聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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十四説 フレイヤ、目論む

美の女神・フレイヤ

 

フレイヤ・ファミリア主神であり神々の中でも随一の美貌を持つ女神。

 

その魅了の効果絶大で、モンスターや神ですら虜にすることが可能で、魅了した団員を数多く抱えている。

 

そんな彼女なのであるが、かつて見たことが無いほど透き通った綺麗な魂の色を持つベルを偶然目撃して以降、彼を気に入ってしまい、自らのモノにすべく様々な画策しており

 

更には自分のものとして相応しい能力を身に付けさせるため、彼に様々な形で試練を与えたり、密かに手助けをして成長を促していたりもする。

 

普段は泰然と構えているが、ベルに対して異常ともいえる執着を見せており、例えベルが死んだとしても、今の地位を捨て天界に戻って追い掛け彼の魂を捕まえると言い切る程である。

 

つまり物凄く性質の悪いヤンデレ神様だ。

 

「あの子が襲われている?」

「は、同行しているロキ・ファミリアの剣姫と共に」

 

迷宮の真上に立っている巨大建造物、バベルの最上階にて

 

美の女神・フレイヤは美しい銀髪を指で弄りながら

 

目の前でかしずき、ついさっき迷宮内で起きていた情報を持ってきた団員・オッタルを静かに見下ろしながら聞いていた。

 

「問題ないわ、あの子にはいくつもの障害を乗り越えてほしいの、それぐらい自らの力で打ち勝ってもらわなきゃ、剣姫の事に関しては……どうでもいいわね」

 

「ですがどうも、あの少年を襲ったのは普通の存在ではありませんでした、私には到底で理解できない不可解な力を秘めていると思われる男です」

 

「前にあなたから聞いた例のハーゴンと名乗る悪魔……かしら?」

 

「は」

 

オッタルから以前、迷宮内で禍々しい雰囲気を放つモンスターでも冒険者でもない謎の人物と出会った事を聞いていたフレイヤはすぐに勘付く。ベルを襲った者が何者なのかを

 

「いい度胸ね、私のモノを横から掻っ攫おうだなんて……けど相手が悪魔となると少々問題だわ」

 

その悪魔に対してベルを奪われるのではという可能性を危惧し、フレイヤは表情には出さないが若干嫉妬を覚えながらも、ここで無闇にその悪魔に手を出すのは愚策だというのもよくわかっている。

 

「彼等は神々の恩恵すら打ち消す力を持っていて厄介な存在なの、あなたが戦いを挑まずに私の報告しに来たのは正解よオッタル」

「……」

 

魔界の住人たる悪魔であれば、こちらの恩恵を授かった冒険者といえど呆気なくその力を奪ってしまう。

 

いかにレベル7のオッタルとはいえ、そのデーモンという悪魔に挑んでいたら無事にここへ帰還できたかどうかもわからない。

 

彼の賢明な判断にフレイヤは愛おしく見つめながら微笑むと、オッタルは静かに彼女に頷くとゆっくりと口を開いた。

 

「それと悪魔の目的がわかりました、どうやらあの少年の魂を贄として、迷宮地区に封印されている破壊神を蘇らせる事とか……フレイヤ様?」

 

「……」

 

話しを終えたオッタルは彼女の顔を見て思わず身構える。久しく感じていなかった恐怖さえも込み上げて来た。

 

先程まで自分を聖母の如く安らかに笑っていたフレイヤの表情は一変し、真顔でこちらを見下ろし、二つの冷たい目がこちらの心さえも見透かそうとするぐらい鋭く光っていたのだ。

 

「どうしてそれをもっと早く言わなかったのかしら?」

 

「申し訳ありません、どっちを先に言うべきか迷いましたが、とりあえず勘でこっちを後者に回しました」

 

「勘ってあなたね……いいわ、今回だけは許してあげる、あなたにはまだその悪魔の目的が、どういうモノなのか理解できていなかったのでしょうし」

 

深々と頭を下げて謝罪するオッタルをしばし睨みつけた後、ひじ掛けに頬杖を突きながらフレイヤはふぅっとため息をついた。

 

「この迷宮、いいえ、この世界にはかつて破壊神シドーと呼ばれた邪悪な神が存在していたわ、まだ人間がいなかった頃にね」

 

「神、であったのですか?」

 

「アレと同等に呼ばれるのは私としては屈辱的であるのだけれど、確かにあの力は神の力と言っても過言では無かったわ」

 

不機嫌そうにそう断言するとフレイヤは更に言葉を付け足す。

 

「ただひたすらに世界を破壊し尽くす事だけを目的とする邪悪な神、故に他の神々からは破壊神シドーと呼ばれ、それからも数えきれない程の災厄を振り撒く存在だったのよ」

 

「……」

 

「……しかし破壊神シドーの暴走は呆気なく終止符を打つことになった」

 

神々でさえも手が出せないほど凶悪性と残虐性を秘めし破壊の神・シドー

 

そんな恐ろしい怪物がどの様にして倒れたのかオッタルは無言で彼女の次の言葉を待っていると

 

フレイヤはその反応が面白かったのかちょっと勿体ぶりながらも、さっさと終わらせねばと思いすぐにキチンと答えてあげた。

 

「当時はシドー以上に絶対的な力を持っていた神・ゼウスが遂に重い腰を上げて破壊神に戦いを挑んだのよ」

 

「ゼウス……かつてオラリオにファミリアを築いていた……」

 

「ええそうよ、かつて私とロキが結託し、ヘラ・ファミリアと共に潰した男よ、ま、今となってはどうでも良い事だけど」

 

さほど興味がなさそうにポツリと呟き、「話を脱線させないで」とオッタルに注意するとフレイヤは髪をかき上げる。

 

「いかに破壊の神と呼ばれど当時のゼウスには手も足も出なかったわ、容易く敗れた破壊神は、もう二度と復活す事が出来ないようゼウスに”封印の壺”というモノに閉じ込められ、それから今に至るまで二度と蘇る事は無かったわ」

 

「……」

 

「けど今でもその破壊神が眠る封印の壺は存在する、それもこの迷宮のどこかに隠されていると、以前小耳に挟んだ事があるわ」

 

封印された破壊神がダンジョンのどこかにいる……そんな話はオッタルでさえ初耳であったが、フレイヤが言っているのであるのだから絶対の本当の事なのであろう。

 

彼女の語る言葉こそが、オッタルにとっての世界の真実なのだから

 

「その封印の壺は普通の冒険者達では決して見つかる事さえ出来ない所に保管されているみたいだけど……その悪魔さんはもしかしたら既に居所を突き止めている可能性が高いわね、再び蘇らせるために」

 

「悪魔の目的は、この世界に再び破壊神を復活さえ、今度こそ世界を滅ぼそうとしていると……」

 

「シドーに対抗できるゼウスは今、戦いから退き、ファミリアも失い、夢の国に夢中なただの老人。このタイミングを見計らって悪魔はわざわざ魔界から飛び出して動き始めたっという訳よ」

 

「……夢の国とは何ですか?」

 

「オッタル、あなたちょくちょく別の方向に話を持って行こうとするわね……夢の国の話は言わないわ、私に魅了されているあなたでさえあの国の話を聞けば魅了される可能性もあるし」

 

終始冷静に語るフレイヤであったが、オッタルは気付いていた。

 

彼女が今、内心穏やかではないという事を

 

「封印を解くには純粋無垢で清らかな心を持つ者の魂を捧げる必要があるとされている……つまりその悪魔が狙っているのは私と全く同じという事になるわ、私だけが手に入れる事を許されているあの子の魂を悪魔風情がよくも……」

 

「……フレイヤ様、お鎮まり下さい」

 

「っと、少々感情的になってしまったわね、みっともない姿を見せてしまって悪かったわ」

 

「いえ」

 

あの子の事を想うとつい乙女の様な気持ちになってしまう、我ながら愉快な事だとクスッと笑うと

 

悪魔に対する怒りを抑え込んで平静さを取り戻し、フレイヤはいつもの様に微笑を浮かべた。

 

「それではこちらも動くとしましょうか、目的は二つ、破壊神が蘇える前にあの子を救って悪魔を滅ぼす」

 

「では自分が向かいます」

 

「私が言った事をもう忘れたの? 悪魔は神の恩恵を打ち消すのよ、あなた一人でどうこう出来る相手では無くてよ」

 

自分が出向くと立候補するオッタルを疎めると、フレイヤは対悪魔への準備を進める。

 

「故に悪魔とやり合うのであればそれなりに準備をしなければならない、それに有能な人材もね」

 

「では手の空いてる団員を確保しておきましょう」

 

「いいえ、それではまるで私が必死になってあの子を助けようとしてるみたいじゃない、そうなるのだけは絶対に嫌、例え相手が悪魔であろうと神としてのプライドがそれを許さない」

 

 

フレイヤ・ファミリアだけの力で悪魔を滅ぼし、ベルを救出しては、まるで自分が正義の味方みたいだ。

 

そういう役目は自分の柄ではない、フレイヤは恋する乙女であると共に常に周りを操り謀略を巡らせる黒幕としての役目を全うしたいのだ、故にここは自分だけの力で解決するのではなく……

 

「そういえば剣姫もまた悪魔に襲われていたと言っていたわね、さっきはどうでもいいと言ったけれども、もしかしたら使えるチャンスかもしれないわ」

 

「ロキ・ファミリアに情報を渡して剣姫の救出に向かわせると?」

 

「ええ、それと……」

 

有能な彼女が危機に陥ってるとなればロキ・ファミリアだって黙っていられないだろう。すぐにでも助けに向かう筈だ。

 

ここは上手く利用させてもらおうと思いつつ、フレイヤは更なる一手

 

「彼女にも、ヘスティアにもこのことを伝えてあげるべきね。たった一人の我が子がピンチになったと聞いたらどう動いてくれるのか期待できそうだし……」

 

ベルの主神・ヘスティアにもこの事を伝えるべきだとフレイヤは薄く笑みを浮かべながら頷く。

 

当然彼女を気遣ってベルの事を伝えるのではない、そこから彼女がどう立ち振る舞ってくれるのか見たいだけだ。

 

「そうと決まれば私から直接伝えてあげましょう、オッタル、私との同伴を許します、彼女の所へ向かうとしましょう」

 

「は、それならば自分が案内します、場所なら既に割れています故」

 

「あら仕事が早い、けどどうしてわかっているの?」

 

「……実は街中で少々騒ぎが起きていまして、すぐに連中がそこにいるのが知れました」

 

「?」

 

いくら彼であってもそう安々と神の居場所を特定出来る筈が無いとフレイヤが不思議そうに彼を見つめると

 

オッタルはしばしの間を置くと表情一つ変えずに

 

 

 

 

 

「女神ヘスティアが、ロキ・ファミリアの主神・ロキ、そして仏と名乗る不審な神と商品の売り上げ対決をして盛り上がっているのだとか」

 

「……自分の子が大変だというのにあの子もロキも何をやっているのかしら……」

 

これにはフレイヤも思わず顔に出すぐらいに呆れてしまう、ベルとアイズが悪魔に襲われ、更に下手すればこの世界が滅ぶ危機でもあるというのに……

 

それにその2柱の神と共にいる不審な神……

 

「仏……出来れば言葉も交わしくたくないし顔も合わせたくないんだけど……そこにいるとするならば仕方ないわね」

 

彼が以前からこのオラリオに来ている事はフレイヤは当に気づいていた。

 

彼がベルと仲良く街中を歩いている光景を、フレイヤはこのバベルの最上階からよく観察していたのだ。

 

だが実の所、フレイヤは仏の事をあまり好きではなかった、何故なら彼がこういう事に関わると……

 

「面倒事が更に面倒事になるのよねぇ……まあいいわ、体よく扱って上手くこの問題から追い出しましょう」

 

そう言ってため息をつくと、フレイヤはオッタルと共にヘスティアとロキのいる街中へと向かう事にした。

 

仏などという迷惑極まりない存在は必要ない、自分の美貌で魅了させて大人しく消えてもらうと企みながら。

 

 

次回、フレイヤ、イライラする。

 

 

 

 

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