人生ってのは不思議なもんでね
ロック一筋だったアタシでも
アイドルになるんだよ
まあ
それもこれも
アタシの歌声を気に入ってくれた
おかしな魔法使いサンが
いたせいなんだけどね
でも
こんな素敵な人に出会えたんだ
歌ってて良かったよ
―――――――――
「はい、ではこれでここのロケ終わりです! 出演者の皆さんは少しですけど2時間程は自由に過ごしてもらって構いません。お疲れ様でした!」
『お疲れ様でした〜!』
今日、アタシは歌の仕事じゃなくてアイドルらしい(?)観光地紹介番組の収録で、東京を離れて鹿児島県に来てる。んでロケ最後は県内にある有名な水族館での撮影で、それが終わったとこ。
今回、アタシと一緒にこの仕事に臨んだのは芳乃ちゃんと悠貴ちゃん。仕事をプロデュースしたのが芳乃ちゃんのプロデューサーサンらしくて、芳乃ちゃんの出身地を選んだみたい。んで、アタシと悠貴の方は芳乃ちゃんを含めて同じ日にソロでCDデビューしたから呼んでもらえたって感じ。
「お疲れ様ですっ、涼さんはこのあとどうするんですか?」
撮影スタッフさんたちが撤収作業をしてる中、悠貴ちゃんがアタシに声をかけてきた。その横には芳乃ちゃんも一緒で、「わたくしは〜、悠貴ちゃんと〜、お茶を買いに行くのでして〜」と相変わらず間延びしたことを言ってる。
「お茶?」
「はい〜、そこは〜お煎餅もありまして〜」
「あぁ、そういうね。というか、二人で行くのか?」
アタシがそう訊くと、悠貴ちゃんの方が「そんな、プロデューサーさんたちと一緒ですよっ♪」と答えたからホッとした。
芳乃ちゃんは地元民でもアイドルだからね。しかも芳乃ちゃんに至ってはおっとりしてるし、いくら悠貴ちゃんが一緒でも二人だけだったら心配だから。でも二人のプロデューサーサンが一緒なら安心だね。
「アタシは……せっかくだからもう一周りこの水族館を見て行くよ。東京じゃジンベエザメなんて見られないしさ」
「分かりましたっ。なら涼さんの分もお茶買ってきますね♪」
「お煎餅もでして〜」
「ありがと。ならアタシの方はここの土産屋で何か良さそうなの買っておくよ」
こうして私たちは別れた。
とは言っても、プロデューサーサンたちはもう少し掛かるだろうね。撮影中も結構忙しそうにチェックとかしてたし―――
「涼、一人で水族館堪能するのか?」
―――って思ってたら、アタシ専属のプロデューサーサンが声をかけてきた。
「うん、そのつもり」
「なら、俺と回らないか?」
「プロデューサーサンにそんな時間あんの?」
「スタッフさんたちだって早めに切り上げたいからね。そんなに時間は掛からないから、ちょっと待っててくれよ」
「ならいいよ。待っててやる♪」
アタシがそう返すと、プロデューサーサンはアタシに―――
「せっかくの水族館だ。少しくらいデートしよう」
―――なんて耳打ちしてきたから、アタシは思わず頬が緩んだ。
事務所には内緒にしてるけど、実はアタシさ……プロデューサーサンと付き合ってる。でもちひろさんとか仲がいいアイドル仲間とかには話してて、みんなにフォローしてもらってるんだ。
アイドルとプロデューサーがデキてるってドラマや映画の話だと思ってたが、相手が本気で自分のことを考えてくれてば惚れるだろ、普通。
プロデューサーサンはアタシにアタシが心から望んでたステージを用意してくれた。
アイドルでもロックテイストで売り出してくれたし、前のバンド仲間のことも事務所の作曲部門にスカウトしてくれて、本当に懐が深い人。
だからアタシより10も年上だろうと、肩書がなんだろうと、アタシは自分の想いを捨てずにアピールしたんだ。
んで、つい2週間前に今の関係になった。プロデューサーサンも腹をくくってるみたいで、バレないようにしながらアタシと今回みたいにデートとかしてくれるんだよ。そんなもんだから、アタシは本当に恵まれ過ぎてて怖いくらいだ。
努力したご褒美が今なら、アタシはこれからも努力したいと思う。
―――――――――
「水族館なんて滅多に行かないから、仕事だけど楽しんで出来たよ♪」
「そうか。呼んでもらえて良かったな」
「あぁ♪」
閉館までまだ時間はあるから、アタシはプロデューサーサンと1階から改めて回ることにした。
「でもここだけじゃなくて、仲間と色々と行けて今回の仕事は本当に楽しかったよ♪」
「俺は今、この瞬間が1番だ」
「っ……随分と飛ばして来るじゃん?♡」
「事実だからな」
「……♡」
柄にもなく、ときめいちまった。だって好きな人からあんなこと言われて、ときめかないなんて無理だろ。くぅ、周りの目がなきゃ手とか繋ぎたい。
「そ、そういや、プロデューサーサンは何かお目当ての生き物とかいるのかい?」
「俺?」
「うん。だから一緒に回ってくれてるんだろ?」
アタシがそう言うと、プロデューサーサンはちょっと苦笑いする。何か変なこと言ったのかと思ってると―――
「涼とデートしたいからに決まってるだろ。他に理由はない」
―――って耳打ちしてきた。
アタシはそれが嬉しくて、正直ゾクゾクしたし、またときめいちまった♡
「そっか、へへへっ♡」
「おい、あんまり顔に出すなよ? 可愛い涼は俺だけの特権なんだ」
「はいよ〜♡」
無理だろ。顔にやけるに決まってんだから。
アタシ、これまで付き合った人は何人かいるけどさ……プロデューサーサンみたいに軽い俺様系は初めてなんだ。
正直、付き合う前まで……いや、それ以前から俺様系は無理って思ってたけど、プロデューサーサンならありだよ。これも惚れた弱みってやつなのかねぇ?♡
「あ、プロデューサーサン、アザラシいるぜ?」
「アザラシ……」
お、目がキラキラしたな。なんだかんだ言っても自分も楽しんでんじゃん。いいかっこしいめ♡
「アタシとアザラシどっちが好き?」
「涼だけど、ペットにするならアザラシ」
「つまり好きの意味が違うだけで、どっちも好きなんだな」
「そうだ」
あはは、普段からポーカーフェイスのくせに言動は素直なんだよなぁ、プロデューサーサン。そこがなんかかわいくも思えるけど♡
「暫く見てく?」
「そうしよう」
「あ、こっち見た」
「っ!」
うわっ、子どもと一緒になって手ぇ振ってる。なんだよ、アタシの彼氏、アタシよりかわいいじゃん♡
「良かったな、プロデューサーサン♪」
「あぁ、とても良かった……」
あ〜、アタシの彼氏かわいいっ!♡
―――――――――
その後も館内を見て回ったアタシたちだけど、アタシはプロデューサーサンの反応がかわいくてそれどころじゃなかった。普通逆じゃね?ってなるけど、プロデューサーサンは普段とのギャップがあるからさ……アタシとしてはいいんだよ、これで♡
んで、まだ時間があるからアタシたちは館内のレストランで少し休憩中。
でも―――
「あの、サインしてもらってもいいですか?」
「いいよ♪」
「あ、ありがとうございます!」
「あの、写真撮ってもいいでしょうか?」
「もちろん、いいぜ♪」
「ありがとうございますっ!」
―――居合わせたアタシのファンと交流中。
アイドルをやる前は『アイドルだから男性ファンが多いんだろう』なんて思ってたけど、アタシには女性ファンもかなりいるらしい。現に今も男性より女性の方が多いしね。
なんでもアタシは女だけどイケメンなんだと。まあ普通のアイドルよりはかわいさを売りにはしてないからね。たまにアイドルらしいかわいい系の衣装も着ることはあるけど、大抵はロックテイストだから。
でもちゃんとアタシの歌を聴いてくれてファンになってくれてるんだから、性別なんて関係ない。ただただ嬉しい。それだけ。
「涼も人気アイドルになって、プロデューサーとしては喜ばしい限りだ」
「凄腕のプロデューサーにプロデュースしてもらってるからね♪」
「これからもその期待に応える」
「楽しみにしてる♡」
周りの目はあるけど、こういう会話ならしてもいいよな。まあ、アタシはにやけちまってるけど……。
「あ、そういや時間まだあるよな?」
「あるぞ」
「じゃあ、最後に土産見てもいいか? 悠貴ちゃんたちにも何か良さそうなの見つけないと」
「そうか。ならこれ飲んで行こうか」
「あぁ♡」
―――――――――
それで土産屋に来た訳なんだが―――
「まさか悠貴ちゃんも芳乃ちゃんもサイン書いてたなんてねぇ」
―――入った瞬間にここの責任者さんからサインを頼まれた。しかも既に他の二人のサインももらってたみたいで、レジの後ろの目立つとこに飾ってある。
サインを求められる度に、アタシはアイドルなんだって実感するし、こうしてくれたのはプロデューサーサンなんだって思う。
「有名アイドルだからな。サインくらい求められるだろう」
「それもそうか。でも未だに慣れなくてね」
「慣れる必要はない。その方がファンがいる気持ちが薄れずに済むから」
「そっか」
プロデューサーサンはアタシをプロデュースする前、何人もアイドルをデビューさせてきた。どのアイドルも系統は違うけど、同じなのは『ファンへの感謝を忘れるな』ってこと。
ファンがいてこそアタシらはアイドルを続けられるんだからな。それを常に考えてるから、プロデューサーサンは凄腕って呼ばれるんだと思う。
「それで、二人に何を買うつもりだ?」
「二人はお茶とお煎餅をアタシに買ってくれるらしいから、甘い系のお菓子とキーホルダーかストラップかな。プロデューサーサンは何か買う?」
「俺はここで買える図鑑を記念に」
「プロデューサーサンらしいね♪ 買うの決まってるなら先にお会計してきなよ。アタシまだ掛かるから」
「分かった」
―――――――――
それから結局、アタシは二人にクッキーとジンベイザメのキーホルダーを買った。
自由時間も終わって、みんなでロケバスに乗り込んで、あとは今夜お世話になる温泉宿に向かう。そこで撮影したら収録は終わり。
アタシはバスに乗り込む前にプロデューサーサンから渡された宿での撮影内容の台本を読もうとしたんだけど、台本にアザラシのストラップが挟まってたのを見つけた。
プロデューサーサンのかなって思ったんだけど、それと一緒に挟まってたメモ用紙に―――
「俺との思い出に。お揃いだ」
―――って書いてあって、にやけた。すると当然、事情を知ってる悠貴ちゃんや芳乃ちゃんから『ごちそうさま(でして〜)♪』なんて言われた。
撮影が終わったらお礼しに行かないとね♡―――
松永涼♢完
松永涼編終わりです!
ロックなアイドルでも好きな人の前ではデレデレなのです!
お粗末様でした☆