デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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西川保奈美編

 

 歌が好き

 

 特にオペラ

 

 でも今は

 

 アイドルの歌も好き

 

 そんな風に思わせてくれたのは

 

 私に魔法を掛けた

 

 不思議な不思議な

 

 優しい魔法使いさんがいたから

 

 ―――――――――

 

「〜〜〜♪」

 

 ふぅ、久しぶりにオペラを歌ってみたけど、やっぱり楽しいわ。

 

 私は今、誰もいない事務所のレッスンルームで自分の好きなオペラを歌い終えたところ。外は夜で、他のアイドル仲間はもうみんな帰ってしまった。だから私は一人残って、こうしてオペラを歌ってた。

 実は今度、とある番組で私はオペラを歌うの。その番組は一芸大会みたいな企画番組で、その番組を担当するディレクターさんと私専属のプロデューサーが仲良しだから出させてもらえるらしい。

 きっかけはどうあれ、歌える場をもらえたんだから頑張って私の歌声をお茶の間に届けたいし、プロデューサーのために歌いたい。

 だって今の私はプロデューサーのために歌ってると言っても過言ではないから。

 

 こんなことを言ってはアイドル失格と言われても仕方のないことかもしれない。でもプロデューサーは私の大切な恋人だし、ただステージへ立つことに憧れていただけの私に、歌を歌うステージを用意してくれた。

 オペラの歌とアイドルの歌は全く違うけれど、歌に上も下もない。私はただただ歌うことが好きだから、プロデューサーに出会えたのは運命としか思えなかった。

 私のファンになってくれた人たちには悪いけれど、自分の気持ちに嘘はつけない。だから私はプロデューサーのために歌ってる。

 

 パチパチパチパチ

 

「?」

 

 不意に聞こえてきた拍手に振り向くと、ドアのところにプロデューサーが立ってた。

 

「Brava♪(素晴らしい)」

 

 ブラーヴァ……これはイタリア語で女性に対して使う褒め言葉。男性にはブラボー。

 プロデューサーはイタリアへ留学した経験があって、その時の影響で時折イタリア語を発する。元から本人のノリもイタリア人気質みたいなところもあって、今でもイタリアに連絡を取り扱うお友達がいる。私も前にそのお友達が日本へ遊びに来た時に紹介された……アイドルとしてではなく、恋人として♡

 

「ありがとう、プロデューサー。そっちのお仕事は終わったの?」

「勿論終わったよ……というか、今何時だと思ってるんだい?」

「…………え、もう0時回ってる!?」

 

 しまった。歌うことに夢中で時間忘れてた。

 私はすぐに自分のカバンからスマホを取り出す。するとスマホの画面に親からの不在着信とメールが何件も残ってた。

 

「やっちゃった〜」

「今週で3度目。しかも3連続」

「またお母さんに怒られる〜」

「俺もさっき電話で怒られたよ〜。娘はまだ高校生なんですから、遅くまで拘束しないでくださいって」

「あぅ……ごめんなさい」

 

 オペラを歌うと決まってから、私はほぼ毎日こんな感じ。

 

「熱心なのはいいけどね。親を心配させるのは良くないよ?」

「は〜い」

「それと流石に歌い過ぎ。どんなに好きでも今のままだと喉を壊してしまうよ」

「うぅ〜……」

「これじゃ"angelo"(天使)じゃなくて、scemotta(おバカちゃん)って言うしかないかな〜」

「それはどっちもイヤ」

「あはは、そうかいそうかい♪」

 

 アンジェロもシェモッタもイタリアでは男性が女性の恋人に対して使う言葉。他にもプロデューサーは沢山私に対して色んな言葉を使うけど、どれもくすぐったくてなんか苦手。なのにプロデューサーはそんな私の心を見透かしてか、楽しそうに笑うだけ。私はそんなプロデューサーを睨むけど、結局は大好きな人だから許してしまう。

 

「と、とりあえず、お母さんに電話してくるから」

「うん、しておいで。戻ってきたら送ってくよ」

「うん、お願いします♡」

 

 ―――――――――

 

 お母さんに電話すると思ったより怒られなかった。ただ遅くなるなら連絡くらいしてってことみたい。今度から気をつけよう。

 

 それで今はプロデューサーが運転する車で家に送ってもらってる途中。

 

「ごめんね、プロデューサー」

「次から気をつけてくれればいいさ」

「うん、ありがとう♡」

 

 プロデューサーは優しい。事務所に所属してるアイドルの子たちや女性の事務員さんたちにも優しいけどね。でも私にだけは特別優しいって思うから、それが嬉しくて私は堪らない♡ そのせいでもっともっとプロデューサーのことが好きになっちゃうから♡

 

「でも本番前に喉を壊すようなことは見過ごせないな。明日……というか今日は絶対歌ったらダメだよ?」

「えぇっ!?」

 

 そんなの酷いよ、プロデューサー!

 

「えぇじゃありません。プロデューサー命令です」

「むぅ」

「可愛く拗ねてもダメで〜す」

「じゃあ、明日のレッスンは?」

「レッスンなんてお休みだよ。その代わり俺の外回りに付き合ってもらうから」

「え、外回り?」

「そ、外回り♪」

 

 プロデューサーが外回りに行くのは珍しくない。プロデューサーはデスクで仕事してるより、外回りしてる方が多いから。現に新しくスカウトしてくるのもプロデューサーが殆どだし。

 

「ねぇ、プロデューサー」

「何かな?」

「私がいたら女の子ナンパ出来ないと思うんだけど?」

「…………うん?」

 

 なんかすごく間があった。どうしたんだろう?

 

 すると、プロデューサーが急にコンビニの駐車場に車を停めた。

 車を停めると、プロデューサーは大きなため息と共に私に視線をやる。

 

「保奈美は俺をナンパ氏か何かだと思ってるの?」

「そうは思ってないよ? でも私が一緒だとスカウトし難いんじゃないかって思って……」

 

 私がそういうと、プロデューサーはもっと大きなため息を吐いた。

 

「え、どうしたのプロデューサー?」

「俺は悲しい」

「え、ど、どうして?」

「保奈美って鈍感だよね、意外と」

「そ、そう?」

「うん。まあそんなところも好きなんだけどね、cucciola(子犬ちゃん)」

「???」

 

 クッチョラは恋人間でしか使わない、相手を愛しいと思ってる時に使う言葉。でもどうしてプロデューサーがそう思ってるのか私には分からなかった。そう思ってもらえるのは嬉しいけどね♡

 

「外回りに保奈美を連れてくのはデートしようってことだよ」

「え?」

「外回りに保奈美を連れて行って、その先で実は外回りは連れ出す口実で、実はデートでした〜ってこと」

「あ、あ〜、そうなんだ……なら最初からそう言ってくれればいいのに♡」

「ぷちサプライズをしたかったの。なのに保奈美が俺がスカウトし難いとかナンパし難いとか言うから、悲しくって」

「ご、ごめんね?」

「……お詫びにキスさせてくれたら、いいよ」

「え、お詫びでいいの?」

「っ!?」

 

 プロデューサー、すごく目を見開いてる。どうしたのかな? 私としてはお詫びじゃなくても、プロデューサーとならいつだってキスしたいのに……変なプロデューサー♡

 

「ほ、保奈美は本当にgattina(子猫ちゃん)だね……」

「そうかな?」

 

 ガッティーナは彼氏が彼女に対して可愛い天邪鬼だって思った時に使う言葉。私、天邪鬼なことしてないんだけど?

 

「キス、させてくれる?」

「うん、いいよ♡」

「保奈美……」

「プロデューサー……♡」

「今は俺の名前を囁いてほしいな」

「〇〇さん……っ♡」

 

 プロデューサーの名前を私が口にすると、すぐに私の口はプロデューサーの口で塞がれた。でもそれはほんの一瞬で終わり、閉じていたまぶたを開けると、そこにはプロデューサーの優しい笑顔がある。

 

「保奈美はキスが好きだね」

「大好きな人からだもの、嫌いなはずないでしょ?♡」

「嬉しいことを言ってくれるね。お陰で保奈美にメロメロだよ」

「Grazie(ありがとう)♡」

「Prego(どういたしまして)♪」

 

 そして私たちは互いに笑い合う。キスしたあとはいつもこんな感じで、照れや気恥ずかしさからじゃない、心からの笑顔。キスの時もそうだけど、それよりも私はこの瞬間の方が好きだったりする。

 だって同じ気持ちだって強く感じれるから♡

 

 ―――――――――

 

 それからせっかくだからとコンビニで飲み物とちょっとした夜食を買ってから、また車に乗り込んだ。

 

「アイドルに夜食を勧めていいの?」

「保奈美は歌ってカロリー消費が激しいからね。これくらいで体型を崩したりしないさ」

「ふふ、変な理由♪」

「変で結構。それより焼き鳥食べせてくれない?」

「どっち? 塩とタレがあるけど?」

「塩かな。今タレだと口元に付きそうだからあとで」

「分かったわ♡」

 

 でも私はわざとタレの方を運転中で目が離せないプロデューサーの口元に持っていく。

 

「もぐもぐ……これはタレじゃないかgattina」

「ふふふ、ごめんね♡ でもタレも食べたいから買ったんでしょう?♡」

「それはそうなんだけど、お陰で口元に付いたじゃないか。拭いてくれないか?」

「は〜い♡」

 

 私はすぐにプロデューサーの口元に付いてしまったタレを人差し指でそっと拭う。それから自分の指に付いたそれを、私は躊躇うことなく口に含んだ。

 この行動が普通じゃないのは分かってる。でもどういう訳か、大好きな人が好んで食べようとする味って気になるのよね。

 

「あ、美味しい♪ 私も今度あそこのコンビニで焼き鳥買おうかな♪」

「味見の仕方が妙にエッチだよ、amore(愛)」

「プロデューサーにしかしないから安心して♡」

「それは心配してない。けどね、とても16歳がする行動とは思えないよ」

「大人のプロデューサーが恋人だからじゃない?♡」

「……末恐ろしいね」

「恐ろしくないわよ。好きだから私と付き合ってるんでしょ?♡」

「…………俺の負けだ」

「ふふふっ♡」

 

 そのあとも私たちは車の中でちょっと戯れながら、二人きりの時間を過ごしたの。主に私がプロデューサーにちょっかいを掛けて楽しんだんだけどね♡

 

 ―――――――――

 

 私の家の前にプロデューサーが車を停めた。私が車から降りると、プロデューサーも車から降りてくる。

 

「一緒に謝ろう」

「え、いいよ。悪いのは私だから」

「そういう訳にもいかない。そもそも俺が気を配っていれば済んだお話なんだから」

 

 こういう時のプロデューサーは絶対に譲らない。責任感が強いんだろうけど、私は都合よく自分が恋人だから優しいんだと思ってしまう。だってそれがプロデューサー……私の恋人だから♡

 

「それに、改めてご両親へ挨拶しに行く時に困るからね」

「っ……もう、プロデューサーったらぁ♡」

 

 親に反対されても私は絶対にプロデューサーと一緒にいるから安心して♡ それくらい私にとってプロデューサーは大切な人だもの♡

 

 こうして私はプロデューサーと一緒に待ち構えてたお母さんに謝った。次からは本当に気をつける。でもプロデューサーとの時間はもうちょっと長くなるかも。ごめんね、お母さん―――。

 

 西川保奈美♢完




西川保奈美編終わりです!

16歳には見えない保奈美ちゃんなので、ちょっと大人っぽい感じにしました!

お粗末様でした☆
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