エンリから村の場所を聞くと、まず
「サトル様!さっきのって魔法?文字がこう・・・ぶわーってなったすごいやつ!」
返事を待つ間手持無沙汰になったのかネムそんな質問をしてくる。慌てたようにエンリが注意しながらこちらの様子を窺ってくるが、こちらとしては少女に敬られると恐縮してしまう。止めるどころかできればエンリにももっとフランクに接してほしい位だが、先ほどからの様子をみるに難しいだろう。
「はは、大丈夫ですよ。子供は元気なのが一番ですから。・・・さっきのは超位魔法のひとつで
〈
「・・・見たことないです」
さらに話を聞くと、超位魔法どころかそのあとの強化魔法も見たことが無いそうだ。
(あの時使った魔法は特殊なやつ以外、かなりメジャーなやつだったんだけどなあ)
特に〈
(もしくは俺みたいに一系統に特化してるのかもしれないな)
通常習得可能な魔法の数は三百であり、課金アイテムによって四百まで増やせる。魔法職以外から見ると十分に思えるかもしれないが、実際にはかなり少ない。
確かに必要な魔法だけを取得できるならば十分であろうが、強力な魔法の習得には前提条件がある場合が多い。
例えば第七位階魔法に〈
なので一つの系統を極めようと特化するなら他の魔法は切り捨てざるを得ない。悟は死霊系の魔法に特化しているが、課金アイテムに加えて特別なイベントをこなすことによって七百以上の魔法を習得している。そのためある程度汎用性の高い魔法も使用可能なのである。
「まあ人によって習得している魔法は様々ですから。きっと私とは方向性が違うんでしょう。・・・ぷにっと萌えさんがいればもっとすごい強化ができましたよ」
かつてアインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれた男を思い起こす。思い出を懐かしんでいると、エンリが小さく首を傾げているのが目に入る。
「えっと、ぷにっと萌えさんはアインズ・ウール・ゴウンの一人で味方の強化が得意だったんです。」
「アインズ・ウール・ゴウン?」
「アインズ・ウール・ゴウンはギルド―――あ~えっと私の仲間達の事です。私を含め四十一人で構成された集団をそう呼んでいたんですよ。・・・今はもう無くなってしまったんですが」
―――そう、もう過去の話だ。
実験中にギルド拠点からアイテムを引き出せる課金アイテムを使ってみたが、何も起こらなかった。他のアイテムは正常に機能したのでこれだけ効果が無くなったとは考えにくい。きっとあの時こちらに来たのは”モモンガ”及び所持していたアイテムだけなのだろう。
ふと視線をギルド武器〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉に移す。ギルド拠点が無いのになぜこれが消えなかったのかはわからないが、今はこれと〈リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉だけがギルド〈アインズ・ウール・ゴウン〉が存在した証だ。
(いまや俺自身が”アインズ・ウール・ゴウン”そのものである。・・・なんてね)
この誇りある名を一人で背負う覚悟なんてない。
かつてギルド拠点を獲得した時の冒険を思い起こす。クラン〈
当時二十七人だったギルドメンバー全員の力を持ってそれを完遂し、その報酬としてギルド拠点”ナザリック地下大墳墓”とワールドアイテムを手に入れた。今なお色あせない輝かしい思い出だ。
「サトル様のお仲間と言うことはきっとすばらしい方々だったんでしょうね」
―――ぐるん
その言葉を聞いた瞬間、エンリの顔が目の前にあった。その顔は軽く驚いているように見えるが、今の悟にそんな事を気にする余裕はない。
「そうなんです!ほんと私にはもったいないぐらいみんないい人達だったんです!――――」
◆
「あ・・・」
いつのまにか語っていた。
「・・・すいません。仲間達の事を話すのは久しぶりだったのでつい」
「い、いえ・・・大丈夫です」
(やばい、絶対ドン引きしてる。うわー!こんな少女に語るおっさんとかきもいよ!しかも全部身内ネタじゃん!)
以前ぶくぶく茶釜さんに『あいてが興味ない事を長々語るのってキモイよ?モモンガお兄ちゃん』と注意されてから気を付けていたのだが、ユグドラシルにて長い孤独を味わい、この世界で人恋しくなって会話に飢えていたのだ。それでも相手が女性、しかもまだ少女ということもあって緊張していたのだが、仲間を褒められて枷が外れてしまった。
「アインズ・ウール・ゴウンは昔はとても有名だったんですけど。・・・まあしかたないことですね。忘れ去られるのは寂しいですが」
いきなり黙るのも気まずいので、急いで会話を打ち切る。互いに沈黙する中、
「どうやら森の中にはぐれた騎士がいたようです」
数は二人。おそらくエンリ達を襲った騎士であろう。探知防御を使用した後、
〈
『あー、えっと、まずは攻撃せず様子を見てもらえますか?その・・・防御もしないで』
『御心のままに』
無防備に敵に攻撃されろという理不尽な命令にも関わらず、
騎士達は突然現れた天使を見て驚いた様子だったが、そのうち顔を見合わせると、剣を抜き天使に切りかかった。しかし、どれだけ剣を振るおうと傷一つ付かない。
(よし、スキルは通用するみたいだな。防御力も十分みたいだ)
「もういいかな」
次は攻撃能力を確かめようと槍を振るうように指示を出す。
槍を振るった瞬間、騎士達の体が炎に包まれる。騎士達は一瞬呆然としていたが、慌てて炎を消そうとする。踊り狂うかのように悶え、必死に地面に体をこすりつけるが炎が消える様子はない。次第に動きが鈍っていき、やがて完全に動きが止まる。炎が消えるとそこには人間大の黒い灰が二つ転がっているだけであった。
(うわ・・)
騎士が死んだことについてはあまり思うことはない。自分自身で手を下したわけではないのも大きいが、あいつらは女子供を追い回して殺そうとしたのだ。あまり罪悪感は感じない。
――――しかし
(グロい)
悟は以前ブラクラを踏んだ時のことを思い出した。怪しげなURLを好奇心からクリックした瞬間画面いっぱいにグロ画像が広がる。絶叫しながら消そうとしたが、どんどん新しい画像が表示されて切りがなかった。泣く泣く強制シャットダウンして解決させたが、今でもトラウマになっている。
「サトル様。あれの他は森に危険はございません」
六体の
「ありがとうございます。えっと・・・槍の炎って消せます・・か?」
「ご命令とあらば」
「じゃあお願いします。あ、あと村では村人の救出を優先してください。騎士達は・・・その・・あまりやりすぎないように」
「御心のままに」
こちらを殺そうとする相手なのだから殺すなとは言わない。しかし何度も惨殺死体なんて見たら発狂しかねない。
◆
村の救出はあっけないほど簡単に終わった。数に圧倒的な差があったが、
「あの、亡くなった方を広場に集めてもらえますか」
危険が無いことを確認した後、
さっそく〈
(ちゃんと蘇生できるかわかんないからな。他のアイテムはちゃんと使えたから大丈夫だと思うけど)
他のアイテムならともかくこれは生き死に関わるのだ、失敗しましたでは済まされない。
そして騎士の死体に近づけると急に死体が光り輝く―――と同時にまるで焼け尽きたかのように真っ白な灰と化した。
(え、嘘、失敗?マジで!?)
初回から蘇生失敗した事に内心焦りながら次々と他の死体に試していく。中には蘇生に成功した者もいたが、ほとんどが灰になってしまった。
(成功率一割弱・・・こんなんじゃとても使えないぞ)
実はこの惨状には理由がある。
ただし、一人目で首尾よく成功していた場合そのまま村人の蘇生を行っていただろうから、不幸中の幸いだったのかもしれない。
(高位の蘇生が出来るワンドもあるけど・・・あれは全員分はないからなあ。くそ、こんなことならもっとアイテムを持ち出しておくんだった)
ギルドの維持費用を稼いでいた時はPKを警戒してあまりアイテムを持ち歩いていなかった。最終日にはせっかくだからと最高位の装備は整えたが、消費アイテムはそのままだ。
(村人全員を生き返らせるとなると、あとはこれ位か)
右手の人差し指に嵌めている指輪に目をやると、〈
〈
(・・・これゲットするのにボーナス全部ガチャに突っ込んだんだよな)
ある意味愚か者の証明でもある指輪を見ながら悩んでいるとエンリとネムの姿が目に留まった。両親の遺体の前で泣き崩れている。その姿が鈴木悟の過去と重なる。
自分を小学校に行かせるために無理して働いた母。過労状態だったのに最後まで自分のために好物を作ろうとしてくれていた。仲間であるウルベルトも同様に両親を亡くしていた。
『俺の親父もお袋もろくでもない死に方だよ。―――負け組は簡単に切り捨てられる』
ある意味この村人達も負け組なのだろう。勝手な都合で生き死にを決められ、抗うこともできず死んでいった。あの時は無力であったが、今は違う。
(ええい、ボーナスがなんだ!金で命が買えるなら安いもんだ!!)
「〈
別に叫ばなくても効果は発揮されるが、決意を言葉にして吐き出す。指輪の効果が発揮された瞬間、頭ではなく感覚で理解した。この世界において〈
(なんだこれ・・選択肢を用意する運営がいないから?)
疑問を感じるがそんな事どうでもいい。今はただ願う。
(エンリ達の両親を。殺された村人すべてを完全蘇生させろ!)
そして願いが聞き届けられる。
◆
悟の目の前には再開を喜ぶ村人たちの姿があった。
(ボーナスの1/3って事は何万・・・いかん、考えるな)
もともと指輪の効果は三回使用する覚悟だったのだ。それが一回で済み、なおかつこの世界における〈
視線の先には抱き合うエンリとネム、両親達の姿がある。これを見れただけでも十分だ。
しかし、そんな空気を壊すように村長が声を上げる。
「た、大変だ。馬に乗った戦士の者が近づいている!」
次回で一番やりたかった????と???を??せる事ができそうです。