前回のあらすじ
なんか仏がよく知ってる魔物達がこっちの世界のダンジョンに沢山出て来た
「しつけぇんだよテメェ等!」
どんどん下に潜って行き。ダンジョン中層に差し掛かった頃、またもや魔物襲来を受けるパーティー
出会い頭にベートの回し蹴りが相手の魔物にヒットすると、笑顔を浮かべた緑色のドロドロの形をした、今まで見た事のない不可思議な物体の魔物は跡形も無く飛び散る
「け、見た事ねぇモンスターだがこんなの全然大した……あ?」
だがその瞬間、先ほどまでピンピンしていたベートの体がグラリと揺れる。
「チィ……! あのドロドロ野郎毒持ってやがったか……!」
「だ、大丈夫ですか!? さっき毒を治癒するのに使えると思われる草を拾って来ましたけど!?」
「いらねぇよ! 馴れ馴れしくすんじゃねぇ!」
魔物の最後の抵抗を食らってしまい思わぬ毒攻撃に怯むベート、そこへリリが慌てて駆けつけるも彼は即座に彼女の支援を拒否。
「余所のファミリアの助けなんか借りれるか! こんなの歩いていればその内……ぐ! なんか歩く度に体力が減ってる様な感覚が……」
「こんな所で意地張ってたら死にますよ? あの未知なモンスターはリリ達が知らない特性を持っているんです、ほら、仏様曰く、このどくけしそうを食べれば治るみたいなんでさっさと食べて下さい」
「いやちょっと待て!? その草を丸ごと食えって言うのかテメェ!? ぐえ!」
数歩歩く度にみるみる体から力が抜けていくという得体の知れない毒にかかったベートに、リリは顔をしかめながら右手で掴んだどくけしそうと呼ばれるこれまた得体の知れないアイテムを無理矢理ベートの口の中に突っ込むのであった。
そしてベートが毒を治しているその間も、未知なる魔物達は次から次へと現れる。
数多の修羅場を経験してきているリューとオッタルでさえも、新たなる脅威を前に色々と手を焼いていた。
、
『ホイミスライムはホイミをとなえた、じごくのハサミはかいふくした』
「治癒魔法を詠唱も無しに一瞬で……?」
「あのクラゲの様な見た目をしたモンスターは厄介だな、早急に叩いておいた方が良さそうだ」
『じごくのハサミはスクルトをとなえた、しゅびりょくがあがった』
「そちらの回復したばかりのカニみたいなモンスターも厄介ですね、先程からどんどん硬くなっていって手が付けられない……」
「うむ、素早く突破したいというのにこの2体を同時に倒すとなると、少々手間がかかりそうだ」
先程ベートが倒したドロドロの魔物と同じ系統の魔物なのだろうか、同じように笑顔を浮かべつつ仲間の魔物達を次から次へと回復させていく。
更に緑色に光るカニみたいな魔物の方は、守備力をどんどん上げていき、物理攻撃が全く効かないでいた。
これにはリューとオッタルもどうにかして同時に2体を倒す事が出来るのだろうかと頭を悩めせていると……
「イオラ!」
二人の背後で不意に叫び声が聞こえたと思ったら、突然謎の爆発がドォン!と手こずってた魔物2体を巻き込んで吹っ飛ばしてしまった。
これには滅多に感情を表情に出さないリューも目を見開いて後ろへと振り向くと、そこには謎のアイテムを両手に持ってポカンと口を開けているリリ一人
「す、凄いですよこの『巻物』ってアイテムは! ここに書いてある言葉を叫ぶだけで誰でもその呪文を使えちゃうみたいです!」
「巻物? 聞いたこと無いアイテムですね……一体どこで手に入れたんですか?」
「皆さんがモンスターと倒した後に、何体かこういった不思議なアイテムを落とす事があったのでリリが全部拾っておいたんです、そしたら仏様が珍しく親切にそのアイテムの効果を一つ一つ説明してくれて」
「仏が、ですか?」
仏と聞いてリューの眉がピクリと動く、彼が話の中に現れると一気に胡散臭くなるからだ。
「どうしてあの仏がそんな事を知っているのでしょう、ダンジョンに潜る機会のある私達でさえ見た事のないアイテムを、あんなしょぼい神が把握しているとはいささか怪しいですね……」
「まあリリもそれには同意見ですけど、あのウザいだけの仏様にも役に立つ所があるとわかったんだから良いんじゃないですか?」
仏に対してはあまり信用できないと思うリューだが、リリは肩をすくめてあまり気にしなくてもいいのではと提案する。
「おかげでこうしてリリが拾ってるアイテムのおかげでさっきから現れる不思議なモンスターもなんとか対処できてますし、深く考えずにこのままガンガン進んでベル様を助けに行きましょうよ」
「確かに詠唱も魔力も無しに使える上にあの威力、更には誰もが扱う事が出来るとなると、もはや先程の巻物というアイテムは魔剣クラスの代物」
「そういや使ってみて気付きましたが、かなり凄いアイテムでしたねコレ……」
リューの言う通り、リリが使った巻物はどんな者でもデメリット無しで強力な呪文を扱えることが出来るという、この世界では非常にレアなアイテムだ、当然今の今までそんな代物がダンジョンに落ちていたことなど一度とも無い。
「そんな大層なモノが普通にモンスターを倒しただけで手に入るというのは少々引っ掛かる、もしかしてさっきから現れるモンスターとそのアイテムは何かしらの共通点があるのでは?」
「そう言われれば気にはなりますけど……もしかしたらこの不思議なアイテムやモンスターの謎も、ハーゴンとかいう悪魔が関与してるのかもしれませんね……」
「そしてそのアイテムの使い方を把握している仏……なんでしょうね、元々きな臭いと思っていたが今は更に怪しく思えます……私達に何か隠してるのでは?」
そう言ってリューはちらりと後ろに振り返る。
そこには神の中で最も信用できないと言っても過言では無い仏が、こちらに引きつった笑みを浮かべてニコニコしていた。
「なになに? どうしたどうした~? 仏は別に、な~んにも隠し事はしてないよ~?」
「……すごく怪しい、ちょいと手足の指を一本ずつ折って尋問した方がいいかもしれない」
「おい! そういう物騒な事を冗談でも言うもんじゃないよ全く! 仏怒っちゃうぞ! プンプン!」
「いやもう怪しいとかそんなの関係無く、ただ全力であのふざけたツラをぶん殴りたい」
「リリはそれに激しく同意しますが、こんな所であんなの相手にしてる暇ないんですからほおっておきましょうよ……」
腕を組んで「プンスカプンプン!」とかふざけた怒り方をしている仏に対し、リューは真顔でグッとこぶしを握りしめるが、面倒だから相手にするのは止めておこうとリリがジト目で制止する。
「今は一刻も争う時なんです、リリ達の敵は仏様ではありません、ベル様のお命を狙うハーゴンとかいう悪魔なんです、こんな所で無駄話してないでさっさと先へ進むべきだとリリは進言します」
「……確かにそれが私達にとって一番成すべき事ですね、私とした事がすっかり我を忘れていました。御助力感謝します、随分前にあなたの腕の骨をへし折らなくて良かった」
「いやあの時はマジで死ぬのかと思いましたよ……まあリリがベル様のナイフをくすねたのですから全面的にリリが悪いんですけど……」
ただのサポーターとしてでなく参謀の片鱗が現れ始めているリリからの真っ当正論を聞いて、リューは素直に頭を下げて彼女の意見に従う事にする。今は仏や不思議アイテムや謎の魔物よりも大事な事があるのだから
「それでは先へ進むことにしましょう、ところでオッタルさん?」
「なんだ?」
悪魔討伐の為に再び歩みを進めようとするリューだが、ふと前にいたオッタルが気になったので話し掛ける。
「……何故、この状況で普通にそんな大きなパンを食べているんですか?」
「先程倒したモンスターの一匹がドロップしてな、つい美味そうだから食べてみた」
「モンスターがドロップしたモノを躊躇なく食べるのは冒険者としてどうかと思いますが……」
「極めて美味だった、それと不思議と腹が満たされて体調がよくなった」
「……味の感想や効果を聞いている訳ではないんですが」
オッタルの右手に収まっているのは自慢の得物の大剣ではなく手の平に収まらない程に大きなパンであった。
それを食べた事によって彼の消耗しきっていた体力は著しく回復したみたいだが、一体彼はどうしてそんな不可思議なモノを食べてみようと考えたのであろう……
まじまじと見つめられながらもパンを食べるのを止めないオッタルに、リューはどうリアクションを取ればいいのか困っていると、そこへようやく毒から回復したベートがヨロヨロとした足取りで戻って来た。
「クソったれ……まさかあんな草食って毒が回復するなんてどうなってんだ一体……」
「あなたも無事に復帰できるみたいですね、ではダンジョンの捜索を続けましょうか」
「おい、仕切ってんじゃねぇぞ鉄仮面エルフ女」
頭を押さえながらまだダルそうにしているベートをリューが促すと、彼はそれにカチンと来た様子で彼女を鋭い眼光で睨みつける。
「冒険者から脱落した負け犬がこの俺に対してなに偉そうにしてんだ殺すぞ」
「全く、こっちはこっちで常にイライラしてて対応に困りますね、ワガママな子供を相手にしてるみたいで少々面倒だ」
「ああん!?」
「ちょっとちょっと! 喧嘩は止めて下さいよ!」
ボソッと呟くリューの言葉に敏感に反応して今にでも彼女に飛び掛かりそうなベートに、慌ててリリが仲裁に入る。
「リリ達は先を急ぐんです! 仲間割れしてる場合じゃありません!」
「うるせぇ誰が仲間だ! 俺はテメェ等なんかを仲間だなんて思ってねぇよ! サポーター風情が俺に生意気抜かすな!」
「落ち着けベート」
止めに入ったリリにも苛立ちを募らせながら噛みつくベートだが、そこへ今度は冒険者の中でも屈指の実力者であるオッタルが静かに歩み寄った。
「先程からお前は随分と苛立っているな、それはきっと空腹による思考の低下だ、という事でこのパンを食べろ、パンは良い、パンは全てを救う」
「それでなんでテメェはこんな所でパンなんか食ってんだよ! てかいらねぇよ!」
「いいから食え」
大男が無表情で危険地帯でパンを食べるというなんともシュールな絵面に思わずベートがツッコミを入れるが
それを無視してオッタルは強引に自分が食べてるモノとは別のパンを彼に押し付ける。
「騙されたと思って食ってみろ、心が落ち着くぞ」
「なんなんだよ一体、お前等ホントにふざけてんじゃ……」
どいつもこいつも偉そうにしやがってと思いつつも、腹が減ってるのは事実なのでしかめっ面を浮かべながら彼は頂いたパンを一口齧ってみるベート。
すると突然「う!」と苦しそうに顔色を悪くさせ
「ちょ、ちょっと待てオイ……このパン滅茶苦茶腐ってんじゃねぇか……!」
「そうなのか? ふむ、同じようにドロップしたパンだったんだが……どうやらそれは俺が食べた「大きなパン」ではなく「腐りきったパン」というモノなのだろうか、なるほど、パンにも種類があるのだな、実に奥深い」
「感心してんじゃねぇよ! うぐお! また体から力が抜け始めた……! 毒食らった時よりもやべぇ!」
多少満腹度が上がったみたいだが、それと同時に力の低下と体力が徐々に減っていくのを強く実感するベート。
それを見て魔物が落とすパンにも当たりとハズレがあると理解した様子でオッタルは強く頷くと、腹を押さえて苦しんでいるベートに背を向けて
「何はともあれコレで静かになったな、では先を急ぐぞ」
「そうですね、彼も大人しくなってくれましたしこのまま順調に行くとしますか」
「うおぉぉぉぉぉぉ!! 人を陥れといてなに普通に歩き出して……うがぁ!」
「なんだかとことん災難ですねベートさん……まあ気をしっかり持ってください、その内元に戻ると思いますから」
苦痛に悶えてすっかり大人しくなったベートをよそに、オッタルとリューはさっさと先へ進み、リリは弱ってしまっている彼の背中をさすりながら優しく連れて行ってあげるのであった。
悪魔・ハーゴンがいる所へはもう少しだ。
「いやー、みんな頑張ってるねー」
「おい仏」
「んんー?」
そしてそんな彼等と少し距離を取って後ろを歩いている仏はというと
同じく一緒に歩いているヘスティアが腕を組んで怪しむように彼をじっと見つめて話し掛けていた。
「あの子達を騙し通せても、同じ神であるボクの目を欺こうだなんてそうはいかないよ、あのヘンテコなモンスターやよくわからないアイテムが現れるようになってから、どうも君の様子がおかしいんだよね」
「……やっぱバレた?」
「それにアイテムの仕組みをあの子達に説明してあげたり、モンスターの事も理解しているみたいだし、一体何を隠してるんだいキミは?」
「うーん、実はね……」
どこか抜けているヘスティアと言えどやはり女神、仏の誤魔化しなどとうの昔に見抜いていたのだ。
一瞬いつもみたいにすっとぼけて無視するのも手だと思う仏だったが、これ以上隠していると後々更に厄介になりそうだと考え、ボソッとヘスティアに向かって小声で……
「あの魔物とアイテム……ぶっちゃけ私の世界の代物っぽいんだよね……」
「はぁ!?」
「うん、つまり~、なんらかの理由で私が管理してる世界が、こっちに関わってるっぽい……」
その衝撃的な事実に思わず声を大きく上げてしまうヘスティア。
どうやらこの悪魔討伐とベルとアイズの捜索、思った以上にめんどくさい事になりそうだ……
次回、仏ファミリア、超ピンチ