デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


柊志乃編

 

 お酒が好き

 

 特にワインね

 

 でもどうして好きなのか

 

 もう忘れてしまった

 

 それくらいに

 

 忘れさせてくれたから

 

 好きなのかもしれない

 

 でも今なら

 

 好きな理由があるの

 

 私とあの人を

 

 ワインが会わせてくれたから

 

 ―――――――――

 

 ピンポーン

 

「………………」

 

 アイドルになるよりずっと前から借りてるマンションの自室内にインターホンの音が鳴り響く。

 散らばる長い自分の髪を適当に後ろに流しながら、ベッドルームを出る。

 リビングに入ると、テーブルに置いてあるデジタル時計が午前10:00と表示してた。

 

 この時間なら、ドアホンの確認はする必要がない。

 何故なら―――

 

「おはよう、プロデューサー♡」

「おはよう、志乃。迎えに来たよ」

 

 ―――相手は私の恋人で、専属のプロデューサーだから。

 

 アイドルがプロデューサーと恋愛してていいのか。なんて言われるかもしれない。でも許してほしいの。だってプロデューサー……この人じゃないとダメなんだもの、私。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 これは私がプロデューサーと出会うよりも昔の話。

 

 当時の私は上京仕立てで、新生活に心を踊らせてた。

 でも、現実はそう甘くはなかった。

 

 描いてた夢も、進むべき道も、目標も、消えたの。

 私の身に何があったのかは、ごめんなさい。察してとしか言えないわ。

 

 だから私は元々好きだったお酒に逃げた。

 お酒はどんなに気分が暗くても、辛くても、軽くしてくれた。

 私を助けてくれていた。

 

 幸い依存症にはならなかったし、健康体でいられたけど、楽しいといえるのはこれだけだった。

 

 そんな毎日を繰り返していたら、現れたの。

 プロデューサーが。

 

 彼は変わってた。今まで何度か口説かれてきたことはあったけれど、彼の第一声は『ワインの何が好きなんですか?』だった。

 だからそのまま答えた―――

 

『好きだから』

 

 ―――と。

 そしたら彼は笑って、『そうですか』とだけ返してきたの。

 

 不思議だった。でもその時の感情はとても心地良くて、何か懐かしい気がした。

 だから彼の言葉に頷いて、アイドルのスカウトを受けたのかもしれない。

 

 この人なら……と私が勝手に思い、彼はそれに応えてくれた。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 だからよ。だから私は、彼の一番近くを求めたの。

 奇跡みたいに同い年だったし、ワインの趣味も合う。なかなかそんなことってないじゃない?

 だもの、手を伸ばしてみたの。

 

 それは今もあの時と同じ。

 

「相変わらず、志乃の手は冷たいね」

「お酒が入ってないからね♡」

 

 手を伸ばせば、彼は必ず私の手を取ってくれる。

 その度に私の想いは強くなる。

 大好きよ……貴方。

 

「中に入って♡」

「お邪魔します」

 

 手を繋いだまま、彼をリビングに連れて行く。

 たったそれだけなのに、私の体温はお酒を飲んでいる時みたいに熱くなっていくのが分かる。

 

「着替えて、支度してくるわ♡」

「慌てないでいいからね」

「貴方との時間が減ってしまうもの、急ぐに決まってるでしょ?」

「はは、分かったよ」

「♡」

 

 彼はいつも……付き合う前から、必ず私を迎えに来てくれる。その前まではモーニングコールくらいだったのに。でも、私がわがままを言ったから今に至るのだけれどね♡

 

 私たちの関係を知るのは事務所関係ではちひろさんくらい。彼女とはたまに飲みに行くから、味方になってもらったの。もちろん、アイドル仲間のみんなにも味方になってもらってるわ。

 

 私たち……主に私の問題なのだけれど、アイドルとして誰もが認める存在にならないと、彼との交際を公には出来ない。

 プロデューサーは『自分の覚悟は出来てる。志乃の決意が固まるのを待ってるよ』と、そう言ってくれてる。

 でも決して私任せにしていないのが、彼のズルいところ。だって『ただ、これは僕たちの問題なのだから、志乃だけが悩む必要はないからね』なんて、言うのよ? どれだけいい男なのよって思わない?

 

 熟して消えてしまいたい……そんな風に達観してた自分が馬鹿みたい。今は彼とどこまでも一緒にいたいんだもの。寧ろお互いに熟して溶け合いたいくらい。

 

「お待たせ♡」

「待ってないよ。というか、早いくらいさ」

「貴方との時間は私にとって掛け替えのない時間なの♡」

「ありがとう。いつもながら、勝手にコーヒーを淹れさせてもらったよ。志乃の分も用意してあるから」

「ありがとう♡」

 

 私は彼にお礼を言うと、彼の元へ行き、彼の膝の上に座る。自分でもどうしてか分からないけれど、どうやらここが一番落ち着くのよね。

 

「好きよ、貴方♡」

「僕も志乃が好きだよ」

 

 そして触れ合う唇。私たちに似合わないくらい、可愛らしい音が小さくリビングに響く。でもその音が止むと、好きな人の笑顔が待ってるの。

 

「あれ、昨晩は飲まなかったのかい?」

「飲んだわ。でも、1杯だけにしたの」

「どうして? どこか悪いのかい?」

「そう、悪いの」

「ど、どこが?」

「貴方と一緒でないと、味がイマイチなのよ」

「……心配した僕の気持ちを返せ」

「本当のことだもの♡」

 

 私は小さく笑って、彼からの視線から逃げるように彼の胸元に顔を埋める。

 嘘なんて吐いてない。確かに好きなワインを飲んだわ。でも本当にプロデューサーがいないだけで、味が落ちてたの。気分の問題と言われればそれまでだけれど、私にとってはそれくらい大切なの。

 

「困ったシンデレラだね、本当に」

 

 彼は呆れたようにつぶやくも、優しい手つきで私の髪を丁寧に梳いてくれた。私はそれが嬉しくて、心が踊った。

 

「でも、今日はレッスンだから飲み過ぎてないのはいいことだね」

「そうね。貴方はいつも私の好きな時に飲ませてくれないから」

「監視ですから」

「そうね♡」

 

 監視なんてもうただの表現。私はもうちゃんと自制出来てる。でも監視されたままの方が、私たちにとっては都合がいい。だから今はこのままでいいの。

 

「いつもごめんなさいね。私のために貴方の時間を調整させてしまって……」

「それは言いっこ無し。僕はもう志乃の為に仕事をしてるんだ」

「うん♡」

「忙しいなら、もっと頑張って時間を合わせればいい。僕はそれが出来る。だから謝らないで」

「分かったわ、大好きよ、貴方♡」

「僕の方こそ、大好きだよ」

 

 視線をまた絡ませると、私たちはまた唇を重ね合わせる。でも今度は私たちらしい、激しい音がリビングに響く。"はしたない"の方が正しい表現かしら。

 

「んっ……ぁ……好き……ちゅっ……貴方ぁ……んんっ♡」

 

 でも止められない。彼は全部受け止めてくれるし、私の欲しい反応をくれるから。

 言葉なんかじゃ足りない。私の『愛してる』を私の舌で、彼の舌に刻んでるの。

 

「ふぅ……♡」

「蕩けた顔は普段の綺麗な志乃とは違って、可愛いね」

「貴方にだけ見せる、特別の顔よ♡」

「光栄なことだね」

「♡」

 

 彼が優しく目を細める度、私はまた彼に顔を近付ける。何度しても、彼は決して逃げない。寧ろ、受けて立つと言う具合に堂々としててくれるの。私はそれがまた嬉しくて、コーヒーなんて一口も飲まないで、存在すらも忘れて、プロデューサーと過ごしたわ♡

 

 ―――――――――

 

「はい、ストップ」

「あんっ……もっとぉ」

「ダメ」

「貴方ぁ」

「そんな顔をしてもダメなものはダメだよ。時計見て?」

 

 時計を見ると、午後12:00を表示してた。つまりそういうことなのね。我慢出来ないけど、我慢するわ。

 

「僕が何か作ろうか?」

「私が作ってもいいのよ?」

 

 そう言うと、彼はまた優しく目を細めて「なら」と言ってくる。だから私は我慢して「一緒に作りましょう♡」と返して、彼と一緒にキッチンに向かった。

 

 ―――

 

「何作ろうか?」

「レッスン前よね?」

「あぁ、でもライブが迫ってるから」

「鬼コースなのね」

「その通り」

「なら軽めの物にしましょうか」

「その方がいいね」

 

 こうして献立が決まる。特に分担は決めてないけれど、私もプロデューサーも『なら自分はこれにしよう』って具合で別々でそれに合う物を作るの。

 

「志乃」

「何?♡」

 

 ちゅっ♡

 

「……これだけ、なの?」

「料理中だからね」

「料理"ちゅう"だからこそ、じゃない?」

「何高垣さんみたいなこと言ってるの」

「この前女子会で教わったから」

「そうなのか……でも、ダメだよ?」

「むぅ」

 

 ちゅっ♡

 

「本当にこれでお終い」

「我慢するぅ♡」

「ん、いい子いい子」

「♡」

 

 ―――

 

 そして料理が出来上がる。私がコンソメスープとサラダで、プロデューサーがフレンチトーストをそれぞれ作ったわ。

 前までの私ならここでワインに手を伸ばすところだったけれど、今は違う。

 

「貴方ぁ」

「はいはい、我慢出来て偉かったよ」

 

 ちゅっ♡

 

 今はワインよりも酔えるものがあるもの♡

 

「ふふふっ、もう一回♡」

「食べたらね」

「むぅ」

「同じ手は通用しないんだなぁ、これが」

「は〜い」

 

 諦めて私はナイフとフォークに手を伸ばす。今回のフレンチトーストは中にチーズが入ってたわ。食パンを三角に切って、中に切り込みを入れて、その隙間にチーズを入れるの。この前作ってもらったのは甘いものだったから、今回はしょっぱいものにしてくれたのね。

 

「ふわふわで美味しい♪」

「それは良かった。志乃が作ったスープも敢えて野菜の歯ごたえを残してあっていい感じだよ」

「良かったわ♡」

「志乃は料理上手だから、お嫁さんにもらうのが楽しみだよ」

「私も料理上手な貴方のところへお嫁に行くのが楽しみよ♡」

 

 惚気け合うって楽しい♡ こんな気持ち初めてよ♡

 

「私、頑張って次のライブ成功させるわ」

「いつも通りでいい。それだけで志乃は輝く」

「ふふっ、相変わらず乗せるが上手ね♡」

「誰よりも理解してるからね」

「幸せだわ♡」

 

 次のライブ……アイドルの最高峰、『スターライトステージ』で私は彼との未来のために歌う。彼と努力してやっとあのステージに立てるんだもの。もうあの時の私じゃない。

 

「びっくりして、腰を抜かさないでね♡」

「あぁ、何があっても驚かないさ」

 

 そして私はまた彼と唇を重ね合わせ、レッスンスタジオに向かったわ♡

 

 ―――――――――

 

 後日談となるが、アイドルマスタースターライトステージにて、史上最年長でシンデレラガールに輝くアイドルが誕生。

 それと同時にアイドル史上に残る『シンデレラからの逆プロポーズ』という伝説を打ち出したそうな―――。

 

 柊志乃♢完




柊志乃編終わりです!

ちょっと盛り過ぎた感がありますが、ご了承を。

お粗末様でした☆
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