世界はシャボン玉とともに(another version)   作:小野芋子

3 / 5
物語が進まぬ。


布団とは、人類史上最強の発明である

 誰かがこっちを見ている。

 誰だろう?よく分からない。

 けど視線だけはやたらと感じる。

 周囲を見渡してみても、そこには一面真っ白な景色が広がっているだけ。

 誰もいない。なにも存在しない。果てのない世界。

 

 そう言えば、世の中には緑の部屋に閉じ込めるという拷問があるのだと何かで聞いたことがある。

 なんでもずっと緑ばっか見てると赤色が見たくなって、手っ取り早く赤を見るために自らを傷つけ()を出すんだとか。

 

 つまり今の俺は拷問されているということか(名推理)

 そう考えると誰かの視線を感じるのも納得できるような。…出来るかな?……ちょっと意味わかんないですね。

 

 取り合えず、いつまでも座っているわけにもいかない。立って探索と行こう。

 そう思い足腰に力を込めて、ブニンという感触の壁を頼りに立ち上がる。

 もう少し感触のいい壁は無かったのか?少し粘つくぞ。

 

 ――起きた?

 

 おう、起きた起きた。眠気覚ましに散歩に行こうと思っているくらいだ。

 寝起きに散歩。まさしく健康優良児の行いだな。

 なんならこのまま食パン咥えて全力疾走している少女と出会いたいものだ。

 

 あれ?俺また何かと会話してない?

 ヤベー。あまりに自然過ぎてまるで気づかなかった。

 そしてこのまま自分は特別な存在だと思い始めて中二病コース一直線ですね。分かりますん。

 

 ともかく、早い段階でこれに気づけたのは良かった。このままいけば俺は新たに第二第三の黒歴史を生み出すところだった。

 冗談抜きでヤバいなそれは。既に鮫の人に痛い人認定されているというのに、これ以上自らの黒歴史を晒してたまるか。

 

 ――体調は大丈夫?

 

 おう、大丈夫大丈夫。ちょっと心が痛むけど、これは怪我とかそういうのじゃないから。安心してくれ。

 

 いやいや、ちょっと待て、だから俺は何をしているんだ。これはair友だと言っているだろう!これ以上黒歴史を作って何になる!お前は馬鹿か!学習しろ!

 

 ――上、見てみて

 

 上?なんで上を見なければならんのだ?

 正直意味わかんないけど、自分がもう一人の自分(笑)と会話していると思うよりも誰かと会話していると考えたほうがメンタル的に遥かにマシだ。

 そういうわけで、そこに誰かがいることに一類の望みをかけて、誰かの言葉通りに上を見る。

 首が痛いがそこは我慢。

 

 ――おはよう。そして初めましてやね。

 

 首が痛むくらいに豪快に上を仰ぎ見た。ブリッジするくらいに仰け反って上を見た。

 するとどうだろう。そこには誰かの目があった。

 例えるならばカタツムリみたいな目だ。

 クリクリの瞳がそこにはあった。なんなら目があった。

 腰が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 ――大丈夫?

 

 「なんとか大丈夫だ」

 

 いや、強がりとかじゃなくて、本当に大丈夫だったから。

 ただほんのちょっと。ほんのちょっとだけびっくりしただけ。

 いや、本当に。俺、ホラーとか大丈夫な人だから。あれだよ、びっくり系が苦手なだけだよ。

 本当だよ?嘘じゃないよ?

 

 ごめんなさい嘘つきました。正直食べられるかと思いました。だからそんな申し訳なさそうな顔で俺を見ないでください。罪悪感がマッハで心がががが。

 

 ――大丈夫け?

 

 さっきと似たようなセリフ。けど今度は突然黙り込んだ俺に対する心配の色が濃い疑問だった。

 明らかな心配。はっきり言ってこの世界に来てからその手の感情は向けられた試しがないのですごく心が癒される。

 同時に、そんないいやつに対して食べれられるとか被害妄想垂れ流して腰抜かした過去の俺への殺気がえげつないスピードで増している。

 第一印象最悪とかそういう次元ではない。マイナスを突き抜けて天蓋突破している。

 

 「大丈夫だ、問題ない。それより自己紹介がまだだったな、俺はウタカタだ。よろしく頼む」

 

 実際には俺はウタカタではないが、じゃあお前誰なんだよと問われて答えられる回答がないのでウタカタということにしておく。

 すまない。記憶喪失ですまない。本当に申し訳なく思っている。せめて過去の俺の情報が欠片でもあればよかったのに。

 

 ――俺やよ、犀犬ってんだ。よろしく。

 

 ご丁寧に自己紹介をしてくれたのはナメクジみたいな外見をした何か。

 多分B級ホラー映画とかで出てきそうな何かだ。

 ただ今までの対応から分かる通り随分と礼儀のいい。やっぱあれだね、外見で判断とか悪だわ。こうやって話し合ってみれば分かり合えるんだよ。

 つまり腰を抜かした俺は悪。ハッキリ分かるね。

 

 ――ウタカタ。質問してええ?

 

 「なんでも聞いて下さい。答えられる範囲外でも答えてみせます」

 

 罪悪感がヤバすぎて思わず丁寧語になってしまったが、まあ仕方がない。

 なんせ俺にはすでに負い目がある。

 犀犬の心優しい内面に気づかずに怖がって傷つけたという負い目だ。

 本当この出来事だけで後二年は後悔しそうだよ。

 

 そんな俺の内面など知る由もない犀犬はクスリと笑い、(気持ち)優しくなった目で俺を見る。

 

 ――どうしてウタカタは、誰も憎まんの?

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 犀犬は尾獣として、ウタカタが生まれ落ちて一か月後に封印された。

 

 それから、ずっと見てきた。

 

 両親が存在せず、必要最低限の衣食住のみしか与えられずに今日まで生きてきたウタカタを、犀犬は一切干渉することはせずにずっと見てきた。

 犀犬は尾獣だ。対してウタカタは人だ。

 ただそれだけのことは、けれど二人の間に明確な境界線を生み、お互いに決してそれを踏み越えることはしなかった。

 何処かの狐のように、人間を恨んでいたからというわけではない。

 犀犬が人に封印される以前。のんびりと生活していた洞穴に、時折迷い込んでは犀犬をみて悲鳴を上げる人間。確かにそれに何も思わないわけではないが、そもそも犀犬は人に興味がなかった。

 自らを生み出した、ただ一人の人間を除いては。

 

 だから、どうでも良かった。憎むこともなかった。恨むことは無かった。

 時折人柱力の憎しみに同調し力をふるう。暇つぶしのようにそれをして、また大人しく封印される。

 ただそれだけの行動を、もうずっと繰り返してきた。

 どうでもいい人間が、どうでもいい人間に力を向ける。それを鼻で笑いつつも、止めることなく力を貸す。

 

 どうしてあの人(・・・)こんな存在(人間)の為に自らの命すら削って尾獣を九つに分けたのか、思い出しては問いかけながら。

 

 ある日、犀犬はまた新しい子供に封印された。いままでと違うのは、それが赤子であったこと。

 どうでも良かったが、思わないことがないではなかった。

 少なくとも今日まで、それ(・・)に封印されることだけは無かったから。

 

 それでも犀犬はこれまで通りに傍観を選んだ。

 決して踏み込むことはせず、踏み込ませることもさせずに、これまで通り人柱力が人を憎み力を暴走させた時のみ力を貸す。

 今まで通りに。これまで通りに。いつも通りに。何も変わらず。何も変えずに。

 

 時が経ちウタカタは成長し自らと周囲にある明確な線引きと、明らかな区別を認識した時、ウタカタもまた憎しみを抱いた。

 怒りと、憎しみと、悔しさ。

 子供だったから、そこに大きな差は生まれなかったが確かにそれを自覚し始めた時、やっぱり、と犀犬は思った。

 人間なんてこんなものだと、興味を持つことすら意味がない。放っておけば自滅する。そんな存在でしかないと、純粋な子供の憎しみを見て理解した。

 

 だから、分からなかった。

 

 突然、ウタカタの中から憎しみが消えた意味が、その事実が分からなかった。

 

 この子供に何があったのか、何が起こったのか、まるで理解できなかった。

 

 けれどそれも一瞬で、一人の忍びを相手に憎しみを抱いたウタカタを見て、犀犬は安堵した。

 

 

 

 

 安堵?どうして?

 

 なぜ安堵した?何を知って安心した?何を見て安らぎを得た?

 

 ウタカタが人をまた憎んだことが?

 

 なぜ?

 

 人なんてそんなもの。そう考え、そう理解し、そう納得し、静観し、傍観し、達観し、諦観したのは犀犬だ。ならば、ウタカタもまたそうであった、ただそれだけの事実に何故安堵した?

 

 分からない。人を理解することを諦め、そうだと決めつけ踏み込むことも理解することもやめた犀犬には、一瞬といえそこから外れたウタカタの存在は完全なイレギュラーだった。

 

 だから、そう、だから、ウタカタに声をかけた。憎めと、殺せと。

 そうすれば安心できるから、そうすれば間違っていなかったと思えるから。

 かつて犀犬が決めつけた人間の在り方と、ウタカタの在り方が一致すれば、また諦めることが出来るから。

 

 だから、

 

 『それはおかしい』『もっと穏やかに行こうぜ?』『俺は殺さない』

 

 理解できなかった。

 

 確かにウタカタは憎んでいた。人を殺してもおかしくないくらいに。

 正確には、これまでの人柱力だったらまず間違いなく殺しているくらいには憎んでいた。

 

 だのに、ウタカタは殺さなかった。

 

 あのまま力を使えば殺せていたのに。

 実際にウタカタから湧き上がっていたチャクラの暴走を見て、鬼鮫も西瓜山も、自らの死を悟っていた。

 確実に殺せる力。確実に殺せるだけの憎しみ。

 なのに、殺さなかった。

 

 殺せ(・・)なかったのではない。殺さ(・・)なかったのだ。

 

 それが分からなかったから、犀犬は尋ねた。どうして憎まないのかと、どうして殺さなかったのかと。

 熱にうなされ、まともな思考が出来ていなかったあの時と同じように。

 今度は正気のウタカタに。

 

 そうすれば、もしかしたら、分かるかもしれないと思ったから。

 

 人のことが。感情のことが。

 

 そして、ウタカタのことが。

 

 予想外の質問だったのか、呆けた顔をしていたウタカタは、その質問に込められた犀犬の真摯な気持ちに気づいたのか、一度だけわざと大きな咳ばらいをすると、まっすぐに犀犬を見上げて

 

 「……憎んでないわけではありません。ただ、それを表に出すほど子供ではない。それだけです」

 

 目を逸らすことなく告げられた、ウタカタの答え。言葉を選んだのか、僅かに間をおいてから告げられた丁寧で真摯な答え。

 そこにどれ程の気持ちが込められていたのか、本当の意味でウタカタをみて(・・)こなかった犀犬にはすべてを察することは出来ない。

 ただ、一つだけ分かったこともあった。正確には、分からないからこそウタカタがこれまで出会ってきた何者とも違うということが、ここにきて漸く分かった。

 まだ、犀犬にはウタカタを理解することは出来ない。

 だからこそ

 

 ――そうけ

 

 一言だけ、告げた。

 分からない。理解できない。

 だから、これから理解していこう。

 歩み寄ることなんて無意味かもしれない。理解することに価値なんてないのかもしれない。

 それでも、ただの好奇心でしかないとしても、ウタカタをみて(・・)いたい。みて(・・)みたい。

 どうせ犀犬には寿命がない。ならば自らが生きる数千年。或いは数万年の間のたったの数十年くらい、ウタカタと寄り添うのも悪くない。

 

 その為には、降りかかる火の粉を払うくらいは力を貸そう。

 

 密かに決意を固めた犀犬はもう一度だけ頷いて、優しい眼差しでウタカタをみた。

 純粋なウタカタの瞳もまた、犀犬を見つめ返していた。

 

 犀犬には分からない。ウタカタをまるで理解していない。

 

 だから、ウタカタの言葉に欠片(・・)も意味が込められていないことに気づかなかった。

 内心で、俺は試されているのか!?とか、そんな中二チックなことを考えていたなんて、微塵も分からなかった。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 目が覚めたらオフトゥンの中だった。楽園は確かにここにあったんや。

 などと冗談を言っている場合ではない。

 先ほどまで見ていた夢、あれは何だったんだろう?

 変な質問されるわ、最後にはなんか拳を合わせたし。

 夢とは人の深層心理と聞いたことがあるが、だとしたらあんなわけのわからん夢を見た俺って大分ヤバイのかな?

 犀犬さんは紳士的だったけどさ。それでも質問が意味不明すぎです。

 おかげで俺の答えも意味不明なことになっちゃったよ。

 

 「目が覚めたか」

 

 驚くほど静かだった室内に響き渡る幼さを残した声。声の出所を見れば一人の子供が片膝を抱えた状態で座っていた。

 いることは起きた瞬間に分かっていた。ただそれが見えていい類のものか分からなくて声をかけるのを躊躇っただけだ。

 別にビビってない。ビビってないぞ~。

 

 「そう構えるな。敵意は無い」

 

 そんな俺の様子を見てか、両手を上げて敵対する意思はないと告げる少年。いや、だから別にビビってねーし。そういうのやめてください。ほんと、まるで俺がビビったみたいになるでしょ?

 取り合えず、一度落ち着こう。いきなり現れたことには意表を突かれたが、家の中に子供がいた。ただそれだけのことだ、取り乱すほどではない。

 あれ?普通に考えてそれってヤバくない?なんでいんの?

 

 「ほら、朝食を持って来た。食え」

 

 俺の心でも読んだのか、要件を伝えるとともに一つパンを差し出してくる。

 正直パン一個って何と思わなくもないが、よく考えれば俺は子供の身だ。それくらいで十分だろう。

 あと、よく考えたついでに言わせてもらえば朝食を持って来たのだとしても、それが不法侵入の理由にはならないと思うのですがそれは。まあいいけどね。

 それにしても

 

 「パン食べたのはいつぶりだろう?」

 

 最後に食べたのはいつだっけ?記憶がないせいで全然分からないな。ただ、何となく懐かしいと感じているから随分前のことなのかもな。

 もしかしたら単純に主食はご飯派だったのかもしれないけど。…なんか凄くありそうだ。

 水がないから口の中パッサパサになりながら食事をしていると、何やら少年がもの言いたげな目で俺を見ていた。

 なんだろう?なんか行儀の悪い食べ方でもしていたのかな?といってもあくまでも外見は子供の俺だ、あまり細かいことを言われても困る。

 

 ……ああ、そうだ。

 

 「朝食、わざわざ持ってきていただいてありがとうございます。凄く美味しいです」

 

 今更だが無言で食べてた。なるほど、これは酷い。性格の悪さが透けて見えるな。スケスケだぜ!

 それは向こうももの言いたげな顔をするわ。

 一応、申し訳なさげな声と顔で礼を告げたが、これはやっぱりアウトだろうな。本来なら持ってきてもらったタイミングで…と思ったけどそう言えばこの少年気づけば部屋の中にいたな。それも今思えば朝食を持って来たから声をかけてのに返事の一つもせずに眠りこけている俺を心配してのことだろうと推測できるけど。

 あれ?もしかして今の俺って最低じゃね?

 朝食持ってきてくれたのに無視して寝るわ、無言でパン食うわ。もしかしなくても最低ですね。これは酷い。あと一口だから食べ終わったらすぐに謝罪しよう。

 

 ……さて。食事は済んだ。

 今なお俺のことを何やらもの言いたげに見ている少年よ。あなたに私に出来る精一杯で謝罪をしよう。

 姿勢をただし、正座する。手は指をしっかりと伸ばし膝元に。目は相手をまっすぐに見つめ、されど警戒させないように伏し目がちに。

 いざっ!

 

 「この度は、わざわざ私のような者の為に朝食の準備をしていただいたにも関わらず、碌に謝礼も告げずに一人食事に手を付けてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

 綺麗に決まった土下座。世界よこれが日本のSHAZAIだ。しかと見よ!

 チラリと少年の顔色を窺えば、なんか絶望した表情だったんだけど、俺なにか間違えたか?




勘違いは加速する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。