デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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古澤頼子編

 

 自分はつまらない人間

 

 だから

 

 いつも美術作品に

 

 思いを馳せていた

 

 自分も美術作品みたいに

 

 誰かを魅了してみたい

 

 なんて夢を見ながら

 

 でも

 

 そんな私を

 

 輝く作品にしてくれた

 

 魔法使いさんがいます

 

 ―――――――――

 

「はい、姿勢はそのまま〜、目線は外しててね〜」

「………………」

「いいよ〜! その表情べリグー!」

 

 私は今、茨城県内のとある場所にある美術館のイメージキャラクターとしてポスター撮影に挑んでいます。

 ポスターではあるものの、実際に美術館内での撮影であり、私は好きな絵画やここの美術館がおすすめしている絵画を見ながらなのでとても楽しいです。

 それに閉館後の撮影なので本当に私や撮影スタッフさん、美術館側のスタッフさんたちしかいない。いつもなら館内で静かに響いているクラシック音楽もなく、なんだか別世界に来てるみたいです。

 

「一旦休憩しまーす!」

 

 カメラマンさんの声で、張り詰めていた独特の静けさが柔らかいものへと変わりました。

 私は相変わらずでしたが、

 

「とりあえずお疲れ、古澤。あと少しだけ頑張ってな」

「はいっ、プロデューサーさん♡」

 

 私の専属プロデューサーさんに声をかけられると、私は自然と声が弾んでしまいます。

 

 どうしてかというと、プロデューサーさんが私の大切な恋人さんだからです。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 私は小さな頃から感情表現が苦手で、何かを伝えるのは苦手でした。

 でも絵を描くのは好きで、クレヨンをすぐに使い切っては親におねだりしてました。

 

 でも結局、私は芸術家になりたいとまでは思わず、人の描いた絵を見るだけで満足してました。

 

 その日も何気なくいつも行く美術館に行くと、声をかられたんです。

 それがプロデューサーさんで、私をアイドルにしたいなんて言ったので驚きました。

 

 でも彼から言われた言葉は私の気を引くのに十分でした。

 

『君は最高の作品になれる……俺がそうしてみせる』

 

 いつも誰かの作品に心を奪われていた私が……今度は私自身で奪う側になる。

 ずっと私には無理だと思って諦めていた憧れ。それを彼が実現してくれるならと、私はアイドルになりました。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 そうしていく内に、私はプロデューサーさんに私を作品としてではなく、女の子として見てほしくなってしまいまして……結果、今の関係になりました。

 当然ですが、私たちの関係は事務所には秘密です。ですが、アイドル仲間の何名かには私の態度でバレちゃいました。

 でも皆さん応援してくれて、助けられてます。

 

 それに私は……今の私はもう夢を見るだけで満足する人間じゃありませんから。

 

「ありがとうございました!」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 撮影も無事に終わり、撮影スタッフさんたちが撤収作業に入ったことで美術館側のスタッフさんたちと私たちは挨拶を交わしました。

 今回、この依頼をしてくれたのはこの美術館の館長さんで、私は常連だったので何度かお話をしたことがあります。

 

「まさか当館がアイドルの方に足繁く通ってもらえているなんて、感激でした。これからもご贔屓にお願いします。何なら当館のお知らせ板に宣伝ポスターやサインを展示しても構いません!」

 

 館長さんのご厚意に私もプロデューサーさんも揃って頭を下げました。

 

「そう仰ってもらえて嬉しいです。ポスターとサインの件は、後日私がお届けします」

「実は既に書いてもらおうとサインペンと色紙は用意してあるんですが……いいですかね?」

 

 準備がいい館長さんに私もプロデューサーさんも思わず笑みをこぼします。

 

「では先にサインの方を……古澤、書いて差し上げて」

「はい、分かりました」

 

 こうして私は用意された色紙にサインをしました。お渡しすると、とても喜んでもらえたので私まで嬉しくなってしました。

 

 ―――

 

 そして今の私はプロデューサーさんの運転で実家に送ってもらっているところです。

 

「良かったな、頼子。あんなに喜んでもらえて」

「はいっ♪」

 

 プロデューサーさんは二人きりの時は私の下の名前を呼んでくれます。そして下の名前で呼ばれるということは、もう恋人として過ごしていいという合図なんです♡

 

「これも〇〇さんのお陰ですね♡」

「素材が良かったからな。頼子は十分可愛いから」

「もう……♡」

 

 私もプライベートではプロデューサーさんのことを下のお名前でお呼びしてます。

 でもプロデューサーさんみたいに呼び捨てには出来ないです。私より10歳年上ですし、何より私が照れちゃうので……♡

 

「でもまさか美術館からオファーもらえるとは思わなかったなぁ」

「そうなんですか?」

「あぁ。美術館とアイドルなんて真逆だろ? それにそのアイドル目当てで美術館にファンが来ると、撮影した場所だからって記念撮影し出したりする人間もいるからな」

「なるほど……」

「推しのイメージダウンにも繋がるからマナー違反するファンは少ないけどな。でもあそこの館長さんは『ここを聖地にしたい!』ってぐらい言ってたし、だからこそオファーくれたんだと思う」

「嬉しいですが、皆さんちゃんとマナーを守ってくださるでしょうか?」

「その点はあとで美術館側と俺が対策するよ。例えば美術館のパンフレットに頼子の写真と共に美術館のルールを紹介しとくとか、受付前に頼子の等身大パネルと共に美術館のルールを紹介しとくかね」

「なるほど……」

 

 やはりプロデューサーさんは凄いですね。私をここまでプロデュースしてきたんですから、頭の回転が早くて何歩も先を見据えてます。

 

「まあ仕事の話はここまでにして、どこか寄るか? 腹減ってるだろ?」

「あ、そうですね……」

「と言っても、この時間ならファミレスくらいしかないけどな」

「そうですね、ふふっ♡」

 

 ファミリーレストランでも何でもいい。私はプロデューサーさんと同じ空間にいられれば、それだけで幸せなんですから。

 あ、そういえばいい手があるのを忘れてました。

 

「〇〇さん、私の家に上がって行きませんか?」

「え?」

「実は今日から両親が旅行で私一人なんです」

「へぇ……」

「それで……良かったら、私が何か作ってあげたいなぁ……なんて♡」

「……ならスーパー寄って行くか」

「っ……はいっ♡」

 

 実はこういうの前からやってみたかったんです。頑張ってプロデューサーさんのために美味し物作りますから♡

 

 ―――――――――

 

 スーパーに寄って食材を買い、家に着いた私は早速プロデューサーさんのためにお料理を開始しました。

 でも―――

 

「〜〜……〇〇さんっ」

 

「何?」

 

「そんなに見られてたら、集中出来ません……」

 

「無理。だって頼子が包丁で怪我したら大変だからな。それに可愛い彼女がエプロン姿なんだ。見て当然だろ」

 

 ―――プロデューサーさんのせいでなかなかお料理が進みません。

 嬉しいか嬉しくないかと訊かれたら嬉しいですが、好きな人に見られてると落ち着かないです。

 

「こ、このままだと、指切りそうなので……」

「それは良くないな」

 

 私がそう言うとプロデューサーさんはやっと居間に戻りました。

 でもいざそうなると、寂しいなんて思ってしまう自分がいて、自分ってわがままなんだって思います。

 

 でもちゃんとお料理しなきゃ!

 プロデューサーさんにはいつもお世話になってますし、こういうところで恩返しして、彼女っぽいことをしないと!

 

「えっと、先ずは水をきって……」

 

 ちゃんとレシピ通りにやらないといけません。

 あ、因みに今から作るのはなめことお豆腐のお味噌汁です。それとほうれん草のおひたしとホッケが安かったのでホッケを焼きます。

 

 美味しくなぁれ、美味しくなぁれ

 

 プロデューサーさんに美味しいお料理を食べてもらいたいから

 

 ―――――――――

 

「うめぇ……うめぇよぉ……早く頼子と結婚してぇよぉ……」

「お、大袈裟ですよ……♡」

 

 少し時間が掛かってしまいましたが、プロデューサーさんは涙を流して食べてくれてます。

 それに「結婚したい」だなんて……私がプロデューサーさんを喜ばせたいのに、私の方が喜ばせられちゃってます♡

 

「はぁ、毎日頼子の味噌汁飲みたい……」

「も、もう、いつかそうしてあげますから、もう言わないでくださいっ!♡」

「え」

「あ…………っ!?」

 

 私ったら、つい……! まるでもう私はプロデューサーさんと結婚する気でいますって言ってるみたいじゃないですか!

 うぅ〜、プロデューサーさんに重たい女だって思われたらどうしよう〜!

 

「…………」

「頼子」

「は、はい……」

「愛してる」

「へ?」

「愛してる……必ず、俺が頼子をトップアイドルにして、プロポーズするから」

「っ……はいっ♡ 私も頑張りますっ♡」

 

 あうあうあうあうあうあう……恥ずかしいはずなのに、嬉しさの方が強過ぎますぅ! もっとちゃんとしたお返事したかったのにぃ!

 でも―――

 

「おかわりいいかな?」

「はい、たくさん食べてください♡」

 

 ―――こんなに幸せなら、背伸びした言葉なんていらないのかもしれません。

 だって私はプロデューサーさんに言われる言葉全てが、嬉しくて堪らないんですから♡

 

 ―――

 

「洗い物終わったぞ」

「ありがとうございます」

「お礼なんていいんだよ。飯食わせてもらったお礼なんだからさ」

「でも、ありがとうございます♡」

「はは、どういたしまして」

 

 洗い物はプロデューサーさんに押し切られて任せちゃいました。プロデューサーさん、こういうとこは絶対に譲りませんからね。

 

「もう9時になるのか」

「ごめんなさい、遅くなってしまって」

「謝る必要ないよ。寧ろ頼子とお家デートなんて最高過ぎる」

「もう、またそんなこと言って……♡」

「事実だからな。でもそろそろお暇しないと」

「あ」

「え?」

 

 帰っちゃ嫌……なんて私は言えない。でも体が勝手に動いてプロデューサーさんの上着の裾を掴んでしまっていました。

 

「あうあうあうあうあうあう……♡」

「…………食休みさせてもらおうかな?」

「〇〇さん……♡」

「でもあと1時間だけだぞ? 親しき仲にも礼儀ありだ」

「はいっ♡」

 

 本当なら私はプロデューサーさんになら何をされても構いません。

 でもきっと真面目なプロデューサーさんはそんなことしないと決めているんだと思います。

 だから―――

 

「〇〇さん♡」

「ん?」

「〇〇さんが帰ったあとも、私が寂しくないように……たくさんキスしてほしいです♡」

 

 ―――これくらいなら、いいですよね?♡

 

「もちろん。なんなら1時間余裕で出来る」

「それだと私がダメになっちゃいますぅ♡」

 

 結果、私はプロデューサーさんにダメにされちゃいました♡

 でも幸せで、とても幸せで、最高の一時でした♡―――

 

 古澤頼子♢完




古澤頼子編終わりです!

あまり笑わない、ポーカーフェイスな頼子ちゃんも、惚れた相手の前ではデレデレってことで!

お粗末様でした☆

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