星はそこに存在するだけで美しい
それは人も同じだと思う
幾星霜の時が過ぎても
人は人であることをやめないだろう
星が星であることをやめないように
可能性を誰もが秘め
その可能性を開花させられるのは
どのくらいいるのだろう
消えていくのはどれくらいだろう
少なくとも私は可能性だけで
終わることはなかった
私を見出した魔法使いの手によって
―――――――――
ピンポーン
自分が契約しているマンションの部屋のインターホンが来客を知らせる。
ドアホンの画面に目をやると、私の胸は鼓動を加速させた。
ガチャリ
「おかえりなさい、待っていたわ♡」
「あぁ、ただいま」
私が自ら玄関のドアを開けて招き入れた相手……それは私の最愛の人で、私をアイドルとして世に羽ばたかせてくれた専属プロデューサー。
「お勤めご苦労様♡ お風呂の用意はしてあるから、先に汗を流してきたら?♡」
「ありがとう」
「それとも一緒に入る?♡」
「え」
「嬉しいって顔してる……なら先に入ってて♡ 私もすぐに行くから♡」
そう言って私は彼の頬に小さく口づけを落とす。すると彼は照れくさそうに笑って、自分からも私の頬に口づけを返してくれた。
―――――――――
アイドルとそのプロデューサーがこんな関係になっては問題だと思う。でも恋愛をしてはいけないと契約書にはなかった。お互いに事情もあるからまだ公表はしていないけれど、私は今の関係に満足してる。
毎回どちらかのマンションの部屋で共に過ごし、私たちなりの恋で愛を育んでいるのだから。
愛というのは分からなかった。いや、正確には男女間の愛を私は知らなかった。家族愛や友愛、親愛、信愛とさまざまな愛がこの世界には溢れていて、そのいくつかはどんな愛なのか自分なりに理解はしていた。
でもプロデューサーから愛の告白をされて、私の中の愛は別物になった。
相手が側にいるというだけで心が弾む。些細なことが伝わらないだけで悲しむ。なのにその悲しみはすぐに別のことで帳消しに出来る。
本当に不思議なことばかりで、毎日が……一瞬一瞬が宝物になる。
それは今だってそう。
「のあ」
「どこか痒いところにある?♡」
広くて男らしい背中……私は貴方のために今を生きてる。大好きよ……心から♡
「いや、毎回思うんだけど、のあって付き合ってから変わったよね」
「…………貴方がそう思うのなら、そうなのでしょうね。今の私は嫌?」
「そんなことない。すごく可愛いよ」
「そう、良かったわ♡」
大好きな貴方からそう言ってもらえるのは何よりものご褒美よ♡
「でも、あののあがなぁ」
「あのとは、どの私のこと?」
「アイドルののあだよ。テレビや雑誌では寡黙の女王なんて呼ばれてるのに、俺の前だとこんなに甲斐甲斐しくしてくれてるんだから」
「貴方の前での私は完璧な恋人でいたいのよ。本当ならすぐにでも貴方の奥さんになりたいくらい」
「ありがとう。でも今ここでのあを引退させる訳にはいかないから」
「えぇ、ちゃんと理解してるし、私はこの現状に満足してるわ♡ 大好きな貴方に世界で一番近くにいれるのは私だけなんだもの♡」
アイドルの私はまだまだ満足してない。私はこの人と共にもっとファンに私という星の輝きを見せたいのだから。
「そう言ってくれて嬉しいよ。でもさ――」
「?」
「――その水着というか、紐はおかしいだろ!?」
「? 貴方の部屋でこんな水着姿の女性の写真集を見つけたから、好きなのかと思って買って着てみたのだけれど、駄目だったかしら?」
ちゃんと乳首は隠れているし、秘部も隠れてるのに……もしかしてもっと、それこそ紐からさらけ出してある方が好きなのかしら?
「駄目とかじゃなくて……というかあの写真集は同僚が悪乗りしてこの前の誕生日に渡してきたんだ! 俺の趣味じゃない!」
「隠す必要ないわ。私は貴方がどんな変わった性癖を持ってても受け入れるから」
「うん、それは嬉しい。でも隠してるんじゃなくて訂正してるんだよ!」
「そう……ならこれは貴方好みということではなかったのね」
「うん」
そういうことならこれはもう用済みね。次のゴミの日にでも捨てましょう。
「ちょっと待って」
「何かしら?」
「どうして脱ぐ?」
「もうこれは必要ないから」
「何もここで脱がなくても……」
「お風呂ってそもそも裸で過ごす場所でしょう?」
「それは……そうなんだけど……」
どうしたのかしら? もしかして私の裸はもう飽きちゃったのかしら?
私は悲しさから視線を下にやると、
「…………見るな」
プロデューサーの股間がとても腫れ上がってた。
つまりそういうことよね……嬉しいわ♡
「私の責任よね♡」
「…………」
「責任をとらせてもらうわ……今ここで♡」
「風邪引くぞ」
「そうかしら? だって今から貴方が温めてくれるのでしょう?♡」
「ああもう!」
「貴方のその優しさ……大好きよ♡」
―――――――――
幸せってきっとこういうことを言うのよね。大好きな人に愛されて、私は今幸せの絶頂にいる。今の私の頭の中にはプロデューサーのことしか入っていない。
大好き……愛してる……慕っている……どんな言葉を持ってしてでも、私のプロデューサーへ対する愛は表情しきれないでしょう。
「あ〜……燃え尽きた……」
「私はまだまだして欲しいわ♡」
お風呂で私を沢山愛してくれた貴方……でも私は欲深くて、もっともっとと思ってしまう。ごめんなさい……でも貴方だから、こんな私がいるのよ♡
「お掃除って言って本気なんだもんなぁ、のあは。もう空っぽだよ」
「…………だって気持ち良さそうにしてくれてるから」
「そりゃあ、ね……でもあれは本当に腰砕けになるんだ」
「貴方が望むなら何時間だってしてあげられるわ♡」
「嬉しいけど怖いからしなくていい。戻ってこれなくなりそうだから」
「それは残念♡」
貴方のためにしてみたかったのに……いつかしてしまおうかしら♡
「絶対にするなよ?」
「えぇ♡」
「絶対に絶対にだぞ?」
「はいはい♡」
決めた、今度しちゃいましょう♡ バラエティでは今のをフリって言うのだから、プロデューサーはされたがってるに違いないわ♡ 明日から顎と舌のトレーニングも取り入れましょう♡
「なんでそんなニコニコしてるんだ?」
「貴方の喜ぶ顔を想像してるから♡」
「だからするなって!」
「は〜い……ふふふっ♡」
素直じゃないんだから、可愛いわね♡
「俺のことはもういいよ。それよりのあは何かないのか?」
「……私?」
「あぁ、俺だって男だからな。たまには彼女から甘えられたい」
「今のこの関係が既に甘えてる状態なのだけれど?」
「いや、そういうことじゃなくてさ……。なんかこう、あれしてとかこれやってとかないの?」
プロデューサーったら唐突に何を言い出すのかと思えば……。でも私に今以上の望みなんてない。最愛の貴方が私のすぐ側にいて、同じ時を過ごせるのに……その上でだなんて贅沢よ。
「ないわ。何も……」
「だよな。のあならそう言うと思ってた」
「……ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。じゃあ、ちょっとこっち来て」
「? 分かったわ」
私は彼の言う通りに彼が座るテーブル席の隣の席に移る。
「あ、ソファーの方がいいかな。ソファーに行こう」
「えぇ……」
―――
「これでいいの? 私は嬉しいけれど……」
「いいんだよ、これで」
彼は私に自分の膝の上に座るよう言ってきた。彼の膝の上で私はお姫様抱っこをされてる状態。ふわふわして不思議な気分。
「ファンに殺されるけど、今ののあは俺が独り占め。ほら、もっと俺の方に体を預けて」
「こう?」
ギュッ♡
「そうそう、次からはたまにでいいからこんな風に甘えてくれ。のあも尽くすばっかりじゃ疲れるだろ? 完璧にならなくていいんだよ。俺たちは二人で一つって関係でいいんだ」
「貴方……♡」
彼の言葉に異論はあった。私は心から尽くしてるから、疲れることはない。もし疲れる時がきたら、それは私が彼を愛せなくなったということ。でもそんな日は死ぬまで訪れることはないでしょう。あるとしても貴方を失った瞬間からよ。
いや……失っても貴方に尽くすでしょうね。重いと思われるかもしれないけど……。
「のあが俺を大切に思っているように、俺だってのあを大切に思ってる。だからたまにでもこうして甘えてくれ」
「えぇ、分かったわ♡」
貴方の優しさに私は前から甘えているのだけれど、貴方はまだ足りないのね。甘やかされて私が駄目人間になったらどうしてくれるのかしら?♡
「この体勢……落ち着くわ♡」
「俺もだよ。のあをとても近くに感じられて、幸せな気分だ」
「この体勢なら貴方の首筋にキスし放題ね♡」
私の言葉に彼は明らかに狼狽したけれど、それより前に私が彼の首筋にキスをしてた。彼の言葉は聞こえていたけれど、こんなに甘くて素敵なチャンスを私は逃したくない。
「はむっ……ちゅぴっ……ちゅぱっ……ずちゅるるるる〜っ♡」
はしたなくも下品な音を立てて最愛の人の首筋に夢中の私。でもそんな私を彼は自分から引き剥がそうとしない。ほら、優しい……そんな優しさに私は甘えて、彼の首筋には私からのキスの痕が深く刻まれていく。
「〜〜っ……っぷはぁ♡」
「満足した?」
「ん〜、もうちょっと♡」
私がそう言うと、彼は明らかに目が泳いだ……ふふっ♡ 私にキスされて肩が小刻みに震えてるものね♡
「ねぇ、貴方?♡」
「ん?」
「抱いて……もう私の……貴方が欲しくて大変なことになってるの♡」
「……実は俺も」
「知ってるわ♡ さっきから私のところをコンコンコンってノックしてるもの♡」
「うっ……面目ない」
「謝らないで……私はそれが嬉しいもの♡」
貴方に求められて嬉しくない時なんてない。だから私の身体は熱くなってるの。貴方を感じたくて……貴方に愛されたくて……。
「このままここでしてくれる?♡ それともベッドまで連れて行ってくれる?♡」
「ここでして、そのままベッドへ連れて行くってプランもあるけど?」
「あら、素敵なプランね♡」
まだ夜は始まったばかり。今夜はどんな風に私を愛してくれるのか……それを考えただけで私の身体は更に熱を帯びる。
「愛してる、のあ……」
「私も愛してる……♡」
それ以上の言葉は私たちに必要なかった。あとは彼からの愛を私が全身で感じ、私も彼へ愛を返すだけ……幸せな夜が始まる合図♡―――
高峯のあ♢完
高峯のあ編終わりです!
のあにゃんは好きな人の前ではデレッデレにしました!
お粗末様でした☆