十三説 仏、対決する
銀色のヌメヌメモンスターを討伐しに出かけたアイズと、それを追いかけに行ったベルが去ってから翌日。
二人の事など既にそっちのけで、仏はベルの主神・ヘスティアと小さな店を構えてバチバチと熱い火花を散らしていた。
「今日こそ決着つけてやんぞコノヤロー!!」
「望むところさ! 今ここでハッキリと誰がベル君に相応しいのか教えてやる!」
ここに至るまでどういう経緯があったか省略させて説明させて頂くと
最近仏が自分の大事なベルを好き勝手に連れ回されてヘスティア大激怒
いい加減にしろと直で抗議するも仏は「いや、私の方が絶対あの子をうまく導けるから、紐はもう天界に帰って」の一点張り。
こうなってはもうどちらが先に折れるか勝負するしかない、という事で
店側にお願いしてどちらがよりじゃが丸くんを売り捌けるかという勝負に至るのだ。
「あのー、リリはもう帰っていいですかー?」
「ダメだ! 仏は狡猾にもよりにもよってロキと手を結んできたんだ! ここはもう君に頼るしかない!」
「可哀相に、ヘスティア様には共に戦ってくれるお友達がいないのですね」
「いるよ! けどみんな下らないって言って手伝ってくれなかったんだ!」
「リリ自身もまったく同意見です」
そしてちゃっかり自分側にヘスティアが連れてきた援軍はリリルカ・アーデ。
なんでも仏は卑怯にも、材料が切れた際に偶然出くわしたロキと結託し、彼女のファミリアを借りて数の力で勝とうと狙っているらしい。
故にヘスティアもまた己の人脈を生かしてほかの神々の力を借りようとしたのだが、皆にあっさりと断られたので最後の綱としてリリを急遽呼びつけたのである。
「ベル様のお姿が見えなくなったというのになぜにこんな下らない神々の決闘に参加しなきゃならんのですか……」
「ベル君のことは確かに心配だ、君よりもずっとボクは心配してる、しかし勝負は時にそんな時でも、いやそんな時だからこそしなくっちゃあいけないんだッ!」
「いやしてちゃダメですから」
昨日から姿を見せないベルに対してヘスティアも勿論心配はしているみたいだが、日頃忌み嫌ってる仏なんかに勝負を挑まれてはその誘いに乗るしかない。
しかしノリノリなヘスティアとは対照的に、リリは一刻も早くベルを探しに行かねばならないので、さっさとこの場を去りたいとしかめっ面で考えるのであった。
「フッフッフ~、早速チームワークに乱れが生じてますな~」
そんな彼等を愉快そうに眺めているのは向かいの店に立つ仏。
先ほど急なお告げをしなければならない上に材料が切れて焦ったが、ロキと手を組んだおかげですっかり余裕が見て取れる。
「やはりここは、ん~私が~? 仏・ファミリアを~結成し~、私がベル君を育てるべきだと思いま~す!」
「黙れ仏! ボクのベル君を横から掻っ攫おうだなんてそうはさせないぞ!」
上機嫌に歌うかのように叫んでいる仏にムカッとしながらヘスティアは対抗すると、すぐに隣でめんどくさそうに手伝ってくれているリリの方へ振り返って
「さあどんどんじゃが丸くんを揚げるんだ! 揚げ立てほやほやのじゃが丸くんを売りまくって、ヘスティア・ファミリアを護るんだ!」
「リリは一応ソーマ・ファミリアだからぶっちゃけ部外者なんですが……それとリリはこれでも公には死んでる事にしているので、出来れば裏方に徹しさせてください」
「そうか、君そんな設定があったね、すっかり忘れてたよ」
「設定とか言わないで下さい! リリとしては結構重要な問題なんですよ!」
冒険者を騙し続けお尋ね者になり、最終的には身内の裏切りによって粛清された、と偽装して今までなんとかバレずに上手くやっていけてるリリ
そういやそんな過去があったなとすっかり忘れていたヘスティアにリリが思わず怒鳴ってしまっていると
向かいの仏の店でもアクションが
「おい仏、頼まれた材料調達してきたで」
「はいサンクス! ってあれ? なんでお前一人なのロキ?」
「いや~それがな~」
しばし時間をかけてようやく材料を持って戻ってきたロキに仏は顔をほころばせるが一瞬にして曇り顔に
するとロキは「う~ん」と首を傾げながらどうやらトラブルに見舞われた様子で
「実はウチのアイズたんが先日から何処かへ出かけて行方をくらましてしまったみたいなんや、だから今、ウチのファミリア総動員であの子の捜索に出掛けてるみたいやねん」
「マジかよ! アイズたんいねぇの!?」
「お前がアイズたん呼ぶな、殺すぞ」
ロキ・ファミリアとしてはもはやエースと呼んでも過言ではないアイズが行方不明。
こんな状況で仏のお手伝いなどしてる場合ではないらしく、ファミリアの面々は皆必死に彼女を探し回ってるみたいだ。
「とにかく今はこっちに割ける人員はいないっちゅう事や、たった一人を除いて」
「一人ってまさか……」
「フ、喜べ仏」
そして人材確保を失敗し不安がる仏をよそにロキは度や顔で自分を親指で指し
「ウチや」
「チェンジ!」
「なんでや!」
仏の叫びに間髪入れずにツッコむロキ、自分では頼もしい助っ人だと思っていたらしい。
「誰もこぉへんよりマシやろ! 一緒にあのドチビをぶっ飛ばそうや!」
「いやだってお前は不安だわ~……しゃべり方的にじゃが丸くんじゃなくてたこ焼き作りそうだもん」
「せやな、たこ焼きなら大得意や、てか調達してきた材料は全部それ用や」
「なんでや!」
えっへんと無い胸を張って既にじゃが丸くん以外のモノを作る気満々のロキに、思わず仏の方が彼女の口調で叫んでしまう。
「なんで! なんでじゃが丸くん対決でたこ焼きの材料買ってくんねん! アンビリバボーや! 驚きの通天閣やー!」
「ウチの口調真似すんなや、しかも意味わからんし、ジャガイモ揚げるよりタコ焼いたほうが美味いやろ、絶対そっちの方が売れるから見とけ」
もはや完全に仏とヘスティアの対決よりも、いかに自分の作ったものが凄いのか自慢したいが為にこの勝負に乗っかっているロキ。
というのも、何もしないでボーっとしているよりも、こうしてアイズが通りがかりそうな場所で待っていたほうがいいと、こう見えて主神ながらしっかりと考えているのだ、
「いやしかしホンマどうしたんやろうなぁアイズたん、もともと結構自由奔放やったけど、ウチや団員に何も言わずに飛び出してしまうなんて……」
「まぁホント、心配っすね、ベル君もアレから見ないし、ん? アレから……?」
仏はふと先日のことを思い出す、謎のモンスター探しに躊躇無く行ってしまったアイズに、自分が追いかけろと叫んでベルが彼女を追いかけに行った光景を
ひょっとしてあの時から? てことは二人が消えた原因を辿ると……
「ひょっとしたらなんかあったんちゃうかな、あの子なら大抵のトラブルはささっと解決する筈やのに」
「あ~……そうだね、何があったんだろうね」
「仏、お前はなんか知っとるか?」
「知りません、全く知りません、まっっったくアイドンノー」
「そっかー」
なにか事の事実に気付いてしまった仏だが、尋ねてくるロキについ反射的に知らないと嘘をついてしまう。
心配そうにため息をつくロキを見て、仏は平静を装いながらふと思った。
あ、これバレたらコイツに殺されるな、と
一方その頃、ヘスティアとロキが心配している中で、当の本人であるアイズとベルはというと
「ここにもいない……」
「ア、アイズさ~ん!」
二人が現在いるのはなんとダンジョン、しかもやたらと手強いモンスターが出やすい中層エリア。
黙々と一人でモンスターを楽々と屠って行きながらつっ走ってしまうアイズを
彼女がとりこぼしたモンスターから逃げ惑いながら、ベルはひたすらに彼女を追いかけていた。
「大丈夫なんですかこんな所まで来ちゃって……もう中層辺りに着いちゃいましたよ」
「これは私の独断行動、君は一人で帰ってもいいんだよ」
「いや、ここまでついて来ちゃったらもう僕一人じゃ帰れません」
「なるほど、それは困った」
仏の言うがままにがむしゃらにアイズの背中を追いかける事に夢中になっていたが、今更ながら己の現状がかなりヤバい状態なのだと気付くベル。
そしてそんな彼が帰れないと聞いて、アイズも仏頂面ではあるが罪悪感を覚えた様子。
「ならしばらくこのまま私と一緒に行動しよう、君の事はちゃんと護るから安心して」
「アイズさんに護られる……う~ん、それは僕としては複雑ですけど、アイズさんがそれでいいなら……は!」
彼女にそう言われて若干言葉を濁らせながら複雑に感じている中で、ベルはふとこの現状に気付いた。
今自分は、アイズと二人っきりの状態でダンジョンを潜っている事に
これはもしや……デートという奴なのではないだろうか
(そうか! 仏様はこうなることを見通して! 流石です仏様! お導きに感謝します!)
(……急にはしゃいでどうしたんだろう……)
ダンジョンの中というのはやや物騒ではあるが、これこそ仏の導きだと確信してグッと拳を握って喜ぶベル
そんな彼を見てどこか様子がおかしいと冷静にアイズが眺めていると物陰から
「フッフッフ……」
「!」
「い、今の声は!」
薄暗い空洞の声で呻くような低い笑い声が不意に飛んで来た。
喜びも束の間、ビクッと肩を震わせるベルを置いて、アイズはすかさず得物の細剣をそちらに向かって構える。
すると洞窟の奥から微かな足音を鳴らして、何者かがゆっくりと姿を現した。
その者はなんと
「なんたる僥倖……! これぞ日頃から行いの良い吾輩に、天から下さった幸運ではないか……!」
アイズとベルは現れて早々嬉しそうな声を上げるその人物(?)と対面して、言葉を失った。
髪の毛は逆立ち顔は蒼白、しかしただ白いだけではなく目元は赤く塗られており、それが見る者に恐怖を感じさせる。
その上服装は黒いマントを羽織り、その中には真っ赤な鎧が装備されていた。
とどのつまり、物凄く怪しい男だ。
「あれって……冒険者なんですかね? それともモンスター……」
「わからない、初めて見た」
「フッフッフ、吾輩を見て怯えている様だな……」
いきなり現れた怪しい男にベルだけでなくアイズもどうしていいのか困っている様子。
しかしそれを見て急に現れた人物は満足げに笑みを浮かべながらマントを翻すと
「”飛んで火にいる夏の虫”とはこの事よ! フハハハハハッ!」
「……えと、すみません、飛んで火にいる……どういう意味ですかそれ?」
「ん? 貴様、この例えを知らんのか……? 結構有名だぞ?」
「はい、全く」
「……」
決めポーズを取りながらカッコよ笑い声を上げた男に向かって、ベルは率直に彼の言った事が理解出来なかった様子。
それに対して男は「なるほど……」と急に冷静になり、ベルの隣にいるアイズの方へ振り向いて
「貴様もか?」
「知らない」
「あー……最近の子供は、使わないかぁ……」
アイズもまた真顔で首を横に振ると、男はちょっと優しめな口調で後頭部を掻くと
「いいか吾輩の話をよく聞け、夏の虫が、火の明るさにつられて飛び込んで焼け死ぬ、見た事ぐらいあるな?」
「いやーどうでしょう、僕あんま覚えありません」
「同じく」
「だよねー、考えたら火をボーっと無心で見る事はあるけど、そこへ虫が飛び込んで焼け死ぬってのは……意識しないとまず見る事はないよねー」
ベルとアイズの微妙な反応に男は苦笑いを浮かべながら頷くと、ちょっと困り顔をしながらも話を続ける。
「だからつまり~……「飛んで火にいる夏の虫」というのは、自分から進んで災いの中に飛び込んでしまったの例え、という事である、と覚えておいてください」
「「あー」」
割りと丁寧にわかりやすく教えてくれた男に思わずベルとアイズがようやくわかった様子で返事すると、男の方も満足そうに「勉強になっただろ」とニコニコ笑った後……
「という事で貴様等はまんまと吾輩のいる死地へと自ら足を踏み入れてしまったという訳だぁ!!! ハッハッハーッ!!」
「な、なんだってー!」
「かかったな愚か者どもめ! 吾輩がただ例え話を教えてくれる親切なおじさんだとでも思ったかぁ!!!」
急に表情を一変させて、舌を伸ばしてこちらを嘲笑うかのように叫び出す男。
それに上手く乗っかってベルが驚いていると、アイズは既に抜いた剣を男に向かって構える。
「誰だか知らないけど、私の道を阻む者は容赦しない……」
「フン、生憎吾輩にとって貴様はただのおまけだ小娘、吾輩が本当に欲しかったのは……そちらの小僧だ」
「え?」
「ぼ、僕?」
人目も無いダンジョン内で自分を暗殺にでも来た、どこぞのファミリアの刺客かと推理していたのだが
どうやら彼の目的は自分ではなくベルの方らしい
「貴様の様な幼き純粋無垢な高潔な魂を生け贄に捧げてこそ、吾輩の悲願が達成するのだ……!」
「い、生け贄ぇ!?」
「……あなたは誰? この子を狙う目的は?」
「吾輩は……!」
剣先を鋭く男に向けながら、ベルの盾になるかのようにアイズが立ち塞がると、男は両手を上げたままニヤリと笑って
「ハーゴン! 地獄の都から現れし! この世に破滅をもたらす悪魔神官である!! そして吾輩の目的は!!」
「この迷宮に封印されし! ”破壊神シドー”様の復活である!!!」
ベル達の前に突然現れたこの世を破壊せんと目論む悪魔神官・ハーゴン。
果たしてベルとアイズはこの窮地を脱することが出来るのか……
「さあ手始めに貴様等を蝋人形にしてやる!!」
「すみません、蝋人形って何ですか?」
「私も、聞いた事はあるけどどういうものかよく知らない」
「え~これ吾輩の十八番セリフなのに……うん、じゃあ今度は蝋人形について一から説明するからよく聞いて」
そしてその出来事を物陰から隠れて眺めていた大男が一人……
「これは……急いでフレイヤ様に報告せねば……」
次回、フレイヤ、目論む