インフィニット・ワイルド(仮題)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、ナックルコングかっこよすぎね? 紅椿の芽です。


ここ最近はゾイドのネタがほいほい頭の中に思い浮かんでは、実際に作る時間と金の余裕がない事に嘆いております。いっそ骨格からフルスクラッチしてみるか……。


さて、そんな事はさておき、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





第2話「転換、旅路は逸れる」

まさかの出会いをした俺と簪だったが、簪は初めて目にするセイバーサウルスの姿に心を奪われているような感じであった。うん、その気持ちはものすごくわかる。あれを見て興奮しないゾイド乗りはいないわな。

 

「セイバーサウルスに乗ってるなんて、魚泥棒なのに凄いです! 並の人じゃまず近づくことなんて無理ですよ!」

「……魚泥棒はまだ引っ張るんだね。まぁ、セイバーちゃんが束さんを認めたのなんて多分気まぐれだったんじゃないかな?」

 

簪の中では篠ノ之束——面倒だし束さんは魚泥棒のイメージで定着しているようだ。しかし、そこにはあの時のような険悪な雰囲気はなく、むしろそれをネタにして和気藹々としている感じだ。それでいいのかと思ってしまったが、変にギスギスした感じでいられるよりは断然こっちの方がいい。

 

「にしても、本当でけえよなセイバー。シェリーやカルタスなら載せられるんじゃねえの?」

 

地に伏せ休みを取っているセイバーサウルスの姿を見てそう思わずにいられなかった。サベージカルタスも割と大きい部類に入ると思っていたが、セイバーサウルスはそれ以上。全長で言えばカルタスの二倍近い大きさはあるだろう。身を隠すなんてことはできそうにない。ゾイド乗りと出会えたのは良かったものの、そのゾイドがとんでもない弩級サイズなものだから、あちこちにバレる恐れが出てきた。

 

「多分だけど載せられるとは思うよ。というか、こっちにきた時に変なものも付いてきたし」

「変なもの?」

「そう。変、っていうかとにかくでかいもの」

 

束さん曰く、とにかくでかい板らしい。それこそゾイドが普通に乗りそうなほど。……それ、運び屋のキャタルガとかが引っ張っているゾイド用の輸送パレットじゃねえの?ワイルド大陸に住む人々の生活にも俺は少し触れているから、そういう運び屋の姿も目にしている。おそらく輸送パレットに間違いはない。

 

「それ、ゾイド用の輸送パレットだろ、きっと。中型ゾイドまでなら載せて運べる代物だ」

「へぇ〜、そんなものがあったんだねえ」

「普通は使わないものだからな。知らなくても仕方ねえだろ」

 

まさかの輸送パレットがこっちにも存在しているとはな。とはいえ、それを扱うのは誰になるか、という問題がある。見ての通りゾイドは金属生命体である以上、非常に重い。水の上に浮かぶなんてのは無理だ。さっきのセイバーサウルスがいい例だ。水の中から出てきたということは、すなわち水に沈むということを意味する。セイバーサウルスならパレットを引くのに十分な力があるだろうが、あの巨体が持つ重量は凄まじいものだろう。さっきのように確実に沈む。また輸送パレットがあってもそれは陸上専用であるし、この辺はそれを扱うに適した荒野もない。よってパレットによる移動手段はこうして幕を閉じたのである。

 

「荷物運びには便利そうだけどね、そのパレット。……というか、かんちゃんはいつまでセイバーちゃんを眺め続けるのかな? そろそろ観察するだけってのも飽きるでしょ」

「全然。あと三日くらい観察してても飽きないと思う」

「かんちゃんまさか筋金入りのゾイド好き!?」

「いや、あいつは単純にメカとかそういうのが好きなだけだ」

 

俺と束さんが話してる間もカルタスの上に乗ってセイバーを観察し続ける簪。ここまでくると本当ある意味尊敬したくなってくる。というか、お前昼間に同じ景色は飽きたと言っていたくせにゾイドはまた別の話になるのか。たしかに簪はそういうものが前から好きだったもんな。むしろ景色よりはこっちの方が食いつきやすいんだろうさ。

 

「まぁ、一旦簪のことは置いておいて、とりあえずここからどうするかだな……流石にこれは移動しないと問題しかねえぞ」

 

セイバーに夢中になっている簪のことはさておき、俺は現状俺たちが立たされている状況を確認することにした。

 

「シェリーやカルタスくらいの大きさならまだ森や岩陰に隠せたが、セイバーの大きさとなると流石に隠せそうにない。こうしてる間にも人工衛星のカメラに見つかってしまってるかもしれねえしな」

「セイバーちゃんは確かに少し大きいからねー。でも、そんな有象無象の人工衛星くらい、束さんがハッキングしてもいいけど?」

 

……束さんの口からさらっと恐ろしい単語が聞こえて来たんだが。突然のことに思わず間抜けな声が出てしまった。

 

「は? それマジで?」

「マジもマジの大マジ。というか今もハッキングしてダミー映像を流し込んでるから、セイバーちゃんの存在どころか束さんの存在すら見つかってないよ」

「……マジかよ。前提条件から崩壊してたわ」

 

流石天才科学者というべきなんだろうか。人工衛星をハッキングしているとか普通は想像もできんわ。しかし、これでゾイドの存在が公に出るなんてことは大幅に可能性が低くなったことだろう。それで大いに結構だ。

 

「てか、ハッキングってパソコンからやってるんだろ? さっき盛大に水に沈められてたが無事だったのか?」

「ふっふっふ。そんじょそこらのパソコンと違って、束さんお手製のパソコンだから、防水機能も完璧にしてあるから全くもって問題ナッシング!」

 

バケモンか。下手するとゾイド並みに防水機能が働いているかもしれんわ。

 

「しかしな……そのハッキングする直前に見つけられている可能性も否定できん。俺としてはここから移動する事を提案するんだが、何がどうあっても海を渡ることだけは変わらんだろうよ」

「流石にそれはキツイかな〜。セイバーちゃんは確実に沈んじゃいそうだし」

「だろ? 全身メタルで出来てるゾイドは普通に重いからな。おまけにここにいるゾイドはどいつも陸棲型だから、泳ぐことなんてまず無理だぞ」

 

既に手詰まりになっている感じがしてやまない。ここから先一体どうすればいいんだろうか……存在がバレてしまった場合、シェリー達は確実に研究の為に様々な実験をさせられてしまうだろう。だが、そんなことは絶対にさせない。俺はシェリーと二年も旅を続けてきたんだ。相棒をそんな目に合わせるわけにはいかない。

 

「今からくーちゃんを呼んで迎えにきてもらうにしても……あ、だめだ。セイバーちゃんが乗れるサイズの船なんてなかった」

「あれが載るサイズの船って最早大型のフェリーか空母くらいだろ」

「うーん、本当にどうしようかなぁ……?」

 

全く解決策が思いつかず、思わずその場に寝そべり空を見上げてしまった。ここはかなり空気が澄んでいるのか、星が綺麗に瞬いている。何度も眺めてきた光景だが、いつになっても飽きることがないんだよな、この景色。眺めてると、本当俺らってちっぽけな存在だよなと思ってしまう。

 

「うわぁ……星ってこんなに綺麗だったんだね〜。長い間空を見てなかったから、なんだか新鮮に感じちゃうなぁ」

 

束さんも俺と同じようにその場に寝そべって空を見上げているようだ。

 

「長い間旅をしてるが、この星空はいつ見ても飽きないんだよな。空の青さと風の声は確かにいいもんだけど、夜空も引けを取らない良さがあるんだわ」

「なんかそれわかる気がする〜。束さんもこういう星とかに憧れを感じちゃうんだよ」

「ほう、意外だな。天災科学者さんはそういうのに興味ないと思ってたわ」

「心外だなー。科学ってのは憧れとか夢とか、そういうのがなかったら発展しないものなの」

 

俺にはそういう部分はよくわからない。元々はどこにでもいるような普通のガキだからな。ただ、憧れや夢がなかったら何もできやしないってのにだけは同感だ。俺だって……夢くらいはあるからな。

 

「さて、と。束さんはちょっと周りを散歩してくるよ。もしかすると何かいい案が思いつくかもしれないからね」

「あんまり遠くまで行って迷子になるんじゃねえぞ」

「はーい——って、束さんはそこまで子供じゃないし!」

 

実際、夜の森は迷子になりやすいから気をつけなきゃならねえんだけどな……俺だったら夜の森の中を歩くなんてことはあまりしたくはない。まぁ、でも海岸付近ならばそう簡単に迷子になったりはしねえだろ。そんなことを考えながら腕を組み直して、もう一度寝転がった時だった。

 

「うん? なんだこりゃ……?」

 

硬いものが俺の腕に当たった。手に取ってみると、何やら水色に輝くキューブのようなもので、見た目よりは軽い。少なくともこの辺に落ちている石とかとは根本的に違うもののようだ。

 

「まぁ、珍しそうなものだし、拾っておくとするか」

 

誰かの落し物ってわけではなさそうだし、別に俺が拾っても問題はないだろう。そのキューブを俺は上着のポケットに突っ込んだ。そして再び寝転がる。空には相変わらず輝く星たち。しばらくそうやって眺めていると、俺の視界は影に覆われた。いや、二つの翡翠色の双眸があるな。

 

「どうしたんだ、シェリー? 何かあったのか?」

 

徐にシェリーが俺の元へ歩み寄ってきていた。口元をパクパクと動かしてはいるが、一体どうしたというのだろうか? というか、外見は丸っこい形をしているシェルキャリアだが、口元はやばい。なんというか、どでかいハサミでできたギロチンのようなものに見える。こんなところだけ見せられたら、大抵の人は怖がる事間違いなしだ。

それはさておき、何を考えているのかわからないシェリー。寄ってくるだけ寄ってきた、それだけなのか?

 

「にしても、これ一体なんなんだろうな……」

 

一度シェリーの事は放っておき、俺は上着のポケットからあのキューブを取り出した。不思議な輝きを放つそれは、夜空に輝く星のようにも思える。回して全体を眺めてもこれがなんなのか全くわからない。

そんな時、シェリーがキューブに向かってハサミを伸ばしてきていた。コイツもこれが気になるのだろうか? 別にシェリーが挟んでもぶっ壊れなさそうだし、いいか。

 

「なんだ、これが気になるのか?」

 

俺の問いにハサミを両方とも軽く掲げ上げて答える。その意味は肯定。

 

「そうか、ほらよ。力入れすぎてぶっ壊すなよ?」

 

俺がキューブをハサミの方に差し出すと、シェリーはそれを丁寧に挟んでいた。やはり気になっていたようで、自分の視界にそれを入れてから、ずっと眺めっぱなしだ。ゾイドの興味をそそるほどのものって、一体なんなんだろうか、余計気になって仕方なかった。そんな時だった。

 

「——ひょわあぁぁぁぁぁ〜!? ちょ、ちょっと!! なんでカルタスは私を追ってくる訳ぇぇぇぇぇっ!?」

 

何処からともなく聞こえる悲鳴と、地面を蹴り上げる音に混じる咆哮。視線をそちらに向けると、何やらカルタスに追われてる束さんの姿が。……本当に何やってんだ? 何か変な事でもやったのだろうか?

 

「カルタス! ストップストップ! 一体急にどうしたの!? 落ち着いて止まって!!」

「かんちゃん! 全く止まる気配ないんだけどぉぉぉぉぉっ!?」

 

そんな簪の制止も聞かず、カルタスは束さん目掛けて猛進を続ける。しかも、頭部に備え付けられているブレイカーホーンを向けた状態でだ。

 

「どぶぅふぇっ!?」

 

カルタスによって大きくぶっ飛ばされ、変な悲鳴をあげて砂浜に突き刺さる束さん。綺麗に頭から突き刺さったなー。あんな光景滅多に見る事ができないぞ。ぶっ飛ばした当のカルタス自身は束さんには目もくれず、地面の方に視線を向けたままだ。一体何に興味を惹かれたのか、気になった俺はカルタスの側に向かう事にした。

 

「うわぁ……なんと綺麗な犬神家状態……って、カルタス? 何を見てるの? 光る……キューブ?」

 

聞こえてきた話の通りなら、カルタスの視線の先には光るキューブのようなものがあるらしい。ん? 光るキューブといえば、さっきシェリーに預けたのも同じ感じだよな……もしかして全く同じものなのだろうか? だとしたらそれらは一体なんなのだろうか? 人工物なのかそうでないのか……ますますわからん。そう色々と考えていた時だった。

 

カルタス、多分そのキューブを食った。

 

「——って! 何食べてるの!? というか、カルタスってものを食べる事できたの!? と、とりあえず、さっき口にしたものは吐き出して! ほら早く!!」

 

簪が必死になって言い聞かせているが、バリボリという音が聞こえてくるあたり、もう手遅れな気がする。体を動かしてキューブ噛み砕いているカルタス。そして、丸のみでもするかのような動きをした。うん、どう見ても食った後だな。満足げな咆哮をしているあたり、間違いない。

 

「……ふぃ〜、助かったよ、セイバーちゃ——ふぐぇっ!?」

 

またもや珍妙な悲鳴が聞こえたかと思いきや、セイバーに投げ捨てられた束さんの姿が。……いや、自分の相棒ゾイドにすら足蹴にされるってどうなんだよ。犬神家状態から助かったと思いきや、また犬神家状態に戻ってんじゃねーか。そんなセイバーもまた地面に頭を近づけてなにかを咥えたような動きを見せる。そして、長い首を上に振り上げ、何かを丸のみしたようだ。……あれ? もしかしてさっきのもキューブ? ゾイドの餌になりうる存在なのか?

 

(って、待てよ……ということは……)

 

俺は思わず振り返る。そこには、キューブを今にも食おうとしているシェリーの姿が。

 

「おい待てシェリー! そいつは一旦ストップだ!!」

 

しかし、俺の言葉虚しく、キューブはシェリーのアゴに砕かれ飲まれていった。完全に食ってやがる……しかし一体こいつらが食ったものは一体なんなんだ? そもそもゾイドが何かを食うなんて光景初めて見たぞ……。俺はその光景をただ呆然と眺めてることしかできなかった。

 

「……痛ってて……もう、みんなして何をするのさ——って、はれ!? ここに入ってたのが無いんだけど!? どっかに落とした!?」

 

そんな時、散々な目にあっていた束さんが復活したようだ。しかも、何か落し物をしたらしい。なんか大慌てでポケットの中身をひっくり返して探している。だが、そんな事よりさっきまで起きていた事態について説明しなきゃいけない気がする。

 

「……なぁ、束さんよ」

「ごめん、なーくん! 今ちょっとこっちは探し物してるから! 話は後にして!」

「……いや、結構後回しにできない話なんだが……あんたのセイバーサウルスも含めて、ここにいるゾイドが皆一様に同じキューブを食っちまったみたいだぞ」

 

その言葉を聞いた束さんの反応は凄いものだった。

 

「ちょちょちょちょちょ!? そそそそそそ、それ、それってマジ!? 本当と書いてマジって読むくらいマジ!? 真剣と書いてマジって読むくらいマジ!?」

 

俺の両肩をしっかりと掴み、激しく揺さぶってくる。その目には明らかな動揺が浮かんでおり、顔色もどこか真っ青に近い。どうやら本気でこれはまずい事態になっているらしい。

 

「ちょ、束さん! お、落ち着いて! 一体どうしたんですか!?」

「これが落ち着いていられるかよ、かんちゃん! なーくん! それってマジ!? ガチ!? ホンマ!? レアリィ!?」

「うっぷ……ま、待てよ……とりあえず、落ち着け……じゃねえと、話すもんも話せねえよ……」

 

興奮状態となった束さんの暴走はますますヒートアップしていく。簪の制止も聞かないところはどうやらカルタスにそっくりだ。……というか揺さぶられているせいでなんか物凄く気分が悪くなってきた。やべ、さっき食った魚吐きそうだわ……。早い所なんとかこの兎を止めなければ。

 

「だぁーっ!! 一回落ち着けって言ってんだろうが!! 人の話を聞けよ、この兎!!」

「どぶふぁっ!?」

 

しょうがないから思いっきり蹴り飛ばしてやった。晴れて俺は拘束から抜け出し、気分の悪さも見事解消。少々頭がクラクラしてるが、まだ許容範囲内だ。

 

「渚、大丈夫?」

「ああ……なんとかな。一先ず、この辺に撒き餌するオチにはなりそうにないわ」

 

簪の心配に俺なりの冗談を交えて答える。さて、蹴飛ばした兎から話を聞くとするか。あのキューブについて何か心当たりがあるような事を口走ってたからな。それにしても、たった一晩も経たないうちにここまでいろいろ振り回されたのは初めてだぞ。

 

「で、あれはなんなんだ?」

「そ、そそそそれよりも、完全に食べちゃったわけ!? あのコアを!?」

「コアが何かわかんねえけど、キューブなら綺麗に食っちまったぞ。な、簪?」

「うん。バリボリって噛み砕いて飲み込んでたよ」

「オーマイガッデス!!」

 

急に頭を抱えて叫び声を上げたと思いきや、今度は地面に伏せてしまった。もう訳がわからん。一体何がどうしたというのか、混沌と化していくこの現場に俺たちはどこか置き去りにされている感覚を覚えていたのだった。

 

「あぁぁぁぁぁ……なんてことに……まさかゾイドが食べるだなんて……」

「いや、だからアレはなんなんだよ? あんな感じに光るキューブなんて初めて見たぞ」

 

どうやら束さんにもあのキューブをゾイドが食べるなんてことは想像していなかったらしい。いや、だから結局あれはなんなんだよ、という話なのだが。とりあえず叫びまくっていた束さんは一度落ち着きを取り戻し、少しずつ言葉を漏らしていった。

 

「……あれは私の作ったISのコア……その芯となる本当の意味でのコアだよ……」

 

IS。正式名称はインフィニット・ストラトス。約十年くらい前に突如として現れ、世界を瞬く間に変えていったシロモノ。女性にしか反応しないそれは、コアと呼ばれるものが必要であり、そのコアの絶対数は五百も無かったはず……その話を思い出して、俺はとんでもない事態に直面していることに気がついた。コアを食っちまったという事は、その分ISの数が減るって事だろ? 俺にとってはゾイドの方が価値あるものだと思ってるから大したことではないが、世界的に見たら大変な事態になっている事だろう。

 

「で、でも、ISのコアって金色に光るキューブなんじゃ……」

「あれはガワを別のメタルで覆った搭載する形になったコア……こっちは芯がむき出しだからね。普通は見ないから驚いちゃうかぁ……」

 

簪はISについて勉強させられた(・・・・・)って言っていたから多分疑問に思ったんだろう。俺はそんなことに触れてきたわけじゃないから初めて知ることになったがな。

 

「別に数が減るとかはどうでもいいんだよ……あれはまだ意思の宿ってない殻みたいなものだし」

「い、意思……? あ、ISって意思があるの?」

「偶然の産物なんだけどね……まぁ、二人にわかりやすくいえばゾイドみたいな感じだね」

 

意思が宿ってるコアを食べられたらもっと発狂してたかも、と付け加える束さん。ISって意思があるのか……初めて知ることばかりで普通は新鮮味を感じるんだろうが、生憎ゾイドという金属生命体と触れ合ってきた以上、特にそういうのは感じなかった。むしろ、ゾイド以外にそんなものがあった事が驚きだ。

 

「……それで、そのコアを食っちまったシェリー達はどうなるんだ?」

「……それは流石の束さんにもわからない。こんな事初めてだし……」

 

束さんの言葉に、まあそうだろうなと思いつつも、長い間付いてきてくれた相棒の身に何かが起こると考えると不安になってくる。振り返ってみると、シェリーにカルタス、セイバーの全身が淡く蒼く光っているように見える。強烈な光景だが、その光はとても優しい感じがするものだ。シェリーも自分の身に何が起きているのかわからず、目をキョロキョロと動かし、カルタスとセイバーも首を振って挙動不審になっていた。だが、それもつかの間。光は一箇所に集中し、それぞれ一つの塊となって、背中、胸、腹の真ん中に留まった。一体何が起きているのか……状況を見てはいるものの、その全容を把握する事は出来ていなかった。その間に光は消え、いつものシェリー達の姿に戻っていた。特に異常は起きてないように見える。

 

「ね、ねぇ、カルタス……大丈夫? どこか変なところはない?」

 

光が消えたと同時に、簪はカルタスの元へと駆け寄っていた。カルタスにかける彼女の声はどこか不安を帯びている。自分の相棒に不思議な事が突然起きたんだ、心配するなって方が無理な話だ。

そんな簪の不安を取り除くかのようにカルタスは自慢のツノを使って簪を持ち上げ、咆哮を轟かせる。

 

「わっ、ちょ……! こ、こら! 急にどうしたの!? ……その様子を見る感じだと、なんともないみたいだね」

 

カルタスに持ち上げられた簪はその身を翻し、いつもの位置に乗っていた。その光景を見て、あいつも大分身のこなしが上手くなったよなと俺は思った。前なんてカルタスに乗るのだって難儀していた事だってあったのにな。

 

「……そんで、お前さんも全く変わりないみたいだな」

 

あっちの方はもう大丈夫だろうと思い、俺はシェリーの方に目を向けた。こっちも全く変わりはない。いつも通りの姿である。とはいえ、そんな風に大きく変わらなかった事が何よりも安心する要因となっている事には違いない。おまけに、気にするなと言わんばかりの鳴き声を聞いてしまえば、最早そこまで心配する必要はないだろう。

 

「いや〜、セイバーちゃんもなんともなくて安心したよ〜」

 

どうやら、セイバーサウルスも異常は見られなかったようだ。現に束さんを咥えて背中に乗せている。ISのコアを食ったのを見てしまったから、何かが大きく変わってしまったかと思ってしまったが、特にそんなことはなく、変わらない姿がそこにあった。とりあえずはそれでいいとしよう。

しかし、俺の経験則上、そんな風に考えている時ほど変な事象というものは起きやすい。これまで旅してきた中でもそういったことは少ないながらもあったからな。

 

「——こ、これって……一体どういうこと……!?」

 

例えば、カルタスに乗っていた簪ごと光に包まれて、それが晴れたときは簪がISらしきものを纏っているとかな。って、

 

「はあぁぁぁぁぁっ!? か、簪!? お前それどうしたんだ!?」

「し、知らない知らない!! 急に光ったと思ったらこんな事に……てか、カルタス!? カルタスはどこ!?」

 

簪がISらしきものを纏ったと同時なのかは知らんが、カルタスの姿がよく見えない。しかし、鳴き声は聞こえる。いるには違いないんだが……一体何処に姿を隠したんだ? あたりを探すがあの見つかりやすそうな巨体は見つからない。簪は見つけられない事からの焦りか、多分視野が狭くなっているよう、周囲をしきりに見渡している。少なくとも俺くらいは落ち着いた方がいいだろうと思っていたときだった。

 

「……なぁ、お前の足元にいるの、もしかしてカルタスじゃね?」

 

簪の足元でぐるぐる動いている子犬くらいの大きさの何かがいる。だが、こんなところに子犬がやってくるなんてことは考えられないし、何より水色の装甲と頭にある二本のツノからして、多分あれがカルタスなんだろう。どうしてこうなったのかはわからないが。

 

「ふぇ……こ、これがカルタス……? なんか小さくなってない?」

「やっぱり、俺の見間違いではなかったか……ところでお前のそれ、ISっぽいんだが、それなんだ?」

 

カルタスに関することはひとまず後にして、簪が纏っているISらしきものについて聞く事にした。あの機体は一体なんなのだろうか……水色の装甲に、頭には二本のツノのようなヘッドギア、後ろには尻尾のようなものが見て取れる。

 

「……『サベージカルタス』。か、カルタスがISになっちゃったみたいなんだけど……」

「ファッ!? まじかよそれ!? ……って事は」

 

俺はシェリーの元へと駆け寄る。たしかに外観に関しては何も変化してない。それについては間違いないはずだ。しかし、カルタスがISのコアを食ってあんな風になってしまったというのなら……シェリーにそれが起きていないわけがない。可能性としては大いにありうる話だ。しかし俺は男、ISは男には反応しない筈。それならきっと何も問題はないし、何も起きないはずだろう。

 

「……なぁ、シェリー。お前もカルタスのようになっているって事はないよな……?」

 

俺は思わずシェリーにそう問いかけていた。言葉の返事がこない事は百も承知だ。だが、そうであるとわかっていても聞かずにはいられなかった。俺は恐る恐るといった感じでシェリーの頭に手を伸ばした。ここまでシェリーに触れるのを躊躇ったのは、初めてコイツとあった時以来だと思う。そして、頭の紫色の装甲に手を乗せたときだった。

 

(ッ……!! な、なんだ!? 情報が頭の中に……!!)

 

指先から全身に向かって迸る電流のような感覚。脳の中に流れ込む幾多もの情報。まるで、初めてワイルド大陸に降りた時と同じような感じだ……一体俺の身に何が起きているんだ!? 視界はすでに眩い光に包まれており、自分がどんな状態にあるのか、周りがどんな状態になっているのか、それすらもわからない。

どれ程経ったのだろうか。光が消え失せ、目を開けても大丈夫な状態になったと感じた俺は閉じていた目を開けた。地面に立っている事は確かだ。だが、視界にはなんかよくわからないゲージとかスロットとかが映し出されており、両手を見てみれば、籠手のようにシェリーのハサミを模したようなものがつけられている。あまりの事に脳が考えることをやめ、俺は自分の身に何が起きているのかが理解できずにいた。

 

「……なぁ簪。今の俺ってどんな状態になってる?」

「……シェリーみたいなIS纏ってるよ。おまけに小さなシェリーが足によじ登ってる」

「……まじか」

 

どうやら俺は見事にISを纏ってしまっているようだ。……俺、もしかして女だったなんてオチはないよな? 試しに[自主規制]に力を入れてみると、なんか動く感覚があるから、少なくとも女だったというオチはない。しかし、これは全くもって理解ができねえ……本当、俺の身に何が起きてんだよ、これ。俺の頭は完全にオーバーフローしてるわ。

 

「——ワーオ!? まさかまさか、なーくんがISを纏っちゃってるなんて……おまけにゾイドがIS化するなんて……これはヤバイぜぇ、ものすごくヤバイぜぇ……!!」

 

そんな俺をよそに謎の歓喜状態に陥ってる束さん。彼女もまたセイバーサウルスを模したISを纏い、ちびセイバーを連れている事から、俺たちと同じような状態になっているのだろう。

 

「まさかまさか、なーくんが世界で初めて男でISを動かすなんて……束さん、こいつは最高についてるぜぇ!」

「俺やゾイド達は全くもってついてねえよ!! いやアレはしっかりついてたから男だったけどさ!! なんじゃこの状況は!? 俺は一体どうなってんだよ!?」

 

俺やシェリーからすれば何がどうなってこうなったのかわからない状況に放り込まれてるってのに、束さんときたら目をこれでもかと輝かせてこっちを見てくる。待て待て待て待て、その実験動物を前にした科学者みたいな顔をするんじゃねえ! 俺はモルモットじゃねーよ!! と、考えていたが、目の前のやつはガチで科学者だからそうなるのも無理ないか。そうなった理由は理解はしたが、納得はしてねえからな!!

 

「……まぁ、それはさておき」

 

しかし、束さんはさっきのがっつくような勢いから一転、落ち着いた感じのモードに切り替わっていた。いや、どんなスイッチのオンオフをしたらそんな風に真逆の雰囲気へと切り替える事ができるんだ……?

 

「二人の保護も兼ねて一旦私のラボに行こっか! ゾイドもちっちゃくなったし、これなら運べるしね!今くーちゃんに迎えにきてもらうよう連絡するから!」

 

どうやら俺たちが束さんのラボに行く事は確定事項のようだ。状況について行くことを放棄した俺は、最早彼女のノリに全てを任せる事にしたのだった。

 

「……渚」

「……どうした簪?」

「……私達、どうなるんだろうね……」

「……俺に聞くなよ……」

 

俺と簪、二人揃ってため息を吐く。俺たちの嘆きは、明け始めた空へと吸い込まれていったのだった。






オリジナルゾイドについての設定は、もう少し物語が進んでから纏めて載せたいと思います。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
超不定期更新となりますが、次回も生暖かい目でよろしくお願いします。

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