「新しい呪文を覚えたよ」
「いきなりなんだよ! てかおっせぇよ!」
破壊神シドーが封印され、世界の凶悪が再び眠りについた時(その代わりにまた一つ恐ろしい神が再降臨してしまったが、色々満足し終えた後何処か彼方へと消えて行った)
ようやく事が済んだ状況で、突拍子も無いことを皆に呟くメレブにムラサキがいつもの様にキレた。
「まあ別にお前がどのタイミングで呪文覚えようがど~でもいんだけどね~、どうせしょうもないのしか使えないのわかってるし」
「バカ、ムラサキバカ、その隣にいる巨乳女神のおかげでより貧乳が表現されるペッタンコウーマン、今俺が手に入れた呪文は、冒険にとっても、とっても役立つ呪文なのだ!」
どうでも良さげにしかめっ面を浮かべる彼女をせせら笑うと、自信満々に杖を掲げてみせるメレブ。
するとヨシヒコはいつもの様にスッと一歩前に出て
「メレブさん今度は一体どんな呪文を覚えたんですか、掛けて下さい、今すぐ私に掛けて下さい!」
「出た~ヨシヒコ君ったらホント呪文に掛かりたがるんだからも~!」
「冒険に役立つ呪文……?」
自ら立候補して呪文を体験したがるヨシヒコに、メレブはなんか嬉しそうに笑っていると
冒険に役立つと聞いてベルもまた恐る恐る一歩前に出て
「あの~それで強くなれるのだったら是非僕も……」
「おお~! なになにベル君まで呪文掛けて欲しいの!? いいねぇ~! 俺の呪文、異世界でも人気あるね~!」
「止めておいた方が良いですよベル様、この人から放たれるとてつもない胡散臭い雰囲気、きっとろくでもない呪文だとリリの女の勘が囁いています」
「黙れ、小娘黙れ、その見た目で女と名乗るとか片腹痛いからマジ黙れ」
自ら立候補したベルに警告するリリを疎めながら、メレブは機嫌良さそうにヨシヒコと彼に新たな呪文を掛けようとする。
だがそこへずっと黙っていたアイズが無表情でスッと手を挙げて
「……興味あるから私も」
「おうマジか!? 魔法使いの巨匠・メレブ様が行うドキドキ呪文体験ツアーに三人も参加するとかマジか!? いや~三人も欲しがるとか、このいやしんぼ共めッ!」
ベルだけでなくアイズまでもが志願して来たので、メレブはウキウキしながら「この世界超好き~!」と叫んだ後、いつもより大袈裟に杖を振り被りながら三人に向かって
「それじゃあご期待に備えてお披露目しましょうかな~!」
「ほい!!」
「「「?」」」
対象は複数に掛けられる呪文であったのか、ヨシヒコ、ベル、アイズに同時に呪文が掛かったかのようなSEが流れた。
しかし三人共まるで変化はなく実感も沸かないらしい。
「メレブさん……一体私にどんな呪文を掛けたんですか?」
「フフフ、ヨシヒコよ、とその他二名、今俺が掛けた呪文はなんと……」
「ダンジョン内で、突然バッと見知らぬ魔物と唐突な出会いを体験できる効果があるのだよ」
「魔物との唐突な出会い!?」
「うむ、掛かった者はもれなく、それはそれは珍しい、今まで一度も会った事のない魔物と、曲がり角とかでキャッ!とか言いながらバッタリぶつかっちゃうとかそういう出会いが訪れる事となる、俺はこの呪文を心の隅でひっそりと……」
「「ダンジョンで珍しい魔物と出会ってしまう事は間違いだろうか?」略して「ダンマチ」と、名付けたよ」
「効果もしょぼい上に名前まで適当だなオイ!」
「むしろ自ら魔物と遭遇する率を上げてる時点でただ足引っ張るだけのアホ呪文じゃないですか!」
得意のキメ顔で呪文の名前を発表するメレブにすぐ様ツッコむのはムラサキとリリ。
しかし彼女達に対して彼はすかさずキッと振り返って
「愚か者め! 珍しい魔物と出会う事! それは勇者であれば誰もが望む願い! 俺はそれを一回限りではあるが特別に叶える事が出来るのだぞ!」
「なんで勇者だったら望むんだよそんなの! 珍しい魔物と会えて嬉しい訳ねぇだろ!」
「いいかムラサキよく考えてみろ! まずレアな魔物と出会う、次にその魔物を倒す、結果レアだから凄い報酬が貰えるかもしれない! つまり強くなれるチャンス!」
自ら魔物をおびき寄せる事になんのメリットがあるのかと疑問に思うムラサキに、メレブはやや興奮した面持ちでこの呪文の利点を語り出す。
そして呪文を掛けられた当人であるヨシヒコはというと「凄い!」と叫び
「これならあの!”銀色のヌメヌメのスライム”に出会って経験値稼ぎ放題ですね!」
「う~んヨシヒコそれはゴメン、この呪文は掛けられた奴がまだ一度も見た事のない魔物と一度だけ遭遇できるモンなの、だから発見済みの魔物と何回も出会えるって訳じゃない、人生も呪文もそんな甘くない、魔物おびき寄せる「くちぶえ」は普通にあるけど」
「銀色ヌメヌメスライム……」
やはり万能という訳ではなく決定的な欠点があるらしく、ヨシヒコの狙いにメレブが申し訳なさそうに苦笑する。
しかしアイズは一人目の色を変えてボソッと呟く。
「もしかしたら今の私なら……ヌメヌメに会えるかもしれない……」
「ヌメヌメ……あぁそういえばアイズさんずっと探し求めていましたね、銀色のヌメヌメ……」
元々彼女がここまで来た目的はメレブが教えてくれた、レベルを一気に上げる事が出来るという超レアな魔物を見つけ出す事であった。
そしてメレブの呪文の効果で、現在の自分はその念願の目的が叶えられるまたとないチャンスなのかもしれないとアイズがベルの横で考え込んでいると……
「フハハハハハハッ! 呑気に談笑している暇が貴様等にあるのかぁ!?」
「「「「「!?」」」」」
突如ゆったりとした雰囲気を切り裂く様な笑い声を上げながら何者かが現れた。
一同はすぐ様声が下方向に振り返ると、そこに立っていたのはマントをバッサバッサと翻し、逆立った髪と独特なメイクが施された顔が特徴的な……
「悪魔神官ハーゴン! ここに再び参上ぉ! おい貴様等ぁ! 破壊神様を封印出来たからって全て丸く収まったと思ったら大間違いだぞぉ!」
「……メレブさん、あれ誰ですか?」
「いやぁ……俺も知らない、誰? とりあえずなんか格闘技とか詳しそう」
シドーが復活した頃合いに雲隠れしていた筈のハーゴンが、事が済んだこの状況で空気も読まずに再登場。
しかしヨシヒコ一行は彼とは完全に初対面なので、一体誰なのだと首を傾げるとベルが間に入って。
「あれは破壊神を復活させようと企んでいた悪魔のハーゴンって方です……」
「うへぇ、すっかりあの悪魔の存在を忘れてましたよリリ、途中から完全に空気になってましたしね」
「まあアイズさんが一人で簡単にやっつけっちゃった相手だからね……」
「フハハハハハ! そう言ってナメた態度を取っていると後悔するぞ貴様等!」
この期に及んでアイズに瞬殺されたハーゴンが現れても特に危機感を覚えないベルとリリであったが
破壊神倒されてもまだこの狡猾なる悪魔には策があるらしく、懐からあるモノを高々と掲げる。
「コレが目に入らぬかぁ!」
「ああ! アレは仏様が破壊神を封印する時に使った!」
「夢の国でのみ手に入るお土産用のクッキー缶!」
ベルとメレブは同時に驚いて、彼が掲げたモノを慌てて指を差す。
それは恐るべし破壊神が封印する時に使ったクッキー缶であったのだ。
「貴様等が浮かれている間に! 吾輩が回収しておいたのだぁ! 来れさえ手にすればもう怖いものはない! もう一度破壊神様をこの世に呼び戻して見せようぞ! フハハハハハハッ!」
「コレは流石にヤバいですね、アレが復活したらまたあのしつこい破壊神と戦わなければいけない事になってしまいます」
「うむ、ヨシヒコはよ取り返してこい、流石に2回もアレと戦うのはマズい、何故ならもうこっちの予算は完全に尽きている、それに何より……読者がもう完全に飽きている……!」
「ベル様! 急いで奪い返さないとまた面倒な事になっちゃいますよ!」
「うん! 今度こそあの悪魔を倒さないと!」
高らかに笑い声を上げながら今再び野望を叶えて見せようと意気込むハーゴンを
ヨシヒコとベル、それとアイズも無言で剣を構えてハーゴンに挑もうとする。
だがその時
突如彼等の視界がフッと暗くなると……
「あれ? なんか急に暗くなったけどどうした? 遂に照明にまで金かけられなくなった?」
「メレブさん! あの男の頭上を見て下さい! 何かとてつもなく大きなモノが!」
「お? おぉぉぉぉぉぉぉ!?」
顔をしかめてメレブが困惑しているとヨシヒコが慌ててハーゴンの真上を指さすので、それに釣られて顔を上げるとすぐに素っ頓狂な声を上げてその場に腰を抜かした。
メレブ達が頭上を見上げるとなんとそこには
未だかつてない、長く冒険していたヨシヒコ達でさえ一度も見た事がない魔物
頭に王冠を付けた超巨大な銀色のヌメヌメしたスライムが笑みを浮かべて現れたのだ。
『はぐれメタルキングがあらわれた』
「うおぉぉぉぉ!? な、なんだこれは! こんな魔物を召喚した覚えなど吾輩は……! うぐへぇ!!!」
『ハーゴンはたおれた』
「なんかとんでもなくヤバいスケールの奴が一瞬でアイツ踏み潰した! ええ!? 何アレ俺超困惑!」
「つかアレじゃね? もしかしてお前が使った呪文の効果で出て来たんじゃね?」
「おお、そうか!」
怯えるハーゴンをそのまま笑顔でプチッと潰してしまった謎の銀色ヌメヌメビッグスライム。
それを見てムラサキはふとメレブが使った呪文の効果と思い出し、それを聞いて彼も納得したように手をポンと叩く。
「俺のダンマチを掛けた相手は三人! つまり三人が見た事のない魔物と出会う事が出来る! つまり今正に! 目の前にいるコイツこそが……!」
「私がずっと探し求めていた銀色ヌメヌメ……!」
「う、うぅん……ちょっとサイズが大きめだけどね~……ちょっとというかかなり……」
メレブの呪文のおかげでようやく念願の魔物と出会う事が出来たアイズは、無表情ながらも目を輝かせ
明らかに喜んでいるっぽいのでメレブも余計な事は言えずただぎこちなく笑みを浮かべる。
「アレ倒せば相当経験値貰えるだろうな……レベル50はいくんじゃね?」
「!?」
「レ、レベル50ぅ!?」
ボソリと呟いたメレブの一言にアイズとベルは一瞬我が耳を疑うモノの、すぐに得物を構えて魔物と対峙する。
「絶対に倒す……!」
「頑張りましょうアイズさん!」
「呪文とか効かないし滅茶苦茶堅いの忘れないでね~、あと戦闘長引くと多分逃げるからそいつ! ってあれ? ヨシヒコ?」
意気込んで倒しに出向くアイズとベルに後ろからメレブが声を掛けていると、彼の隣にいつの間にか何事も無かったかのようにヨシヒコが立っていた。
「ヨシヒコはアレ? 倒しに行かないの、銀色ヌメヌメビッグスライム?」
「はい、私は彼等とは別の目的があるんで」
「ん? と言うと」
「私は……」
経験値目的のアイズ達とは別の狙いがあるらしく、ヨシヒコは懐から突然骨付きの肉を取り出して
「是非アレを仲間にして、自分のスライムを失って傷心しているであろう異世界の女神に贈ってあげようと思います」
「ん、ん~~~~? それはすっごく優しい心遣いだけど、流石にあの女神(バカ)でもここまで大きいスライムは受け止めきれないかとぉ~?」
「おいビッグヌメヌメ! ここに肉があるぞー! おーい!」
両手に骨付き肉を掲げてスライムに向かって大声でアピールするヨシヒコを見送りながら
メレブは見守るように微笑みながら「いや案外いけるかも、アイツバカだから」とここにはいない別世界の水の女神を思い出してふと懐かしむのであった。
かくして破壊神を封印し、黒幕であるハーゴンも無事に倒され、アイズが追い求めていた魔物とも遂に巡り合う事が出来たのであった。
残す事はただ一つ
ヨシヒコ、そして仏がこの世界とお別れする事である。
次回、エピローグ
メレブのせいで長くなったので次回こそ完結しようと思います