現死神~鈴木悟~   作:ザルヴォ

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やっとガゼフまで来ました。
次回、次々回位でカルネ村編終了かな?


戦士長

 村長からの報告を聞き再び〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉を起動すると、そこには数体の騎兵の姿が見えた。最初は敵の増援が来たのかと思ったが違和感がある。

 先ほどの騎士達は完全に統一した重装備であったが、この騎兵達は各自バラバラの装備をしている。全身鎧は共通であるが、一部だけ皮鎧だったり、鉄の装甲板を外し鎖帷子を露出させたりと個性が窺える。

 

(さっきのやつらとは違うみたいだな)

 

 少なくとも野盗ではないだろう。村長達も不安そうにしつつもまた襲われるとは考えていないようだ。

 

「えっと、村を襲った騎士とは違うみたいなので話を聞こうと思うんですけど。・・・その、村長さん一緒にきてもらえないでしょうか?」

 

「わ、わかりました。ただ、その・・・申し訳ないのですが、サトル様は体を隠した方がよろしいかと」

 

「体?」

 

 なんでも通常アンデッドは生者を憎み襲う存在らしい。さらにアンデッドが集まるとより強力なアンデッドが生まれるため、発見次第討伐するのが基本であり、悟がそのまま出向くと無用な混乱を招く恐れがある。

と何度も頭を下げながら村長に説明され、変装するための装備を探す。

 

 とりあえずローブの前を閉めて肋骨が見えないようにし、手にはガントレットをはめる。顔をどう隠すか悩んだ末、泣いているような、怒っているような形容しがたい外見をした”嫉妬マスク”をかぶる。他に顔を隠せそうなアイテムが無かったので仕方ないが、複雑な気分だ。

 〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉で全身鎧でも作れば体は隠せるが、その状態では使用できる魔法に大きな制限が掛かる。さらに今装備してる神話級(ゴッズ)装備と比べて防御力は大幅に低下するため、用心のためにもそれはできない。

 

 

 護衛の門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)と村長と共に村の入り口に向かうと一行がちょうど到着した頃だった。その中から馬に乗ったまま1人の男が進み出る。

 それは屈強な体躯の男であり、力強さに満ちている。年齢は悟より少し上、三十前後だろう。歴戦の戦士を思わせる顔は引き締まっている。

 

(かっこいい)

 

 映画やドラマでも同じような男を見た事があるが、比べ物にならないほどの迫力を感じる。彼らはあくまで俳優であり画面の中の存在であった。それに対して目の前の男は今を生きる本物の”漢”なのだろう。

 

 男の視線は村長を軽く流し、門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)に視線が向く。門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)がいつでも二人を守れるように構えているのを見て警戒しているようだが、動かないのを確認すると、射抜くような鋭い視線を悟に送る。

 

 さっきの騎士達とは比べ物にならないその眼力は圧力すら感じられ、そんな視線に射抜かれて悟は指一本動かせなくなる。目を逸らしたくても逸らせない。もし人間のままだったら漏らしていたかもしれない。悟がアンデッドの体に感謝している間も男の視線はまっすぐこちらを見据えている。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」

 

 見た目に違わぬ重々しい声が響く。

 

「王国戦士長・・・」

 

「し、知り合いですか?」

 

 村長の声で金縛りが解けた悟は、声が震えないように精一杯努力しながら村長にささやく。

 

「話でしか聞いたことが無いのですが、王国の御前試合に勝利した最も腕の立つ人間であり、王国の王直属の精鋭兵士達を指揮する人物だとか」

 

 そんな会話が聞こえたのかガゼフの視線が逸れ、村長に向かう。

 

「あなたが村長だな、そして横にいる者は一体誰か教えてもらいたい」

 

「は、はい。私がカルネ村の村長です。こちらはスズキサトル様。村が騎士に襲われていた所を助けていただいた・・その・・・魔法詠唱者(マジックキャスター)の方です」

 

 ちらりと村長がこちらを窺う。ガゼフの視線が再びこちらに向くのを見て、慌てて自己紹介する。

 

「た、ただいま紹介に預かりました鈴木悟です。お会いできて光栄です。今後ともよろしくお願いします」

 

 緊張のあまり営業職時代の話し方が出てしまったが、幸い不審には思われなかったようだ。ガゼフはそれを聞くと馬から飛び降り、重々しく頭を下げた。

 

「村を救っていただき感謝の言葉も無い」

 

「え、あ、いえ!とんでもありません。当たり前の事をしただけですから。あ、頭をお上げください!」

 

 思ってもいなかった事態に混乱する。詳しくは知らないが王国戦士長という、おそらく高い地位にある人間がただの一般市民である自分に頭を下げたのだ。周囲の空気からそれがどれほど重大な事なのかが伝わってくる。しかもガゼフは酸いも甘いも味わったような年季を感じる”漢”なのだ。小市民でしかない悟としては恐縮するしかない。

 

「感謝する。・・・すまないが今二つほど質問させてもらってもいいだろうか?」

 

「は、はい。何なりと」

 

 頭を上げたガゼフの視線が隙無く構えている門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)に移る。

 

「あれは?」

 

「あ、あれは私が召喚した天使です」

 

「ほう」

 

 鋭い視線が悟の全身を観察するように動く。

 

「ではその仮面は」

 

「え!?・・・あー、その、えっと・・・魔法詠唱者(マジックキャスター)的な理由によるものです」

 

「仮面を外してもらえるか?」

 

「はい」カパッ

 

「アンデッド!?」

 

 

(・・・あ)

 

 

 悟の素顔をみたガゼフが素早く距離をとると剣を抜き放つ。同時に後ろの兵士達も一斉に武器を構え警戒態勢に移る。それを見た門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)が素早く盾を構えながら悟達の前に立ちふさがる。

 

(バカ!『はい』じゃねーよ『はい』じゃ!?村長さんが忠告してくれてたじゃないか。

あう・・・ど、どうしよう)

 

 ガゼフ達はこちらを警戒しているのかすぐに攻撃してくる気配は無い。だがきっかけがあればすぐにでも戦闘が始まってしまうだろう。どうにかしなければいけないのは分かっているのだが、頭の中は真っ白でフリーズしている。

 

 

「お待ちください!!」

 

 

 一触即発の中、村長が門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)の前に出ると地面に手と額を付きながら叫ぶ。

 

「隠し事をして申し訳ありません。確かにサトル様はアンデッドです。しかし、村を救っていただいたのは事実なのです!私の首を取っていただいて構いません。だから何卒悟様にはご容赦ください」

 

 村長の声を聞き、様子を見ていた村人たちも前に出てきて村長に続く。

 

「お願いします」「サトル様は村を救ってくれたんです」「騎士を倒してくださったんです」

「お父さんとお母さんを救ってくれたんです」「サトル様はとってもやさしいの」

 

 ガゼフはそんな村人たちをしばらく見ていたが、やがて剣を収めた。

 

「全員武器をしまえ」

 

「戦士長!?」

 

 ガゼフの言葉に兵士達が次々と反論するが、ガゼフはそれを一喝する。

 

「サトル殿が村を救ってくれた事は事実のようだ。ならば俺たちに出来なかった事。・・・弱き者を助けていただいたのだ。ならばたとえアンデッドだろうと問題ではない。

―――それに」

 

 ガゼフが門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)に視線を向けながら続ける。

 

「この天使を見ろ。こんな雄々しくも神々しい天使を従える者が邪悪なわけがない」

 

(ごめんなさい!これ善悪(カルマ)値関係なく召喚できるんです・・)

 

 善悪(カルマ)値-五百の極悪である悟が心の中で謝罪していると、ガゼフが再び悟に視線を向ける。

 

「申し訳ないサトル殿。外見に惑わされた俺が未熟であった」

 

「と、とんでもございません」

 

 そもそも悟が仮面を外さなければこんな問題は起きなかったのだ。

 

「そう言っていただけるとありがたい。重ねて礼を言わせてもらう。村を救っていただき本当にありがとう」

 

(ひと悶着あったけど、無事終わったな)

 

 半分は自業自得であったが、危機を乗り越え安堵のため息を吐いていると、兵士の一人が緊迫した様子で駆け込んでくる。

 

「戦士長!村を囲むように複数の人影が接近しています!」

 

(・・・え?)




意外とガゼフにかかってしまいやりたかった事が次回にずれてしまいました。
まあ、バレバレだと思いますけど。

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