デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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水野翠編

 

 弓道を幼い頃からやっていた

 

 周りから認められて

 

 これからもこの道を

 

 歩むものだと思っていた

 

 なのに今は何をしてるのか

 

 アイドルだ

 

 弓道から離れて

 

 アイドルをしている

 

 でも

 

 何をしてても

 

 一つの道に通ずる

 

 それを教えてくれたのが

 

 魔法使いさんです

 

 ―――――――――

 

「………………」

 

 一点を見つめ、ただ無心で、引いた矢を的へ放つ。

 するとその矢は吸い込まれるように、的の中央へと突き刺さった。

 

 拍手が聞こえ、つい頬が緩みそうになるのを引き締める私。観客席へ一礼してその場をあとにすると、背後からはまた大きな拍手が聞こえた。

 

 私はアイドルをしています。と言っても、弓道も続けています。アイドルをすることで、己の弱さを克服し、今までよりも前向きな自分になれたと自負しています。

 今日のこれは弓道大会という訳ではなく、地元のイベント。私がアイドルだから舞い込んできた仕事ではあるものの、私専属のプロデューサーさんが『翠の特技をみんなに見せてやれ』ということで、こうして弓道の腕前をご披露することになったのです。

 会場には私の両親も来ていて、笑顔で拍手をしてくれました。アイドルをやると私が言うと、反対するどころか『やる気になっているのを止めることは親失格だ』と言ってくれたのは、今でも忘れられません。

 それに私は、プロデューサーさんが真心を持って私をプロデュースしてくれたから、ここまでアイドルとして知られるようになったのだと思います。

 

 ―――――――――

 

「いやはや、てっきり生で娘のアイドル姿を拝見出来るかと思いきや、いつもと変わらない弓道着だったのはある意味で驚きました」

 

 私の名前が入った鉢巻と半纏を身に着け、サイリウムを持って晴れ晴れとした表情で話しているのは、私の父。

 私はあのあとで弓道着のままトークショーをして、それも終わった今はプロデューサーさんと家族と共に私のためにあてがわれた控室で談笑しているんです。

 父がこんなに私のことを応援してくれているのは嬉しいですが、今の格好には恥ずかしさを禁じ得ません。

 それはこの半纏も鉢巻も全て母が寝る間も惜しんで縫い上げたからで、嬉々として私に二人して報告してきたからです。

 しかも―――

 

「これも彼女の魅力の一つですから。して、お母様、よろしければこの半纏や鉢巻を複製してファングッズとして売り出したいのですが?」

「あらぁ、こんなデザインでいいの? 私としては嬉しい限りだわ♪」

 

 ―――商品化がトントン拍子で進んでます。

 面映ゆい……心から面映ゆいです。

 

「これからも娘のこと、よろしくお願いします」

「プロデューサーさんなら私たちも安心して任せられるわ」

「はい、これからも全身全霊でプロデュースして行きます」

 

 こうして両親は笑顔で頷き、私に手を振って控室から出ていきました。

 両親が完全に居なくなると、私は全力で自身の顔を両手で覆い、そのままテーブルに突っ伏しました。

 だって本当に恥ずかしかったんですよ。まさか両親があそこまで馬鹿だったとは思ってもいなかったんですから。

 

「相変わらず、いいご両親じゃないか」

「…………はい」

 

 そんな私の頭を優しく撫で、優しい言葉をくれるプロデューサーさんに私はなんとか返事をします。

 実は私、両親の許しも得てプロデューサーさんと恋仲になっているんです。

 

 アイドル故にこの恋心を封印しようかとも思ったのですが、私にそんな器用なことは出来ず、私の悪い癖でレッスンに悪影響が出てしまいました。

 そんな私を心配したプロデューサーさんに『悩みがあるなら相談に乗る』と言われ、私は『全部あなたのせいです!』なんて酷い告白をし、プロデューサーさんはそんな私を受け止めてくれたんです。

 事務所には流石にまだ話してはいませんが、両親には話しました。結果、認めてもらいました。プロデューサーさんもとても誠実であったので、両親もこの方ならと。

 ただ、私はまだ高校を卒業してませんから節度ある交際をするようにとは言われてます。

 

 でも、実は……この前、初めてキスをしてしまいました。

 大きなライブイベントで私もプロデューサーさんも感極まった結果です。

 私はそれを後悔してません。だって本当にプロデューサーさんのことを愛していますから。ならばキスの1つや2つ、何度だってしていいに決まってます。

 それに私をそのように思わせるようにしたのはプロデューサーさんですから、責任もあります。

 

「ほらほら、そろそろ着替えて出店でも回ろう。それともゆっくり出来るところにでも行く?」

「…………二人きりがいいです」

 

 拗ねたように言う私に、プロデューサーさんは優しい笑い声をこぼして「じゃあ、そうしようか」と言って、外に出ていきました。

 その際にまだ撫でられた頭が愛しさで熱くなりましたが、私は早くプロデューサーさんとデートしたくて急いで準備をしました。

 

 ―――――――――

 

 急な打ち合わせを理由にイベントの実行委員さんたちと別れの挨拶をし、私はプロデューサーさんの運転でイベント会場から離れた公園にやって来ました。

 イベントもあるので人が少なく、二人きりでも怪しまれません。念の為、メガネはしてますけど。

 

「はい、お茶」

「ありがとうございます♡」

 

 公園内にある屋根付きのベンチテーブルに座り、プロデューサーさんは自販機で買ったお茶を渡してくれました。

 ただそれだけなのに私の胸は熱くなり、声も自然と弾んでしまいます。

 

「少しは落ち着いた?」

 

 そう言って私の隣に座ったプロデューサーさんは、自然な動作で私の肩に手をやり、抱き寄せてくれました。

 大人の余裕といえばいいのでしょうか。流石としか言えません。こういう大人の気遣いを見せれるところが、私にだけ向けてくれる気遣いが、また私を堪らなくさせます。

 

「はい、少しだけ♡」

「なら良かった。みどりんには笑顔でいてもらわないと、悲しくなるから」

「もう、またそんなこと言って……♡」

 

 プロデューサーさんは私より13歳年上です。なのにふざけて私のことを『みどりん』なんて言います。元は私のファンの方々が付けてくれた愛称なのですが、プロデューサーさんはそれを気に入ってたまにこうして呼んでくるんです。

 

「大切な恋人でパートナーだからね。笑っていてほしいと願うのは当然だろう?」

「そうですね。私もプロデューサーさんには笑っていてほしいですから♡」

「ほらな? まあ身内からの応援が恥ずかしいのは分かるけどな」

「プロデューサーさんにもご経験が?」

「まあ俺も学生時代に経験したよ」

 

 プロデューサーさんは学生時代、演劇部に所属していたそうです。所属していたと言っても裏方を率先してやっていたそうで、その経験からプロデューサー業を志したみたい。

 ただ裏方ばかりではなく、何度か発表会では役を演じたこともあり、その際にはプロデューサーさんのご両親が必ず揃って駆け付けていたそうです。

 

「未来の名役者〇〇なんて書いてある横断幕を舞台で見た時は、セリフが飛ぶかと思った」

「ふふふ、どこの家も自分の子どもはかわいいってことなんでしょうね」

「にしたってあれはやり過ぎ。俺、暫く両親と話さなかった」

「ふふふふふ、プロデューサーさんにもそんな時期があったんですね」

 

 プロデューサーさんに悪いなと思いつつも、その時の光景を思い浮かべて笑ってしまう私。でもプロデューサーさんはそんな私を嗜めようともせず、より目を細くしました。

 そして私の頬に手を優しく添えると―――

 

「やっぱり翠は笑ってる方が断然可愛いよ。つい、自分担当のアイドルなのを忘れて、俺だけの翠にしたいと思ってしまう」

 

 ―――そう甘く囁いてくれます。

 演劇部だったからなのか、プロデューサーさんはたまに演劇地味たクサいセリフを言います。

 でも私はプロデューサーさんのことが大好きなので、私だけにそう言ってくれるのが例え何かのセリフでも嬉しくて……より恋心が募ります。

 

「私は、プロデューサーさんのですよ。これからもずっと……プロデューサーさんが許してくれまで♡」

「許すも何も俺が翠を振るとでも?」

「未来は分かりませんから……」

「相変わらず、そういうとこはネガティブだね。それとも俺の翠への愛が足りないのかな?」

「これ以上、プロデューサーさんの愛を感じたら私……戻れなくなりそうです♡」

「戻る必要ないじゃないか。俺の愛に溺れるくらいじゃなきゃ。それだけ俺は翠を溺愛してる」

「んぅ、プロデューサーさんっ♡」

 

 恥ずかしい……顔が熱くて、胸が苦しい。

 なのにプロデューサーさんの手を払うことが出来ず、寧ろ無意識に私はその手を取ってしまっています。

 だってそうすると、プロデューサーさんが愛情深く私のことを見つめてくれるから。

 私はその表情が堪らなく愛おしくて、好きなんです。

 

「愛してるよ、翠。必ず君をトップアイドルにして、今以上に幸せにするから」

「今も十分幸せです♡」

「現状に満足しちゃダメだ。二人でならもっともっと欲張っていい」

「もう、悪い恋人さんですね♡」

「ちょっと悪いくらいが魅力的に見えるもんだよ?」

「ならば、私も悪い子になった方がいいですか?」

「そんな必要はない。翠は俺に愛されていればそれでいい」

「あぁ……♡」

 

 盲目的とはこういうことを言うのでしょうか。もう今だけはプロデューサーさんのことしか意識に入って来ません。

 好き……ただこれだけのことを胸の中でつぶやくと、いくつもの"好き"が胸の中に集まってくる。

 

「そんなに見つめて……翠は俺を誘惑する天才だね」

「………………♡」

 

 何を言われても幸せ。

 

「愛してる」

「…………私も♡」

 

 プロデューサーさんの言葉に私が返すと、プロデューサーさんは私が握っている反対の手で私の頬を撫で、そっと顔を近づけてきます。

 私はその幸せに瞼を閉じると、すぐに温かく優しい感触が私の唇に伝わりました。

 決して長くないのに、とても長く感じられるその時が終わると同時に私は瞼を開ける。

 すると目に愛する人の私だけに向けられる笑顔が映りました。

 

「翠はキスしてる時、本当に可愛い」

「見ちゃ駄目です……♡」

「無理だよ。俺だけの特権なのに」

「うぅ……♡」

「翠が高校を卒業したら、俺と二人でお祝いの旅行にでも行こうね。翠のご両親に許可を貰えたらだけど」

「絶対に私が説き伏せます!」

「あはは、これはご両親に怒られるなぁ」

「プロデューサーさんなら大丈夫ですよ。なんたって私の自慢の恋人さんですから♡」

 

 そう、この人となら私はどんなことも出来る。そんな気持ちにさせてくれるんです。

 だから、必ず私の全てを貰ってくださいね♡―――

 

 水野翠♢完




水野翠編終わりです!

清らかで真っ直ぐな恋愛がみどりんに合いますね♪

お粗末様でした☆
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