世界はシャボン玉とともに(another version)   作:小野芋子

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感想が突然増えて何事かと思えばランキングに入ってたんですね。
はー。ありがとうございます。

週一投稿の筈なのに、気づけば二週間経っていました。
けど、先週は別の作品投稿したんで、大丈夫ですよね(震え声)


シャボン玉とんだ。

 初代水影の許可のもと人柱力が迫害されることは、霧隠れにおいては黙認されていた。

 

 目的の一つは里内で燻る悪意や憎しみの捌け口にするため。

 決して一枚岩ではない里というシステムの中で、内乱やクーデターを抑える為に作られた苦肉の策であった。

 発足当初こそ反対意見も多かったが、第二次忍界大戦が始まって暫くこの政策は受け入れられた(・・・・・・・)

 敵国によって受けたぶつけどころのない怒りや憎しみ、それが里のルールによって合法的に人を使って(・・・・・)発散できる。

 あまりに非人道的で、著しく人間性を欠いた行いではあるが、事実としてそれ(・・)によって内部での反乱は抑えられていた。

 人柱力という犠牲の上に、ではあるが。

 

 当然そうなれば黙ってはいないのは人柱力の方だ。人には過ぎた力を封印されたあげく差別の対象になるなど冗談ではない。当たり前に怒りを抱き、里に対して復讐に走るのも必然と言えた。

 

 それが、二つ目の目的だった。

 

 いかに里に怒りを抱こうと、高々忍び一人にできることなど程度が知れている。本当の意味で復讐がしたければそれに足る力が必要だった。

 人柱力のみが有する他を圧倒できるだけの力、そんなもの悩むまでもなく決まっている。尾獣の力だ。

 怒りに身を任せおのれの憎しみのままに行動する彼らは、最後には尾獣の力を暴走させ里に牙をむいた。それこそが初代水影の狙いだとは気づく筈もなく。

 

 初代水影は、暴れる人柱力を時空間忍術で戦場へと飛ばしたのだ。

 尾獣化までさせ、目の前にいる存在全てを殺す。ただそれだけの兵器に成り下がった人柱力を。より効率的な戦場を選び、より都合のいい戦場を選び、飛ばしたのだ。

 なんせたった一人でも戦場に送り込めばそれだけで戦況は大きく変わる怪物、それが人柱力(尾獣)なのだから。

 

 勿論それは一時的なものだ。突然のことでは対応できないことでも、時間が経てば対応してくるのが戦場だ。いずれは手練れが尾獣討伐に動き出し、それなりの犠牲は出すだろうが確実に人柱力を殺すだろう。

 そして、追い込まれたタイミングでまた水影が戦場に出向き、瀕死の人柱力を回収する。時空間忍術を有する初代だからこそ出来る戦術だった。

 後は尾獣を抜けば自動的に人柱力も死ぬ。最後の瞬間に呪詛の念を吐いていくが、逆を言えばそれだけだ。実害は何もない。

 そうしてまた別の人柱力候補に尾獣を封印し、同じことを繰り返す。

 

 事実として、霧隠れはこの手段で多くの戦果を挙げてきた。劣勢だった戦場を覆してきた。

 結果、全ての霧の忍びは人柱力の恩恵を受けることになった。

 

 やがて戦場で初代水影が死に、二代目水影へと政権が移ってもなお、このやり方は続いた。二代目には時空間忍術は無かったが、すべてをだますオオハマグリによる幻術があった。それにより少しだけ過程は違うが、初代と同じことを繰り返した。

 そうなればもう人柱力という制度への反対意見もない。

 なんせそれは理想だから。ただ人をいじめるだけで、それが戦場の戦果に繋がる。誰でも出来ることが、霧隠れの勝利に貢献する。

 里側からしても、戦争によって溜まった苛立ちやストレスの捌け口を作り上げるとともに、それが兵器運用にもつながるこのやり方は最小限のリスクで多大なるリターンを得ることが出来る最善の手だった。

 恐ろしく非人道的だ。もはや人間の所業ではないのかもしれない。

 けれど結果は出た。出てしまった。そうである以上このやり方は支持される。

 

 唯一の欠点があるとすれば()の人柱力が見つからないことだ。

 基本的には罪人や悪人、もしくは捕虜を利用して行われるがそれでも、時期が悪ければそれが途切れることがある。

 そうなれば面倒だ。次の人柱力は確実に必要になる。けれど選ぶのは反対意見や不満が出ない誰かにしなければならない。

 

 だが、幸いにして戦時中はそういった条件に該当する存在がよくよく現れる。俗に戦争孤児と呼ばれる子供達だった。

 感受性が豊かなために、直ぐに怒りを感じる。後先を考えない為に尾獣の力を使うことに躊躇いがない。

 まさに理想だった。

 そして、その中の一人がウタカタだった。

 

 生まれ落ちると同時に両親を失い、親族は存在せず、それ故に彼が人柱力となる時誰も庇うものがいなかった。

 

 そんな子供が、いや赤ん坊が人柱力になることに反対意見がなかったわけではない、ただそれを言うには人は人柱力の恩恵を受けすぎた。だから、誰も何も言わなかった。

 

 誰も、何も言えなかった。

 

 ただ一人、人型兵器(人柱力)による結果以上の成果を上げ、僅か15という若さにして水影に至ったやぐらという少年以外は。

 

 彼はウタカタの両親に一時的とは言え忍術を学び、また人としての在り方も学んだ。やぐらにとってウタカタの両親は忍びとして、そして人として尊敬できる存在だった。

 

 だからこそ、彼は動いた。尊敬できる師から託された子供を守るために、僅かなりとも足掻いてみせた。

 その過程で、どれだけの血を見たことだろう。どれだけの死を踏み越えてきたことだろう。

 戦争が日常になりつつあるこの世の中で、成果を上げるということは、つまりはどれだけ敵を殺してきたかということだ。

 その中には、里の情報を外部へと持ち出そうとした元同僚もいた。自慢げに家族の自慢話をして、最後には家族を守るために敵に寝返った先輩がいた。

 それらすべてを殺して、殺して、殺して尽くして、その先でやぐらは水影へとなったのだ。

 綺麗事なんて全て吐いて捨てた。そんなものなどないと仲間が死ぬ度に思い出した。それでも、ただ一つの約束があった。どれだけの屍を踏み越えようと、決して譲れない誓いがあった。

 誰よりも尊敬し、誰よりも敬愛した師の忘れ形見を守る。

 それがやぐらの全てだった。

 

 なのに、だというのに

 

 「パンを食べたのはいつぶりだろう」「朝食、わざわざ持ってきていただいてありがとうございます。凄く美味しいです」

 

 なぜ目の前の少年はそんなことを口にするのだ。

 

 

 

 水影になったやぐらがまず行ったのは人柱力へ差別撤廃だった。

 もちろんそれが生半可な覚悟で出来ることだとは思っていない。先代の水影に話した際も難しい顔でやめておけと言われた。それをするにはお前は若いと、時期が悪いと。

 事実やぐらが水影に就任したのは第三次忍界大戦の真っ只中、下手な政策をすればそれが里の崩壊に繋がりかねないものだった。

 それでも、やぐらは動いた。

 別の案を立てて、別の政策を立てて、懐柔策を練って、それで辛うじて変えられたのはウタカタへの差別はウタカタが5歳を過ぎてから、ただそれだけだった。

 

 理由は単純で、まだ物心のついていないウタカタに対して差別的な待遇を取ってしまえばウタカタにとってそれが日常になりかねないから。そうなればウタカタが憎しみや復讐心を抱くこともなく、人柱力の兵器としての利用に支障をきたすから。

 あくまでウタカタを兵器としてしか見ていない酷く手前勝手な馬鹿みたいな理屈で、それは霧隠れ上層部によって決定された。

 その当時のやぐらの絶望がどれ程のものだったか、それを知るものはいない。やぐらも、それを誰かに察せられるような真似はしない。

 だが、その中でもやぐらは足掻いた。

 5年という月日を得たのならそれを利用して別の方法を模索すればいい。

 里の全てを納得させられるだけのものを用意して、今度こそ人柱力の差別撤廃を目指せばいい。そう思い、そう願い動いて、三年が経ったある日、霧隠れに存在していた二匹の尾獣のうちの一匹、三尾の人柱力が姿を消した。文字通り痕跡の一つも残さずに消えたのだ。

 捜索は今なお続いているが、他国が三尾を生け捕りにしたという情報も封印したという情報も得ていない。手練れを導入したというのに、影も形も掴めてやしないのだ。

 

 結果、霧隠れの人柱力はウタカタのみになった。

 そうなればどうなるか、考えるまでもない。契約はあった、約束はあった、手を出さないと、決して近寄りはしないと、水影の名のもとに霧隠れ全土にそう告げた。

 だが、その結果はどうだ。

 

 やぐらとて忍びだ。いくら水影である自分の言葉であれど、そんな口約束のようなもので全ての人間の動きを制限できるとは思っていない。

 また、時期も悪い。戦時中である今、ルールであるとはいえそれを破ったものに罰を与えていては被害を被るのは霧隠れの方だ。

 だから、表だって罰を与えることも出来なかった。それでも水面下で動きウタカタへの差別的行動は抑止してきた筈だった。

 見張りをつけ、食事係をつけ、決してウタカタを一人にしないように配慮してきた。

 

 

 だから、鬼鮫からウタカタが暴力を受けていたと聞いた時、また、ウタカタが六尾の力を暴走させようとしたと聞いた時、生きた心地がしなかった。

 見張りを付けていた筈なのに、なぜそいつからは何の連絡も来ないのか、そう考えてようやく自身の甘さに気が付かされた。

 

 誰も、そう、誰もだ。少なくとも自身に報告を入れてきた鬼鮫以外の誰も、ウタカタを人としてすら見ていなかったのだ。彼らにとって差別はすでに差別ですらない。

 足元を行くアリを踏み潰すようなものだ、周囲を飛ぶ虫を殺すようなものだ。邪魔だから、うざいから、気持ち悪いから、面白いから、それだけで手を出してしまえる存在になってしまっている。

 

 ――ああ、そうか。俺が間違っていたのか。

 

 先代を憎む気持ちはない。人柱力の差別は人としては最低だが、里を運営していくものとしては確かに正しいやり方だから。差別できる存在を作り上げることによってそれ以外の上に対する反抗心を削ぎ落とす。合理的で、正しい考えだ。

 そう思えてしまう、現実主義者な自身をやぐらは嫌悪した。

 

 突然黙り込んだやぐらを心配する鬼鮫を無視して、やぐらは一人動いた。

 翌日の配膳係を買って出て、自らの足でウタカタのもとまでやって来た。

 

 目が覚めたウタカタが自身を見て酷く驚いたことに胸が張り裂けそうな気持ちになった。

 まるで久々の食事だとただのパン切れ一つを美味しそうに食すウタカタを見て、唇をかんだ。

 全てを食べ終えた後、やぐらに謝罪するウタカタを見て、これが現実なのだと絶望した。

 

 すべては霧隠れを信じたやぐらの失策だ。ウタカタの身を案じておきながらウタカタのそばにいなかったやぐらの落ち度だ。

 目を逸らしていた現実が目の前に現れたことに、やぐらは一人自身を憎んだ。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 

 

 完璧な土下座を見て言葉を失っていた子供が、突然土下座返しをしてきた。

 何を言っているか分からないと思うが俺も分からない。

 

 取り合えず頭を上げて貰っていい?そんなことをされたら俺の罪悪感がマッハなんで。

 ただでさえ色々あって罪悪感がすでにカンスト寸前なのに、この上さらにそんなことされたら俺が死んじゃうよ?

 

 そんなことをやんわりと伝えつつ、どうして土下座なんてしたのか理由を聞いてみる。

 しかし返ってくるのはなんか全ては俺の所為だとか、申し訳ないとか容量の得ない言葉のみ。もっと中身のある会話をしてもええんやで?

 

 はてさてどうしたものか、このままこの子の言葉を聞いていても平行線だ。どうにか気を紛らわせることが出来ればいいんだが、俺の家は生憎の殺風景だ。まるで寝るための場所、と言わんばかりに布団以外に何もない。

 かと言って場を和ませるようなトーク術もないし、本当に困った。

 

 ――どうしたん?

 

 と、一人頭を悩ませているとそんな俺に気づいたのか犀犬が声をかけてくる。因みに目の前の少年は気づいていないみたいだからこの声は俺にのみ聞こえているのだろう。

 つまり声に出して犀犬の声に答えたら俺は社会的に死ぬ。注意せねば。

 

 ――目の前の少年をどうにかしたいんですけど、何か案はありませんか?

 ――潰すん?

 ――なんでや!

 

 ちょっと犀犬さん血の気多すぎない?どうにかって、別にうるさいから黙らせたいとかそんな意味じゃないんだよ。もっと平和的な解決方法を模索していきたいんだけど。

 

 と、そこまで考えて一つ閃いた。要は気を逸らせればいいんだ。だったら喋る必要もない。むこうに喋らせればいいんだから。

 閃いたらすぐ行動。今なお謝罪を繰り返している少年の顔を無理やり上げさせて、俺から声をかける

 

 「ねえ、じんちゅうりきって何?」

 

 謝罪の中にあった言葉、また昨日あたり鮫の人だかフグの人だかが言っていた言葉だ。

 正直今になっても意味が分からないので教えてもらえたら大変助かる。謝罪を聞く限り俺に対して誠意なり罪悪感があるようだから質問を無下には出来ないだろうし。そこに付け入るのは正直心苦しいが話題転換の足掛かりを作ったのだ、大目に見て欲しい。

 そんな俺の本心に気づいたのか、少年は一瞬だけ目を見開いたと思えばまた影を作らせる。そして悔いるように、懺悔するように言葉を噤み始めた。あれ?思ってた反応と違う。

 

 

 暫く黙って耳を傾けてみて、聞いた話をまとめると、どうやら俺の中には六尾とか言うヤベーのが封印されているらしい。マジかよ。犀犬は知ってるけど六尾は知らないな。どんなのだろう?話を聞く限りでは随分危険な存在らしいからあまり近寄らない方がいいのだろうがちょっと気になる。

 それと、どうやら俺が嫌われているのも俺が人柱力という存在だからだそうだ。記憶を失う前の俺が色々やらかしたせいでも、俺の両親が何かをやらかしたせいでもないらしい。

 

 一応はその事実に安堵して、同時にふつふつと怒りが込みあがってくる。要はあれだろ?俺何もしてないのにいじめられてんだろ?しかも少年の話を聞く限りではほぼほぼこの里の全ての人間から。

 ちょっと全員便所裏に来ようか。お話があるから。

 などと冗談を言う余裕もない。犀犬相手には自分が悪いかもっていう罪悪感から大人ぶって誰も憎んでないなんて言ったけど、前言撤回、現在の俺滅茶苦茶おこです。

 もちろん怒りに身を任せて行動なんて野蛮な真似はしないが、それにしたって腹に添えかねるものもある。なんせもしかしたらそれが原因で俺が記憶喪失になったのかもしれないし。ほら、投げられた石の当たりどころが悪かったとか、そんな理由で。

 そう考えたらあれだな、無差別ドロップキックくらいはしてもいいかもしれない。もしくは突撃、隣に晩御飯。あれだ、人が出てきたところに炊き立てのご飯を顔面にスパーキングする無差別テロだ。

 

 などと危険なこと?を考えていたら何やら目の前の少年がまた態度を改めて正座した。また謝罪なのかと戦々恐々とする俺を他所に、少年は何やら自身の胸元を探ると一つのパイプのようなものを差し出した。

 

 「これは、お前の両親の形見だ。お前に渡して欲しいと頼まれていた。渡すのが遅くなって悪い」

 

 言われて、少年の持つパイプを受け取った。なんとはなしに手にしてみて、それが妙に手に馴染むのが分かる。初めて触れたはずなのに、もう何年も使い続けているような感じがした。

 

 「ウタカタ、お前にはまだまだ謝罪しなければならないことがあるが…」

 「いいっていいって、これを渡してくれただけで満足だから」

 「そうか……分かった。俺はこの里の中央部、水影室にいる。何かあればいつでも頼ってくれ」

 

 そう言ってまた頭を下げた少年は、一瞬で消えていった。何かのマジックなのか、最後の最後でインパクト強いなおい。

 

 

 さて、突然に一人になったわけだがどうしたものか。先ほど考えていた無差別テロの計画を詰めていくのもいいが、どうもそんな気にもなれない。

 なんか、このパイプを握った瞬間にそんなことはどうでも良くなった。

 取り合えず、目下の問題であった俺が何かやらかした件については決着がついたのだ、それで良しとしよう。

 復讐だとか報復だとか、そんなことに頭を使うだけ馬鹿らしい。

 

 ふむ、だとすれば何をしよう。

 何とはなしにパイプを咥えながら頭を使う。

 別にパイプになにか仕掛けがあるわけでもないのに、こうするだけで不思議と落ち着く気がした。

 そのままかっこつけて息を吹き込んでみて

 

 パイプの先端から、シャボン玉が飛んで行った。

 




さて、漸く物語を進められますね。
ここから先は、一気に行きますよ!
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