ダンジョンは奥へ進む度により困難を極めていた。
リリが魔物に道具を盗まれて所持していた回復アイテムを失ったり
リューが宝箱だと思って開けてみたら人食い箱で頭から一気にかじられたり
ベートが突然現れた魔物が経営するお店でこっそり商品をパクろうとしたら、滅茶苦茶強い店主に半殺しにされかけたり
オッタルがダンジョン内でうろついていた片言で話す神父にパンを恵んでもらうと、試しに「分裂の杖」というアイテムを彼に向けたら神父が増え始め、おかげで複数の神父から同じようにパンを恵んでもらえたり
とにかく色々と大変なイベントが起こり、ここに来るまでかなりの時間を費やしてしまったのである。
「いやオッタルさんだけ酷い目に遭ってないですよね……リリ達が災難な目に遭ってる傍で、一人黙々とあの変な神父から頂いたパンを食べ続けていましたよね……」
「悪いが俺は、お前達と比べて、少々腕が、立つ、これしきの、事では全く、苦戦にもならない」
「も~パン食べながら喋らないでくださいよ~、口からポロポロとパンくずこぼれてるじゃないですか」
セリフの合間にちょくちょくパンを食べ続ける自分よりもずっと格上のオッタルに、リリは女性と話す時の対応では無いと非難の目を浴びせる。共にいる時間は短いとはいえ、やや天然気味のオッタルの扱い方がわかってきたご様子。
「しかし嫌になりますよホント、ここに来るまで色々と変な事に遭遇してばかりで心身共に疲れちゃいました。ベル様を見つけた暁にはたくさん褒めてもらわないと割に合いません、そしてあわよくば吊り橋効果でベル様との関係に更なる進展を……」
「ほほぉ、ボクを差し置いて君はそんな下心を隠し持っていたのかい、やはり真に警戒すべきはあのヴァレン某よりも君の方かもしれないね」
「……ホント神様ってのは神出鬼没に現れますね、呼んでも無いのに……」
リリが一人ポツリとベルとの更なる進展を企んでいると、彼の話をすれば瞬く間に駆けつけて来る厄介な女神・ヘスティアがジト目で彼女をジッと睨みつける。
「残念ながらボクが共に来ている限り、そうなる可能性は全くのゼロだという事をこの場でハッキリと宣告しておくよ」
「神の宣告って奴ですか?」
「そうそう、ライフを半分に削る代わりに魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚するのを無効にして破壊するという序盤に出たカードにも関わらず中々の有能……ってそうじゃない! 話をズラすな!」
「いや話をズラしたのはヘスティア様ご自身ですけど……いきなり意味の分からない事言われてリリは困惑しつつあなたの正気を疑います」
自分でボケて自分でツッコむというこんな状況下でよくもまあそんな事出来るモンだとリリが呆れていると、ヘスティアはプリプリ怒った様子で勝手に話を続ける。
「いいかい? もしボク等がベル君と再会した時、彼はまず最初にどんなリアクションを取るかわかるかい?」
「ベル様の事ですからリリ達の顔をみるなり大層驚かれた後、心配かけてごめんなさいと何度も頭を下げて、その後皆様一人一人にお礼を言うのでは?」
「お、おぉ……思ってた以上に彼の性格を熟知しているね、そこは素直に評価しようじゃないか……」
真顔で冷静にベル・クラネルの対応の仕方を述べるリリに、頬を引きつらせてヘスティアは中々やるなと思いながらもすぐにフッとドヤ顔を浮かべ
「だけど残念ながらそれだけじゃ不正解なのだよサポーター君、確かにそういう対応をするのも彼らしいなのだけれど、そこへボクがいるとなると話は別だ」
「はぁ、そうですか」
「きっとベル君は心の底から敬愛する女神が目の前に現れ、なおかつ助けに来たと知った時……彼は短い人生の中で味わった事のない程の深い喜びを覚え、泣きながらボクに抱きついて来る筈さ」
「はぁ、そうですか」
「お、おい! さっきと同じ返事じゃないかそれ!」
恥ずかし気も無く己の勝手なイメージをを膨らませるヘスティアだが、
そんな彼女に付き合ってられるかと、曖昧な返事をしながらそっぽを向いて前の方へ歩き出すリリ
「さては適当に相槌を打ってるだけだな! ボクとベル君の間にある何人たりとも超える事の出来ない強い絆がある事に嫉妬して!」
「はいはいそうですかわかりました、よくわかったんでもうしばらく大人しくしていてください」
「えぇ……いくらなんでもその素っ気ない態度は本気で傷付いちゃうんだけど……」
予想以上に過酷なダンジョン捜索によってストレスが溜まり続けているおかげで、普段よりも素っ気ないリリに素で傷付くヘスティア。
しょんぼりして落ち込む彼女にオッタルが励まそうとしているのか、無言で持っていたパンを分けてあげている中
リリはふとある事に気付いた。
「そういえば先程からリューさんとベートさんの声が聞こえないんですけど、だいじょう……」
ふとここにいるのが自分と、オッタル、そしてヘスティアしか見えない事に気付いてリリは辺りをキョロキョロと見渡してみる。
「あ、あれ?」
そして気付いた、共にパーティーを組んで行動している筈のリューとベートが忽然と消えてしまっている事に
おまけにあの仏もいない、まあアレは最悪その辺でくたばっていようが構わないのだが
「も、もしかしてはぐれちゃったんですかね……そういやあのアイテムを売ってるおかしなモンスターに襲われた時、皆さん仲間そっちのけで我先に逃げ回ったのは覚えてるんですけど、もしかしてその時……」
「あの時か、確かにあのモンスターは俺でさえも苦戦する程に凶悪だった、ベートがアイテムを盗もうとする前はかなり親切な気前のいいモンスターだったんだが」
「基本的にこちらの命を全力狙っているモンスターが、親切にアイテムを売ってる方が異常なんですけどね冒険者的に考えると……」
どうやら仲間の事など気にせずに皆で自分が助かる事だけを考えて逃げ続けた結果、いつの間にかパーティーがバラバラになってしまっていたらしい。
オッタルは落ち着いているがリリはどうしたモンかと頭を悩ませた。パーティーが分断されたとなれば戦力も同時に下がる、現に今この三人でまともに戦えるのはオッタル唯一人
「これはあまりよろしくない状況ですね……急いでリューさんとベートさんと合流しないと……」
「仏の事も忘れないでやってくれよ、アレはアレでここで起きてる超常現象に対しての知識を持ち合わせているんだから、今だけは役に立つ存在なんだよ今だけは」
「いかに俺とて予想も出来ない状態の中ではお前達を護りながら先へ進むのは難しい、一刻も早くあの者達を見つけよう」
「……そう言いながらなんでお二人で仲良くパン食べてるんですかね……」
ハーゴン討伐の前に仲間との合流を優先すべきだと決めたものの、リリの前で大きなパンをモグモグと食べ続ける緊張感の欠片もないヘスティアとオッタルに、彼女はますます不安を覚えるのであった。
一方その頃、リリ達と別れてしまったリューとベート、おまけに仏はというと
「あぁぁぁ~! お告げの最中だってのに敵来ちゃった! おいむっつり! やっちゃえやっちゃえ! やっちゃえバーサーカー!」
「は? すみませんよく聞こえませんでした、そちらの敵はそちらで片付けておいてください」
「も~どんだけ心無いのよこの子~! だから器だけじゃなくても胸も大きくならな……いって!」
さっきからずっと同じ場所で魔物達に襲われている真っ最中であった。
次から次へと現れる魔物達に襲われながらも、仏はタイミングの悪い中でどうやら「お告げ」という仕事をしている様子で、こちらにも攻撃しようとしてくる魔物達から逃げ惑いながら別世界にいる勇者にお告げを下しつつリューに助けを求めるのであった。
しかしそんな中でもつい余計な事を言ってしまう仏に、リューは無言で彼の背中に蹴りを入れて転倒させる。
「あなたは一々ふざけた言葉を抜かさないと気が済まないのか」
「そうです~! 仏はむっつりを弄り続けるのが大好きなんです~! 反抗的な奴には燃えちゃう性格なんです~!」
「この仏、開き直って遂に本性を現したか、ならば助ける義理も無いという事でそのままモンスターに食われてしまいなさい」
「あーウソウソごめん! 嘘付いた私! やっぱ本当は寂しがり屋なの仏! 独りぼっちでほったらかしにされると寂しくなって死んじゃうの!」
相手が神であろうと容赦なく見捨てようとするリューの冷徹な判断に、仏が慌てて手を伸ばして彼女に助けを求めると
「うらぁ!! ウザってぇんだよプルプルしやがって!」
「やだ! 冷たいむっつりに変わって本当は優しいベート君!」
「うるせぇ! 俺はここにいるモンスターを倒し尽くそうとしてるだけだ! テメェなんかを助けようとした訳じゃねぇ!」
そこへ駆けつけたのはまさかのベートであった、仏の周りにいたにこやかに笑う水色とオレンジ色、そしてブチ模様の付いたなんとも形容しがたい小さな魔物達を蹴りで豪快に吹っ飛ばしていく。
「クソったれ! どんだけ出てくるんだコイツ等は!」
『くさったしたいがあらわれた』
『ミイラおとこがあらわれた』
『キラーマシンがあらわれた』
「だぁぁぁぁ~~!!! 次から次へとゴチャゴチャと!」
倒したと思いきやすぐに新たな魔物が飛び出してくる、この延々と繰り返す行動にかなりイライラしている様子のベートは頭を抱えて叫び声を上げる。
彼は知らないだろうがここのフロアは別名『モンスターハウス』
その名の通り魔物達が所狭しに湧いて来る危険度の高い場所なのだ。
「いくら片付けてもキリがねぇ! さっさとアイズを助けに行かねぇといけねぇのにめんどくせぇ!」
「そもそもここに私達が逃げ込んでしまった原因は、あなたがあの恐ろしいモンスターからアイテムをかすめ取ろうとしたからなんですけどね」
「終わった事で一々文句垂れてんじゃねぇよ! 誰だって予想付かねぇだろ! 俺達が束になってもビクともしねぇ強ぇモンスターが敵意も出さずにアイテムを売ってるなんてよ!」
口喧嘩をしつつも魔物との戦いを続けるリューとベート、なんだかんだで二人共腕が立つおかげで、ほとんどの魔物を順調に倒し続けている。このままいけばこのフロアからの脱出も可能かもしれない。
「うわぁどうしよ、ヨシヒコの所もう魔王のいる城に入っちゃったよ、あっちもうすぐエンディングだよきっと……さっさとこっちの問題片付けないと最終回に間に合わないんだけど私」
「知らねぇよ! いいからテメェは落ちたアイテムでも拾ってろクソ仏!!」
「おい、おい待て、クソ仏ってなんだよ、仏の上にクソなんて言葉を付けるっておま、どんだけ罰当たりなんだよ? 仏の上にクソって、まるで私の頭の上にウンコ乗っかってるみたじゃん」
「あ~どいつもこいつもめんどくせぇ~~~!! もうモンスターだけじゃなくてテメェ等もまとめてぶっ殺してぇ~!」
しかし仏はというとこんな状況下でも相変わらずふざけまくりで一人で勝手に焦っている。
おかげでベートのイライラは常にマックスの状態を維持しており、その怒りを攻撃力に加算させる事で難なく魔物達をやっつけていた。
「他の連中はどっか消えちまったし、チッ、やっぱ急ごしらえのパーティーなんざと協力し合えるなんてハナっから無理な話なんだよ、さっさとアイツ等も回収しねぇと、あ~うざってぇ……」
「パーティー……あ、そういえばあの二人ともう一人の神がおりません、今気づきました私」
「おせぇんだよバカ! 少しは周りの状況に関心持て! どんだけ薄情なんだテメェは!」
「すみません、少々戦いに集中しすぎて周りに気を遣う余裕を持てなかったみたいです」
文句を垂れながらも自分以上にドライなリューに自らツッコミを入れるベート。
なんだかんだではぐれた仲間との合流も、彼はキチンと考えていたみたいだった。
「さっさとここ片付けて奥へと進みつつアイツ等とまた集まるぞ! わかったな!」
「彼等の事を心配しているのですか? なんだ、口が悪い割には意外と良い所あるんじゃないですか」
「うるせぇ殺すぞ! アイツ等が死のうがどうでもいいが、まだ俺の役に立てるなら拾ってやろうと思ってるだけだ!」
「ベート君、仏はちゃんとわかっていたよ、君が本当はベジータ系ツンデレキャラだった事をちゃんとわかっていたよ」
「お前も殺すぞ! ベジータって誰だよ!」
リューと仏によってすっかりいじられキャラが定着しつつあるベートをよそに戦闘は続き
しばらく二人で魔物の掃討を続けていると、仏がふと「ん~?」と顔をしかめて目を細め始めた。
「ちょい待ち、なんかこのまま進んだ先に、なんか建てられてるのが見えんだけど?」
「あ? 何も見えねぇぞ」
「普通の人間には見えないだろうけど、私の力、仏アイを使えばバッチリ見えんのよ」
「その開いてるのか閉じてるのかよくわかんねぇ目でか?」
「ちょ! さり気なく毒づいて来るなよベート君! コレは生まれつきなんだからしょうがないでしょ! ていうかお前の所の主神の方が開いてるのか閉じてるのかわかんねぇだろ!」
ベートにちょこっと仕返しをされながらも仏は細い目を更に細めて前方を指さした。
「あっちにね、館? 明らかにこの辺じゃ浮いてる様なモンが建てられてる」
「館? 妙ですね、この辺じゃそんなの一度見かけたことありませんが、もしやそこに悪魔が……」
仏にははっきりとその姿が見えていた。
薄暗くも大きく開けたその場所にそびえ立つ、いかにもおどろおどろしい雰囲気を放つ不気味な館を
それを聞いてリューも珍しく彼の話に反応した。
「ま、何はともあれ行ってみましょうか、もしかしたらあそこにクラネルさんがいる可能性もありますし」
そう呟くと彼女は無表情ながら彼が指さした方向を見据えて手に持つ細剣を構える。
蛇が出るか竜が出るか、否、悪魔が出るか破壊神が出るか全く読めない館へと向かう事を決心するのであった。
しかしその前にやる事が一つ。
「おいアマァ! さっさとコイツ等片付けろ、さっきからこの死体とミイラがしつぇけんだよ! もう一匹は連続攻撃がうぜぇし目から変なモン撃って来るし!」
「まだその連中に手間取っていたんですかあなた? それにしても気味の悪いモンスターですね、正直あまり近づきたくない」
「そんな事言わないで上げてよ~あんな魔物を仲間にして共に戦う勇者だっているんだから~、はい、何を隠そうそれがウチの所の勇者、ヨシヒコです」
「……あんな魔物を引き連れる者が勇者と言えるのですか?」
「ああいう魔物を惹きつける力があるからこそ、勇者と呼べるんです、はい」
兎にも角にもここにいる魔物達を倒さねば目的の館へ向かうのは難しそうだ。
リューは再びベートと共に、後ろからゴチャゴチャ言う仏を連れながら魔物の討伐を進めるのであった。
次回、潜入、蝋人形の館