聖者ホトケと神の孫ベル   作:カイバーマン。

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九説 ベル、叔父と出会う

上層で大量のミノタウロスが出現し、ベルとリリはがむしゃに逃げ回った

 

が、彼等はまるで誰かに命令されてるかのように執念深くこちらを追い回し、やがて二人を壁際に追い詰めてしまう

 

「凄い、まるで絵に描いた様なこれ以上ないピンチだ……」

 

「ハァハァ……リリはもう限界です……せめてベル様だけでも……」

 

「リリ、それ以上は言わなくていい、仲間を見捨てて自分だけ生き延びようだなんて、僕には絶対に出来ない」

 

「ベル様……」

 

追い詰められたこの状況でミノタウロス達は巨大な斧を携えてジリジリとこちらに歩み寄って来る。

 

彼等の荒い息、自分達を絶対に殺そうという強い殺気ががこちらにもはっきりと伝わって来た。

 

そんな彼等を前にして、リリを見捨てて自分だけ逃げる真似など、ベルの頭にそんな選択はハナっから存在しない。

 

(全員を倒す必要は無いんだ、突破口を見つけてまた逃げればいい、リリの体力がもう限界なら、僕がおぶって出口まで走ればいいだけだ……)

 

疲れてへたり込んでいるリリを庇う様に前に出て、女神・ヘスティアから頂戴したナイフをチャキッと構えて前方を見据えるベル。

 

既に覚悟は括った、ならば後は一か八か、このミノタウロスの大群を無理矢理にでも押通るしかない。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

湧き上がる恐怖を無理矢理抑え込む様に、喉の奥から咆哮を上げながら

 

右手に強く握ったナイフを振りかざし、ベルはたった一人で大群へと突っ込んだ。

 

だがその時

 

 

 

 

「!?」

 

突然、ミノタウロスの大群の背後からピカッと強く神々しい光が見えたのだ。

 

ベルがそれを見て思わずハッとした次の瞬間

 

「「「「「ブモォォォォォォォ!!」」」」」

「えぇぇー!?」

 

突然、ミノタウロス達の悲鳴とベルの仰天する叫び声がダンジョン内で響き渡った。

 

それは信じられない光景だった、なんとあの重量級のミノタウロス達が天井に向かってポイポイと、いとも容易くほおり投げられているのだ

 

自分達のみに何が起こっているのかさえ理解出来ていない彼等は、為す総べなく何者かに次々と投げ飛ばされていく

 

間抜けな悲鳴を上げながら宙を舞うミノタウロス達に、ベルとリリは口をポカンと開けて呆然としていると

 

やがて彼等を軽々とほおり投げて来た人物が、ミノタウロス達を蹴散らしベルの所まで颯爽と現れたのだ

 

その人物の正体は

 

 

 

「あ、あなたは!? ってぇー!? 素手!?」

「だ、誰ですか一体!? ってはぁ!? なんでそんな肌を露出してるんですか!?」

 

ベルとリリがその人物と初めて顔を合わせた時に衝撃を覚えたのは言うまでもない。

 

何故なら彼はまさかの素手、しかもかなりの軽装だったからだ

 

だがそのはちきれんばかりの逞しく屈強な肉体は、ミノタウロス程度の相手を蹴散らすなど造作もないと言わんばかりに神々しい光を帯びている。

 

おまけにかなりの二枚目だ、こちらに笑いかける時に見せた歯も凄く綺麗。

 

こんなハンサム見た事無いとベルは頭の中で断言した。

 

「一体何者なんですかあなたは!?」

 

「リリも是非知りたいですね……ただの人間ではないのは確かだとリリの勘が確信していますので……」

 

背後から襲い掛かるミノタウロスも、ハエでも叩くかのように軽くペチンとはたいて吹っ飛ばしてしまう謎のナイスガイ

 

そんな圧倒的な強さ、もしかしたらベルにとって憧れの剣姫よりも強いんじゃないかと思われるその男は

 

何者かと尋ねてくるベルとリリの方へ友好的に歩み寄ると、そっとベルの耳元に顔を近づけて小声で……

 

「えぇぇぇぇー!?」

「どうしたんですかベル様!? その人になんて言われたんですか!?」

「こ、この人! 僕の叔父さんなんだって!」

「はいぃ!? このムキムキおにいさんがベル様の叔父様!?」

 

自らベルの叔父だと名乗ったこの男に、ベル自身だけでなくリリもビックリ仰天する。

 

まさか彼の親戚にこんなにも強くてたくましい青年がいたとは……

 

しかし小柄なベルと彼とでは全くと言っていい程似ていない……

 

「まあ本当かどうかはわかりませんが、リリ達を助けて下さったんですからそこん所はキチンと感謝しますね……」

 

「うわぁ感動だぁ、まさか僕にこんなカッコいい叔父さんがいたなんて……」

 

「あ、もうベル様は完全に信じ切ってますね……」

 

足手まといにならずに済んだとリリがとりあえずお礼を述べる中で

 

ベルはキラキラと目を輝かせながら、叔父と名乗る青年に羨望の眼差しを向ける。

 

一目見れば男なら誰しも憧れを抱くであろうという姿を持つこの青年が、まさか自分の叔父だったとは……

 

「あのーとりあえずお名前を聞かせて……あ! 叔父さん危ない!」

「ナチュラルに叔父さん呼びに!」

 

当たり前の様に青年を叔父と呼ぶベルにリリが思わずツッコんでいると

 

青年の背後で怒り狂う数十体のミノタウロスが一斉にこちらに襲い掛かって来た。

 

しかし青年は全く動じずにクルリと彼等の方へ振り返ると、武器を一切持たずに素手の状態で勇猛果敢に突っ込む。

 

「ブモォォォ!! ブッ!」

 

まずは先頭のミノタウロスの突進を両手で受け止めてしまうと、そのまま片手でグルングルンと振り回してしまう。

 

「ヴ! ヴォォォォォォォ!!!」

 

次にもう片方の手を伸ばして2匹目のミノタウロスを掴み上がると同じように振り回す。そして巨大な図体をお手玉する様な形で空中に何度も投げ飛ばす。

 

自分達の存在をなんの脅威とも感じない青年に他のミノタウロス達が怯んだのも束の間

 

青年は投げていた二頭のミノタウロスを両手でキャッチし直すと、綺麗な歯をキランと光らせながらその場で自ら回転し始める。

 

その瞬間、困惑しているミノタウロス達をあっという間に飲み込んでしまう程の巨大な竜巻が形成された。

 

「「「「「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」」」

 

「す、凄い! 僕が苦労して倒したミノタウロスが! まるで相手にならないぐらい叔父さんは強いんだ!!」

 

「いやいやどんだけ強いんですか! 人間の身体でミノタウロス両手で掴んだまま竜巻を起こすって!」

 

思わず命令も忘れて逃げ惑い始めるミノタウロス達を容赦なく竜巻の中へと飲み込んでしまう青年。

 

ベルが彼の強さに心の底から感服し、リリがもはや人間業ではないとビビッてしまっていると

 

青年は突然ピタリと足を止めた、見ると青年の両腕にはここに来ていた全てのミノタウロスが

 

天井まで高くまで積み上げられていたのだ。

 

「ちょ、ちょっとそれは流石に! どう考えても物理的に無理な形でしょ! なんでミノタウロスの丸まったタワーが出来上がってるんですか!」

 

リリの叫びももっともだが、現に目の前で出来ているのだから仕方ない。

 

青年は両腕で大量のミノタウロスを軽々と抱えたまま、軽快なステップで駆け出す。

 

そしてベルとリリから少し離れた場所まで行くと、両腕で思いきりぶん投げてしまった。

 

「「「「「ヴォォォォォォォォォォォォォォォ……」」」」」

 

ダンジョンの壁を次々と破壊していきながら、巨大な球体となったミノタウロスの塊は遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまった。

 

彼等の叫び声も次第に遠くなり、やがてその場はシーンと静まり返る。

 

「え、えぇ~……なんかもう……デタラメ過ぎますよ……」

「凄い! こんな強い人がいたなんて! しかもそれが僕の叔父さんだなんてもっと凄い!!」

「いやもう凄いとかそんなレベルじゃない気が……」

 

両手を掲げてガッツポーズ取って勝利したとアピールすると、青年は何事も無かったかのようにこちらの方へ戻って来た。

 

「あの! 助けてくれて本当にありがとうございました叔父さん!」

 

 

リリが怪しむ様にジト目を向ける中、ベルはすっかり青年の強さに心を奪われてしまってる様子。

 

すると青年は優しそうな目を向けながら彼の前でしゃがみ込む。

 

「あ、あの! 突然こんな事言うのもおかしいと思いますしバカみたいだと思うかもしれませんけど! 僕も叔父さんみたいに強くてカッコイイ男になれますか!?」

 

彼に尋ねるベルにリリは思わず苦笑した。

 

あんな圧倒的な強さを前にしてなお、いつか自分もなりたいと夢見る彼がいかにも子供っぽいと

 

しかしそれがベル・クラネルの良い所だというのもよくわかっている。

 

そしてそんな無邪気な事を尋ねて来たベルに対し、青年は微笑を浮かべたまま、再び彼の耳元に顔を近づけ小さく囁き

 

ベルがハッとしたような表情を浮かべると、その反応に満足したのか青年はそっと離れてスクッと立ち上がった。

 

「あ、ありがとうございます! 凄く為になりました! その言葉胸に刻みます!!」

 

嬉しそうに力強くそう叫ぶベルに青年はコクリと頷くと、勢いよく口笛を吹いた。

 

するとダンジョンの奥から大きな羽をはばかせながら蹄の音がどんどんこちらへと向かって来て……

 

真っ白な体毛と青色のたてがみの、立派な翼を生やしたペガサスが鼻歌交じりに現れたのだ。

 

「う、うわー! なんて神秘的な動物なんだ! もしかしてコレって叔父さんの!?」

「神秘的な動物の割りには結構コミカルな顔してますけどね……いやもうツッコむのも疲れました、あまりにも驚き過ぎてリリは限界です……」

 

ちょっと抜けてる顔をしたペガサスを前にベルが感激の声を上げてる中、リリが微妙な表情を浮かべるも、すっかり慣れた様子で諦めたかのようにため息をつく。

 

すると青年はこれでお別れだと言った感じで肩をすくめると、まずはリリの方へ歩み寄り、彼女の身長に合わせるかのようにしゃがみ込んで彼女の手を握り握手。

 

「ど、どうも……本当にありがとうございました……確かにベル様の叔父様なだけあって、お優しそうな方ですね」

 

彼と握手を交えながらリリがぎこちなくお礼を述べると、青年は輝かしい笑顔を浮かべて来る。

思わずリリも釣られて少しだけ笑みを浮かべて笑い返してしまう。

 

次に青年はベルの方へと移動すると、同じように握手をするかと思ったら、丸太の様な太い両腕で彼の華奢な体を強く抱きしめた。

 

「はわわ! ぼ、僕絶対に夢を実現させますから!」

 

いきなり抱きしめられて思わず赤面してしまうベルをゆっくりと解放してあげると

 

青年は立ち上がってこちらにクルリと背を向け、やってきたペガサスの青いたてがみを優しく撫でるとヒョイッとその上に跨る。

 

そしてこちらに親指をグッと立ててまたもやキランと歯を光らせてチャーミングな笑顔を浮かべると、そのままダンジョンの中を駆けて何処へと行ってしまったのであった。

 

「な、なんか……とてつもなく大きな人だったなぁ見た目だけでなく心も大きい……」

 

「そうですね、影の中を生きていたリリにとっては少し眩し過ぎます……ところでベル様、一つ聞きたいんですけど」

 

「ん?」

 

風の如くあっという間に見えなくなってしまった青年を見送った後、取り残されたリリはまだ感動している様子のベルにおもむろに問いかける。

 

「先程あの方は、ベル様の質問になんと答えたんでしょうか?」

 

「ああ、えーとごめん、ちょっと自分で言うのも照れ臭いから内緒でいいかな?」

 

「えーますます気になっちゃうじゃないですか、ヘスティア様には黙っておきますからリリにだけ特別に」

 

「んーしょうがないなぁ……」

 

本当は自分の胸の中にコッソリしまっておきたかったのだが、この様子だとずっと問い詰めて来そうだなと思ったベルは、先程の彼の言葉を、青年の真似事をするかのようにそっとリリの耳元に顔を近づけて囁くのであった。

 

 

 

 

 

「真のヒーローは力の大きさで評価されるんじゃない、大事なのは心の強さだ」

 

 

 

 

 

「大事なのは絶対に諦めない事! 最後までやり遂げればいつか君も立派なヒーローになれる!」

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ベル達からかなり離れた距離で、自ら仕掛けたミノタウロス軍団が呆気なく敗れ去ったのを確認していたオッタルはというと

 

「うーむ……まさかあの少年にあんな恐ろしい人物が傍にいたとは……」

 

あれ程の圧倒的な強さを見せられてはオッタルも素直に失敗だと認めざるを得ない

 

あの青年、もしかしたらオラリオ最強とも呼ばれている自分をも凌ぐ強さを持っているのではなかろうか

 

「これでは少年に試練を与えてもあの男に邪魔をされてしまう、急いでフレイヤ様にご報告せねば……」

 

ベルの下にあまりにもイレギュラーな存在がいると、すぐに神主であるフレイヤの下へ伝えようとオッタルはダンジョンから脱出しようとする。

 

だがその時だった

 

 

 

 

 

「ほほう、貴様はあの白髪の少年を何らかの方法で陥れようとしているのか……」

「!」

 

不意に背後から聞こえた恐ろしく低い声にオッタルはすぐ様振り返る。

 

レベル7の自分でさえ気配を感じ取ることが出来なかった、一体何者だと警戒の眼差しを向けると

 

そこには何とも形容しがたい存在が薄ら笑みを浮かべて立っているではないか。

 

恰好は赤い軽装だが顔は真っ白、しかし目元には赤い線が引かれた、髪が全て真上に伸びた怪しい男……

 

「……明らかに冒険者でも無い、かといって神でもない…何者だ」

「フッフッフ、よくぞ見抜いた、吾輩は10万55年という長い時の中を生きる者……」

 

オッタルの問いかけに男は両手を横に突き出すと、ドスの効いた低い声で

 

 

 

「吾輩の名はハーゴン……そしてその実態は、悪魔よ!」

 

「悪魔……なるほど、最近フレイヤ様が気に掛けていたのはお前だったか」

 

「すぐに知る事になろう、この吾輩がいずれこの世界にどんな破壊をもたらすのかを! フハハハハッ!!!」

 

「行ったか……」

 

オッタルの前に突如現れた謎の男は高笑いだけを残しながらスゥッと闇の中へと消えていった。

 

 

彼の登場によって、ベル、否この世界そのものに

 

とてつもない災厄が訪れようとしていたのであった

 

 

 

 

 

そして仏はそんな事も知らずに

 

「わぁぁぁぁぁぁお!! ミッ〇ィィィィィィィ!!!」

 

夢の国を絶賛エンジョイ中である。

 

 

次回、ロキ、悪友と遭遇

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