聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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仏1号
一説 仏、間違える


亡き祖父の影響で英雄譚にあるような異性との運命の出会いに憧れていた白髪紅眼の少年ベル・クラネル

 

ダンジョンを中心に栄える迷宮都市オラリオに来た彼は女神ヘスティアのファミリアに入団し

 

駆け出しの冒険者でありながらも僅かな期間でレベル2になる程の目覚ましい成長を見せる。

 

この物語はそんな将来有望で裏表の無い純粋無垢な少年が

 

不幸にもはた迷惑な神と出会った瞬間から始まる

 

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

「おーほほほ! おほほほほほほ!」

 

早朝から特に目的もなく迷宮都市・オラリオをブラブラと散歩していたベル・クラネルは思わぬモノと遭遇してしまった。

 

いきなり空から「ヨシヒコー! ヨシヒコー!」という野太い声が聞こえたと思って顔を上げてみたら。

 

太陽が昇ったばかりの気持ちの良い空に突如パァーと大きな光が発生し

 

そこからいきなり巨大な顔をしたパンチパーマの神様らしき人物が現れたのだ。

 

「あ! ああ~どうしよコレ! ねぇどうしよう!? うっかりこっちに出て来ちゃったよ仏! いや~!」

 

その人物は仏

 

天界からとある勇者一行を導いている神様である。

 

しかし実際の所はやる気が無かったり曖昧な指示を出したりたまにサボる事もよくあり、正直頼りになる存在と素直に言い切れる神ではない。

 

現に今もこうして、うっかり降臨する場所を間違えてしまった様子で、驚いてぽかんと口を開けて固まっているベルだけではなく、他の通行人からもバッチリ見られているみたいで凄くオロオロし始めた。

 

「いやあの! みんな落ち着いて! 怪しいもんじゃないから! そんな見つめられても私凄く困る! 立ち止まらずにそのまま進んで! いくら相手が仏だからってね! ジロジロ見られたらこっちもどうしていいかわかんなく……! うん?」

 

このオラリオに住み着いて自分のファミリアを築いている神様に知り合いでもいたのだろうか、周りをキョロキョロしながらも愛想笑いを浮かべて仏は軽く手を振って挨拶。

 

「ああうん久しぶり久しぶり、元気してた? なん百年ぶりだよオイ、うんうんこっちは超元気よ、今もバリバリ仕事中だし……ば! バカちげぇよ! 現れる場所間違えたんじゃねぇよ!!」

 

本当は間違えてこの世界に出て来てしまったのだが、それを正直に言ったら今後、神々による祝宴の席でその件でイジられると思った仏は、神々に指を突き出して半笑いの状態で必死に否定し始めた。

 

「「嘘言ってんじゃねぇよバカヤロー」じゃねぇよ! お前がバカヤローだよ! なに神のクセに早朝からプラプラ散歩してんだよ! 働けバカヤロー!」

 

癪に障る事でも言われたのかすぐに言い返す仏、そして突き出した指をそのまま自分の鼻の穴に突っ込みながらしかめっ面を浮かべて

 

「んだよしつけぇな……だから本当に仕事でここに来てんの! アレだよアレ! 今から私はね! この世界に現れた魔王を倒す為の勇者に! 魔王を倒すお告げをしに来た訳ですよ先輩! あ、先輩じゃないか、お前同期か、ごめんごめん……ってなんで謝らなきゃいけねぇんだよ! もうほっとけ! 仏だけに!」

「ま、魔王を倒す勇者!?」

 

 

こちらに横顔を見せながら街にいる誰かと会話している様子の仏の話を聞いてベルはその内容に強く食いついた。

 

彼はいつも祖父から多くの英雄の話を聞いて育っていった。故にベルにとって世界を支配せんとする魔王を倒す勇者は正に憧れの存在、自分が目指す理想のヒーローなのだ。

 

まさかこの神様は、この世界に魔王が現れた事で選ばれた勇者にお告げを下しにやってきたのかと、ちょっとドキドキした様子でベルは仏を見つめる。

 

すると

 

「いやだから今から! 今から今から! この世界に現れた邪悪なる魔王を倒す為に勇者にねお告げを……あ」

「へ?」

 

気のせいだろうか、誰かと会話していたパンチパーマの神様がこちらとバッチリ目が合ったような気が……

 

するとキョトンとしているベルを尻目に、仏は偶然視界に入ったその少年を見つめながら「あ~……」と短く呟くと軽く微笑み

 

「そこの、そこの少年、白髪頭の少年」

「えぇ!? も、もしかして僕の事ですか!?」

「あの、んーとね……魔王を倒しに行くとかその、興味ある? 1回倒してみたいとか思ってない?」

「うえぇぇ!?」

 

完全にこちらの特徴を捉えた上で話しかけて来たと思ったら、突然魔王を倒してみたいか?と無茶振りを仕掛けて来た。

 

そんな仏にベルがギョッと驚くのも束の間、仏は自分のおでこを擦りながら「いや~」と苦笑を浮かべ

 

「少年あの、お名前はなんていうのかな?」

「えーと……ベル・クラネルですけど」

「ベル、ベル君ね、あ、私はね、仏って言うの、よろしく」

「よろしくお願いします仏様……」

「はい仏様です、様付けれるなんて偉いね~、キノコ頭と大違い、それでベル君はその~……勇者とかやってみたい?」

「ぼ、僕でいいんですか!? やれるのであれば是非!」

「おお~と! 予想以上にがっつり食いついて来たー! やだこの子超ピュア!」

 

こんなチャンス二度とないぞと後先考えずに勇者に立候補するピュアなベルに

 

仏は思わずハハハと笑いながらパンパンと両手を叩き始める。

 

「あのねベル君、、ベル君がいるこの世界あるでしょ? ここが今ね、とてもマズい事になってるの、何故なら! 魔王がこの世界を滅ぼそうとしているから~!」

「本当ですか!?」

「う、うん、本当……です」

 

ぶっちゃけ他の神々に馬鹿にされたくないからと、真面目に仕事をしてるフリする為に

 

偶然目に留まったベルに出まかせで魔王が現れたと言っているだけなのだが

 

人を疑う事、ましてや神を疑う事など出来やしない彼は純粋に仏の話を信じ込んでしまう。

 

「私もね~本当はこの世界に、ヨシヒコっていう勇者を別の世界から派遣したいんだけどね~」

「ええーッ! 本物の勇者様がこの世界に!?」 

「それがね~、ヨシヒコもヨシヒコで今別の世界で魔王を倒しに行かなきゃいけないって事でこっち来れないの、スケジュール合わないんです、売れっ子だからヨシヒコ、別の世界でね、竜王って奴が暴れてるから倒しに行ってもらってるの」

「そうなんですか……ちょっと会ってみたかったですが魔王と戦っているなら仕方ありませんね……」

「仕方ないね~、こればっかりは仕方ない、うん」

 

ヨシヒコという名前は聞いた事無いが、どうやらここではない別の何処かで魔王を倒す為に冒険に出掛けているらしい。

 

彼がここに来る事は出来ないと聞いてベルはガックリと肩を落とすも、仏は優しそうな口調で首を傾げながら彼を見下ろしたまま

 

「だからここは少年に、ベル君に。ヨシヒコに次ぐもう一人の勇者として、魔王と戦って貰おうと思います!」

「凄い! 魔王を倒しに行けるなんて正に英雄みたいだ! ありがとうございます!」

「あの君~、さっきから勇者になる気満々だけどいいの?」

 

自分でデタラメ言っておいてアレだが、こうもキラキラとした目をこちらに向けながら上手く信じてくれるベルに

 

流石に仏も多少の罪悪感が芽生えた様子。

 

「魔王を倒しに行くって超大変だからね? まず魔王に会いに行く道のりも険しいし、魔王の前にも中ボスがガンガン出て来て何度も死にかけたりして凄い怖い目に遭うぜ絶対?」

「それでもやりたいです! お祖父ちゃんから色んな英雄の話を聞いていたから憧れだったんです! 勇者!」

「こんの野郎……誰だか知らねぇけど余計な事を孫に聞かせてんじゃねぇよジジィ……」

「?」

 

ベルの祖父が何者かは知らない仏だが、苦々しい表情でベルには聞こえない声量でボソリと悪態を突く。

 

そして

 

「んーまあいいか……魔王なんてどこの世界にでも大体いんだから、こっちでも探せばいるんじゃないかな~多分……」

「どうしたんですか仏様?」

「ううんなんでもない、ただの独り言だから気にしないで」

 

別にこの世界を管理してる訳でもないんだしと、物凄く適当な感じで纏めると仏は首を横に振って改めてベルに話しを続ける。

 

「それでは新しき勇者よ! この世界の魔王を倒しに行くのだ!」

「はい! あ、でも仏様、どこに行けばその魔王に会えるんですか?」

「あ~……どこに行けばいいのか……ね……じゃあとりあえず、北に向かって、うん」

「北ですねわかりました! 旅の支度を終えたらすぐに行って来ます!」

「うわ~、なんかもうこの子、綺麗なヨシヒコって感じで私結構好き、そのままでいて! お願いだからヨシヒコに染まらないで!」

 

魔王が何処にいるかなんて全く知らない仏は、またもや曖昧な感じで雑に向かう場所を導く。

 

それでも馬鹿正直に信じたベルは、一旦家に戻って荷造りの準備をして来ると一目散に駆けだして行ってしまった。

 

そして脱兎の如く俊敏な動きでなんの迷いもなく行ってしまったベルを見送りながら仏はヘラヘラと笑いながら

 

「まあなんとかなるかなぁ……あ、おいタケミカヅチ! テメェなにジロジロ見てんだコラ! 仏ビーム食らわすぞ!」

 

なるようになるの精神で安易にそう結論を出しつつ、ふと見下ろしたらまた別の神と目が合ったので速攻喧嘩を売り始める仏であった。

 

 

 

 

 

そして魔王と戦う勇者に任命されてしまったベル・クラネルはというと

 

「神様!」

「おおどうしたんだいベル君、早朝に出掛けたと思ったすぐに戻って来て」

 

ヘスティア・ファミリアのホームである廃墟となっている教会に心弾ませて帰って来たベルは

 

勢いよく地下室のドアを開けて、そこで迎えてくれた女神・ヘスティアと顔を合わせた。

 

見た目は黒髪ツインテールの小柄な少女ではあるがこれでもれっきとした女神。

 

しかも見た目は幼いのに胸はかなりの巨乳で、その胸を更に強調するかのように紐で括り上げられている。

 

「なにかあったのかい? それともほんの束の間でもボクと離れて寂しくなったとか? フフ」

 

ベルに対してちょっとした想いを抱いているヘスティアが悪戯っぽく微笑むと

 

彼はウキウキした様子でテンション高めのご様子で

 

「聞いて下さい神様! 僕! 魔王を倒す勇者に選ばれました!!」

「は?……ごめん、今なんて?」

「今から魔王を倒しに! 勇者として僕は旅に出ます!」

「おぉ……そんな事言われるのは流石に神であるボクも予想できなかった……」

 

突然の急な発言にヘスティアは言葉を失いすぐに笑みが消えて困惑の表情に

 

それでもベルは興奮した面持ちで彼女に歩み寄り

 

「という事で神様! ちょっとの間ここを留守にしますけど! 魔王を倒して強くなって戻ってきます!」

「あーうん、そうなんだ……ところでベル君、ボクの方に顔を近づけてくれないかな?」

「え? こうですか? あだッ!」

 

自分に言われた通りに腰をかがめて顔を近づけて来たベルの頬に向かって

 

ヘスティアはジト目でパシンとやや強めなビンタをお見舞いした。

 

「あのねぇベル君、君はボクのファミリアの一員になって、冒険者としてそれなりに苦労しながらレベルアップしたばかりという大切な時期だ」

「はい……」

「そんなタイミングでなに魔王を倒すとか勇者になるとか訳の分からない事を言い出すんだい君は」

「で、でも神様! さっき僕はお告げを貰ったんです! 空から現れた神様に!」

「空から? それって下界に降り立った神って事?」

「いえ、空にパァーッと現れたんです! 凄い頭で顔と耳の大きい神様が!」

「……」

 

凄い頭で顔と耳が大きい神様……ベルから聞いたその些細な特徴だけですぐに誰だかわかった様子で顔をしかめるヘスティア

 

そして彼女は腰をかがめてベルの顔を覗き込むながら

 

「もしかしてその神様というのは……仏とか名乗ってなかったかい?」

「はいそうです、仏様です、勇者を導く凄い御方みたいですよ。あ、もしかして神様のお知り合いでしたか? 友達とか?」

「……ベル君もっかい顔をこっちに近づけて」

「え、また? いったッ!」

 

またもや自分の言う事に従って顔をグイッと近付けて来たベルの頬を

 

今度は本気で引っ張叩くヘスティアであった。

 

この後、ベルは彼女にたっぷり説教されたおかげで、魔王を探しに行くという無謀な旅を断念してくれたのは言うまでもない。

 

 

これはこんな人の良いなんでもすぐに信じてしまうピュアな白髪紅眼の小さな冒険者が

 

女神・ヘスティアだけでなく周りの人達にフォローされつつ時には必死に止められたりしてもなお

 

ズボラでウザくてめんどくさがりで、たまに台詞を噛んだり忘れちゃったりする

 

うっかり屋な天界一のはた迷惑な神様と呼ばれている仏に導かれてしまい

 

 

 

最後には伝説の勇者とその一行と出会って本当に世界を救ってしまうという奇想天外の英雄譚である。

 

 

 

次回、仏、謝罪する

 

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