聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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八説、ゼウス、息子に会う

オラリオから抜け出し、仕事もさっさと切り上げた仏は、ゼウスと一緒に夢の国を絶賛堪能中であった。

 

「あースプ〇ッシュマウン〇ン! 久しぶりに乗ったけどすげぇヤバかったー!」

 

「はぁ、お前がせがんだから仕方なく乗ったけど……やっぱこのジェットコースターだけはマジビビるわい……」

 

「ハハハハハ! だってお前、滝から落下する時に手すりをガッツリ掴んでたモンな!」

 

「うっせ! 夢の国を愛するわしでも苦手なアトラクションの一つや二つあるもんじゃ!」

 

背後から数名の悲鳴が聞こえてくる中で、仏はすっかり楽しんでる様子で

 

先程の乗ったアトラクションでちょっとお疲れ気味のゼウスと共に再び次のアトラクションへと向かう。

 

「特にシーの落下する奴がもうマジでヤバい、毎回昇る時に「あー乗らなきゃよかったー」って心底後悔する」

 

「それは私もわかる、さっきもコレ乗った時に何度も落下するから、「あ、これ私死ぬわ」って思わず非常用の出口無いか探してた」

 

「でも最後の滝から落ちた後の達成感が半端ない」

 

「そうそう! すんごいテンション上がってもう一回乗りたいって思っちゃうんだよね! だってほら! テンション上がり過ぎてついそこで写真買っちゃったもん!」

 

「あるあるじゃな」

 

嬉しそうに顔をほころばせながら、落下した時の写真を見せて来た仏にゼウスは満足げにうんうんと頷く。

 

夢の国をガイドしている者として、相手が楽しんでいるのを見ると、こちらとしても満足感があるのだ。

 

「ん? てかその写真でわし等の席の前にいる水色頭の娘はもしや……」

 

ふと写真に見知った顔がいるのを確認してゼウスが目を細めると、仏は若干顔をしかめて

 

「どういう訳かコイツも来てたんだよ……しかもウチの勇者連れて……コイツの隣に座っている奴が、ウチの勇者です」

 

「なんと、そう言えば前の席で必要以上にギャーギャーと喚き散らす奴がいるなと思っていたがあのアホ女神じゃったか……」

 

水色頭の娘、名前は忘れたが仏同様ロクでもない奴だったのはハッキリと記憶している。

 

彼女の数々の奇行を思い出しながらゼウスもまた顔をしかめつつも、彼女の隣に写っている紫色のターバンの男にも目を向け。

 

「それとお前が担当している勇者は、儂と同じでガッチリと手すりを掴んでおるな」

 

「よく見てみ、お前とウチの勇者、縦一列で全く同じポーズしてんの! なにこのどうでもいい奇跡? てか両手離した方が怖くないからね?」

 

「いやそれはよく言われるけども、まずそれを試す時点での恐怖心に勝てないから無理、いかに儂が全知全能の神であろうと、この者が勇者であろうと、あの状態から手を離す恐怖に勝てない時は勝てないと断言する」

 

「奥さんに不倫バレた時とどっちが怖い?」

 

「んー、そりゃやっぱりカミさんの方が怖いかな?」

 

落下する時に両手を離して万歳するのと、嫉妬深くて有名な奥さんに隠し事を見破られた時と比べたら

 

流石に圧倒的に後者の方が怖いと真顔で頷くゼウス。

 

それに仏は「だったら浮気すんなよ」と言いたげな視線を向けながら、持っていた写真を大切に手提げ袋に仕舞って再び夢の国での活動を再開する事に。

 

「よし、そんじゃゼウス君、次に乗るアトラクションを決めて下さい、仏はもう全部あなたに任せますんで」

 

「任せとけ、んー時間もそろそろ夕方じゃし……そろそろモンス〇ーズイン〇のファストパスがギリギリ残ってる筈じゃからそっちに向かおう、そんでファストパスを取ったら、モンス〇ーズイン〇の近くにあるス〇ーツアー〇を乗りに行くぞい」

 

「いやも本当にすげぇな……頭の中で先の先の予定まで考えてるなんて、なのにどうして不倫した時は後の結末も予想せずにつっ走ろうとするんだろうね」

 

「そりゃまあ……そこに素敵な女性が現れたら、その瞬間男ってのはなにも考えられずに夢中になっちまう馬鹿になるんじゃよ」

 

「うんまあ……私としてはね、それはわからなくもないのよ、本当に、実を言うと私もね、前に色々遭ったし……」

 

あっさりとした感じで答えたゼウスに、仏はちょっと暗い表情でか細い声でた。実を言うと彼も以前不倫がバレてえらい事になった事があるのだ。

 

それにゼウスは「テメーも浮気した事あるならこっちの浮気をイジってくるんじゃねぇよ」と言いたげな視線で睨み付けながら、予定通りに済ませる為に話を切り上げて歩き始めた。

 

「まあ、それはともかくとして……そういった複雑なモンは忘れてさっさとこの国を楽しむぞ、夕方になったからと言ってまだまだ遊ぶ時間はたっぷりとある、全アトラクションを制覇する勢いで歩き回るぞ」

 

「そうっすね~、嫌な事は忘れて今をとにかく楽しまなきゃな、せっかく夢の国に来たんだし」

 

「辛い事も悲しい事もここでは全て浄化される、さあ行くぞ仏、こっからもっとはしゃぎ倒すぞ」

 

気を取り直してゼウスは仏とと共に不倫事情やら怖いカミさんの事も忘れて、ただこの日を精一杯楽しもうと意気込む。

 

しかしふと、ゼウスは一人の人物が向かいから来るのを見つけて目を細めた。

 

「む? も、もしやあの男は……!」

「なになに、どったの? あ、なにあのすげぇ筋肉モリモリのイケメンマッチョマン?」

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「っておい! またどうしたジジィ! 血圧上がるから走んな!!」

 

仏の制止も振り切って、突然ゼウスは向かいにやって来た男の方へと駆け出して行った。

 

その男は屈強な肉体を惜しげなく披露し、口からキランと光る歯を出しながらにこやかに笑っている。

 

これ程までに爽やか過ぎるイケメンはいないだろうと断言できるその男に対し、ゼウスは急いで駆け寄ると

 

「久しぶりだなぁ息子! 元気にしてたか!?」

「うそぉ!? おま! え!? マジで!? そのイケメン、ゼウス君の息子!?」

 

いきなり嬉しそうな声を上げながらゼウスはその男に向かってすぐに手を差し出した。

 

男が笑顔でそれに応えてガッチリと握手している光景を眺めながら、仏は信じられないという表情で追いつく。

 

「おいおいマジかよお前の息子! 夢の国の住人だったのかよ! てか全然顔似てねぇな!」

「バカ言うなどう見ても瓜二つじゃろ! なあ息子よ!」

「いやいやいや! こんな爽やか好青年がお前に瓜二つなわけがない!!」

 

ゼウスの言い分に仏がすかさず叫んで否定すると、息子の方はこちらにも輝く歯を見せながら手を振ってくれる。

 

見た目だけでなく中身までも素晴らしい好青年だ。仏はますます「絶対違うだろ……」と首を傾げた。

 

「てかホント、マジでカッコいいわこの人……長身でムキムキでイケメン……やだ、ウチのヨシヒコよりもずっと勇者っぽい」

 

「勇者、か、まあ確かに巷ではヒーローと呼ばれて民衆を沸かせておるからな、そんじょそこらの男とは比べ物になる筈無いわい、なにせ儂の息子だし」

 

「おい、ウチのヨシヒコはそんじょそこらの男だと思ったら大間違いだぞ! あんな奴がそんじょそこらにいたら世の中終わりだっつうの!」

 

「なんでフォローに回ろうとしたお前が最終的に乏す側に回っておるんじゃ」

 

自分が導いている勇者の事を軽くバカにされたと感じた仏はすかさずカチンと来て訂正しようとするが、結果的にその勇者がまともな奴ではないと思いきり告白してしまう仏。

 

ゼウスはそれに怪訝な様子でツッコミを入れると、再び息子の方へと振り返り、何か名案を思い付いたかのように「あ!」と声を上げ

 

「そうじゃ息子! お前ちょっとわしの孫に会って来てくれんか!? そんで孫に力を貸して一人前の男に導いてやってくれ!!」

 

「うぉいジジィ! それは流石にヤベェだろ! 息子とはいえ夢の国の住人だぞ! いくらなんでもそれはマズいって!」

 

「いや! コレはまたとないチャンスじゃ! 我が孫を導いてくれる強き存在が欲しいと思っていた所に、颯爽と目の前に現れた我が息子! これはもう神のお導きに違いない!」

 

「神はお前だろうが!!」

 

突然の無茶振りを息子にし始めるゼウスに流石の仏も何を考えてるんだと強く叫ぶ。

 

いくら息子だからって相手は夢の国の住人、余所の所へお邪魔するなど言語道断、出来る筈がない。

 

しかしなんと、ゼウスからの頼みに息子はしばらく腕を組んで頭を捻って悩む仕草をすると

 

 

 

 

グッと親指を立てて、まさかの「引き受けた!」というポーズを取りながら輝く笑顔を向けて来たのだ

 

「よっしゃあぁぁぁぁ!!! 孫への土産ゲット!!」

「え、うそぉぉぉぉぉ!?」

 

頼み事を快く引き受けてくれた彼にゼウスは勝利のガッツポーズ、その後ろで仏は仰天の表情。

 

「じゃあ頼むわ息子、あと悪いけど、今からでも行って来てくれない?」

「おい考え直せ息子! お前が行くとマズいって! ベル君だっていきなり叔父さんがやってきたらビックリしちゃ……ってもう行っちゃったよ!」

 

仏が慌てて呼び止めようとするも、既に息子は颯爽と駆け出しながら口笛を吹いたかと思いきや

 

突如空から舞い降りた真っ白なペガサスに飛び乗って、あっという間に飛んで行ってしまい見えなくなってしまう。

 

「流石は夢の国の住人! 行動力の早さ半端ねぇ!」

「ベル、ビックリするじゃろうなぁ」

「いやぁ~……もう私知らないからね?」

「さあ、孫へのプレゼントも済ませたし、改めて遊ぶとするか」

「あーなんだろう……なんかちょっと、ヨシヒコ達の気持ちがちょっとわかった気がする」

 

ゼウスという自分勝手で無茶苦茶な事を平然とやらかしてしまう神を見て

 

いつもお告げを下しつつヨシヒコ達を度々振り回す自分を省みて

 

仏はほんのちょっぴり反省するのであった。

 

 

 

 

 

なお、次のアトラクションに乗った瞬間、そんな反省の気持ちも忘れる模様。

 

「やっべー! なんだよジジィ! お前反乱軍のスパイだったのかよ!」

「おい! ここに通い続けて遂に初スパイになれたぞわし! でもやべぇ! このまま捕まったら帝国軍にやられる!」

「べーダーさーん! このジジィ! このジジィがスパイです!」

「おいバラすな! 全力逃げ切れC-3〇O!」

 

アトラクションの中でひたすらはしゃぎ回る大の大人二人組は

 

その後もひたすら夢中になって夢の国を満喫するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、祖父と仏が物凄くめっちゃいい笑顔で楽しんでいる頃

 

ゼウスの孫・ベル・クラネルはめっちゃヤバい顔でピンチになっていた。

 

「ヤバい! 未だかつてない程の大ピンチだ!!!」

「ベル様逃げましょう! とにかくただ逃げる事だけを考えましょう!!」

 

彼とお供であるリリは現在ダンジョンの中を探検中だった。

 

今回はあまり遠出はせずに、そこそこ稼いだらすぐに退散するというスタンスで

 

難易度の上がる中層には行かず、上層を一通り攻略したらさっさと帰ろうと思っていたのだ。

 

だがどういう訳か、上層でモンスター狩りを続けていた彼等の所へ思わぬ客人が……

 

「なんでですか! どうしてあんな大量のミノタウロス達がこんな上層で現れるんですか!」

「僕にもわからないよ! もしかしたら前みたいに中層から上って来たとか!?」

「いやそりゃ1体2体ならわかりますけども! どう見てもアレ! パッと見で30体はいますよ!?」

 

ベルとリリが必死に逃げている背後では、ベルにとっては何かと縁が深いあの恐ろしいミノタウロスが

 

ザッザッザッと隊列を乱さず大人数でこちらへと迫って来ていたのだ。

 

「完全にリリ達だけを狙ってるかのようにこちらに向かって来ますよ! これ絶対おかしいです! 絶対に誰かが意図的にミノタウロスになんらかの仕掛けを施したに違いありません!」

 

「一体誰がそんな事を……! 僕達なんかしたっけ!?」

 

「リリは前科モンなんで心当たりありまくりですけど……ベル様は他人に恨みを買う様なタイプでは無いですし……」

 

というかあんだけ大量のミノタウロスを操る程の凄い存在が、レベル2とレベル1のしょぼいパーティーをここまで全力で潰そうとする理由はなんなんだろうか……

 

「とにかく理由はわかりませんが……今はとにかく生き残る事だけを考えましょう!」

「うん! ってあぁぁぁ!! 気が付いたらもうすぐそこまで来てる!」

「あーもうホントわけわかんないですよ! どうしてリリ達がこんなミノタウロスに追われなきゃいけないんですか!!」

 

これ以上考える余裕はもう残されていないと、ベルとリリはひたすらに足を動かして脱兎の如く駆ける事に集中して引き離そうとする。

 

しかしミノタウロス達は、それでもなお逃げる彼等をズンズンと歩を進めながら少しずつ追い詰めていく。

 

そしてそのミノタウロス達の最後列からちょっと離れた場所で、物陰に潜む大きな男が一人。

 

「これは試練だ、もう一度乗り越えろ、そして成長しろ……」

 

低い声でボソッと独り言を呟くこの男はオッタル

 

オラリオのギルド内でもトップクラスに君臨するフレイヤ・ファミリアの団長を務める都市最強の腕を持つ猪人だ。

 

レベルはオラリオ内で現在最高値である『7』、彼の実力をもってすればあれ程の数のミノタウロスを同時に調教して操る事も造作もない。

 

「あの御方の寵愛を受ける資格を得る為に、お前は更に成長せねばならんのだからな」

 

彼の主神である美を司る女神・フレイヤは、かなりベルという少年に強い執着を持ち始めている。

 

故に彼女は彼がより一層輝きを放つ為に、度々ちょっかいをかけて試練を与えているのだ。

 

そしてオッタルはそんなフレイヤの願いを聞き入れて、こうして地下に潜って大量のミノタウロスを上手く調教し終えて、ベル達を襲う様にこうして仕掛けて来たのだ。

 

しかし

 

 

 

 

「……でも流石に30体は多過ぎた……ような気がする……?」

 

ここまでやっておいてオッタルは真顔でふと思った。

 

ちょっとやり過ぎちゃったかなと

 

「……まあ……頑張れ……」

 

果たしてベルは、女神フレイヤとオッタルの無茶な試練から逃れる事は出来るのか……

 

次回、ベル、叔父に出会う

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