男性に媚を売るのは苦手だ
かといって逆もそうだ
いつも自然体でいるのが好きだ
私の場合
私の自然体だと女性が寄ってくる
だが今の私はどうだろう?
そんなことを思うと
ついつい笑ってしまうんだ
なんたって男性からも女性からも
声援を浴びるんだからね
私をそんな風にした魔法使いくんには
これからも馬車馬のように
魔法を唱えてもらおう
―――――――――
「撮影終わりましたー」
「お疲れ様でーす」
「東郷さん、足元に気をつけてくださいね」
今日の私の仕事は巷で流行りのブライダル会社の宣伝ポスター撮影。衣装はもちろんウェディングドレスなのだが、これがまた素敵でね。プリンセスラインでありながらスカートの丈は少し引き摺ってしまうくらいのロングなもので、肩は可愛らしくもシンプルなキャップスリーブだ。
ロング丈はエレガントさがあり、背の低い人にはトレーンの長さが縦長のラインを強調することでスタイルアップ効果もある。
それにウェディングドレスといえば多くがこういったドレスの物を想像するしね。
でも一番のデメリットは歩き難さだ。流石の私も数回ウォーキングのテストを行ったくらいに。
「あぁ、ありがとう。でも大丈夫だ」
だが撮影が終わった今なら何も問題ない。
「あいさん、手を」
私の大切なパートナーである専属プロデューサーがしっかりと私へ手を差し伸べてくれるからね。
私に足元を注意するように言ったアシスタントへ私が「ほらね?」と微笑むと、アシスタントは「なるほど」と笑っていた。
―――――――――
撮影スタジオを出て控室へと戻ってきた私。エスコートはプロデューサーがしっかりしてくれたから、安全に戻ってこれた。
「ふぅ、流石に着慣れないドレスを着ると私も無駄に緊張してしまった」
「そんなことありませんでしたよ。素敵な笑顔でしたし、表情はどれも柔らかく出来ていました」
「君がそういうのならそうなんだろう。良かった」
「はい」
でも私としてはもう一つ欲しい言葉があるんだ。
「それで……君から見て私のウェディングドレス姿のご感想は、ないのかい?♡」
「感想ですか?」
「あぁ、そうだ。何しろ自分の恋人が結婚予定もないのに仕事でウェディングドレスを着たんだからね。ならば恋人としての感想くらいあるだろ?♡」
言葉の通り、私は彼と付き合っている。禁断の恋だというのは互いに十分理解している。だが、この関係は私が強く望んだ結果だ。
彼は面白い。いつも私の想像を超える。いや、きっと周りがくだしている私への評価と彼がくだしている私への評価があまりにも違い過ぎるから、面白いのだと思う。
これまで私を可愛いと評する相手はいなかった。なのに真っ白な少女のようだと彼は私に言った。
綺麗だ……素敵だ……とは言われてきたが、そんな評価をくだしてくるのはあとにも先にも彼だけだろう。
だから私は彼に惚れた。彼から一番近くにいられる場所を欲した。その結果に私は満足してる。
今はお互いに目標があるから私たちの関係は公表していないが、時がくれば私たちは堂々と公表するだろう。お互い責任を取れる年齢であるし、彼に至っては私より7つも年上だからね。
だから今はこのスリリングな恋愛に私は身を焦がしたい♡
「どんな言葉を送っても安っぽくなるから一言だけ……可愛いよ、あい」
「っ♡」
これだ。私が欲しかったのは、この言葉なんだ。
でも彼が色んな言葉を並べて私を褒めるというのも聞いてみたかったな。
「因みに一言じゃないパターンの方は?♡」
「軽く1時間は超えるけど、それでも聞きたい?」
「それは流石に私の心臓が保たないかもしれない……けど、今夜聞かせてくれないか? 出来れば大好きな君の胸に抱かれながらがいいな♡」
「なら事務所に帰ったらいつも以上に早く仕事を終わらせないといけませんね」
「期待してる♡」
だから早く私を迎えに来てくれ……そう告げるように、私は彼の唇に私の唇を重ねた。
―――――――――
事務所に戻ってきた私たちは別れて別行動。と言っても彼は自分のオフィスで残りの仕事を済ませ、私は休憩室で彼の迎えを待っている状態だ。
「…………♡」
しかし今の私はついつい笑みが溢れてしまう。それもそのはず、私の手元にはウェディングドレス姿の私と彼が記念に撮った写真があるのだから。それでいて今夜は彼と甘い夜を過ごせる……笑いたくなくても笑いが込み上げてくるんだ。幸せとは恐ろしい♡
「あ、あいお姉ちゃんだ!」
「あら、あいちゃんじゃない。お疲れ様」
私に声をかけて来たのは同じ事務所に所属しているアイドルの薫くんと留美さんだ。きっと薫くんの宿題を留美さんが見てくれていたのだろう。
「お疲れ様。薫くん、宿題はちゃんと終わったのかな?」
「うん! それで留美お姉ちゃんにジュース買ってもらうの!」
「算数の宿題全問正解したのよ?」
「へぇ、流石だね」
「えへへ〜♪」
薫くんは本当に可愛らしい。周りを明るくさせる天才だ。
―――
「あいお姉ちゃんはどうしてニコニコしてたの?」
「あぁ、それはこの写真のせいだよ」
隠す必要もないから、私はオレンジジュースを飲んでる薫くんにその写真を見せる。
「今日の仕事の記念にね。いい写真だろ?」
「あいお姉ちゃんキレ〜イ!」
「プロデューサーさんが隣にいると本当の結婚式の写真みたいね」
「よしてくれ……私たちはまだ結婚しないよ」
そう、まだね。
「やっぱりあいお姉ちゃんはあいお姉ちゃんのせんせぇと結婚するの?」
おぉ、流石は薫くん。どストレートに聞いてくるね。
「そのつもりさ。あとは彼からのプロポーズ待ちだ」
そんな私もどストレートに返すんだがね。二人に隠すほどのことでもないし、二人は良き理解者だから。
「結婚式の司会は私に任せてね。秘書をしてた時に何度も経験したから」
「そうしたいのは山々なんだが、早苗さんや礼子さんからも同様の提案をされていてね。どちらも『当然、私よね?』って感じなんだ」
「あらあら、幸せなことじゃない。なんなら3人で司会をして盛り上げるのもありよ?」
「選択肢の1つに加えておくよ」
留美さんも負けず嫌いなところがあるからね。まあ、まだ式を挙げる予定もないから気長に考えておこう。
「薫はね、花びら撒きたい!」
「あぁ、その際は是非ともお願いするよ」
「やったー! 早く結婚式してね!」
「そう急かさないでくれ」
でも口ではそう返す私だが、実は早く結婚したいと思っている私がいるのも事実だった。
―――――――――
薫くんたちと話をしているうちに時は過ぎ、プロデューサーが私を迎えに来た。
私はそのまま彼が契約するマンションの部屋に連れられて、今はリビングにいる。
「あいはコーヒーでいいかな? それともワインか何かの方がいいかな?」
「コーヒーでいい。今夜は寝たくない夜だから」
「ん、分かった」
彼が淹れるコーヒーは濃い目。その苦さも彼と同じ味を楽しめると思うと自然と甘く感じてしまう。
「あい」
「〇〇くん♡」
名前を囁き合うのはキスの合図。軽く唇と唇を重ね合わせるだけで、コーヒーの苦さが緩和されてまるでカフェオレのように甘くなる。不思議だ。でも嫌じゃない♡
「好きだ、あい」
「私もだよ、〇〇くん♡」
「好きだ」
「私も♡」
そしてまた口づけを交わす。座ってから私はまだ彼の名前と愛の言葉しか発してない。でも私は彼の次の行動が、私に何をしてくれるのかが気になってまた彼の名前を口にしてしまう。
「〇〇くん♡」
「大好きだよ」
「私も大好きだ♡」
「可愛いよ、あい」
「私を可愛いと言うのは君だけだ♡ 君だけが私をお姫様として扱ってくれる♡」
「お姫様だからね」
彼は当然だと言ってから今度は私の額に口づけを落とす。唇同士もいいけれど、彼からもらう口づけはどこにされても幸せだ。そして女性に生まれ、この人に愛される私は世界一幸せな女性だと幸福感が増す。
「あ、そうだった」
「どうしたんだい?♡」
「実はあいに渡したいものがあってね」
「君からのプレゼントだなんて、それだけで心が弾むね♡」
席を立って戻ってきた彼が手にしていたのは小さな箱。でもこの箱は大きさから言って彼らしくない。
「これ、受け取ってほしい」
「開けてくれないのかい?」
「あいに開けてほしい」
「分かった」
その箱を受け取って蓋を開けると、私は驚いた。これには流石の私も予想外だ。何しろプラチナリングなんだから。
「これを渡すには時期尚早じゃないかな? 気持ちは嬉しいけれど……」
「いや、今がいい。今日ウェディングドレス姿のあいを見て決めた」
「…………君は本当に面白いね♡」
行動が早過ぎる。そもそも指輪をもう用意してたのが、とてもいい意味で笑えるよ。
「今すぐ結婚って訳じゃない。ただ予約させてほしい」
「私の結婚相手は最初から君だと思ってる♡」
「思われてるだけじゃ嫌になったんだ」
「……分かった♡ 必ずウェディングドレスを着せてくれ。今度は仕事ではなくね♡」
「婚期を遅らせた責任はたっぷり取るから安心してくれ」
「あぁ、期待してる♡ せっかくだから嵌めてくれないかな?♡」
「もちろん」
そして彼は優しく私の左手薬指に指輪を嵌めた。デザインはシンプル。なのにリングの中央で輝きを放つダイヤモンドは可愛らしいハート型にカットされている。
ここまでされたら私も何かお返しをしなくてはいけないね。
そうと決まれば行動開始だ♡
「? この指輪……少し傷が付いているね?」
「どこ?」
「ここだよ。もっと近くで見て」
彼は少々焦った様子で顔を近づけてきた。
罠とも知らずに♡
ちゅっ♡
「!?」
「……ふふっ、私の君への思いはたった今から恋から愛に変わったよ♡」
「やられた……」
「ふふふ、たまにはこんな私もいいだろう?♡」
「愛してるよ、あい」
「私もだ、愛してる♡」
最高のサプライズには最高のサプライズでお返ししないとね。その証拠に彼の笑顔は輝いて見える。それはきっと彼にも私の笑顔が同じように見えているだろう。
「さて、では最高の気分のまま更に最高の気分にさせてもらおうかな♡」
「コーヒーのお代わりは?」
「カフェインはもう十分。あとは君が私を寝かさない番だ♡」
「相変わらず、可愛いお姫様だね」
「君だけの、ね♡」
彼は私を優しく抱えて自分のベッドに運ぶと、一晩中私を褒めてくれた。最高の時間だった。でもこれで終わりではない。
私たちの時間は始まったばかりなのだから♡―――
東郷あい♢完
東郷あい編終わりです!
TGAはやはり大人のラブストーリーでないと!
お粗末様でした☆