デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


服部瞳子編

 

 君には才能がない

 

 そう言われて

 

 夢を諦めることにした

 

 すると周りは

 

 努力が足りない

 

 そう言ってた

 

 確かにそうだったのかも

 

 でもその数年後に

 

 そうじゃない

 

 って言ってきた人がいる

 

 だから

 

 騙されてみようと思った

 

 ―――――――――

 

「〇〇さん、コーヒー淹れてきました。少し休憩してください」

「あぁ、瞳子さん……ありがとう。ならそうしようかな」

 

 今日の私のアイドル業はもう終わり。アイドル業と言っても、明日に控えている私の単独ライブについて、演出や披露する曲の再確認をしただけでお昼からはオフ。

 これと言ってやりたいこともないから、私は帰らずプロデューサーさん個人のオフィスにいる。

 

 プロデューサーさんとは私の専属プロデューサー。一度挫折した私をまたステージに立たせてくれた、最高のパートナーで……今となっては最愛のパートナー。

 

 アイドルがプロデューサーと秘密恋愛をしてるなんて、アイドル失格かもしれない。

 でも、この人がいなかったら今の私……夢だったアイドルの服部瞳子は存在してない。

 それにプロデューサーさんからたくさんの気持ちも頂いたし、自分の人生まで懸けてくれて……そんな人を愛すのが罪なことだなんて思わない。

 

 幸い、ちひろさんをはじめとする仲のいい事務員さんたちからも応援されているし、アイドル仲間のみんなからもたくさん応援してもらってる。

 だから私は今度こそ絶対に諦めるなんてことはしない。

 

 それに―――

 

「いやぁ、瞳子さんが淹れてくれるコーヒーは自分で淹れるのと違って格別に美味い」

「ふふっ、特別なことなんて何もしてませんよ?」

「なら、瞳子さんが淹れてくれているから、私はその分気分が舞い上がっているんだろうね」

「もう、〇〇さんったら……♡」

 

 ―――アイドルを辞める時がきても、私はこの人と離れたくない。

 それくらいにプロデューサーさんを愛してるの。

 

 プロデューサーさんとは歳が10も離れているけれど、職業柄なのか見た目はとても若い。恋人贔屓かもしれないけれど、落ち着いた大人の男性の魅力があって、でもふとした瞬間に少年のような純粋さもある……ナイスミドル。プロデューサーさんは年齢を気にしてるから、ミドルなんて言っては怒られちゃうかも。ふふっ。

 

 でも、本当にこの人と出会えた私は救われた。救われたと同時に(恋に)落とされちゃったけどね。

 

「ふふふっ♡」

「瞳子さんはよく笑うね」

「今の私はアイドルじゃなくて、〇〇さんの恋人の私ですから♡」

「そんな歯が浮くようなセリフを吐くのはやめてくれ……年甲斐もなく舞い上がってしまう」

「私は〇〇さんと一緒にいるだけで舞い上がってますよ?♡」

「瞳子さん……」

 

 ふふふっ、困ったお顔して……私の恋人さんはなんて可愛いのかしら♡ 普段お仕事している時はとても格好いいのに♡

 はぁ、もう駄目ね―――

 

「好きです、〇〇さん♡」

 

 ―――あなたへの想いが止められない。

 

 好き……たったこれだけの言葉の中には、私の想いがたくさんたくさん詰まってるし、込めている。

 もう何度目になるか分からないくらい、私はプロデューサーさんに『好き』と伝え続けてる。正直引かれないか、重たい女だと思われてないか不安になる時もあるけれど―――

 

「う、うん……私も同じ気持ちだよ、瞳子さん」

 

 ―――恥ずかしそうにしててもちゃんと返してくれるプロデューサーさんが、私は好きで堪らない。だから私は何度でも『好き』と伝えたくなってしまう。

 

「好きです♡」

「あ、あぁ……」

「好き♡」

「う、うん……」

「好き好き♡」

「……っ」

「好〜きっ♡」

「…………」

「好き〜っ♡」

「もうやめてくれっ!」

「好き好き好き〜♡」

「やめてくれってばぁっ!」

 

 ふふふっ♡ あぁ、幸せ♡

 ステージに立てる幸せとは全く別物の甘い幸せを、私は噛み締めている。なんて贅沢なのかしら。幸せの過剰摂取で人は死なないかしら? 死なないわよね? 仮にそうだとしても、私に悔いはないけど♡

 

「そ、そうだ、単独ライブの次は他のアイドルの子たちと一緒に旅番組の出演を考えているんだが、どうかな?」

 

 露骨に話題を逸らしたわね……でも、これ以上やると拗ねちゃうからいいとしましょうか。

 

「いいですね。どんな旅番組なんです?」

「実際にそこに行って楽しんでくるお仕事だよ」

「〇〇さんがそう言うと、不安しかないです」

「いやだなぁ。最高に楽しいお仕事だよ?」

「それで前に幸子ちゃんたちと一緒にバンジージャンプしましたけど?」

「良かったよね、あれ! 瞳子さんも可愛い悲鳴あげちゃってさぁ!」

「目を輝かせないでくださいっ! あれ、本当に怖かったんですよ!?」

 

 もう、そんな嬉しそうに言って……私がプロデューサーさんからのお願い断れないの知ってて、変な企画に出演させるんだから……ズルいわ。

 

「まあまあ、今回はバンジージャンプじゃないよ」

「ほっ……良かった」

「絶叫マシーンのフルコースだ」

「いやぁぁぁぁぁっ!」

「おぉ、もう早速叫ぶリハーサルとは、流石瞳子さん! 愛してる!」

「こんな時だけ調子のいいこと言わないでください! 私嫌ですよ! 絶叫をお茶の間にお届けするアイドルなんて聞いたことありません! でも私もプロデューサーさん愛してます!♡」

 

 ちゃんと愛してるって言われたら返さないとね。

 

「えぇ〜、新しいジャンルの開拓も必要だよ。それに美人の悲鳴ってこう……グッとくるし!」

「い・や・で・す!」

「ダメ?」

「ダ・メ・で・す!」

「瞳子さ〜ん……」

「っ……」

 

 そんな捨てられた子犬のような目で見ないで! でも私だって成長してるんですからね! 何度も同じ手には―――

 

「このお仕事受けてくれるなら泊まる旅館は露天風呂の旅館にするから」

「やります!」

 

 ―――嵌められたぁぁぁぁぁっ!

 ズルいっ、なんて卑怯なのプロデューサーさんっ!

 

 今は私のことちょろいって思った人もいるかもしれない。でもこれは仕方ないのよ。

 だってプロデューサーさんは私の好みを熟知してる。よって用意してくれる温泉旅館は最高の温泉旅館なんだもの! しかもスタッフさんたちの目を盗んで、『撮影を頑張ったご褒美だよ』なんて言って、私と旅館でイチャイチャ(旅館の外を手を繋いでお散歩)してくれるんだもの!

 こんなのやるしかないじゃない! あぁ、プロデューサーさん大好きぃぃぃぃぃっ!♡

 

「うんうん、私の瞳子さんならそう言ってくれると思ってたんだよ。もう、最初から素直に頷いてくれればいいのに〜」

「…………むぅ」

「膨れっ面も可愛いよ」

「〇〇さんのばかっ」

「うんうん♪」

「〇〇さんのいけずっ」

「うんうん、それからそれから?」

「〇〇さんの……〇〇さんの、えぇとっ……むぅ〜っ!」

「もう終わりかな?」

「むぅー! むぅー!」

「ほらほら、おいで」

「むぅぅぅ……好き♡」

 

 ぎゅ〜っ♡

 

 怒ってみたものの、結局最後はプロデューサーさんを許しちゃう。惚れた弱みってやつなのかしら……でも、嫌じゃない♡

 

 はぁ、ライブより旅番組に出演する方が緊張してきちゃった。絶叫マシーンのフルコースだなんて……想像しただけで膝が笑っちゃう。

 

「さて、それじゃあ私はそろそろ仕事に戻るよ。コーヒーごちそうさま」

「……はい♡」

「キリのいいとこまで終わったら送って行くね。それまで瞳子さんは――」

「――ここで待ってます♡」

「分かった」

「♡」

 

 ―――――――――

 

 それからプロデューサーさんがお仕事を終わらせ、私が契約するマンションまで送ってくれることになった。

 アイドルとして再デビューする前はアパートを借りていたけれど、プロデューサーさんのお陰で有名になったのもあってセキュリティの高いマンションに一月前お引越ししたの。

 

「新しい部屋にはもう慣れた?」

「えぇ、それなりに。でも前の部屋と違って広くて……家具も少ないから寂しい感じですね」

「ぬいぐるみとか買ってきてあげようか?」

「もうそんな歳でもないですよ」

「それもそうか」

 

 車の中でする他愛もない話。でも私にとってはこの時間も幸せな時間。

 そこで私はあることに気付いてしまった。

 

 部屋に戻って寂しいと感じる理由……それはプロデューサーさんと別れたあとだから、ということに。

 

「………………」

「? 瞳子さん、急に黙ってどうした?」

「あ、いえ……」

「何かあるなら相談してほしいな。私はあなたのプロデューサーであり、恋人だ。大切な人だからこそ、何気ないことでも相談してほしい」

「でも……」

 

 これは私のわがままだから、きっとあなたを困らせてしまう。だから私は言えない―――

 

『私の部屋に泊まってほしい』

 

 ―――なんてこと。

 

「…………瞳子さん」

「え、あ、はい?」

「ちょっと私のわがままを聞いてくれないかな?」

「わがまま、ですか?」

「うん。勿論断ってくれてもいい」

「なんでしょうか?」

「今夜瞳子さんの部屋に泊まっていい?」

「え」

 

 どうしたのプロデューサーさん? どうして急に……?

 

「なんかね、今の話を聞いてて思ったんだよ。瞳子さんが寂しいって思ってるのは嫌だなって」

「…………」

「だから今夜は泊まっていい?」

「……はい、泊まってください♡」

「ありがとう。それじゃあ、ちょっと着換え取りに私のマンションに寄らせてもらうね」

「私が〇〇さんのお部屋に泊まってもいいんですよ?」

「ダメダメ。それじゃあ何も解決しないじゃないか」

「???」

 

 どういう意味なんだろう?

 

「あの部屋に私が泊まって、瞳子さんと過ごせば、思い出に残る。そうすればあの部屋にいつ帰っても、寂しい気持ちが少しはなくなるはずだよ」

「っ♡」

 

 プロデューサーさん……♡

 

 私、やっぱりこの人と出会えて良かった。そうじゃなかったら、私は今も自分にそれなりの区切りをつけて日々を過ごしていたはずだもの。

 でもこの人と出会えたから、私は毎日新しい自分になれるの。

 

「そんなこと言われたら、私……もっとわがまま言っちゃいますよ?♡」

「瞳子さんはわがままを言わないからね。私にはどんどんわがままを言うといい」

「じゃあ遠慮なく♡」

「うん、何かな?」

「うんと甘い夜にしてください♡」

「それはわがままというかおねだりでは?」

「そうとも言いま〜す♡」

「ライブがあるから1回だけだよ?」

「いいですよ〜♡ 長〜い1回にしてくださいね♡」

「だからライブ……」

「私、もうわがままな彼女ですから♡」

「敵わないな〜」

 

 その日の夜はとても私の口からは言えないけれど、本当に幸せ過ぎた夜だったわ♡

 でも寂しさは薄れたけど……寝室に行く度に体が熱くなってしまうようになったのがその後の私の悩みだったりする―――。

 

 服部瞳子♢完




服部瞳子編終わりです!

瞳子さんはあの見た目(いい意味)で25歳。更に歳を重ねたらどんなクールビューティーになってしまうのか……瞳子恐ろしい子!

お粗末様でした☆

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