命を確認できた。

 

遠隔視(リモート・ビューイング)

 

 その場所に魔法で作成された感覚器官が飛ぶ。人間だと思って近づいたら猛獣でしたなんて事態は勘弁したい。

 

「これは、演劇・・じゃないよな?」

 

 そこには少女がより小さな女の子を連れて騎士達から逃げる光景があった。二人の表情は恐怖で溢れており、とても演技とは思えない。

 

「助けないと・・でも・・・」

 

 ちらりと背後に視線を向けると、鎧に身を包み、剣を握る騎士の姿が目に入る。

 

 ――――怖い。

 

 悟は今まで暴力とは無縁の生活を送ってきた。昨日までの、これが夢だと思っていた時ならともかく。ここが現実だと認識した悟にとって本物の剣を持った人間は恐怖しか感じない。『自分には関係ない』『見捨てるべきだ』そんな汚い感情が溢れ出てくる。そして少女が背中を切られ、地面に倒れこむ。その瞬間たっち・みーに助けられた時の事が思い出される。

 

『――――誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

 

「ッ!!」

 

 あれはゲームの中の出来事であった。しかし、実際に鈴木悟は救われたのだ。そんな自分が同じように襲われている人を見捨てることなんて出来ない。

 覚悟を決めて魔法を発動する。

 

転移門(ゲート)

 

 視界が変わり、先ほど見ていた場所に出る。目の前には蹲る二人の少女と、その背後には二人の騎士が立っている。本当は魔法の一つでも打ってやろうと思っていたが、実際に剣を振り上げた騎士を目の当りにするとそんな気持ちは儚く霧散してしまった。

 もし騎士達がそのままこちらに迫ってきたら、そのまま回れ右して逃げていたかもしれない。幸い騎士達は突然現れた悟に困惑してるのか固まっている。

 そのまま二人の少女を抱えてまだ残ったままの〈転移門(ゲート)〉に逃げ込む。元の場所に戻り、周囲に騎士が存在しないことを確認すると安堵のため息を吐きながら二人をゆっくり地面におろす。

 

「え、えっと・・・大丈夫ですか?多分もう安全だと思うんですけど・・・あっ・・・け、怪我してるんでしたね!?えっとポーション・・ポーション・・・。」

 

 少女の背中に痛々しく刻まれた傷跡が目に入り、すぐにアイテムボックスを開き

無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)〉からポーションを探す。アンデッドである自分には必要ないため、探すのに少し時間がかかってしまったが、〈下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポ-ション)〉を取り出す。

 

「っ・・血!?」

 

「だ、大丈夫です・・・ただのポーションですから・・・。えー、飲めますか?」

 

 少女は何も言わずに固まっている。ここで悟は対応を失敗したことに気づいた。突然あらわれたおっさん―――自分ではまだ若いと思っているが、少女からしたら立派なおっさんだろう―――がおもむろに薬を取り出して『飲め』と言っているのだ。怪しまれても仕方ないが、傷口は痛々しく血を流している。

 

「無理みたいですね・・・えっと・・すいません・・失礼します!」

 

「っ・・ひ!?」

 

 恐怖に顔を歪ませる少女に罪悪感を覚えたが『これは治療なんだ!しかたないことなんだ!』と自分を納得させてポーションを振りかける。

 

「うそ・・・」

 

 どうやらちゃんと治ったようだ。〈下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポ-ション)〉は五十ポイントしかHPが回復しないので、全快するか不安だったのだが一安心だ。

 

「よ、よかった~。あー・・・これでもうあなたたちは助かった・・・と思います」

 

 先ほどの騎士達が追ってくる様子はない。このままじっとしていれば見つかることもないだろう。

 

「死・・・神・・様・・・・」

 

「ぅん?」

 

 少女が何かつぶやいたようだが、良く聞こえなかった。

 

「あ・・・あの!あなたの・・いえ!あなた様のお名前は!?なんとおっしゃるのでしょうか!?」

 

 そういえばまだ自己紹介をしていなかったな。騎士に襲われていたら突然名前も知らないおっさんに攫われて、挙句に得体のしれない赤い液体をかけられたのだ。・・・これ事案じゃないよな?

 

「え?名前?ああ、はい・・・私”鈴木悟”といいます。」

 




夜の森って怖いよね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。