デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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神奈川から東京の事務所に通ってる設定です。


森久保乃々編

 

 未だに自分がアイドルをしてるのが

 

 夢なんじゃないかって思う

 

 人見知りで

 

 とにかく何でも怖くて

 

 隠れるように生活してたのに

 

 今は堂々と人前に立ってるから

 

 でもこれは夢なんかじゃない

 

 まだまだ怖いことはたくさんあるけど

 

 心強い味方がいるから

 

 大丈夫だって思えますっ

 

 ―――――――――

 

「乃々〜、どこだ〜?」

 

「…………」

 

 ど、どうも皆さん、もりくぼこと森久保乃々です。

 私は今、専属のプロデューサーさんから見つからないように隠れてます。

 そんな理由決まってます。レッスンに行きたくないからです。

 

 きょ、今日のレッスンはヴィジュアルレッスンで、もりくぼ、これ、とても、嫌い。だって鏡の前で色んなポーズや表情をしなくちゃいけなくて、なのに周りにも同じアイドルの子たちがいっぱいで、とにかく嫌なんです。

 

 だからこうしてプロデューサーさんのオフィスのソファーの下に隠れてるんです。

 別に汚くないですよ。プロデューサーさんが毎朝もりくぼのために念入りこういう隙間は掃除してくれてますから。

 

 元々は叔父さんに言われて1回だけの約束がきっかけに始まったアイドル人生。優しいけど絶対に諦めてくれないプロデューサーさんと一緒にアイドルをやってきました。

 ライブにテレビ出演、雑誌の取材、CDデビュー……はたまた自作ポエム出版とか、苦行から鬼畜な所業まで、プロデューサーさんに言われるがまま色んなことを乗り越えてきたもりくぼでも、ヴィジュアルレッスンだけはむーりぃー。

 一緒にアイドル活動をしてるお友達はみんな優しいから「かわいい」とか言ってくれますけど、可愛くないのは自分が1番よく知ってますから。

 というか、あのトレーナーさんもグイグイ来て苦手です。別に差別意識は持ちませんが、どうしてお姉さんの男性はああも活き活きしているのか不思議です。

 

「乃々〜? あ、いた!」

 

 あぐっ、見つかりました。もう逃げられません。

 

 潔くもりくぼはソファーの下の隙間から出ます。

 そしてプロデューサーさんにくっつきます。

 

「レッスンが嫌だからって隠れちゃ駄目って言ってるだろ?」

「でも、むーりぃー……」

「乃々はやれば出来る子だって俺は分かってる」

「あうぅぅ……♡」

 

 やっぱり逃げられません。プロデューサーさんからは逃げられる気がしません。ずるいです。

 

「ほら、まだ遅刻にならないから行ってこい。隠れつつもちゃんとレッスンウェアに着替えてて偉いぞ」

「あうあう……♡」

 

 よしよし、とプロデューサーさんは私の頭を撫でてきます。気持ちいいんですけど……。

 じゃなくて、やっぱりプロデューサーさんには敵いませんでした。やっぱり好きな人には勝てないみたいです。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 アイドルを続けていることと同じくらい、今でも信じられませんがもりくぼはプロデューサーさんとお付き合いしてます。事務所にも家族にも秘密にしてますけど、仲良しのアイドル仲間にはバレちゃってます。

 

 自分でも最初はどうしてプロデューサーさんのことばっかり見てたのか分かりませんでした。気が付くと目が合って、逸らして……また目が合って逸らしての繰り返し。

 そうしたら輝子ちゃんとか美玲ちゃんとか泰葉ちゃん、裕美ちゃんやほたるちゃん、色んな子たちから『プロデューサーさんのこと好きなんだね』って言われて……驚いたと同時に納得してた自分がいたんです。

 でももりくぼはプロデューサーさんみたいな素敵な人からすれば、子どもです。現に私の歳と同じ数だけ歳が離れてますから。

 なのにもりくぼは諦めきれなくて、でも伝えられなくて……今考えてもうじうじしまくってました。

 

 そんな時にプロデューサーさんが私の担当を外れるかもしれないっていう噂をみんなから聞かされました。

 プロデューサーさんは優秀です。叔父さんもいつも褒めてました。だから新しいアイドルを彼にプロデュースしてもらおうという話になったみたいです。もりくぼもデビューしてそれなりに過ごせてましたから。

 

 でもそれが私は嫌で、『プロデューサーさんじゃないとアイドルを辞める』って初めて叔父さんにもプロデューサーさんの上司の人たちにも言いました。

 自分でもわがままを言ってると思いました。

 でもそれを聞いたプロデューサーさんは私の専属になると約束して、それを果たしてくれました。

 

 だからなんです。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 もう離れたくない。噂でもそんなこと聞きたくない。だからプロデューサーさんにまたわがままを言ったら、プロデューサーさんは『喜んで』と私の手を取ってくれたんです。

 

 因みにその噂はアイドルのお友達たちの嘘でした。私がうじうじしてるのが堪えられなくてきっかけになればと吐いてくれたそうです。うぅ、私って本当に間抜けです。

 

「はぁい、みんなお疲れ様っ♪ みんないい表情を作れてたわよん♪ 特に乃々ちゃん! 好きな人へ気持ちを伝える、簡単そうで難しい表情が見事だったわ! お姉さん、久々にキュンキュンしちゃったわよっ! もうっ! 末恐ろしいわんっ!」

「ど、どうも……」

 

 皆さんの前でもりくぼを名指ししないでください。やっぱりこの人むーりぃー……。

 

 そのあとも皆さんまで褒めてきて、散々褒めちぎられてもりくぼは死ぬかと思いました。

 けど、もりくぼだけじゃなくてプロデューサーさんも褒められてましたから、私はそこだけは嬉しかったです、はい。

 もりくぼがアイドルを続けられてるのはすべてプロデューサーさんのお陰ですからね。もりくぼよりもプロデューサーさんはいっぱい褒められるべきです。プロデューサーさんは褒められても絶対に『乃々のお陰だな』なんて言いますけど。

 

「―――なので、もりくぼ、今からプロデューサーさんを褒めたいと思いますっ!」

「話の流れが分からないんだが?」

 

 レッスンルームからオフィスに戻ってきたばかりのもりくぼの宣言にプロデューサーさんは首を傾げます。

 でも構いません。いつもプロデューサーさんは勝手にもりくぼのことを「可愛い」「癒やされる」「結婚して」と褒めちぎってくるので、たまにはお返ししないといけませんから。

 というか、結婚して……は、ゆくゆくはそうなれればいいかなってくらいで、素直に喜べません。私が結婚出来る齢になれば喜んで頷くんですけど。

 

「分からなくていいです。プロデューサーさん、今暇ですよね?」

「ん、まあな。あとは乃々と夕飯食べて、乃々を駅まで送るだけだから」

「な、ならプロデューサーさんのマンションに連れてってください! そこでふ、ふふぅ、2人っきりでもりくぼが褒めますからっ!」

「お、おぉ、なんかよく分からないけど、気合十分なのは伝わったよ。じゃあ車回してくるから準備して事務所の前で待ってて」

「はいっ!」

 

 ―――――――――

 

 な、なんだか勢いだけでプロデューサーさんのマンションの部屋に上がり込んでしまいました。で、でもいいんです! 今日はもりくぼ、プロデューサーさんを褒めたい気分なので!

 

 なのに―――

 

「乃々〜、可愛いよ〜、乃々〜!」

「あうあうあうあう……♡」

 

 ―――プロデューサーさんに抱きしめられて、頬擦りされてるので褒めるに褒めれる雰囲気じゃなくなっちゃいました。

 私が言うのも変ですけど、プロデューサーさんはもりくぼのこと好き過ぎだと思います。事務所のホームページに各プロデューサーの顔写真と経歴、簡単なプロフィールが閲覧出来るページがあるんですけど、プロデューサーさんのプロフィールの『好きなもの欄』に『アイドルのもりくぼ』って書いてあるんですよ。

 初めてそれを知ったのは凛ちゃんとまゆちゃんに教えられたからなんですけど、2人から『相思相愛で羨ましい』って言われたもりくぼは息を引き取りました。恥ずかしくて死にました。本当に。

 

 でも本当は嬉しかったもりくぼもいました、はい。

 だからこうやって頬擦りされてるのも嬉しいです、はい。

 

「俺の部屋に来たいだなんて、嬉しいこと言ってくれたな! このこのっ!」

「ひゃうっ♡ ご、ごめんなひゃい〜♡」

「謝る必要はないよ。俺は喜んでるんだから」

「あうぅぅ……♡」

「なぁ、キスしてもいいか?」

「べ、別に断りません、けど……?♡」

 

 してください。私もプロデューサーさんとラブラブなちゅうしたいです。

 

「乃々……んっ」

「っ……んっ、ちゅっ、ちゅる……ぷろ、りゅっ、んんぅ♡」

 

 舌でめちゃくちゃに愛されて、もりくぼは幸せです。

 でもこんなに幸せなことを実感すると、家に帰る時が辛いです。家に帰ってもプロデューサーさんはいませんから。

 

 だから少しでもプロデューサーさんからの痕が残ってほしくて、私はプロデューサーさんに強くしがみつきます。お風呂に入ったら匂いは消えちゃいますけど、残っていれば帰りの電車の中でちょっとは寂しさが減りますから。

 

「んはぁ、はぁ……プロデューサーさんっ……はぁはぁ♡」

「乃々はキスが好きだね。キスしてる間中、俺の背中に回した手に力が入ってた」

「い、嫌ですか?」

「嫌なもんか。逆だよ。嬉しい」

「なら、良かった、です♡」

 

 ずっと見つめ合っていたいですけど、もうむーりぃー♡

 見つめ合ってると帰りたくなくちゃっいますから。

 だからもりくぼはその目から逃げるように、プロデューサーさんの胸元に顔を押し付けて、そのドサクサに紛れてプロデューサーさんの匂いを堪能します。いつもプロデューサーさんにはいいようにされてますから、これくらい些細なことです。

 

「あぁ、乃々可愛いっ!」

 

 ほら、プロデューサーさん全然気にしてません。寧ろもりくぼの頭やら背中やら撫で回してます。幸せです。

 私でもこんなに幸せを感じられることが出来るなんて思いもしませんでしたけど、プロデューサーさんだから幸せなんですよね、きっと。

 

「プロデューサーさん♡」

「乃々」

「プロデューサーさんっ♡」

「乃々っ」

「プロデューサーさんっ!♡」

「乃々っ!」

 

 幸せなんですけど。とっても。ただ抱きしめられて名前を呼んでもらうというだけなのに。こんなにこんなにもりくぼの心臓はドキドキします。

 

「だいすき……です♡」

「俺も乃々のことが大好きだ」

「プロデューサーさんがいないとむーりぃー♡」

「俺も乃々がいないと無理だな」

「一緒ですね♡」

「あぁ、一緒だな」

「今度またお泊まりに来てもいいですか?♡」

「いいぞ。乃々なら大歓迎」

「……またえっちな服着せるんですか?」

「…………だめ?」

「別に、いいですけど……♡」

「ありがと」

「いえ、別に……♡」

 

 その代わりいっぱいキスしてもらいますから。

 

 こうして私は結局プロデューサーさんを褒めるということは出来ませんでしたけど、代わりにいっぱい恋人らしく過ごせましたし、プロデューサーさんに簡単な物ですけど手料理も振る舞えました。

 これからもこの人とずっといられますように―――。

 

 森久保乃々♢完




森久保乃々編終わりです!

一度心を開いた相手にはデレデレになると思ったので!

お粗末様でした☆

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