デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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望月聖編

 

 歌を歌うことが好き

 

 でも

 

 その歌を聞かせる相手はいない

 

 だから

 

 雪の降り積もる静かな夜に

 

 人知れず歌を口ずさむ

 

 するとキセキが起きました

 

 その人は何処からともなく現れて

 

 歌をずっと聞いてくれました

 

 その人の正体は

 

 私をアイドルにする魔法使いさんです

 

 ―――――――――

 

「うぅ、寒っ! 真冬にはまだなってないはずなのに、最近の寒さは異常だな。本当に温暖化なんてしてるのかよ……」

 

 駐車場から事務所までの短い道のりを私は歩いてる。そんな私の隣を並んで歩くのは私専属のプロデューサーさん。

 私をアイドルにしてくれて、この世で家族以外で初めて私の歌をちゃんと聞いてくれた人。

 

 この人と出会った夜は今でも鮮明に覚えてる。

 雪が静かに降り積もってて、誰もいないはずの私の家からすぐ側の公園で、私は誰かに届いてと願って歌を歌った。そこに彼が現れて、私の手を取ってくれた。

 

 それから私は充実した毎日を過ごしてる。

 届けたかった歌を多くの人へ届け、話すことが苦手だった私も今では言葉に詰まることも少なくなった。

 

「聖は寒くないか?」

「私は……あったかい、です♡」

「マジかよ。すげぇな」

「好きな人の側にいられるので……♡」

「可愛いこと言うな」

「はい……♡」

 

 でもプロデューサーさん限定で、私はまだ言葉を詰まらせてしまう。だって心から大好きな人への言葉はどれを送ればいいのか分からないから。

 

 これを言ったら怒られないか

 これを言ったら避けられないか

 これを言ったら嫌われないか

 

 たくさんの迷いが生じる。

 でもだからといって言葉にしないのは良くない。言葉にして伝えないと、私の心は伝わらないから。

 

 先程言ったように、私はプロデューサーさんのことが好き。友達とかに対する好きじゃなくて、恋愛感情で好き。

 事務所には秘密です。じゃないと私たちは離れ離れになる。そんなの私は耐えられない。この前だってプロデューサーさんが出張で1週間東京の本社へ行ってしまった間中、寂しくて電話で声を聞きながらバレないように涙を流してた。彼は優しいから私が泣いてると気にしてしまう。だから気付かれないように声を押し殺して泣いてた。触れられない場所に行ってしまった、声は近いのに彼の温もりがない。

 それだけ私はプロデューサーさんがいないとダメになってしまったみたい。

 現に一緒にいれる今はとても安心で、寒いはずなのにポカポカしてる。

 

 ―――――――――

 

 事務所に入ると、プロデューサーさんは私のお仕事のことを報告しに向かう。なので私は寂しいけど我慢してプロデューサーさんが使っている事務所の個人オフィスに向かった。

 

 彼のオフィスは散らかってるように見えて実は整理整頓はしてある不思議な空間。

 色んな書類が山になってるけど、選別されていて、重要なものから順番に並んである。

 でも1番に目を引くのはデスクにちょこんと置いてある、手のひらサイズのスノードーム。私が持つには両手が必要だけど、手の大きなプロデューサーさんなら片手で十分な大きさ。

 これは私がプロデューサーさんに告白するためにお小遣いをはたいて買ったもの。別にこれといって高価なものじゃないけど、メーカーさんに頼めば中に好きなメッセージプレートを入れることが出来るというもの。

 だから私はそこに『大好き』というメッセージを添えて、プロデューサーさんにプレゼントした。

 最初は気付いてくれなかったけど、何度も何度も言葉にして、やっと思いが通じた。だから私としては思い出のスノードーム。

 飾ってあるからプロデューサーさんも大切な思い出として飾ってあると嬉しいな。

 

「お待たせ」

 

「あ、おかえりなさい♡」

 

 彼がオフィスに戻ってくると、私の声は自然と弾む。

 

「支部長が褒めてたぞ。次のライブチケットの予約券がもう完売したそうだ」

「……本当に?」

「嘘吐いて得なんてないだろ。そもそも俺が嘘を吐くとでも?」

 

 プロデューサーさんの言葉に私は必死に首を横にふる。すると彼は満足そうに笑ってくれた。

 

「だろ? それにそれだけ聖の歌をみんな聞きたいんだよ。ファンの間じゃ聖女様って呼んでるファンもいるみたいだ」

「私、そんな……大層な人物じゃ、ない」

「そうだな。聖は俺だけの聖女様だもんな」

「うぅ……♡」

 

 そんなこと言われちゃうと嬉しくて言葉に出来ない。

 今の私があるのはプロデューサーさんのお陰なのに、彼はいつも私を喜ばせてくる。

 

「神様仏様聖様ってな」

「そんなに、私って遠い存在?」

「それだけ尊いってことだ」

「はぅ……♡」

「さて、それじゃ次のライブについて具体的な打ち合わせをしようか。今回は予算もそれなりに確保出来てるから、今までよりいいセットが使えるぞ」

 

 こうして私はプロデューサーさんと次のライブに向けて打ち合わせをすることになった。

 

 プロデューサーさんは既にどういう演出にするかは練ってあって、私は彼が用意した資料を見て、説明を聞きながら私なりにも意見があるところには意見を言わせてもらった。

 

「なるほど、確かに聖の売りはその美声だからライブの何処かで独唱を入れるのはいいかもな」

「はい。まだ恥ずかしさはあるけど……歌い始めちゃえば、なんとか」

「なら全部独唱にしちまうか」

「え?」

「聖の美声を堪能してもらうライブにしようってこと。独唱にすれば浮いたコストを他のに回せるし、よりいい衣装を用意出来る」

「でも……」

「その不安は俺も背負う。何、聖の家族を除いて、聖の歌声に世界で最初にファンになったのは俺だ。自信を持て」

「……はいっ♡」

 

 そのあとはプロデューサーさんが「あとは俺に任せろ」と言って、やる気に燃えた。そんな彼のために私も頑張ろうって心から思う。

 でも私はやっぱり自信がない。だからプロデューサーさんに甘えることにした。

 

「プロデューサーさん……♡」

 

 そう言って私はプロデューサーさんに向かって両手を広げる。すると彼は力強く頷いて、私のことを抱っこしてくれる。子どもっぽいかもしれないけど、大好きなプロデューサーさんの腕に包まれると、さっきまでの不安が雪のように溶けていく。

 

「大丈夫、聖なら出来る」

「……はい♡」

「ライブが成功したら、またいつもの公園にピクニックに行こうな。そこでまた聖の歌を聞かせてくれ」

「はい♡」

「ん、一緒に頑張ろう」

 

 プロデューサーさんの言葉には不思議な力がある。他の人にかけられてもこんなに力は湧いてこないし、こんなに不安を消化出来ない。きっとこの力はプロデューサーさんだから起こせるキセキなんだ。

 

「好き、プロデューサーさん♡」

「俺も好きだ、聖」

「結婚出来るようになるまで、絶対に待っててね♡」

「こんなおっさんを待ってくれるのは聖くらいさ」

「むぅ、またそんなこと言う……めっ」

「でも14も歳上なんだから、聖がその時になったら俺はおっさんだろ。現時点でおっさんになり掛け……いやもうおっさんなんだから」

「だから言っちゃ、めっ。プロデューサーさんは素敵なの。ずっと私の素敵な人なのっ」

「ずっとそう思ってもらえるように努力するよ」

「…………」

 

 プロデューサーさんはもっと自信を持っていいと思う。自分のプロデューサーとしての能力は驕ることなく誇ってるのはかっこいいけど、人間としてもとっても素敵なんだから。じゃなきゃ私はプロデューサーさんのことをこんなに好きになってない。

 

「そんな睨むなよ。若いのに眉間にシワが出来るぞ?」

「きゃうっ」

 

 不意に眉間をつままれた私は小さく声をあげてしまう。恥ずかしい……なのに、構ってもらえてちょっと喜んでる自分もいる。

 

「むぅ、プロデューサーさんっ」

「むくれても可愛いだけだぞ〜?」

「そう言えばいいと、思ってる」

「いや可愛いのは事実だからな。まあ何にしても、俺が聖から離れることはしないよ。付き合うと決めた以上、もう既に腹はくくってるから」

「もう……♡」

 

 そんなこと言われたら、また嬉しくなる……ずるい。

 

「暫く、このままで……じゃないと、不機嫌になっちゃうから♡」

「それは困るな。存分にそうしててくれ」

「言われなくても、そうするもん♡」

 

 ―――――――――

 

 それからの私はプロデューサーさんが仕事をしててもお構いなしに、彼にしがみついてた。だってこうしてるのが1番落ち着くから。

 アイドルになって色んな人と関わったりしてから、お友達も増えたし、話をする機会も増えたけど、やっぱり1番の安心はプロデューサーさんの所。

 

「おし、今日の仕事終わりっ」

「お疲れ様♡」

「おう。聖は結局ずっとコアラの赤ちゃんみたいだったな」

「えへへ♡」

「家まで送るけど、夕飯とかどうすんだ? また一緒に何処かで済ませるか?」

「今日、お家誰もいない……お父さんもお母さんも……遅くなるって」

「なら食ってくか」

 

 プロデューサーさんの提案に私はふるふると首を横に振る。

 

「私が……ご馳走する♡」

「え、聖料理出来たのか?」

「むっ、お母さんのお手伝いするもん。この前お母さんからお味噌汁の作り方教わったもん」

「ならスーパー寄ってから帰るか。台所貸してくれれば俺も何かおかず作るよ。何かリクエストあるか?」

「…………前に作ってくれた、鶏肉が入った野菜炒め。あと甘い玉子焼き」

「あぁ、いいぞ。というか、そんな簡単な物でいいのか?」

「うん……プロデューサーさんの優しい味、好き♡」

「そうか」

 

 プロデューサーさんは嬉しそうにそう言うと、照れ隠しなのか私の頭を少し乱暴にワシャワシャと撫でる。でも実は私、これ好き。いつもされると気持ちがふわふわして、自然と目を瞑ってる。とっても幸せで大好きなの。

 

「ん〜♡」

「可愛い声あげるな。ドキッとすんだろ」

「私は……いつも、ドキドキしてるよ?♡」

「っ……だから」

「えへへ、プロデューサーさん照れてる♡」

「彼女に言われりゃ照れるわ!」

「えへへ、そうだよね♡ 私もプロデューサーさんだから……ドキドキしてるの♡」

「ああ、もう止めろ止めろ!」

「えへへへ♡」

 

 笑ったらプロデューサーさんが怒っちゃうかもしれないのに、私は笑いをこらえきれない。だって幸せなんだもん。つい笑っちゃう。

 

「ほら、本当に遅くなるから行くぞ。支度しろ」

「はぁい♡」

 

 それから2人で帰りにスーパーに寄ってお買い物して、私の家で一緒にお料理して、あったかい時間を過ごしたの。

 プロデューサーさんは私の両親が帰ってくるまで一緒にいてくれて、いつもより長い時間過ごせた。

 これからもプロデューサーさんとの時間が増えたらいいな―――。

 

 望月聖♢完




望月聖編終わりです!

聖ちゃんは尊いから清い純愛物にしました!

お粗末様でした☆

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