聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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十一説 ベート、兄貴と遭遇

 

今日も今日とて、お散歩気分で仏はベルと仲良く街中を歩いていた。

 

「こう叔父さんは、ミノタウルス達をお手玉みたいにポンポンって……とにかく凄いんです!」

「いや~ベル君ベル君、その話、仏前にも聞いたんだけどなー、叔父さんが強いのはわかってるんだよ仏、映画観たし」

 

今だ興奮冷めない様子で熱く語るベルに

 

仏は苦笑いしながら延々と語り出すぞコイツと察して、なにか別の話題は無いかと考えていると……

 

ふと道の真ん中を歩いている途中でベルが向かいから来た人物と軽く肩がぶつかった。

 

「そこで今度はまたしても叔父さんが……あ、すみません」

「どこ見て歩いてんだコラ、殺すぞ」

「うぇ!? す、すみません!」

 

軽くぶつかっただけでドスの利いた低い声で怒られて思わず謝ってしまうベルだが

 

ベルはその喧嘩早い荒々しい口調と灰色の毛並みの狼人の少年にどこか見覚えを感じた。

 

「ってあれ?」

「あ? テメェどっかで……あ」

 

 

ベルが気付いたと同時に少年も振り返って彼に対して目を細めるとすぐにハッと思い出した様子で

 

「テメェ……! 上層でミノタウルスに逃げ惑っている所をアイズに助けられたトマト野郎……!」

「ど、どうも……」

 

苦笑いを浮かべながらあの時の事を思い出してちょっとブルーな気持ちになるベルに対して

 

僅かに尖った歯を剥き出しながら睨み付けるこの少年はベート・ローガ。

 

ロキ・ファミリア所属であり、ファミリアの中でも最速とうたわれるレベル6の狼人。

 

腕は自他ともに認める一流なのは確かだが、口が悪いわ酒癖が悪いわ、弱者の事を見下した態度を取るその傲慢っぽさから、他のファミリアの者達から嫌悪の視線を向けられている、と言っても本人は他人にどう言われようがそんなもの全く気にしてない

 

「まさかこんな所でテメェとまた会うとはな……! まあいい、いずれ話付けてやろうと思ってた所だ……」

「ええ! 僕になんか用があったんですか!?」

「ったりめぇだコラ! レベル2にランクアップしたからって調子こくんじゃねぇぞ!」

 

そんなベートにいきなり喧嘩腰で話しかけられてしまい、過去に酒場で仲間内で自分の醜態を笑い話にしていた彼の事を思い出し萎縮するベル。

 

だがそんなちょっとした因縁を持つ二人の間に挟まれても、仏は相変わらず空気も読まずに首を傾げて

 

「ちょっとベル君……誰、この犬耳ワンパク少年は?」

「えーと、前にロキさんが言ってたべートさんだと思います、酒場でもそう呼ばれてましたし……」

「あー……アイツが誰か一人ウチに来れるならって言った奴ね、ぶふ!」

 

前回ロキに会った時の会話を思い出し、あの時彼女に売られかけていた団員が今目の前にいる男だとわかると思わず吹き出してしまう仏。

 

するとベートはますます機嫌悪そうに凄味のある剣幕で

 

「テメェ! 俺をシカトして訳のわかんねぇオッサンとボソボソ話してんじゃねぇぞコラ! それとおい、そこのオッサン!」

「え、私に何か用かな?」

 

急に矛先がこちらに変わったのでキョトンとする仏に、ベートは相手が神であろうがお構いなしに吹っかけて

 

「俺の顔見るなりなに笑ってんだオイ! マジで殺すぞ!」

「あぁん!? おい待てコラ、なんだコラ、誰に向かって喧嘩売ってんだコラァ!」

「うわ! 意外にも仏様が負けじと応戦した! すぐ僕を置いて逃げると思ったのに!」

 

ナメられてたまるかといった感じでベートに対して臆せずに、顔のパーツを更に中心に集めてツッパリ風な感じで対抗する仏。

 

そしてベルが驚く中、変な顔しながらこちらに歩み寄って来た仏に、ベートも慣れた様子で自ら近寄って行く。

 

「おい、本当はテメェビビってんだろ、俺に対して虚勢張って内心ビクついてのが、テメェの目ぇみればわかんだよこっちは!」

 

「あああ~ん!? ビビッてねぇしあああ~ん!? なんだお前どこ中だあああ~ん!? 仏とやる気かあああ~ん!?」

 

「上等だコラ! テメェみたいな変なツラした野郎なんか一瞬で沈めてやるよ!」

 

「誰が変な顔じゃい! 誰が! 誰が誰がビッグフェイスじゃいこのボケェ!」

 

「後で泣いて土下座しても知らねぇからな!」

 

「バカ野郎お前! こちとら土下座なんて慣れてんだバーカ! 前に不倫発覚した時なんかアレだぞ! カミさんにどんだけしたと思ってんだバカヤローコノヤロー!!」

 

二人で顔を近づけて目からバチバチと火花を放ち始めた仏とベートの口論に圧倒されて、間に立っていたベルはごくりと生唾を飲み込む。

 

「な、なんてレベルの低い罵り合いなんだ……! 特に仏様の方……!」

 

「あの! ガムに入ってる銀紙あるでしょ! アレを奥歯でカミカミさせると凄い不快感覚えるじゃん! それお前にやらせたろうかオラァ!」

 

「やってみろよ! テメェに今から買いに行く猶予が遺されていればの話だけどな!」

 

「はい余裕です~! ガム買うのなんて楽勝です~! でもこの世界観にガムが存在するのかどうかわかりません~!!」

 

「この言い争い、一体どっちが勝つんだ……! そもそも終わりがあるのかもわからない……!」

 

恐ろしく不毛な舌戦を道の真ん中でやっているので、騒ぎを聞きつけて段々と野次馬が現れる。

 

ベルは真面目に二人の争いの行く末を見守りつつも、恥ずかしいから一刻も早くこの場を去りたいという衝動に駆られていると、そこへ

 

 

 

 

 

「エプロン♂チャーハン?」

「……え?」

 

なんといつの間にかベルの背後を気配すら感じさせずに

 

純白のパンツの身を装備しただけの徹底的なラフスタイルを追求した屈強な体付きをした男が立っていたのだ。

 

男の放つ意味不明な言葉を理解出来ずにベルがビックリして声を失っていると、ベートと言い争いを続けていた仏はバッとそちらに振り返って

 

「あ、あなたはもしや! 兄貴!!」

「兄貴!? 知ってるんですか仏様!?」

「あ!? げぇ! なんだコイツ!」

「ナイスでーす♂」

 

突然現れたほぼ生まれたままの姿を、堂々と周囲に晒す男を前にベートも流石に畏怖する。

 

彼は通称・兄貴。知る人ぞ知る超有名人であり、多くの人々に笑顔を与えたという事で神格化し、今ではこのオラリオの地で「兄貴♂ファミリア」を結成し、多くのガチムチな男達を日々指導♂して優秀な冒険者に導いている。

 

ちなみに兄貴♂ファミリアに所属している団員達は10割男性、そして武器を使わず己の身だけで戦う事を決めつけられている。

 

だがかなりタフでやたらと強く、結成したばかりのファミリアにも関わらず猛者揃いらしい。

 

「田舎も~ん!」

「訳の分からねぇ事をさっきから……邪魔すんな!」

「あぁん、ひどぅい!」

「兄貴ィィィィィィ!!!」

 

喧嘩の仲裁に入って来たのだろうか、ニヤニヤしながら突っかかって来る兄貴に対し、ベートは苛ついた様子で彼の腹に得意の蹴りをお見舞いしてしまった。

 

仏が悲鳴を上げる中、レベル6の成す強烈なキックには、いくら兄貴でさえも……

 

「歪みねぇな」

「はぁ!? な、なんで倒れねぇんだオイ!」

 

なんと、彼の自慢の腹筋にはいかにレベル6の冒険者でさえも傷をつける事など出来やしなかった。

 

しかしベートの蹴りに兄貴もカチンと来たのか、先程までの笑顔が消えてポキポキと拳を鳴らし

 

「歪みねぇな!!」

「バカ止めろ! こっち来るんじゃねぇ!」

「キャノン砲!!」

 

じわじわと歩み寄って来る兄貴にベートは激しい恐怖を感じつつ後ずさり。

 

「テ、テメェは何モンだ!」

「いやだから兄貴だつってんじゃん」

「だから兄貴ってなんだよ!」

 

徐々に追い詰められているという実感を覚え始めたベートに、ベルと一緒にちょっと距離を取った状態で冷静に仏が呟く。

 

しかし彼の回答はベートが望む答えでは無かった。兄貴とは一体なんなのだ?

 

「この筋肉ダルマが! 俺に向かって本物の喧嘩売るってのかコラ! 上等だかかって来やがれ!」

「いいですか? 茄子のステーキ」

「いややっぱ止めろこっち来るな! ニヤニヤしながら俺の方へ歩み寄って来るな!」

 

懸命にこっちに来るなと叫ぶベートに対し、兄貴は依然変わらず、むしろ嫌がるベートを見て浮かべる笑みが更に広がっていきそして……

 

「オビ=ワンいくつぐらい!?」

「うげ!」

 

屈強な体付きから放たれる兄貴の高速タックルを食らうベート、しかしここで倒れる訳には行かないと、両足で地面を滑りながらなんとか耐えきる。

 

「このムキムキ野郎……!」

 

ファミリア最速を誇る自分でさえも捉えきれなかった俊敏な動きを見せた兄貴に

 

悔しそうに彼に抱きつかれたままの状態でギリッと奥歯を噛みしめる。

 

「その薄ら笑みを……止めやがれぇ!」

「あぁん、ひどぅい!」

「ぶっ殺す!」

 

自慢の脚力をフルに使って逆に彼を押し出すと、遂にい勢い良く押し倒す事に成功したのだ。

 

レベル6の冒険者としてのプライドが兄貴に一矢報いた瞬間である。

 

「ギャハハハハハ! 悪いがこっから先は一方通行……おっふ!」

「最近だらしねぇな!?」

「うわ……アレは痛いわぁ~……」

 

全力を振り絞って押し倒した兄貴を周りの目もお構いなしに実力行使に出ようとするベートであったが

 

兄貴が笑うのを止めた瞬間、躊躇なく彼の股の間に向かって丸太のように太い足で蹴り上げる。

 

これにはベートもあまりの激痛に悶絶し、その隙を突いて兄貴は彼からの拘束を解いて再び立ち上がった。

 

「いい目してんねサボテンね!」

「テメェふざけ……あ! ちょっと止め! タンマ!」

「あんかけチャーハン?」

 

この瞬間、ベートは己の身に何かとてつもない危機が訪れると予感した。

 

すぐに離れて距離を置こうとするも、それを兄貴が見逃す筈無く……

 

「最強!」

「この……!」

 

兄貴は再び笑みを浮かべてベートの方へゆっくりと歩み寄る。

 

今の兄貴は獲物を狙う狩人の目、否、目の前にある御馳走を食べようとしている捕食者♂

 

「そういやロキの野郎が……他の神々も一目置く存在が神格化してオラリオにやって来たとかなんとか言ってた様な……」

 

「夏コミにスティック♂ナンバー見に行こうな?」

 

「それがまさかテメェだって言うのか! てか待て! テメェ今何をしようとしてやがる!」

 

「ブスリ♂」

 

今まで以上に満面の笑みを見せながら御馳走を目にして舌なめずりすると

 

兄貴は弱っているベートに向かってゆっくりと歩み寄ると、彼を路地裏へと引きずっていく。

 

「離せコラァー! 止めろ! 頼むから止めろ!」

「相変わらずケツ欲しい、いいな?」

「引きずり込むな 人が見えない所でテメェなにしようと……ってギャァァァ!! テメェまさか!」

野次馬達からの視線を避けるように路地裏へとベートを連れて行った兄貴。

 

鳴りやまないベートの悲鳴に、ベルはつい好奇心で何が起こっているのだろうと、路地裏へとヒョコッと顔を覗かせようとしたその時……

 

「ベル君は見ちゃダメ」

「え?」

 

なにかが起こる前にそっと仏は両手でベルの両目を隠してあげるのだった。

 

そして

 

 

 

 

 

 

「アァーッ!!」

 

 

 

 

 

 

「ナイスでーす♂ 」

 

 

 

 

 

 

「あの、仏様、最後の悲鳴が聞こえてから急に静かになったんですけど……何かあったんですか?」

「ん~まあ、ね……あのベートって奴の事は……ぶっちゃけそんな嫌いじゃなかったよ私は……」

「本当に何があったんですか!?」

 

この日、ベルが仏に目隠しされてる状態の中で。

 

ロキ・ファミリア最速の男、ベート・ローガは大切なモノ失ったのであった。

 

次回、アイズ、金髪ホクロと遭遇

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