聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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十五説 フレイヤ、イライラする

全身を出来るだけ露出させないように頭からすっぽりローブを被りながら、フレイヤは街中を歩いていく。

 

もし彼女が公に堂々と姿を現せば、それだけで大騒ぎになってしまうからだ。

 

しかし彼女に付き添って歩いている屈強な長身、冒険者としてもトップクラスに君臨するオッタルがいるおかげで、十分に目立っている事に彼女は気付いていない。

 

「何故かしら、姿を隠しているというのに周囲からの視線が……遂に私の美貌は隠し通せなくなるまで昇華してしまったのかしら?」

 

「おお……なんと見事な……」

 

「あらどうしたのオッタル?」

 

「いえ……なんでもありません」

 

ローブの下から目を覗かせて周囲に警戒している自分の横で、許可なく勝手に止まったオッタルに話しかけるフレイヤ。

 

「何か気になる事でもあったのかしら? 私以外に」

 

「大した事ではありません、ただ先程すれ違った下着のみで歩いていた角刈りの男の肉体が……あまりにも鍛えられていたのでつい見とれてしまいました」

 

「ううん大した事あるわ、街中でブーメランパンツ一丁の男が歩いているなんて大問題だから、そしてそれに見惚れてしまうあなたも私としては大問題」

 

平然とした様子で答えるオッタルだがフレイヤは急いで後ろに振り返ると

 

「うわ……嫌なモノを見てしまったわ、夢に出て来そう……」

 

確かに身に着けるモノがパンツのみというマッチョな男がたくましい背中を見せながら歩いているのが見えた。

 

それを見て彼女はすぐに気づく、あの者は人間でありながら神と成った男……

 

「なるほど、相手が神となると町の住人達もあまり強く言えないのね、ましてや関わったら何されるかたまったもんじゃないし……」

 

「神……そういえばロキ・ファミリアのレベル6の冒険者が、筋骨隆々のマッチョな神に襲われたと聞きました、襲われた冒険者は、最近はずっと部屋に引きこもり、何かに怯える毎日を過ごしていると」

 

「……ねぇオッタル、私に対してなんでもかんでも情報を言えばいいって訳じゃないの、なんというかその……生々しい話はしないで頂戴、ちょっと想像しちゃうから……」

 

数時間前に素早く情報を寄越すべしという自分の忠告に従って、真面目な顔で余にも恐ろしい事を話し始めるオッタルに眉をひそめるフレイヤ。

 

一体その冒険者はどんな目に遭ったのか……容易に想像できるが想像したくなかった……

 

 

 

 

 

 

一方その頃、オラリオの中心部ではヘスティアと仏が両者顔を突き合わせて口論をしている真っ最中であった。

 

「ふざけるな! どう見たってコレはボクの勝ちだろ!」

「そんな訳ねぇだろが! この勝負は間違いなく私の勝利だから!」

 

周りの視線も気にせずにギャーギャーと騒ぐ二人、先程から互いに譲らずずっとこの調子で言い争っているのだ。

 

「いいかい仏、ボク達は「どちらがジャガ丸くんを売り上げられるか」という勝負をしたんだよね? ちゃんとそういうルールだと事前に確認し両者同意して始めた、流石に君でもボクの言ってる事わかるよね?」

 

「は~聞いてないんですけど~? そんな俺ルール、否、紐ルール聞いてないんですけど~? え、なになに? そこまでして負けを認めたくないの? いやだって売り上げ見てみ? これ完全に私の方が稼いでるから」

 

「それはほとんどロキが用意したたこ焼きで稼いだんだろ! なんでジャガ丸くん売上対決なのにたこ焼きなんて出してるの! たこ焼きでの売り上げは勝負に関係ない! つまり途中でジャガ丸くんでの勝負を放棄して逃げた君の敗北は極めて濃厚だという事さ!」

 

「仕方ねぇだろ途中でジャガ丸くんの材料切らして! それでロキに買いに行かせたらいつの間にかたこ焼きになっちゃったんだよ! よってこの事に関しては私が本意でジャガ丸くんを裏切ったわけではなく、店の売り上げに貢献するために仕方なく、仕方なく! たこ焼きにシフトチェンジするしか無かったのであります」

 

「そうか、じゃあジャガ丸くん売上対決はボクの勝ちだと認めるという訳だね、たこ焼きは売上の対象外だし」

 

「いやだから! 別にジャガ丸くんだけを売って勝負って決めてないじゃないのー! どうしてジャガ丸くんは良くてたこ焼きくんはダメなのよー!」

 

さっきからずっとこの調子で全く決着が付かない仏とヘスティア。

 

それを離れた所で見ている二人の協力者、リリとロキも呆れて口を挟む気にもなれないでいた。

 

「ぶっちゃけどっちが勝とうが負けようがどうでもいいんですが……本当に神様なのですかあのお二方は?」

 

「いやいや、神なんてモンは案外どいつもこいつも俗物まみれやで? 仏やドチビみたいな人間臭い神なんてそこら中にぎょうさんおるし」

 

「ええ~仏様みたいな神様が沢山……」

 

「粘土持って長い距離を歩くか、ウンコ我慢して長い距離歩くかのどっちが大変なのかってしょうもない勝負した神様もおるらしいし」

 

「それは人間としてもしょうもないレベルですよ……」

 

「結果知りたい?」

 

「いえいいです……オチが大体読めますんで」

 

自分が作ったたこ焼きを食べながら呟くリリにロキがへらへら笑いながら答えていると、そこへ……

 

「こんな所にいたのね、ちょっと探しちゃったじゃない」

「ん? お前は……」

 

背後からスッと現れたローブを被った謎の女性に、ロキは振り返り様にすぐに顔をしかめる。

 

顔は隠していてもすぐに正体を見抜いたからだ。

 

「またこんな街中で堂々と現れるとは、ここ最近の間で随分と変わったやないか、フレイヤ」

 

「フフ、確かにここ最近の私はちょっとおかしいわね、なにか動きたくなる切っ掛けがあったのかしら」

 

「お前が動くとロクな事にならん、出来ればずっと大人しくして欲しいんやけどな」

 

ロキの前に現れたのは美の女神フレイヤとその従者・オッタル。突然の大物の登場にも関わらずロキは至って冷静な態度で冷ややかに返事する。

 

「で? 今回はウチに何の用や? わざわざ自分の所のエース引き連れて来て、今度はなに企んどんねん」

 

「とりあえず二つ否定しておこうかしら、一つは私がわざわざここに出向いたのは貴女に会うだけじゃないわ、女神・ヘスティアにも話しておくことがあるの」

 

「あのドチビに? ふ~ん……」

 

「それと二つ目は、今回企んでいるのは私じゃないわ、ここにはいない別の勢力よ」

 

「……なんやて?」

 

ローブの下から美の女神と呼ばれる相応しい整った顔を僅かに露出させながら、不敵な笑みを浮かべて答えるフレイヤに、ロキはしばし怪しむような目つきを向けながら黙り込んだ後、まだ仏と争っているヘスティアの方へ振り返って

 

「おいドチビ、どうやら仏と下らん争いしてる場合じゃないみたいや、はよこっち来い」

「下らないとはなんだ! これはボクと仏がベル君を賭けた大事な戦いで……ん?」

 

勢いよくバッと振り返って叫ぶヘスティアであったが、ロキの所にふと怪しい者がいる事に気づいてすぐに彼女は目を細めた。

 

そしてそれと同時に彼女と言い争っていた仏もまた当然そちらへ振り返り

 

「おおっと~、コレはコレはコレは紐とロキじゃ到底比べ物にならないすんごいべっぴんさんのお出ましじゃないですか~」

 

「もしかしたら、もういないかもと願っていたけど……やっぱりいたわね……」

 

ヘスティアよりも先に誰だか見破った様子でニヤニヤ笑い出す仏にフレイヤは思いきり嫌そうに顔をしかめた。

 

ここに彼がいるとは事前に把握していたが、やはり顔を合わせただけでもう十分にめんどくさい。

 

「ごきげんよう仏さん、どうしてあなたがこの地にいるのかは知らないけど、ちょっと大事な話があるからあなたは席を外してもらえないかしら?」

 

「ハハハ、嫌です」

 

「……」

 

遠まわしに邪魔だからあっち行けと言ったつもりなのだが、仏はそれを笑顔で拒否。

 

それに対してフレイヤが少々イラッと来ていると、ヘスティアの方は仏をスルーして彼女に話しかける。

 

「君がボクに用事があるなんて珍しい事もあるもんだね、フレイヤ。大事な話とは一体なんだい?」

「……あなたとロキには伝えておこうと思っていてね、実は……」

「私! 美容整形してました! な、なんだってー!」

「……」

「いて!」

 

彼を無視してヘスティアとロキに早速本題を伝えようと思ったその時、またしてもニョキッと下から現れてふざける仏。

 

そんな彼に遂にフレイヤはちょっと力を込め、無言で肩パンをかました。

 

「ふざけないで頂戴、あなたがいると話が進まないわ、お願いだからどっか行って」

 

「ちょっとーただふざけただけでしょー! なにマジに怒ってんのよフレイヤちゃん!」

 

「怒ってないわ」

 

「いや怒ってるでしょ、なぁに~あの男を操る事に関してはピカイチのフレイヤちゃんがなにイライラしてんの~~?」

「……」

 

「いって! そこ! 肩じゃなくて脇腹!」

 

策士であるフレイヤが自ら殴りたくなるほどの衝動に駆られ、話が終わるのにかなりの時間を費やす事になるのであった。

 

 

 

                                                  

 

それからしばらくして

 

フレイヤはようやくロキとヘスティアに例の話を言い終える。

 

アイズとベルがダンジョンで孤立化し、そこで現れたハーゴンという悪魔が破壊神シドーを復活させる為に彼等に牙を剥いたという事を

 

「止めろと言ってるのに仏の奴が邪魔して来たから何度も中断しちゃったけど……とりあえず私の話はこれで以上よ」

 

「お前ホント昔からコイツには遊ばれまくっとるなー、アレやで? お前が嫌がる反応するから楽しんでるんやで仏」

 

「あなたよくこんな人と付き合えるわよね……」

 

ジト目でこちらを見つめて来るフレイヤの表情が新鮮だったので、それを愉快そうに眺めながらロキは言葉を付け足す。

 

「付き合い方わかれば面白い奴やねんコイツ」

「私には一生理解出来ないわ……」

「おい! 仏の付き合い方なんてどうだっていいだろ! それより今大事なのは!」

 

ロキとフレイヤの会話に口を挟んで叫ぶのは、一緒に話を聞いていたヘスティアであった。

 

「ボクのベル君があんな女狐の毒牙にかかりかけてるって事だろ! あ~しばらく見ないと思っていたらまさかそんな目に遭っていたなんて!」

 

「だからリリは言ったじゃないですか! 下らない勝負よりもベル様をお探しする方が先決だと! ヘスティア様はそれでもベル様の主神ですか!?」

 

「いくら神だからって自分の所の子が何も言わずにホイホイとダンジョンへ行くなんて予想できないんだよ! 前々から神でさえ行動が読めない困った子なんだベル君は! だがそこがいい! 神でさえも読めないキミが好きだ!」

 

「知りませんよ! アホな告白してないで反省して下さい!」

 

「おーいお前等、驚くとこそこやないから、悪魔の方やから」

 

急に顔を赤らめてのろけるヘスティアにリリがキレて騒いでる中

 

「なるほど、悪魔……それに破壊神か、随分と懐かしいモンが出てきおったな……確か随分昔にゼウスの奴が封印したって話やろ? そいつを復活させようとするなんてただの悪魔ではないみたいやな……」

 

二人にツッコミながらアイズが被害に遭っていると聞いたロキの方は、至って冷静な様子で顎に手を当て考えている。

 

「ドチビの所の少年はともかく、ウチのアイズならあっさりとやられる心配はないが……いくらあの子でも相手がちと悪過ぎる、こりゃ大至急ウチのファミリアから捜索隊を選ばなアカンわ」

 

「それなら私の所からもオッタルを貸してあげるわ」

 

優秀な人材が揃い踏みのロキ・ファミリアからアイズの捜索、それと悪魔・ハーゴンの討伐および破壊神復活の阻止。

 

 

それらを迅速に進めようと動き出そうとするロキに対し、仏によって狂わされた調子を取り戻したフレイヤが優雅に声を掛ける。

 

「この子の実力はあなたもよくご存じでしょ? いい助けになると思うわよ、この子強いし」

 

「ほ~ん……なにがお望みや女狐」

 

「やあねぇ、いくら私でもこんな事態に無粋な企みなんてしないわよ、相手はあの破壊神、なら派閥争いは一時休戦して、お互いにベストを尽くすべきだと私は考えてるのだけど」

 

「……ふん、ならそういう事にしておこかい、今ここでお前と争っている時間も無いみたいやしな」

 

口では友好的な事を言ってはいるが、フレイヤが動く理由がロキはちゃんとわかっている。

 

どうせヘスティアの所の少年絡みだろう、そうでなければ自分の所の大事な冒険者・オッタルを提供する筈が無い。

 

微笑を浮かべるフレイヤの背後で腕を組みながらオッタルが無言で従う姿勢を見せていると、ヘスティアの傍にいたリリもビシッと手を伸ばして挙手

 

「リリもご同行します! リリはベル様の雇われサポーター! 足手まといにはならないので連れてって下さい!」

 

「よし! ならばボクも同行しよう! 出発はいつだ!」

 

そこへすかさず同じように挙手して同行しようとするヘスティアだが、そこへリリは冷たい視線で振り向いて

 

「いやヘスティア様はいりません、大人しくここでジャガ丸くんでも売って待っててください、ベル様はリリがお助けします」

 

「なにをー! 待ってる事なんて出来るか! だってベル君はもしかしたら今! あのヴァレン某と二人きりで行動している可能性が高いんだぞ!」

 

「そりゃそうですけど……」

 

「悪魔や破壊神なんかよりも! あの女と一緒にいる事が何よりも危険なんだ! だからボクは! 主神として全力でベル君とあの女の仲を邪魔する義務がある!!」

 

「流石はヘスティア様、最低です!」

 

グッと拳を握ってニヤリと笑い、主神としてベルとアイズの間に良からぬフラグが立たないよう全力で阻止する事を誓うヘスティア。

 

ダンジョン内部に神々が侵入する事は固く禁止されているのだが、これはもう絶対に付いてくる気だ……

 

そしていつもならこういうタイミングでヘスティアに、仏が呆れや様子でツッコミを入れるのだが……

 

「やっべ~……あの二人行かせちゃったの私じゃん……これ、バレたら間違いなくコイツ等に酷い目に遭わされない?」

 

一人みんなから少し離れた所で、誰にも聞こえない様に細心の注意を払って独り言を漏らす仏

 

フレイヤの話を聞いていた彼はすぐに気づいたのだ、アイズとベルが二人してダンジョンの中へとホイホイ行ってしまったのは、他でもない自分がやってしまった事が原因だと

 

「なんとしてでも最後までバレず、かつ私のせいで二人が死んでしまう様な事だけは絶対に避けなきゃならないなコレ、もし私のせいであの二人死んじゃったら……流石に目覚めが悪いぜ~」

 

いくら仏でもこの事には多少の罪悪感は覚えている様だが、そこはやはり仏、この事態が起こった原因を周りにバレずに隠蔽する事を即考えていた。

 

「これは、やるしかないみたいだね~、ヨシヒコ達は今向こうの世界で魔王と戦ってるから呼べないから……」

 

そして仏は一つの結論に達する。

 

誰も死なせず

 

悪魔を倒し

 

破壊神の復活を阻止し

 

かつ自分が助かる為の道を。

 

 

 

 

 

「この私が新たな勇者と呼ばれるに相応しい逸材を、この世界で探す他ありませんな~」

 

元々細い目を更に細くさせながら仏は静かにそう呟いて決心するのであった。

 

この世界で今、仏の新たな勇者探しが始まる。

 

 

次回、銀髪天パ、立候補する。

 

 

 

                         

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