鉄血×AC カルタ・イシューを王に据える話   作:蒼天伍号

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不器用な友と企業戦士

「申し訳ありません!!!!」

 

「我ら、あれだけのことを言っておきながら……!」

 

 カルタの艦に戻るなり、先に帰還させていたMS隊の面々が揃って頭を下げてきた。

 カルタの日本刀しかり、標語(?)しかりこの艦隊は日本文化に傾倒しているようだ。

 

 ただまあ、こちらとしてはMS隊が一人も欠けることなく、鉄華団にも人的被害もなく穏便に事が済んで安堵している。

 この先を考えれば鉄華団と必要以上に敵対関係になることは避けておきたいからな。

 事が済めば消えてもらって構わないが。

 

「いや、謝る必要はない。それよりも貴様らの成長ぶりを俺は賞賛したい。よくぞあそこまで練度を高めたものだ。

 此度の戦果、十分に誇って良いと思うぞ」

 

「トール様……」

 

 俺としては通称『右から二番目』である短髪の青年が生き残ったことから寧ろ成功したと言えるのだがな。

 

 そう考えつつの発言だったが、彼らは予想以上に熱血だったらしくそんな言葉だけで目をウルウルとさせながら感動していた。

 

 上司がアレなら部下もアレというわけか。

 

 

 

 

 

「……笑いたければ笑いなさい。貴方にはその権利があるわ」

 

 ブリッジに戻れば今度はカルタがナイーブな雰囲気を醸し出していた。

 ……なんなんだ、まったく。この程度のことで気にし過ぎではないだろうか?

 というよりも部下と全く同じ状態である。

 末端の兵士ならいざ知らず、仮にも指揮官たる彼女がそんな体たらくでどうするのか?

 そもそも、前世の記憶ではこの時点ではまだそれほど落ち込むことはなかったと思うのだが。

 

「大言吐いて、訓練までしてもらったというのに。

 幼馴染で後見人である貴方にここまでの失態を見せてしまったからには最早私に先はないわ……煮るなり焼くなり好きになさい」

 

 そういうことか。

 昔馴染みに自信たっぷりに宣言して大敗したことを気にしているのか。加えて俺はセブンスターズでもイズナリオと同等の権力を持ち彼女の後見人も務めている。

 

 その対比も彼女のメンタルに追い討ちをかけたようだ。

 項垂れ、見るからに落ち込んでますオーラが溢れ出ている。

 

「……まったく、その勘違いから正さねばならないようだな」

 

「え?」

 

「此度の敵の作戦は実に見事だった。あのような戦法はギャラルホルンの人間では絶対に思いつかん。故に、あの結果は必然であったと俺は思う。

 

 あえて言うなら、お前の落ち度は敵を侮ったこと。ガエリオから送られたデータを詳細に読み取り情報の精査を行い事前に奴らへの対策を万全にしておくべきであった」

 

「う……」

 

「しかし。お前の戦闘中の判断は実に的確であったとも思う。その点に関しては素直に賞賛を送りたい。そして、俺にとってはそれが見れただけでも十分すぎる成果だ」

 

 心からの言葉だ。

 彼女に世界を与えると決めてはいるが、彼女自身にもある程度の成長が促せたならば素直に嬉しい誤算である。

 

「貴方が良くても私は……結局、お飾り艦隊の汚名を返上することはできなかったわ」

 

 プライドの高い彼女だ、俺が何を言っても納得はしないだろうとは思っていた。

 別にそれならそれで構わない。

 だから俺は俺の言いたいことを言っておこう。

 

「カルタ。戦場において不測の事態は付き物だ。誰だって完全無欠、完璧な采配などできんさ」

 

「それでも貴方は海賊狩りで常に勝利してきたわ」

 

「いや? 俺とて失敗をしたことくらいはあるぞ。

 活動を始めた当初は賊にいいように遊ばれて大敗したこともあったし捕虜となって拷問を受けたことだってある」

 

「な!? そんなバカな、記録にはそんなことーー」

 

「残せるわけがないだろう? ギャラルホルンのお偉方がそのような清廉潔白な者たちであった試しがあったか?」

 

「っ!! じゃあ、あなたは」

 

 そこで言葉を切りカルタはなんとも言えないといった様子でモゴモゴとしていた。

 俺はそれを気付いていない風に装い上半身の衣服の前だけをはだけさせる。

 

「ちょ、女性の前でいきなり何を!? というか公共のーー」

 

 突然の破廉恥行為に慌てた彼女だが、それに続く言葉を吐くことはなかった。

 ブリッジの他の面々も俺の身体に残る()()()()()に目を奪われ唖然としている。

 

「全て俺の失態で負った傷たちだ。……中には修復可能な箇所もあるが、戒めとして残している」

 

 さすがに指やらなにやらを飛ばされた時は大人しく治療ポッドに浸かって再生したがな。

 

 それでも全身に傷があるために常に長袖長ズボン、手袋を装着することに決めている。無闇に晒して恐怖心を抱かせるわけにもいかないからだ。

 

「この数、あなたどれだけの苦痛を……」

 

 やがて、カルタは俺の傷から拷問の激しさを悟ったのか沈痛な面持ちで唇を噛み締め始めた。

 ……ああ、やはり彼女は優しい。

 

 とはいえ、別に俺も慰めて欲しいわけでは無い。

 

「これで分かっただろう。誰しも失敗はする、それが戦場であったならばこのような事態も当然あり得るわけだ。最悪、死亡することだって当たり前のようにある。

 

 その中で誰一人として欠けることなく、敵にそれなりの損害を与えて戦闘を終えたことは十分に良い結果と言えるはずだ」

 

 当たり前の話だが、戦場で人は簡単に死ぬ。

 いくらナノラミネートと言えども鈍器で潰されれば終わりだし、大火力が直撃すれば爆散することだってある。

 

 戦場において人の命は吹けば飛ぶように軽いのだ。

 

「……ええ、もう、バカなことは言わないわ」

 

「それでいい」

 

 俺は服を元に戻し再び彼女を見る。その瞳は先ほどまでの弱々しさなど嘘のように活力に満ちていた。

 それでこそだ、高潔なる彼女こそがカルタ・イシューという女性である。

 

「そこまでして慰められたら、立ち直らないほうが失礼というものでしょう。……ありがとう、トール」

 

 そして、優しい声で俺に語りかけた。

 やはり彼女は変わらない。幼い頃から抱き続けた高潔な精神を保ったままに成長している。

 

 いや、頑固で強気な部分は変えた方がいいと思うがな、嫁の貰い手がいなくなる。

 

「礼など不要だ。幼馴染として、当たり前のことをしただけだ」

 

「そうね、貴方はいつも私を支えてくれた。支える側にばかり回ってくれたわね」

 

「それが俺の役目だ。不満も何もない。好きでやっていることだ」

 

 そう、これは俺のワガママだ。彼女を思うからこその行為ではあるが、責任まで彼女に押し付ける気などない。

 俺が好きでやっていることだ。

 そう俺は完結している。

 

「だからこそ、今回の責任は俺にも当然あるわけだ」

 

「? トール?」

 

 首を傾げる彼女を尻目に、俺は気持ちを切り替え計画を次のステップへと進める。

 

「では、今後について話をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルタをなんとか言いくるめ、鉄華団の追撃任務を請け負った俺はブリッジを後にし、用意された自室へと向かっていた。

 

 案の定、鉄華団追撃の件ではカルタはだいぶ渋ったが、結局のところ俺が後見人という立場である以上はあまり強くは言えないらしく、加えて直前に話した内容が効いていたのか思ったよりは素直に言うことを聞いてくれた。

 

 彼女としては面白くないのだろうが、わざわざ死地に向かう必要もない。いくら練度が上がっているとはいえ、ゲリラ戦法を得手とする鉄華団が相手では相性が悪すぎる。

 カルタの部隊は100%敗けるだろう。

 

 そのようなことを考えながら廊下を進んでいると、窓の外を眺めながら黄昏ているガエリオに出くわした。

 ……カルタといいその部下といい、散々慰めた末に今度はガエリオまでか。

 さすがにいい加減鬱陶しいのだが。

 

 

「どうしたガエリオ、悩みか?」

 

「……トールか。いや、トール一佐と呼ぶべきか?」

 

 軽口を叩いているもののその笑みはいつものクソ生意気なムカつくものではなく、力なく空元気によるものだと見て取れた。

 

「悩みなら聞こう。一応、幼馴染だしな」

 

「一応ってなんだよ一応って……」

 

 俺の塩対応に不満そうな顔でため息を吐いた後、彼は何かを言い出そうとして、口を閉じる。という行為を繰り返し始めた。

 言っておいてなんだが俺は別にカウンセラーなどではないので、悩み相談なんぞはこれでお仕舞いにしてもらいたい。と内心辟易としていた。

 

「あのアインとかいう部下のことだな?」

 

「あー……分かるか? いやすごいなお前」

 

 まあ、このタイミングなら奴のことだろうと思っていた。

 アインが先の戦闘でガエリオを庇って重傷を負い、医者にも機械化以外に延命の余地はないと告げられ、マクギリスには阿頼耶識による延命を唆される、たしかそんな感じだったはずだ。

 思えば、この頃のガエリオはどうにも疫病神にでも取り憑かれているんじゃないか、というくらいには不幸続きであった。

 

 ……その後に、マクギリスに殺されかけ復讐に燃えたと思ったら未練を仄かし、恩人とはいえギャラルホルンの腐敗の象徴たるラ◯カルなどという俗物に肩入れしその天下を支えるという暴走ぶりを見せるが。

 まあ、マクギリスの乱心ぶりよりはマシであったと言える。

 ほんの少しだが。

 

 

「もう長くないと医者には言われた。助けるには機械を身体に入れるしかないとも」

 

「……」

 

 だろうな。俺の記憶通りの展開だ。

 

「……マクギリスにも、阿頼耶識を使うしか無いと言われた」

 

 ほう、奴め、俺には一切の連絡も無かったというのに。

 まあ、計画に支障はないと判断してのことだろうが。

 俺も、アインがR-TYPEしようがサイコザクしようが『ナニカサレ』ようが構わない。計画に支障はないと判断できる。

 

「しかし……! そのような悍ましい手術をして、本当にあいつはあいつとしていられるのか!?

 俺はなんとしても上官の仇を討たせてやりたい!

 だが、それであいつを人間でなくしてしまうのは本当にただしいのか!?」

 

 ガエリオの慟哭が廊下に響き渡る。

 幸い、周りに人はおらずこの話を聞いているのは俺だけだ。

 

 しかし、こいつは真面目すぎる上に潔癖すぎる。まるで十代で成長が止まってしまったかのようだ。鉄華団の少年たちと同じ精神年齢なのではないだろうか。

 仇を討たせたいのか、人間のまま死なせて解放してやりたいのかどっちなんだ。

 

「……ひとつ、先に聞いておきたい」

 

「ん? なんだ?」

 

 男泣きしながらガエリオは振り向く。

 ……その生真面目さを理解できない自らの精神が、すでに人から乖離したものであると実感させられる。

 

 正しいのはガエリオだ。歪んでいるのは俺の方だ。

 

「アインが何を望んでいるのか、どちらを選ぶか。お前は考えたか?」

 

「っ!」

 

 アインがすでに意識が無いくらいの重傷なのは知っている。

 その上でガエリオは彼の意思を尊重するように見えて、己の潔癖さを押し付けようとしている。

 果たして、それでお互いに後悔ない選択などできるだろうか?

 

「そもそも、貴様は奴の上官だろう。ならばするべきことは明白なはずだ。

 アインを何としても復活させ復讐の手助けをしてやるのか、はたまた人のままに死なせてやるのか。

 

 どちらを取るにしても責任は貴様が背負うことになるのだぞ」

 

「責任、責任か……この俺に、そんなことが」

 

 意識がない相手の今後の人生を決定してしまう重大な決断だ。

 これで貴様が責任を取らないで誰が責任を取るというのだ。

 

「それが、人の上に立つということだ。いい加減、いい歳なのだしそれくらいはしっかりと自覚しておくべきだ」

 

 それを覚悟して、奴を部下にしたのではなかったのか?

 よもや、遊びに誘う感覚で部下にしたわけではあるまい。

 

 アインが全てを捨ててでも復讐を果たす覚悟であるのを俺は知っている。

 褒められたことではないが、その鋼鉄の決意だけは敬意を払うに値すると俺は思う。

 

「まあ、アインの命が尽きるまでに決めてやれ。何もかもが中途半端なうちに果てることほど恐ろしいものはないからな」

 

 俺の場合、そうなったら天下はラスタルに取られてしまう。

 そんな結末は断じて認められない。それが嫌だからこそここまでやってきたのだ。

 奴は必ず仕留める。

 

「……昔からお前は、俺には厳しいよな」

 

 力無く笑うガエリオだが、先ほどよりも少しだけ元気を取り戻したように見えた。

 

 昔からこいつはお調子者だったりバカ真面目だったり熱血だったりと忙しない奴ではあった。

 その浅慮さでこちらにまで迷惑をかけてくることも少なからずあった。

 

 ……だが、それでも、だからこそ。こいつと過ごした子供時代はそれなりに楽しかったと記憶している。

 ならば、少しくらいは手を貸してやるべきだろう。手を差し伸べるべきだろう。

 それが義務というやつだ。

 

「……一つだけ、お前を認めている部分がある」

 

「なんだ、改まって」

 

「その優しさだ。

 上官ならば奴をさっさと機械化して復讐の手伝いという恩を着せると共に戦力増強という一石二鳥を取るべきだし、人としての生を重視するならば今のうちに眠らせてやるべきだ。

 

 しかし、お前はそのどちらも正しく、そして間違っていると理解している。

 ……だから悩んでいるのだろう?」

 

「……」

 

 一概にどちらが正解とはいえない。

 上官という立場なら尚更、な。

 

「全てはお前の覚悟次第だ。……では、俺はここらで失礼させてもらう」

 

 柄にもなく喋り過ぎた。今更情でも湧いたか?

 分からない。

 しかし、これが果たすべき義務の一つであるのは確かと言えた。

 

「……ありがとうな、トール」

 

 すれ違いざまにポツリと彼は礼を告げた。

 ……不要な言葉だ。だがーー

 

「素直に受け取っておこう……精々悩んで後悔だけは無いようにしておけよ」

 

 いずれ遠からぬうちにお前には重大な決断をしてもらうことになる。

 それまでに、知識を蓄えその心をしっかりと定めておくがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚悟次第、か」

 

 相変わらずスパルタ教師だな、とガエリオは思った。だが、悪い気分はしない。

 トールはいつも自分たち幼馴染のことを親身に考えて、伝えるべきことをちゃんと伝えてくれる奴だと認識しているからだ。

 

「アインは、奴らへの復讐だけを望んでいる。なら俺が取るべきなのは一つ……だが」

 

 やはり、覚悟が定まらない。

 物心ついた時から『ギャラルホルンの常識』を教え込まれてきたというのに、今更、それを覆すなど無茶というものだ。

 

「所詮、俺も組織の腐敗の一つなのか……?」

 

 再び、その心に暗い影を落とし始めたガエリオに、アインの治療を担当していた医者が声をかけてきた。

 

「ああ、ここにいらっしゃいましたか。急ぎ、お伝えしたいことがございまして」

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医者から告げられたのは、『ガエリオの配下でギャラルホルンでも高い地位につく男を仲介して、ガエリオにコンタクトを取りに来た人物がいる』という内容だった。

 配下の男の名前はよく知っている人物のもので、確かにボードウィン家に昔から仕えてきた忠臣であるとガエリオは記憶していた。

 

 その男の紹介でぜひともガエリオと話がしたいという『とある企業の者』が、今現在、通信を行なってきているとのことだった。

 

 

 よりによって今でなくとも良いだろうに、と思いながらも紹介してきた男は無碍に扱える存在ではないために渋々、ガエリオは通信室へと足を向けていた。

 

 

 

 

「貴様か。で、話したいこととは?」

 

 通信モニターには黒のスーツを着こなした如何にもビジネスマンといった風貌の若い男が映っていた。

 

『おお、セブンスターズが一角。ボードウィン家の次期当主様にまさか、本当に御目通りかなうとは。身に余る光栄ーー』

 

「世辞はいい。俺は今忙しいのだ、用件だけ手短に頼む」

 

 安っぽいおだてに少しイライラしながらガエリオは話を促す。

 その様子に、「それもそうですね」とあっさりとおべっかを止めた男は真剣な表情で語り始める。

 

『先ずは自己紹介から。

 

 ()()()()()()()技術研究部門本部長を担当しております、グローイと申します。

 以後、お見知り置きを』

 

 グローイと名乗った男は、静かに笑みを浮かべた。

 

 

 




ちなみにトールはすでにナニカサレてます。
自らナニカしました。
リンクスのアレとは別で。

今後の展開について参考程度に

  • クーデリアとイチャイチャモージ君編
  • トール視点の本編(ダイジェスト版
  • がっつり説明会込み込みフロム脳風味
  • いっそ二、三話で纏めてみる
  • 原作?知らんな……的なコジマ汚染末期の緑色展開(ギャラルホルンないつの間にか滅ん

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