世界はシャボン玉とともに(another version) 作:小野芋子
周囲を見れば部屋中にシャボン玉が充満している。しかもこれ、割れるとかないからほぼ永遠に飛び続けているのだ。どうしてこうなったし。
パイプに息を吹き込めばシャボン玉が飛んでいく。それに気づいた俺はついついはしゃいでシャボン玉を生成しまくった。
作れば作るほど俺の中のナニカが削られていくような心地もしたが、まあ年甲斐もなくはしゃいでしまったんだ、削れたのは俺の中の尊厳とかそんなものだろう。そう言えば俺の年齢っていくつなんだろ?まあどうでもいいか。
だが、時には童心を思い出すのもまた生きていくうえで重要なことだ、そう言い訳した俺は冷めた目で俺を見る冷静な自分を無視してシャボン玉を作り続けた。
その結果のこれである。流石にやり過ぎた。正直反省している。
おかげで疲労感も半端じゃない。何事も熱中している間はテンションも高いが、いざそれを冷静に見つめなおすと途端に何やってたんだろと思ってしまうだろ?要はあれだ。
加えてどういうわけか触ろうが、叩こうがまるで割れないのだ。意味が分からない。もはや嫌がらせ以外の何物でもないだろこれ。
とはいえ、諦めて放っておくわけにもいかない。まず第一に邪魔だ。こんなにいっぱいシャボン玉が飛んでるとか一周回って恐怖すら感じる。それに光でも反射しているのかキラキラしていて普通に嫌だ。こんなのあったら眠れない。
そういうわけでどうにかしたいのだが、さて、どうすればいいんだろう?
もういっそ全部端っこに行ってくれないかな?
そう思ってもう一度シャボン玉を見れば、当のシャボン玉はまるで魚の大群よろしく意志を持ったように端っこに移動を始めた。
は?
ちょっと待って、意味が分からない。何?何が起きたの?
目をこすってもう一度見直してみるが状況はないも変わらず、寧ろ先ほどよりも気持ち綺麗にシャボン玉が整列しているようにすら感じる。嘘やろ。
シャボン玉は操ることが出来る。そんな意味不明な事実に俺が気づいた瞬間であった。
――この世界には忍術があるんよ。
――へー。ありがとう犀犬
――どういたしまして
困ったときの人頼み。あまりに意味不明すぎてちょっと思考回路が暴走し始めた俺に救いの手を差し伸べてくれたのは犀犬だった。
その犀犬によればこのシャボン玉も忍術だから俺に思い通りに操れるらしい。スゲーな。
因みに、その際丁寧語尊敬語謙譲語とへりくだりまくっていた俺が見ていられなかったのか、犀犬は俺に普通に話すように言ってくれた。あと呼び捨てにして欲しいとも。やだ、犀犬めっちゃいいやつ!
流石に犀犬にそう言われれば俺とて断ることは出来ない。最高にいい返事をしておいた。
さて、そんな犀犬からもたらされた情報によるとこの世界は忍者とかいうスーパーマンが当たり前に存在する世の中らしい。
戦闘は兵器ではなく忍術を使って戦うのだとか、ほかにも忍術を扱うためにはチャクラが必要なのだとも教えてくれた。
何と言うか、凄く濃いな。
しかも犀犬が言うには忍術は六道仙人とかいう人が世の中に広めたらしいし、あれ?忍宗だっけ?
兎に角濃い!こんなの俺程度の頭では持て余す。
そんなわけで、聞いた話をまとめる為にもノートにまとめようと思う。
因みにノートと鉛筆は適当にふらついていたら売っていたので買ってきた。
正確には俺が触れた瞬間にこんなものもう売り物にならねー!(ツンデレ)とか言っておっちゃんが投げてよこしてくれた。なんだよあの人、意外にいい人じゃねえか。今度からノート欲しい時はあそこを利用しよう。
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さて、早速ではあるが俺の得た知識についてまとめる
・この世界には忍び五大国というものが存在し、ここはそのうちの一つ水の国である。他には火・土・雷・風がある。ほかにも国はあるが、発言権が強いのはこの五つらしい
・各国のリーダーを〇影と呼ぶらしい。例えば水の国なら水影とか
・この世界には尾獣と呼ばれる存在が九匹いるらしい。犀犬はそのうちの一匹で六尾だそうだ。ああ、六尾って犀犬のことだったのか。イメージと違い過ぎて分からんかった。
・この世界は忍びが色々やってる。むしろ世界の中心は忍び。忍べ。
・忍術には火・水・土・風・雷の五つの性質がある。五大国の名前の由来はこれらしい。
・忍術を扱うにはチャクラが必要。チャクラにはそれ以外にも壁や水上を走ったり、体を丈夫にしたりする効果もあるらしい。
・忍術にはこの五つに属さない、正確には二つをかけ合わせたりすることで出来る新しい性質のものもあるらしい。
・現在は戦争、通称第三次忍界大戦中
・初代火影は頭おかしい
ほかにも色々あったがまとめるとこんな感じだろうか。いや、最後のこれに関してはいるのか?
犀犬に確認したらいるらしい。
なんでももともと洞窟でのんびり暮らしていた犀犬のもとに突然テレポートしてきて、木遁とかいうわけ分からん忍術で襲い掛かって来たらしい。なるほど、確かに頭おかしいな。初代火影は頭おかしい。覚えておこう。
それと、初代火影と渡り合ってたとかいううちはマダラも頭がおかしいらしい。よし、覚えておこう。そして絶対関わらないようにしよう。まあ年代を思えばもう死んでるだろうけど。
あとはなんだ?六道仙人とか言うのが忍術の祖だったか?
もともと忍術なんてなかったけど六道仙人の母親がチャクラの実を食べて、その息子の六道仙人がチャクラ引き継いで生まれたとか。そんで世の中の主流が忍術になることを悟った六道仙人が教え導いたらしい。
ほかにも六道仙人の息子二人が生まれて、とかいろいろあったけど普通にキャパオーバーなんでそれに関してはまた別の機会にでもまとめよう。
犀犬はなんか話したがっているが、ちょっと待って欲しい。いや、こんだけいろんなこと知ってると誰かに話したくなる気持ちは分かるんだよ?けど流石に多い!情報が多い!
なんだよ、一尾の名前が守鶴で狸だとか、二尾の猫又は猫舌だとか、三尾の磯撫は僕ッ子とか、いきなり言われても分かんないんだよ!もうちょっと待って!
よし、続きは明日にでもまとめよう
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ノートを閉じて鉛筆を床に置く。今も犀犬による尾獣マシンガントークは止まらないが、うん、ちょっと落ち着け。
軽く諫めると犀犬も自身が舞い上がっていたことに気づいたのか、恥ずかしそうな声でゴメンねと呟いた。それと続きは寝てからするとも。
別に怒ってはいないから。ただ寝てからするって何?誰かの会話するのが久しぶりというのは聞いたけど、ちょっと自重して。主に俺が死ぬから。
さて、漸く落ち着いた犀犬を他所に今後のことについてでも考えよう。
主に俺が嫌われていることについてだ。
正直このままでいいとは思わない。普通に嫌われているのは嫌だし。それに買い物に行くだけであの上手く表現できないようなねっとりとした視線を感じるのは勘弁してほしい。普通に気持ち悪い。
そうなれば当然好かれる為に動く必要があるのだが、それも難しい。なんせこの件に関しては俺は悪くないから。
俺が人柱力である、それだけのことで嫌われているのだから。
逆を言えばその一点をどうにかすれば俺への認識も少しは変えられるだろうが、何よりもそれが難しいのだ。
差別の対象者が何を言ったところで無意味だしな。
どうしたものか、頭を悩ませながらほぼ無意識でパイプをふく。シャボン玉がまた一つ空へと舞い上がった。
ん?
周囲を見渡してみると、気づけば山のようなシャボン玉がそこに。端っこに送っていたがどうやら既に収容限界を超えたのだろう、あぶれたシャボン玉で部屋が覆いつくされている。マジかよ。
頭を悩ます際の癖なのか、シャボン玉を飛ばしていたことにまったく気づかなかった。
取り合えず汚れないようにノートを懐に入れて少しでもシャボン玉が少ない場所に避難する。
とはいえほぼすべてがシャボン玉で覆いつくされているのだ、少ないと言えど比較的少ないだけで顔に付着したりして気持ち悪い。
ああもうどうすればいいんだよ。触れても割れないし、鉛筆でつついても鉛筆が中に入るだけ。しかもその鉛筆を入れたシャボン玉は重さなど知ったことかとふわふわと浮いてるし。
他にも服に張り付くわ、頭にペタつくわ、鼻に入りそうになるわ。
もうめんどくさい!
「
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その一報が水影――やぐら――のもとに届いたのは、やぐらがウタカタのもとから水影室にもどって暫くしてのことだった。
自身の失態を省みてウタカタの身張りに付けていた忍びの再編成や、戦地の把握、部下からもたらされてきた他国の情報の精査をしている時、慌ただしく部屋の扉を叩く音が響いたのだ。
それに対して少しだけ低い声で返事をしたやぐらであったが、入って来た人物を見て目を見開いた。
珍しく余裕のない表情で報告に来たのは霧の上忍鬼鮫。つい昨日、やぐらがウタカタの警備として指名した忍びだ。
その鬼鮫が突然何の用だ。
考えるまでもなく予想できる、ウタカタの身に何かがあったのだろう。
急いで腰を上げ走り出したやぐらを見て、鬼鮫も移動しながら報告する方が速いと考えすぐさま走った。向かう先は当然、ウタカタの家。
「それで、何があった?」
屋根から屋根へ、高速で移動しながらやぐらが鬼鮫に問いかける。途中いくつかの屋根に罅を入れていたが、当の本人はまるで気づいていなかった。
「ウタカタさんの部屋が何者かに襲撃されました。近くにいた忍びに警戒を任せて私はその報告に」
「襲撃だと!?」
溜まらず叫んだやぐらに鬼鮫は顔を顰めた。水影直々の任務を受けておきながら爆発するその瞬間まで敵の存在を感知できなかった。敵の方が一枚上手だとは言わない、足りなかった自身の弱さが招いた結果だ。鬼鮫は血が滲むほど唇を噛みしめながら不甲斐ない自身を責めた。
「…反省は後だ。それより近くにいた忍びとは誰だ?」
そんな鬼鮫の心情を見抜いたのだろうやぐらは、あえて励ますような真似はしない。これが任務である以上失敗の責任は鬼鮫にある。だが同時に、それは鬼鮫に託したやぐらの責任でもある。適材適所、誰にどの任務を割り振るかを正確に判断する力、それがやぐらに足りなかった。それだけだ。
「青殿です。彼の
「…そうか」
なるほどと考えて、やぐらはさらに速度を上げた。
鬼鮫のいう青という忍びは片目に白眼を持つ霧隠れの上忍のことだ。白眼は本来火の国・木の葉隠れの里の日向一族のみが有する特別な力であるが、霧隠れは戦場で殺した日向の忍びからその目を奪うことに成功していた。そして、その目を移植されたのが青だ。
頭の固い部分はあるが、冷静に物事に当たれるだけの胆力も持っている。襲撃されたのが人柱力であるウタカタとは言え、軽んじることなく対応に当たることだろう。
それに、鬼鮫の言う通り青の目は周囲の警戒では非常に役に立つ。なんせ白眼の力の本質はその視野の広さにあるのだから。
他にも白眼は通常目には見えないチャクラを識別する能力がある、それがあれば鬼鮫ですら分からなかった敵の正体を見つけることも可能だろう。
最後に一度強く蹴って、やぐらと鬼鮫はウタカタの家まで辿り付いた。
遠目では確認していたが、近くで見ると確かに酷かった。
支柱は粉々に砕かれ、壁であったであろうものはその辺りに散らばり、もはや家だったころ原型はない。もともとそれほど頑丈なつくりでは無かったとはいえここまでの悲惨なことになっているとは想像もつかなかったのだろう、やぐらは静かに息を呑んだ。
周囲を警戒しながら青に保護されているウタカタのもとまで二人は歩く。途中破片が転がっていたが、躊躇わずに踏み潰して行った。
青の目の前で佇むウタカタは茫然としていた。何も感じられない表情で、何も映さない瞳でもともと家があったであろう場所を見ていた。
それに僅かに恐怖を感じながらも、やぐらは青に尋ねる、何か分かったことはあるのかと。
それに対する青の答えは単純だった。何もなかった。何も、何一つだ。これだけの襲撃があって。これだけの爆発を引き起こしておいて、誰の痕跡も見つからなかった。
瞠目する鬼鮫を他所に、やぐらは尚も問いかけるが新しい情報はなにもない。少なくとも白眼という目を以てしても、なにも見つからなかったという情報が入ったのみ。
一瞬だけ言葉を詰まらせて、やぐらはウタカタを見た。相変わらずなにも映さない瞳が虚構を眺めていたが関係ない、少しだけ乱暴にやぐらの方向を向かせる。
「何があった?ここでいったい何が!?」
懇願するように問いを投げるやぐらにウタカタの視線が向けられる。それはほんの一瞬で直ぐに視線は伏せられた。
「俺がやりました。俺がこの家を爆発させました」
懺悔するように、悔いるように告げられたウタカタの言葉。だが、そんな言葉を信じるものは、少なくともこの場には誰もいなかった。
「ウタカタさん、嘘は良くない。正直に告げてください。名前が分からないのであれば特徴だけでも構いませんから」
事実鬼鮫は少しだけ怒ったように問いかけてた。信頼されているなどとは思わない、それでもこんなところで嘘をついて欲しくは無かった。辛そうな顔で誰かを騙そうとして欲しくなかった。
「嘘ではありません!事実です。俺が、俺の軽率な考えでこの家は爆発しました」
それでもウタカタの答えは変わらない。それが今日までウタカタが受けてきた差別によって出来た壁なのだと。暗にその目が告げていた。
踏み込ませることも、触れさせることすらも許さない。ウタカタがつくった、いやウタカタにつくらせた壁。それが明確に現れて、三人を拒絶した。
「ウタカタさん…」
「やめろ鬼鮫。これ以上は、問いかけるだけ無駄だ」
その壁を理解して、やぐらは問いかけることをやめた。これは自分たちへの罰だ。どれだけ心配に思おうとも、どれだけその身を案じたとしても、目に見える形で何かをしなければ何も変わりはしない。
すでにウタカタは自分たちを欠片も信じてはいないのだ。もはやこれ以上の詮索はウタカタとの距離を広げるのみ。
理解して、絶望して、そっとやぐらは視線を伏せた。
――水影になれば、助けられると思っていたんだがな
現実はどうだ。助けられるものは確かに増えた。助けられるだけの力は付けた。それでも、肝心のたった一人を救えない。
その事実にまた悔いを感じて、やぐらは血が滴るほど握り拳をかためた。
「青はこのまま探索を続けろ、鬼鮫はその護衛を務めながら青のサポートだ」
「「了解しました」」
すぐさま移動を開始した二人を見送り、やぐらはウタカタを見る。当の彼はやぐらたちが微塵もウタカタの証言を信じなかったことが予想外だったのか困惑したような顔をしていた。
「……ウタカタ」
名前を呼べば、僅かにウタカタの身に力が入る。それは警戒なのかそれとも恐怖なのか、その真意はウタカタにしか分かりはしないだろう。少なくともやぐらにはそれが自身とウタカタ、いや、霧隠れという組織と人柱力という個人の間に出来てしまった距離のように感じた。
「…住む場所が必要だろう。お前が良ければ暫く俺の自室を貸すが、どうする?」
答えに期待はしていない。やぐらは水影だ。この里のトップで、ウタカタの扱いをどうとも出来はしなかった無力な人間だ。
それなのに、ほんの僅かに、もしかしたらなんて考える自分に気づき自嘲の笑みを溢した。
――つくづく甘い人間だ。ここに来て、まだ距離を縮めようと足掻くなんてな
「いや、やはりなんでも……」
「じゃあ、泊まってもいいですか?」
「――ッ!?」
申し訳なさそうに、居心地悪そうに告げられたその言葉にやぐらは言葉を失った。
そんなやぐらの表情の変化に気づいたのだろう。また申し訳なさそうな顔をするウタカタに僅かにやぐらの胸が痛む。
そのままなかったことにしそうなウタカタを制止して、やぐらは微笑んだ。
「分かった。じゃあ家に来い。案内する」
僅かに、やぐらは救われたように感じた。
ウタカタ「誰も信じてくれない(ノД`)・゜・。」