デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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成宮由愛編

 

 絵を描くのが好き

 

 でも描いた絵を

 

 人に見せるのは嫌い

 

 一生懸命描いたのに

 

 バカにされたり

 

 笑われたりするのが嫌だから

 

 でも反対に

 

 一生懸命描いたから

 

 褒めてくれたりする人もいる

 

 私の好きな人は

 

 そういう優しい人です

 

 ―――――――――

 

「ママ〜! もういいから出ってよ〜!」

「でも、ママは由愛のことが心配で……」

「その心配が必要ないの!」

「ママってのはいつでも子どもの心配するものよ?」

「だ〜か〜ら〜!」

 

 私は今、自分のお家でママとちょっとケンカしてます。理由は簡単。ママがさっきから私のお部屋に来るからなんです。

 親ならそれくらいは普通だと思いますし、私も普段ならこんなに強く言ったりしません。

 ただ今日は、この時だけは来ないで欲しいんです。何故なら今日は―――

 

「由愛、お母さんにそんな冷たいこと言うなよ」

「うぅ〜」

 

 ―――私のプロデューサーさんが来てるから。

 

 この優しい笑顔の男の人が私専属のプロデューサーさんで、私をアイドルとしてここまでプロデュースしてきてくれた人。そして今では事務所には内緒でお付き合いをしてる、私の人生で初めて出来た彼氏さんなんです。

 アイドルなのに恋人を作ってはいけないのかもしれませんが、引っ込み思案の私がアイドルとして有名になれたのはこの人のお陰ですし、この人だから私はアイドルを続けて来られたんだと思ってます。

 何をするにも私は悪い方にばかり気が向いてしまうのに対し、プロデューサーさんはその真逆。いつも前向きで失敗しても反省して次にしっかりと活かすことが出来て……だから私はそんなプロデューサーさんを好きになりました♡

 

 事務所には内緒でと言いましたが、ママとパパには教えてて、ママとパパもプロデューサーさんならと言ってくれてます。

 だからこそ今日はプロデューサーさんが来ててママは私のことが心配で来てくれるんです。でも当の私にとって、今のママはお口が悪いですが邪魔です。今だってせっかくプロデューサーさんと好きな絵のお話で盛り上がるところだったのに!

 

 そもそもどうしてプロデューサーさんが私の家に来ているのかというと、今度テレビのお仕事で私が描いた絵を紹介するので、そこで紹介する絵をプロデューサーさんと選んでるところなんです。

 今まで自分で描いた絵を知らない人はもちろんのこと、知ってる人にも見せるのは嫌でした。

 変だと思われたら嫌ですし、それをからかわれたりしたらもっと嫌ですから。

 

 でもプロデューサーさんと一緒にお仕事をしてきて、私も少し変われたと思ってます。だってプロデューサーさんはいつも私の味方でいてくれますし、アイドルも絵も毎日コツコツ地道な努力を積み重ねて誰かにその結果を見てもらわないと上達出来ませんから。

 なので私は恥ずかしいと思う気持ちもありますが、今回はまた新しい自分になれるチャンスだと思ってお仕事に臨もうと思ってます。

 

「お母さんとしては娘さんのどの絵が好きですか?」

「え、あたしですか?」

 

 急にプロデューサーさんから話題を振られたママは、驚きながらも私の絵を「そうね〜」と言いながら見回します。

 私のママはちょっと強引なとこがあります。だから授業参観の時とかクラスメイトから『全然似てない』とよく言われます。でも髪の癖っ毛具合とか目元のホクロとかはママとお揃いなんですよ♪

 ただ引っ込み思案な性格はパパとそっくりだから、それを治すために勝手にアイドルのオーディションに応募されちゃったんです。今となっては感謝してますけど、最初は本当に恨みました。

 

「あたしはこの絵ですね」

 

 ママが選んだその絵は私がつい最近描いた自分の部屋の窓から見える町並みの風景です。なんの面白味もないのにどうしてこれなんだろう?

 

「理由を伺ってもいいですか?」

「これを見て、あたしは思ったんですよ。この子が見てる世界は輝いてるって」

「…………」

「こっちの絵を見てください。同じ絵なのに全く色の配色とか違って暗い印象でしょう?」

「そうですね」

 

 ママがプロデューサーさんにあとから見せた絵は全く同じ場所を描いてる絵です。でもこの絵は私がアイドルになる前で小学4年生の時に描いたものです。

 

「あたしはバカだけど、あたしと主人のとこに生まれて来てくれたからにはこの子には幸せになってほしいのよ。だからもっと世界が明るく見えててほしかったの。だからこの絵はあたしたち夫婦の願いが叶ってる嬉しい絵なのよ」

「素晴らしい理由だと思います」

 

 ママ……そんな風に思ってたんだ。恥ずかしいけど、そういう風に考えてくれてて嬉しい。

 

「だからね、プロデューサーさん」

「はい」

「娘を泣かせたらただじゃ済まさないからね! もし泣かせたらあたしがどんな手を使ってでも、生きてることを後悔させてやるからね! 覚悟して付き合うんだよ!?」

「は、はい!」

「もう、ママー!」

 

 見直したのに……台無しだよ。それにプロデューサーさんは私に酷いことしないもん。

 

 ―――――――――

 

 あれからもママは何度も何度も私の部屋に来て邪魔してきました。だからある程度番組で紹介したい絵を選んだら、あとはプロデューサーさんのお家で厳選しようとママから逃げてきました。

 本当なら恋人らしくもう少しいい雰囲気で過ごしたかったのに。

 

「はい、お茶」

「ありがとうございます……それとお家ではママがごめんなさい」

「気にしなくていいよ。娘を持つ親なら当然だと思うし、普通なら交際なんて認めてもらえないと思うからね」

「…………」

 

 プロデューサーさんと私は歳が離れ過ぎてます。私だってまだ中学生になったばかりですから。でもプロデューサーさんのことは本気で大好きなんです。

 だからママやパパには感謝しないと……でもさっきのは過剰でしたよ。

 

「ほらほら、そう怖い顔しない。それよりほら、こっちに座ったら?」

「っ……はい♡」

 

 プロデューサーさんに言われた私は早速プロデューサーさんのお膝の上に行きました。

 

「えへへ、プロデューサーさんのお膝の上……落ち着きます♡」

「事務所のオフィスでもたまにおねだりしてくるもんな」

「でも今はプロデューサーさんのマンションだから好きなだけいられます♡」

 

 私はプロデューサーさんのお膝の上に座るのが好きです。大きいし、大好きなプロデューサーの息遣いや鼓動の音がして安心するんです♡

 

「由愛は基本甘えん坊だもんな」

「あう……だって〜……♡」

 

 好きな人には甘えちゃうじゃないですかぁ。そもそもこんなに甘えちゃうのは、プロデューサーさんが私をいっぱい甘やかしたからなんですからね?

 

「可愛い彼女に甘えられて悪い気はしないからいいけどね」

「〜♡」

 

 ほら、今だってそんなこと言いながら私の頭を優しくナデナデしてくれてます。だから私が甘えん坊だからっていうお話を持ち出す意味はないんです。

 

「プロデューサーさん……好き〜♡」

「俺も由愛のことが好きだよ」

「えへへ、もっと好きになってください♡」

「あぁ、なるとも。由愛もそうしてくれるんだろう?」

「私はいつまでもプロデューサーさんのことが好きですよ〜♡」

「嬉しい限りだね」

「〜♡」

 

 絵を厳選しなきゃいけないのにプロデューサーさんと二人きりだと思うと、どうしても意識はプロデューサーさんの方に行ってしまいます。

 

 あ、忘れてました。

 

「プロデューサーさん」

「ん?」

「ママがお家を出る時に渡されたものがあるんですけど、それがなんなのか分からないんです。教えてくれませんか?」

「何をもらったんだ?」

 

 私はママからもらった箱を手提げ袋から出して、プロデューサーさんに渡しました。

 

「なんか『するなら、これは着けなさい』って言われて渡されました……なんですか、これ? お菓子ですか?」

「…………お菓子ではない」

「え、そうなんですか? じゃあなんなんですか?」

 

 蝶々の絵が描いてあるからお菓子じゃないかもとは思ってました。それならこれはなんなのでしょう? プロデューサーさんは困ったお顔をしてます。

 

「プロデューサーさん?」

 

 またママがご迷惑を?

 

「ん、あぁ、これは今は必要ないから手提げに戻して、帰ったらお母さんに返しておくといい」

「分かりました……でも結局これは何なんですか?」

「そのうち学校で習うよ」

「なるほど〜」

 

 ならもうこれ以上は訊かなくてもいいかな? それよりプロデューサーさんと恋人らしく過ごしたいもん♡

 

「そういえば由愛」

「はい?」

「由愛のお母さん、本当にいい人だな」

「え?」

 

 急にどうしたんだろう?

 

「自分の子どものことなら当然だとは思うけどね、今日は絵の話を聞いて改めて思ったんだ」

「そうなんですか」

「あぁ、俺も子どもを持つならあんな親になりたいね」

 

 プロデューサーさんの子ども……それって私が生むんですよね? つまりそういうことですね♡

 

「私、プロデューサーさんと結婚します!♡」

「急展開過ぎて驚きを禁じ得ない」

「だってプロデューサーさんの子どもは私の子どもでもありますから!♡」

「あ、あ〜、そういうね。誤解させて悪かった。別にプロポーズした訳じゃないんだ」

「そうなんですか……」

 

 本当に結婚出来ないにしても、将来の約束をしてくれたのかと思ったのになぁ。

 

「まだ由愛は結婚出来ない年齢だからね。だから由愛が結婚出来る年齢になるまでは恋人としての時間を充実させよう」

「プロデューサーさん……♡」

「その前にもっともっと由愛をアイドルとして大きなステージに立たせないとな。一緒に大きな白のキャンパスに大きくて綺麗な景色を描こう」

「はい!♡」

 

 今も怖いことばっかりですけど、私はプロデューサーさんが一緒ならなんだって頑張れます! これまでがそうだったんですから、きっと大丈夫!

 

「それじゃあ、絵の厳選に移るか。このままだといつまでも由愛を俺がただ愛でて終わってしまう」

「私はそれでもいいです♡ 寧ろそっちの方が良かったり……♡」

「それはダメだ」

「あう〜……」

 

 でも確かに今が午後の3時だから、それからお家に帰る時間までプロデューサーさんに甘やかされたら私……どうなっちゃうのか分かりません♡

 

「厳選し終われば好きなだけ甘えていいから、それまで我慢な」

「ちゅーはしてくれますか?♡」

「我慢出来たらな。いい子だったら好きなだけキスしてあげるよ」

「ホントにでしゅか!?♡」

 

 あ、言葉噛んじゃった。恥ずかしい。

 

「そんなに嬉しい?」

「当然です!♡」

「由愛の愛が眩し過ぎて溶けそう」

(俺の彼女可愛い……)

「私はプロデューサーさんのせいでいつも溶けちゃいそうです♡」

 

 こうして私はプロデューサーさんのお膝の上に座ったまま、プロデューサーさんと頑張って絵を厳選しました。

 それが終わると、プロデューサーさんに帰る時間までちゅーしてもらえました♡―――

 

 成宮由愛♢完




成宮由愛編終わりです!

ちょっと独自設定が強めになりましたが、楽しんでもらえたなら幸いです!

お粗末様でした☆

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