聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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二十七説 勇者、見参

悪魔神官ハーゴンの失踪と共に復活し、更には真の正体を露わにした破壊神シドー。

 

彼をこの世界に連れてきた元凶である仏は適当な事を言ってまさかのトンズラ

 

一同は仏に対しての怒りを燃やすと共に、なんとしてもシドーをかつての全知全能なる絶対神・ゼウスの様に倒す事となったのだ。

 

しかしそれは当然、一筋縄ではいかず……

 

「ハカイ……! スベテヲハカイスル……!」

 

『破壊神シドーはジゴスパークを唱えた』

 

「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「神様ァァァァァァァ!!!」

 

天井から巨大な雷の柱が何本も降り注がれ、冒険者だけでなく女神ヘスティアも標的にされているのか必死に逃げ惑う。

 

暗いダンジョンが一面が眩しくなるほどの強烈な光が放たれると共に、地面を深くえぐる凄まじい電撃は見ただけで、当たったらタダでは済まないと明確に理解出来る。

 

「ア、アイツ! さっきまで飄々としたじぃさんだったのにいきなり容赦なくボクを襲ってきたぞ! 見た目だけじゃなくて中身まで変わってるじゃないか!」

 

「やっぱり破壊神と呼ばれてるだけあって同じ神でも容赦ないんですね……」

 

「全く、どうせ同じ神を狙うんならロキとかいう無乳に一発電撃ぶっ放してほしいよ、それと逃げた仏にも」

 

「ちょ! 不謹慎ですよ神様!」

 

人間状態の時とは性格も口調も変貌し、片言で喋りながら次々とパーティーを襲う破壊神

 

無詠唱で唱えた呪文にも関わらず、彼の繰り出す今まで聞いた事も見た事ない不可解な呪文は、どれもこれも恐ろしく対処する事さえ難しかった。

 

「我ノモトメルモノハ……ハカイノミ……!」

 

『破壊神シドーはしゃくねつを吹いた』

 

「うおぉぉ!! なんでさっきからボクばっかり狙うんだ! ヴァレン某を狙ってくれ!」

 

シドーの口から放たれた巨大な獄炎が逃げ回っていたヘスティアに向かって勢いよく飛んで来た。

 

しかしそこへ傍にいたベルが彼女抱きかかえ

 

「危ない神様!」

 

「うわ! ちょ! ベル君! まさか君がそんな積極的に!」

 

間一髪のところでその炎を回避する事に成功する。獄炎は瞬く間にヘスティアがさっきまでいた位置で燃え盛り、辺りをドロドロに溶かし始めている。

 

「あ、危ない所でしたね……神様、慌てるのは良いんですけど、油断してるとあっという間にこんがり焼かれちゃいますよホント……」

 

「ま、まさか君にお嬢様抱っこして助けて貰えるなんて……! う~ん、破壊神の奴も中々いい仕事してくれるじゃないか……」

 

「あの~……殺されかけたのにどうしてニヤニヤしてるんですか神様?」

 

両腕で抱き上げたヘスティアはこの世界の命運を賭けた戦いの中にいながら、一人うっとりとした表情で笑みを浮かべている。

 

やはり神となるといかなる状況でも余裕なんだなと呑気にベルが考えているのも束の間

 

「ぐぬぬ……! 状況わかってるんですかヘスティア様は……! ベル様見ていて下さい! これがリリの本気です!!」

 

「え!?」

 

ご満悦の様子でベルに抱き抱えられているヘスティアを見て嫉妬の炎を燃やすのは偶然その場に居合わせたリリ。

 

この戦いも、そして”もう一つの戦い”も絶対に負ける訳にはいかないと対抗心を剥きだした彼女は、ベルに向かって叫んで注目してもらいながら、懐からとっておきの物を取り出した。

 

「どうですかこの杖! ここに来る前に商売をしていたモンスターからちょいと”失敬”して手に入れた値打ち物ですよ!」

 

 

えっへんと胸を張ってリリが取り出したのは雷のマークが先に付いたいかにも凄そうな杖であった。

 

実はこれ、以前ベートがこっそり盗もうとした事で襲いかかってきた店主の魔物が出していた商品で

 

ベートが襲われている隙にリリがコッソリと店主の目を盗んで拝借していたのだ。

 

「この戦いから逃げやがったクソ仏様が言っていたのですが、この杖は魔剣と同じ性能で、リリみたいな力のない者でも使用回数はありますが魔法を放てるらしいです! そしてこの杖の名前は「ゴッドスパークの杖」! どうですか凄い強力な呪文が放てそうでしょう!」

 

その杖の性能や名前はあの忌々しい仏から聞いた事だというのに関しては渋い表情を浮かべるリリであったが、それでもこの状況を打破するキッカケとなるのであればと彼女はその杖を勢いよく構えて破壊神に向ける。

 

しかしベルはというと慌てて首を横に振って

 

 

「いやダメだよリリ! いくら凄いアイテムでも盗みなんてしちゃ! そういう事はもうしないって約束したじゃないか!」

 

「う……」

 

「後で僕と一緒にその店主さんの所に持って行って謝りに行こう! 謝ればきっと許してもらえるから!」

 

「そ、そんな真似したら100パー殺せちゃいますよ! ベル様は知らないでしょうがあの店主ホント半端なく強いんですからね! 盗んだことは謝りますが今はとにかくリリの活躍を見ていてください!」

 

リリが盗みを働いたことを良く思わなかった彼に怒られ、ちょっとショックを受けて怯むリリだったが

 

こんな状況で言い争う暇は無いと、彼女は破壊神に杖の先端を向けながら力強く叫ぶ

 

「これが私の全身全霊のとっておき! マスター……! じゃなかったゴッドスパーク!!」

 

「グ、グヌゥ……!」

 

その叫びと共に杖の先端から凄まじい電撃が神々しく輝きながら放たれると

 

瞬く間にシドーの巨大な全身を包み込んで、少しずつ彼にダメージを与え始めたではないか。

 

「見て下さいベル様! あの破壊神を相手にしてなんとこのリリが倒す事までは出来ませんでしたが、見事に動きを止める事に成功しましたよ! あ……」

 

「あ……」

 

先程自分が放った呪文よりも強力な電撃を浴びせられ、そのおかげで動きが鈍くなってしまったシドーを指さしてリリが喜ぶのも束の間、ゴッドスパークの杖が彼女の手の中でボキッと虚しく音を立てて折れてしまった。

 

「……ど、どうやら一回限りだったみたいですね、アハハ……で、でもリリの活躍はお見せ出来ましたよね!?」

 

「……弁償しようリリ、かなり高価なモノだったらしいしいくらかかるかわからないけど……僕も手伝うから」

 

「うわーん! どうしてこうなるんですかー! リリはただベル様に褒められたかっただけなのにー!」

 

 

自分の活躍よりも商品を盗まれた店主の事を気に掛けるベルに、リリが不満げにむしゃくしゃした様子で折れた杖を地面に叩きつけていると

 

「ングオォ!」

 

「あなたの相手をしている暇はない」

 

リリの呪文のおかげで動きがしばし止まったシドー目掛けて颯爽と飛び掛かり、涼しい顔で豪快に斬りかかる者が一人。

 

剣姫の異名を持つアイズである。

 

「あぁ! 見て下さい神様! 破壊神が怯んだ隙にアイズさんがカッコよく戦ってますよ! 相手が相手なのにやっぱりアイズさんは勇気があるな~」

 

「ぐえ! ボクのベル君に戦う勇姿を見せつけて誘惑するって魂胆か……!」

 

アイズの華麗な剣技を目の当たりにして思わず抱きかかえていたヘスティアを思わず地面に落っことしてしまう。

 

そして彼女を指さしながらキラキラと目を輝かせる恋する少年・ベルを見上げながら、お尻をさすりながらヘスティアもまた先程のリリと同じように

 

「負けるな破壊神! そんな小娘相手になにを手こずってんだ! 仮にもボクと同じ神ならそんな相手コテンパンに叩きのめせ!」

 

「何言ってんですか神様!? いくらなんでも怒りますよ!? 僕だって怒る時あるんですよ!?」

 

嫉妬というより憎悪に近い炎を燃やすのであった。

 

そしてリリもまた彼女と同じくアイズに負けてたまるかと彼の方へ駆け寄って

 

「ベル様! リリだって先程も活躍した筈なんですが!?」

 

「あ、リリは壊れた杖の破片を拾っておいて、壊れていても一応店主さんに謝る時に持っていかないと」

 

「この緊迫したラストバトルの中でリリがやるべき事は杖の破片を拾う事!? あんまりじゃないですかチクショー!」

 

ベルに言われてリリは泣く泣く壊れた杖の破片を拾い始めていると、アイズだけでなく別の者達も、破壊神に倒される訳にはいかないと次々と彼に挑み始めていった。

 

「おいアイズ! この俺を置いて先陣切るなんざいい度胸じゃねぇか!」

 

「私はただ邪魔だから斬っただけ」

 

シドーの真下に立っていたベートは尋常じゃない脚力で軽々とその巨体の上を颯爽と駆け上ると

 

「だがこのデカブツをぶっ飛ばすのはこの俺だぁ!」

 

「グルアァ!」

 

破壊神シドーの顔面にまで到達すると、豪快な回し蹴りを思いきりお見舞いするベート。

 

その動きの速さについていけずにまともに食らってしまったシドーはヨロヨロと後ろに後退する。

 

しかしそれを逃さず……

 

「ああ兄貴よ、どうして俺を置いて先に逝ってしまわれたんだ……まだまだ俺は兄貴と情熱的な思い出を作り始める途中であったというのに……」

 

魂を破壊神に奪われてしまった事に嘆き悲しみながらも、その眼はまっすぐ兄貴の仇である破壊神に標準を定め

 

最強の冒険者・オッタルが右手で持った大剣を振り上げたまま力強く地面を蹴って……

 

「俺の兄貴を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「グフッ!」

 

兄貴に対する愛と共にオッタルが振り下ろした大剣は、シドーの体を両断しかねない程の鋭い一撃が入り

 

今まで以上に強烈なダメージが入った事でシドーが押され始めているとそこへ追い打ちをかけるかの様に

 

「いきなり大きくなったと思えば、結局大したことありませんね、典型的な見掛け倒しだ」

 

「!?」

 

未だオッタルの一撃に苦痛で顔を歪ませているシドー目掛けて、容赦なく彼の額目掛けて剣を突き刺そうと飛んで来たのは

 

元冒険者にしてレベル4のリュー。

 

「チェックメイトです」

 

「ゴギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

冷めた目つきで見下ろしながら、彼女が彼の額目掛けて深々と剣を突き刺すと

 

シドーは断末魔の叫びを上げながら激しく悶え、遂にその巨体を揺らして大きな音を立てて崩れ落ちるのであった。

 

「え、ウソ……もしかして僕が戦う前に終わっちゃいました?」

 

そしてそれを唯一戦いに介入できなかった冒険者であるベルは、ただただ口をポカンと開けて呆然と見つめるしか無かった。

 

「いやその……破壊神を倒せたのなら嬉しいとは思うんですけど……その戦いに参加せずに終わってしまったというのは僕の立場上どうなんでしょうか……」

 

「いいんだよベル君、危ない事は全部彼等に任せよう、君はただなんの危険にも遭わずにただただボクと平穏に生きていればそれでいい、ヤバい事は他人に任せ、安全な場所で高みの見物、それこそがベル・クラネルの人生なのさ」

 

「うぅ、嫌だなぁそんな人生……」

 

自分の肩に優しくポンと手を置いて、危険と対峙するよりも生きる事が大事と静かに諭してくるヘスティアに対し

 

それは冒険者として正しいのかと納得いかない様子でベルが顔をしかめていると……

 

「ハカイ……ハカイ……! ワレノノゾミハハカイダァァァァァァァァァ!!!!」

 

『破壊神シドーはかがやくいきを吹いた』

 

「!?」

 

倒れていたシドーが突然雄叫びを上げながら、勢いよく口から凍てつく氷のブレスを放ったのだ。

 

どうやら彼等の怒涛の連携攻撃を食らってもなお、まだまだ戦える余裕があったらしく、その氷のブレスは自分の顔の上に立って油断していたリューを容赦なく襲う。

 

「く、私とした事が……!」

 

「リューさん!」

 

「来るな! あなたまで巻き添えにしてしまう訳にはいかない!」

 

近距離から破壊神の攻撃を食らってしまったリューは、全身に凍傷のダメージを負い、更に足元が凍り付いて身動き取れない状態にされて地面に転がってしまう。

 

そこにベルが慌てて駆け寄って助けに行こうとするも、それだけはダメだといつも冷静なリューが声を荒立てて彼の介入を拒否する。

 

「あなたはこんな所で死んではいけない、あなたには帰りを待ってくれる人がいる、血に汚れた私なんかの為に、あなたが命を賭ける必要なんてない」

 

「必要ありますよ! リューさんにだって待ってくれている人がいるじゃないですか! お店の人達やシルさんだってきっとあなたが無事に帰ってくる事を願っているに決まってるじゃないですか!」

 

こちらに来るなと警告する彼女に対し、ベルは一切の躊躇も見せずに彼女の傍へと駆け寄って行く。

 

目の前で破壊神が新たに攻撃を始めようとしている緊迫した状況下で

 

「それに僕も同じ気持ちです! こんな所であなたを死なせる訳にはいかない! 一緒にオラリオに帰りましょう!」

 

「全く……あなたは冒険者失格だ」

 

既にこっちは破壊神の一撃を食らっただけでボロボロだというのに、こんな体である自分をまだ助けようとしてくれるのか……

 

冒険者は時に非情な決断、助からない仲間を見殺しにする事さえもよくある事でしかない。

 

いかなる時も情に流されず、目の前で起こった現実を受け止めて対処するのが一流の冒険者だというのに、レベル2になってもベルはとことんお人好しであった。

 

「でもそれがあなたの強みだとしたら……そこに惹かれたシルの気持ちも少しは理解出来ます」

 

「ブツブツ言ってないでここは一旦下がりましょうリューさん! 動けないなら僕が肩を貸しますから!」

 

「やれやれ、意地でも私を助けるつもりですか……こういう時は頑固ですねホント、シルとそっくりです……」

 

これはもう何を言っても諦めてくれないだろうと、折れたリューは首を横に振り、傍にやって来た彼の肩にそっと手を回そうとした次の瞬間……

 

「ギィィィガァァァァァァァァァ!!!!」

 

「「!?」」

 

そこへ破壊神シドーが遂に攻撃を開始する。

 

再び口から放たれたのは凍てつく氷のブレスではなくその前に放った煉獄の炎。

 

「クソ! このままじゃ僕達二人共美味しくこんがりと焼かれてしまう!」

 

「美味しくどころか骨も残らない程に消し炭にされそうなんですか……」

 

既に強い熱気を感じながら、みるみる近づいて来る紅蓮の炎を前にして、リューに肩を貸しながらベルが悔しそうに歯が身をしている中、彼女は一人こんな状況でも静かにある事を思い出していた。

 

それはあの仏が去る間際に言っていたあの言葉……

 

「やはり、アストレア様に代わって英雄とやらを授けるというのはいつもの法螺だったのですか、仏?」

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「え!?」

「?」

 

もはやここまでかとリューが諦めかけていたその時

 

突如背後から咆哮を上げながらこちらに向かって駆け寄って来る足音

 

ベルと彼女がその初めて聞くその声に反応するのも束の間、破壊神シドーの放った「しゃくねつ」は二人をあっという間に飲み込み……

 

「せい!」

「「!?」」

 

かと思われたのだが、なんと背後から颯爽と現れた”何者”かがその炎の前に立つと、両手に持った剣でその炎を真っ二つに引き裂いたのである。

 

この紫のターバンとマントを付けた男は一体……

 

「凄い、破壊神の攻撃をあっさりと止めてしまうなんて……」

 

「……何者ですかあなた?」

 

突然現れた謎の男にベルが素直にその強さに驚いている中、リューが静かに自分達を助けてくれたその人物に尋ねると、男はゆっくりと彼女達の方へ振り返った。

 

 

 

 

 

「私は、ヨシヒコ、勇者ヨシヒコだ」

 

世界の危機に颯爽と現れた勇者ヨシヒコ

 

再び新たな地に召喚された彼は、また一つ新たな伝説を作る。

 

 

 

次回、勇者、帰りたがる

 

 

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