細かい部分は無視してご都合展開モリモリで書いていきます。
トール・イブン・ファルク。
世界の統制機関トップにあたる『セブンスターズ』に名を連ねる名家・ファルク家の嫡男として俺は生まれた。
父の名はエレク・ファルク。
セブンスターズの中でも大して強くも弱くもない立ち位置の人間である。
ファルク家の家紋は古代北欧神話に語られるニーズヘッグ。
このニーズヘッグは、世界を支える大樹ユグドラシルの根を齧りながら生きている。
そんな家紋を使用している我がファルク家も、セブンスターズという大樹の根を齧りながら生きてきた。
つまりは、発足からこれまでの三百年、我らファルク家はセブンスターズの地位から受けられる恩恵
それも、セブンスターズという大樹を揺るがさない程度に。
ファリドが権力掌握に邁進し、エリオンが漁夫の利を狙い、ボードウィンが善政を敷き、イシューが威光を盤石にする中で、我々ファルク家はただただ世界を貪ってきた。
その嫡男に生まれた私は当然ながら多くの者が忌避した。
たまに、うまく取り入ろうとする小物が寄ってくることはあっても大半は『触らぬ神に祟りなし』と距離を置いた。
さらに悪いことに私は生まれつき目つきが悪かった。
俗に言う三白眼というやつだ。おまけに眉毛も大きく釣りあがっている。
『悪魔の子は悪魔』
そのような噂がひっそりと流れていることを私は知っていた。
父も、私に対して常に『貪れるだけ貪り引き際を見極めろ』と教えてきた。
私を儲けた頃にはすでに一線を退いてからだったために、父は話に聞くほどの苛烈さは無かった。
それどころか、一人息子である私に愛情を注いでくれた、彼なりの愛情を。
物が欲しいと言えば、それがどんなものだろうと即座に取り寄せてくれる。たぶん、女を望めば即座に美女を見繕ってくれただろう。
しかし、物以外の愛を父は与えてくれなかった。
父も知らなかったのだ、『形あるもの以外の愛』を。
私は、正妻の息子ではない。
自身の権力に余計な邪魔を入れないために父は正妻を取らなかった。ファルクは代々そうしてきたという。
父が権力と金で囲んだ妾のうちの一人から生まれた子どもを、時期が良かったからと嫡男として迎えたに過ぎない。おそらくは名も知らぬ兄姉が大勢いることだろう。
そのような出自から私は家でも常に一人だった。
勉強もした、訓練もした、ただ、そこにいるのは雇われの人間と使用人だけ。金の繋がりでしかない人間だけだった。
寂しい、それが私の当時の心境だった。
そんなある日、私は唐突に、『彼女』と出会った。
五回目の誕生日を過ぎたその日。
私は庭園で一人、花を愛でていた。
花は好きだった。単純にその美しさに心を惹かれたのだ。
遠巻きに、使用人たちが私を貶しているのが聞こえていた。
『妾の子』『無理矢理孕まされた子』『鬼畜の子』
多くの蔑称を付けられていたがいつものことだったので、私は気にしないように、聞こえないように、ただ花を見ていた。
そんな時だ。
「あなたがトール・ファルク?」
実に高圧的な少女の声が頭上から降ってきた。
「……トール・イブン・ファルクだ、間違えるな」
「それは失礼したわね、ではトール・イブン・ファルク。あなた、なぜ黙っているの?」
「何の話だ?」
「使用人のことよ! 仮にもセブンスターズに名を連ねるファルクの嫡男が使用人に好き勝手言われて、なぜ言い返さない!?」
少女は突然、怒ったように叫んできた。
俺には彼女が何を言いたいのかよく分からなかった。
だって、それが普通だったから。
「全て事実だ。言い返す言葉もない。俺はーー」
「軟弱者!!」
ぱしん、と頬を平手打ちされた。
これも意味が分からなかった、なぜ、見ず知らずの少女にいきなり叩かれなければならないのだ。しかも、理由もなく。
「そのような腐った性根を持つ者はセブンスターズには要らぬ」
少女は間髪入れず、そのようなことを宣った。
なぜ、このようなわけも分からぬ少女にそんなことを言われねばならんのだ。
私は、この時、初めて激しい怒りを覚えた。
「……好き勝手言いやがって、貴様こそ何様のつもりだ。ファルクの者と知ってそのようなーー」
「私はカルタ・イシュー。イシュー家の次期当主たる娘だ」
その一言に私は一瞬で凍りついた。言いかけた言葉も即座に引っ込む。
イシュー家とは私よりも確実に格上の名家中の名家。セブンスターズ筆頭であるのだから。
その娘が、目の前の少女だという。
「ふん、私と同い年の跡取りがいるというから来てみれば……とんだ腑抜けであったな」
ふん、と鼻を鳴らす彼女。
その見下したような目が気に入らなかった。なぜか、使用人の陰口や教師からの嫌味などとは比べものにならないほどに気に入らなかった。
おそらく、真正面から図星を突かれたからだろう。
「貴っ様ぁぁぁ!!」
後先考えずに彼女の襟首を掴む。
「なんだ、口では勝てぬから拳で語れと? ハッ! いいだろう、受けて立つぞ。女と思って甘く見るなよ!!」
しかし、予想外に強い力で突き飛ばされた。
運悪く、着地したのは花壇の上。先ほどまで愛でていた花たちが無残にも花弁を散らして風に流される。
「腑抜けめ……」
まだそのようなことを言うか。
この時、私の中で何かが切れた。もはや、イシュー家の権力などどうでもいい。ただ、私を腑抜けと嘲笑う彼女を負かしてやりたかった。
「貴様ぁぁぁ!!」
「ぬおっ!?」
彼女に掴みかかった私は、しかしバランスを崩した彼女と取っ組み合いながら庭を転がった。
「くっ、ヘタレめ! このカルタ様に敵うと思うなよ!!」
「黙れ“あばずれ”!! 貴様こそ俺に跪くがいい!!」
互いを口汚く罵り合いながら殴り合う。彼女は年の割には体格が俺よりも大きく、一撃一撃が重かったと記憶している。
その後も激しい殴り合いをしていると、さすがにまずいと思ったのか遠巻きに見ていた使用人が止めに入った。
「ぼ、坊っちゃま、おやめください!」
「離せっ! このような雌猿は二度と口を聞けなくしてやる!!」
三人もの使用人に拘束されながらも私は怒りのままに暴れ叫んでいた。
「離せー! 私を“あばずれ”などと呼んだ此奴は生かしておけぬ!!」
カルタの方も同じく暴れ叫んでいる。
その一言一言が癪に障り、怒りがじわじわと増幅する。
結局、その日は屋敷で談笑していた双方の父が現れた頃にようやく収まった。
だが、その日以降、彼女は度々うちを訪ねてくるようになった。
父とイシュー公が仲が良いのは知っていたが、それでも、仲が悪いと知っている私と彼女を引き合わせるその意図は掴みかねた。
父とイシュー公は当然のように私とカルタを一室に放って別室で談笑を始める。
当然ながら私たちは一分も経たずして喧嘩を始めた。
そんなことを何度か繰り返したある日、私は父に『さすがに怪我し過ぎ』と怒られた。
確かに、彼女と会った日は大体傷だらけになる。だがそんなことはどうでもよいと思った。
この頃の私は彼女のことで頭がいっぱいだった。
なぜか彼女にバカにされると我慢できなくなる、それを父に告げると神妙な面持ちで黙り込んでしばらく。「そうか」とだけ呟いた。
父に叱責を受けてから、初めて彼女が訪ねてきた日。
俺は彼女に喧嘩以外の勝負を提案した。
てっきり、また罵られて喧嘩になると思っていたが案外すんなりと受け入れられた。
それからは様々な事で競い合った。
木登りはもとより、剣技や勉学でも勝負を行なった。
それに応じて、これまでは消極的だった剣術の訓練や勉強も必死に励むようになった。間違いなく、彼女に負けたくないという反骨心からだったのだが結果として、それは良い結果となった。
舞踏会や披露宴等の催し物に呼ばれるのも、これまでは嫌で仕方なかったが彼女と会えると思うと不思議と待ち遠しくなり。
剣術や勉学で身につけた能力を披露することで、これまで疎遠だった同年代の貴族の子息子女とも交流を持つようになった。
この頃から彼女への怒りなどは消え去って、代わりに彼女へと想いを馳せることが増えた。
そんな時、私は何となく気になったことを彼女に尋ねた。
「なぁ、なんであの時、俺のこと引っ叩いたんだ?」
「引っ叩く? ああ、あの時か。何のことはない、ただ、気に入らなかっただけだ」
彼女はそう答えた。至ってシンプル、確かに他に理由など述べていなかったな当時から。
「でもまあ、こうして俺が自分に自信が持てたのはお前のおかげだ、ありがとうな」
何の気なしにそう述べた。
「ふ、お前がそう言うなら素直に受け取っておこう」
その時、ふと見せた笑顔が、とても眩しかったのを覚えている。
同時に俺の心臓が激しく鼓動を放つのを感じた。
咄嗟に顔を背けたが、すでに顔が沸騰したように熱くなっていたも覚えている。
おそらく、俺はこの時すでに彼女に恋をしていたのだろう。
それから数年 、カルタに加えてボードウィン家の跡取りたるガエリオとも一緒に遊ぶようになってしばらく。
俺は、いや彼女は、彼と出会った。
その日も三人でセブンスターズ関連施設にある庭で駆けずり回っていた。
そんな時に彼女がふと、庭の端にある樹の方へと目を向けた。
「どうした?」
「……」
俺の問いかけに答えることもなく、彼女は駆け出していた。
慌てて俺とガエリオも後を追う。
立ち止まったカルタの目の前には一人の男の子がいた。
樹の幹に身体を預けスケッチブックに黙々と絵を描く少年。
金髪碧眼で、極めて整った顔の美少年だった。
「あなた、名前は?」
「……マクギリス・ファリド」
視線だけを動かして不満そうにそう述べる少年。
どこかで見たような光景だと思った。
というか、ファリドというとあのファリドか。まさか、セブンスターズの者が四人も集まるとは、と俺は呑気にそんなことを考えていた。
「そ。じゃあ、マクギリス、貴方も一緒に遊ぶわよ」
「……なぜ?」
唐突なカルタの宣言に少年はしかめっ面で答えた。
これもどこかで見た気がする。
しかし、渋る彼を無視してカルタはその腕を掴んで無理やり引っ張る。
「つべこべ言わない! いいから遊ぶわよ!」
「……」
明らかに嫌そうな少年を案じて俺は彼女に声をかけようとした。
「っ!!」
しかし、彼女の横顔を見た俺は言葉を失った。
ほんのりと頬を染め、嬉しそうに笑む彼女。
俺は知っていた。あれは恋をしている顔だと。
直感した。彼女は彼に一目惚れしたのだと。
そう思った瞬間、なぜだか胸をズキズキと突き刺すような痛みが襲った。
「トール? 行こうよ?」
ガエリオが不思議そうに声をかけてきた。
ふと我に返った俺は彼に生返事をしつつ彼女たちの後を追った。
その日以降、一緒に遊ぶメンバーにマクギリスが加わった。
当初こそ不満げな彼だったが、だんだんと感情を示すようになり僅かながら笑みを浮かべるまでになった。
彼と出会って一年が過ぎ去ったある日、俺はまた彼女になんとなく問いを投げた。
「なあ、マクギリスってどう思うよ?」
「はぁ? 唐突になに?」
当然のごとく彼女は怪訝な表情で疑問を呈する。
「あ、いや、あいつってかっこいいなぁとか思って」
「……そうね。思慮深くて、家名に恥じない気高さをもった、いい男ね」
予想外にも直接的な言葉に俺は動揺した。
ガエリオや当然、彼がいる時もそのようなことは一切語らなかったというのに。
同時に、彼女の横顔を見た俺は言葉を失った。前よりも彼に想いを馳せる彼女がいることを嫌でも思い知らされたからだ。
「……って、あなただから言うのよ? 間違ってもガエリオなんかには言わないでよね」
照れ臭そうにそう言う彼女を、俺は直視出来なかった。
「…………ああ、分かってるさ。俺とお前の秘密だ」
そんな信頼は欲しくなかった。
ただ、俺を見て欲しかったんだ、最初から。
バカにされてムキになったのも、必死に勉強したのも、全ては彼女に振り向いて欲しかったからだった。
それなのに。
俺はポッと出の男にあっさり彼女を奪われた。
無性に情けなくなった。
俺のこれまでが全て否定されたような気がした。
俺の人生が今後も無意味に感じた。
俺の価値が、中身が、全てが無くなったような虚無感を覚えた。
こんなにも、彼女に執着する俺の思考がたまらなく気持ち悪かった。
その時、俺は不意に思い出した。
急速に頭に流れ込んでくる
まるで清流のようにすんなりと脳内に入り込むそれらの『記憶』を全て受け入れた時。俺は悟った。
“俺は本来、この場にいない存在だ”と。
転生者。この『記憶』が正しければ俺は前世というものを持っていて、前世で死亡した俺はこの世界へと再度生を受けた。
直感でこの記憶が俺の本来の記憶だと確信した。
なぜ、今になって思い出したのか。
そもそも、なぜ忘れていたのか。
そんなのは分からないが、ただ一つ確かなのは、俺がこれまで生きてきた十年ほどの記憶の方が俺にとって大事だったということ。
『記憶』の中では俺はその倍は生きていた。それでも、唐突に思い出したところで実感は沸かなかった。
常識はずれなことであるのは元より、今の人生の方が遥かに恵まれていた。
だが、そんなことも瑣末ごとと感じるほど重要な記憶が俺にはあった。
それは『カルタ・イシューは非業の死を遂げる』というもの。
まず、この世界は前世では『娯楽』として消費される作品だった。
機動戦士ガンダム。長い歴史を持つロボットアニメシリーズの一つがこの作品『鉄血のオルフェンズ』というものだった。
作中で、彼女は若くして衛星軌道上で地球を防衛する艦隊の指揮官だった。
戦術についてはお世辞にも上手いとは言えないが高潔な志を持った司令官として部下からの人望も厚かった。
しかし、物語の主人公格である『鉄華団』という組織の地球降下を阻止できなかったことから彼女の悲運が始まる。
地球に降下した『鉄華団』に何度か追撃を仕掛けた彼女だが悉くを失敗し、ついには後見人であったファリド家の当主に見放されてしまう。
挙句、直前の戦闘で『鉄華団』の主要メンバーを殺害していたことで彼らの士気を高めてしまい、トドメに、イシュー家の没落を目論むマクギリスに唆され呆気なく主人公に殺されてしまう。
その後、ガエリオが救援に駆けつけるのだが、時遅く、彼をマクギリスと勘違いしながら息を引き取る。
そう、彼女は想い人に嵌められて死ぬのだ。
前世では大して重要な人物ではなかったカルタ・イシューという女性。
しかし、今の俺にとっては“なによりも大切な存在”であることは確かだ。
当たり前だ、今世における初恋の相手なのだから。
絶対に、死なせるものか。
俺はこの時、何があっても彼女だけは守り通すと決意した。
たとえ、どんな手を使っても。
どんな犠牲を払おうと、何が待ち受けていようと、何が立ちふさがろうと、その悉く斬り捨てて俺は彼女を生かすと決めた。
正義、平和。そんなものはどうでも良い。
もはや眼中にはない。
腹を決めた俺は彼女に向き直る。今ならば彼女のその目を直視できる。
お前の幸せは、俺が守りきる。
そのための力もあり、時間もある。
やりようなど幾らでもあるのだ。
だから、今はもう少し、彼女と共にいたい。
「……久しぶりに星でも見ないか?」
「何よ突然……まあ、今日は予定もないし、父様に連絡を入れておくわ」
「ありがとう」
「べ、別にそんな礼を言われることじゃ……」
もごもごとツンデレをかます彼女。これが恋愛感情込みで言ってくれたら、と思う。
ただまあ、そうでなくとも構わない。彼女が幸せになれるのならそれで構わない。
だから今は少し、報酬の前借りといこう。
「じゃあ、うちに来いよ。ベランダからならよく見えるぞ」
「ええ、お邪魔させてもらうわ」
彼女の手を引き、共に家路に着く。
この先にある苦難の道を知りながら俺はそれを誰にも告げることなく牙を研ぐ。来るべきその時まで。
o(^o^)o
三話まで書いてあるので時間分けて出します。
続くかは分からない!