リーファの実兄はキリトの双子の兄 作:ダブルセイバー
茅場昌彦。
その名は、子供でも知っている人物だった。
SAOを作った天才ゲームデザイナーで量子物理学者、そして、ナ―ヴギアの基礎設計者でもある。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが無いことに気づいてると思う。それは、不具合ではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。また、外部の人間によってナ―ヴギアの停止、解除を試みられた場合、ナ―ヴギアが諸君の脳を破壊する』
「そ、そんなことできるわけがないよな……?」
「……おい、キリト。アイツが茅場昌彦本人かどうかはともかくとして、脳の破壊は可能か?」
「………可能だ。最新技術っていっても原理は電子レンジと同じ。出力さえあれば脳を蒸し焼きにすることもできる」
「で、でも、電源コードをいきなり抜けば…」
「ナ―ヴギアの重さの3割はバッテリセルだ。コードを抜いても無駄だ」
「そ、そんな…」
『10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナ―ヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。現時点で、警告を無視しナ―ヴギアの強制除装を試み、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している』
213名と言う、人数の命が失われたと言うことに、シグは恐怖を感じた。
だが、それを面には出さず、平然を装い、茅場の言葉を待った。
『今、ありとあらゆる情報メディアによってこの状況は報道されている。ナ―ヴギアを装着したまま、2時間の回路切断猶予時間のうちに病院、施設に搬送される。現実の肉体は、厳重な介護体制のもとにおかれる。諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい。さらに、《ソードアート・オンライン》はもうただのゲームではない。もう一つの現実だ。今後、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、ナ―ヴギアによって脳を破壊される』
突きつけられた現実に、プレイヤーたちはどよめき出す。
『このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上部、第100層に辿り着き最終ボスを倒すことだ。そうすれば、生き残ったプレイヤーは全員は安全にログアウトされることを保証しよう』
プレイヤー達がどよめいていると茅場はまた口を開いた。
『最後に諸君にこれが現実である証拠を見せよう。アイテムストレージに私からのプレゼントがある。確認してくれたまえ』
シグがアイテムストレージを開くとそこに二つのアイテムがあったあった。
アイテム名:手鏡
アイテム名:限定装備
それを見て、コードで手に入れた装備をまだ見ていなかったことを思い出したが、それより《手鏡》と言う、茅場がプレゼントと言ったアイテムが気になり、そっちを調べた。
オブジェクト化し鏡を覗くと、そこにはシグが作った顔があった。
デフォルト設定の顔に、髪型を少し変えただけの姿。
首をかしげていると、急に体を白い光が包んだ。
2.3秒経ち光が消えた。
何が起きたのか確認しようと、キリトに尋ねようとした瞬間、クラインが声を上げる。
「おめぇ、キリトか!?」
「お前、クラインか!?」
キリトとクラインの言葉に振り向くと、そこにはよく知る現実のキリトの顔と、見たことないクラインの顔があった。。
『諸君は、今なぜこのようなことをしたのか、と思っているだろう。大規模なテロでも身代金目的でもない。私の目的はすでに達成してる。この状況こそが私の最終目的なのだ。…以上で《ソードアート・オンライン》正式チュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
そう言って茅場の姿は空に同化していくように消えた。
しばしの静寂の後、広場に絶叫が響いた。
全員が口々に罵詈雑言を言い、騒ぎ立てる。
「クライン、こっちだ!シグもこっちに来い!」
キリトに呼ばれ、シグたちは路地裏に移動する。
「もし、茅場の言葉が本当なら、この街を出ないといけない。俺は次の村へと向かう。シグ、クライン、お前たちも来い」
「え?」
「この世界で生き残るには、ひたすら自分を強化しなければならない。VRMMOが提供するリソース、つまり俺達が得られる金や経験値には限りがある“はじまりの街”周辺のフィールドはすぐに狩りつくされるだろう。効率よく進めるには、拠点を次の村に移した方がいい。俺は安全な道も危険なポイントも全て知ってるから、レベル1だったとしても、安全に辿り着けれる」
「なるほどな。わかった、俺はキリトに従うぜ」
「で、でもよぉ………俺、このゲーム、他のゲームでダチになった連中と徹夜して買ったんだ。そのダチ達、多分まだあの広場にいるんだ。置いては行けねぇ」
クラインの言葉に、キリトは何も言えなくなった。
シグもクラインもVRゲーム初心者。
シグとクラインの二人だけなら、キリト一人でもフォローができたが、そこに、さらにクラインの友たちも加わるとなると、キリト一人では守り切るのが難しい。
「キリト、これ以上おめぇらに世話になるのはいけねぇよな。だから、俺の事は気にせず、次の村へ行ってくれ」
「クライン……」
「これでも、前のゲームじゃギルドリーダーだったんだ。教わったテクでなんとかやってやるさ」
「……そうか。なら、ここでお別れだな。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ」
「おう!」
「……じゃあな。シグ、行こう」
「ああ。クライン、無事でいろよな」
キリトとシグは、クラインに別れを告げ、町の出口へと向かおうとする。
「………キリト!シグ!」
すると、クラインが二人を呼び止め、二人は振り向く。
「キリト、お前って、案外かわいい顔してるんだな!結構好みだぜ!シグもアバターの方より、ずっとイケメンじゃねぇかよ、羨ましいぜ!」
クラインは親指を立てて、二人に笑い掛ける。
「お前こそ、その野武士ヅラの方がずっと似合ってるよ!」
「こればっかは、運だからしょうがねぇだろ!」
キリトとシグも、笑顔でそう返し、そして、走り出した。
後ろを振り返らず。
キリトはクラインを置いてったことに罪悪感を感じた。
自分が生き残るために、誰かを犠牲にした。
そんな気持ちが、心の中に残っていた。
「そう気を落とすなよ、キリト」
すると、隣で一緒に走っていたシグがキリトにそう言った。
「クラインの奴は、自分のダチのために残ることを決めたんだ。別にお前のせいじゃねぇ」
「……でも、俺がもっと強ければ………」
「甘ったれんじゃねぇ!」
シグがキリトに向かって怒鳴ると、キリトは驚いた顔をして、シグを見る。
「そんなIFの話したところで、何が変わるんだよ!何も変わらねぇだろ!お前が弱いのも、俺が足手まといになってるのもよ!」
シグが足を止めると、キリトも足を止め、シグの方を見る。
「でも、今、俺たちにできることはあるはずだ。今を耐えてこそ、未来はあるんだ」
「シグ………そうだな。俺たちが今できることを、精一杯やろう」
「ああ。……おっと、見ろよ、敵が来たぞ」
シグの目の先には、モンスターがポップする前兆のポリゴン塊が出ていた。
「よし、行くぞ、シグ!」
「へっ、昂るのもいいが、想いは剣筋を鈍らせるぞ」
「わかってるさ。想いは、自分の血肉に、だろ?」
「わかってるじゃないか。行くぞ!」
「ああ!」
二人同時に飛び出し、そして、モンスターが現れ、二人に向かって走ってくる。
そして、キリトとシグは同時に、ソードスキルを発動し、同時に、モンスターを切り裂く。
二人とモンスターが交差し、二人のソードスキル後の硬直が解けると同時に、モンスターは爆散し、二人は走り出す。
最悪なルールと恐怖を生み出して、全てが終わり、全てが始まった。