デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


脇山珠美編

 

 剣の道は険しく厳しい

 

 それはアイドル道も同じ

 

 しかし

 

 どちらかを諦めることはしません

 

 諦めることは簡単ですが

 

 簡単じゃない方を選ぶ方が

 

 自分の糧になるのです

 

 それに

 

 珠美の目標である人は

 

 そういうことをしない人ですから!

 

 ―――――――――

 

「…………」

 

 皆様、お疲れ様です。

 珠美こと、脇山珠美。16歳。見た目はちびっ子同然ですが、中身はれっきとした女子高生です。

 

 たまたま東京にいる親戚の家に遊びに行った際、男に言い寄られて困っている女性を救おうと割って入ったのですが、そこで運命の人と出会いました。

 それが珠美の専属プロデューサー殿です。アイドルにスカウトされた時は嘘かとも思いましたが、争いの中に颯爽と現れる勇気あるその方を珠美は信じました。

 両親は珠美の勉強になればと東京の高校への編入と、アイドルになることを快諾してくれました。親戚の方ももしもの時はいつでも頼っていいと言ってくれましたが、上京して半年……珠美は良い学友、アイドル仲間を得てすこぶる調子がいいのでお世話にはなっていません。たまに仕事先で良さそうな菓子を持って近状のご報告をしに行くくらいですね。

 

 そんな珠美が夕暮れ時の今、高校のもう誰もいない剣道場で1人で何をしているのかというと、精神統一です。

 ここ最近の珠美は調子がいいのですが、調子に乗っていることもあるのです。

 何故ならば珠美につい先日のことですが、恋人が出来たからです。

 

 そのお相手は珠美のプロデューサー殿。アイドルとプロデューサーが恋仲になるのはご法度だと、言われています。なのに珠美は自分のこの想いを捨てることが出来ませんでした。

 

 恋に落ちるのに理由はない。何かの書で読んだことがあります。まさにその通りでした。

 珠美は初めて会ったその時から、プロデューサー殿へ懸想していたのです。

 誰もが関わりたくないと思う争いの場。そこへ颯爽と現れた彼は、お伽噺にあるような騎士や物語にあるような武士みたいでした。

 その出で立ちに只者ではないと感じていましたが、まさか荒波を生き抜いてきたプロデューサー殿だったとは。風格も凄いはずです。

 彼は珠美をプロデュースする前に、名だたるアイドルを何人も手掛けてきた凄腕のプロデューサー。そんな彼が未来のアイドルをとスカウトに出向いた先で見つけたのが珠美だったのです。

 

 彼に感じていた憧れが、運命と感じた時……珠美は自身の恋心を自覚しました。

 それからは少し大変でしたね。この想いを捨て方がいいと思いながらも、彼の側にいると胸がときめき、なんでも出来る気がしていましたから。いや今もそうですけどね。プロデューサー殿は珠美の原動力と言っていいほどです。

 だから余計にプロデューサー殿を目で追うになり、終いには仲の良いアイドル仲間の春霞のメンバーにはバレてしまいました。

 この恋は終わったと思った珠美でしたが、皆さんは珠美の恋を応援してくれたのです。

 

 その甲斐あって、今に至るのです。皆さんには心から感謝していますが、このままだと珠美の態度のせいで関係がバレます。

 せっかくプロデューサー殿も珠美のことをす、好いてくださっていますのに……引き離されることになるのは嫌です。

 ですからこうして自分の気持ちを落ち着かせているんです。

 

「脇山さん……お迎えですよ」

 

「へ?」

 

 不意に背後から顧問の先生に呼ばれて振り向くと、顧問の優しくも厳しい女性の先生の隣にプロデューサー殿が立っていて、珠美に軽く手を振ってくださっていました。

 

「剣道にそれほどまで真剣に向き合うのはいいことですが、そのせいで他を蔑ろにしてはなりません。自ら選んだ道ならば尚更です」

 

 顧問の先生に注意を受けてしまいました。しかも声色はとても穏やかですが、目はとても冷たく感じます。先生は諭すことで生徒を導く方ですから。

 

「すみませんでした。先生、プロデューサー殿」

 

 素直に謝ると先生は「では、施錠はお願いしますね」と言って先に戻られました。

 珠美はというと、急いで道着から制服に着替え、剣道場の戸締まり確認をして、戸の施錠をしました。

 

 ―――――――――

 

「プロデューサー殿、遅刻して申し訳ありません」

 

 先生に鍵を返し、乗り込んだプロデューサー殿の車の中で、珠美はプロデューサー殿に謝りました。

 精神統一をしていて、レッスンの時間が無くなったのです。本当に申し訳なくて、情けなくて……自分が嫌になりそうです。

 

「たまにはそんなこともあるさ。それに珠美がそうなってるのは俺も関係してるだろうからね」

「そんなことは……」

「あるだろう? 珠美は真っ直ぐで分かりやすい。それに半年も一緒に過ごしてれば、分かるよ」

「…………」

 

 プロデューサー殿には隠し事は出来ないみたいです。

なので珠美は素直に、今の気持ちを話すことにしました。

 

 ―――

 

 珠美の話をプロデューサー殿は黙って最後まで聞いていてくれました。しかも車でその間ドライブをしててくれました。

 そして話終えると近くの公園の駐車場に車を停めました。

 

「珠美は本当に何事にも真っ直ぐなんだね。そんな恋人を持てた俺は幸せ者だよ」

「そんなこと……」

「でもね。珠美の心配はちょっと的外れなんだ」

「的外れ、ですか?」

「うん。俺の側にいるといつも以上に浮かれてしまうから、気持ちを落ち着かせようとしていたんだろう?」

「はい」

「でもね、それって珠美には無理だと思うんだ」

 

 ピシャリと言われた言葉に珠美は言葉を失いましたが、プロデューサー殿からは―――

 

「だって告白される前から、珠美は俺と一緒にいてずっとニコニコしてたんだからね。そんな一直線な好意が短時間でどうこうなるはずがない」

 

 ―――更に言葉を紡がれ、珠美は顔が熱くなりました。

 

「そ、そんなに珠美は顔に出てましたか?」

「うん。その都度俺は今日も可愛いなぁって思ってたし、でもアイドルとプロデューサーだしなぁって思ってた」

 

 ―――だから告白してもらった時に誓ったんだ。とプロデューサー殿が言うと、口づけをしてもらいました。

 ほんの一瞬……それも車の中で。まあ、後部座席はスモークガラスというものらしく外からは見れないらしいですけど、時が止まったように思えました。それくらい嬉しかったんです。

 

「俺はプロデューサーだから、自分のアイドルには信頼以上の感情は抱かないようにしてた。でも珠美はそんな俺を変えさせた。自分の全てを殴り棄ててでも守りたいと思わせた。だから必ず珠美をトップアイドルにするし、そんな珠美をお嫁さんにするよ」

 

 ―――だから珠美はこれまで通りでいい。とプロデューサー殿は言ってくれました。

 でもそれではバレてしまいませんか?

 

「珠美は俺のことばっかり見てたから気付いてないけど、事務所のみんなは珠美の気持ちに気付いてるよ。まあみんなと言っても普段顔を合わせる人たちだけで、重役らにはバレてない。みんな俺たちを応援してくれてる」

 

 ―――まあ、ちょっと俺からもお願いしたんだけどね。とプロデューサー殿はお茶目に言います。

 プロデューサー殿は事務所で、本来なら重役になっていてもおかしくない人物です。でも本人が現場主義であり、彼と関わりのある誰からも慕われているので人事異動はしないでそのままでいたそうです。

 ですからもう珠美がプロデューサー殿と付き合っていても、誰もが驚かないどころか『やっと付き合ったのか』って呆れられる環境みたいです。

 

「だから珠美はそのままでいい。重役たちとの話の場に珠美も一緒に行く場合になることもそうないからね。あるとしても今度の『アイドルマスター・シンデレラガールズ・スターライトステージ』の予選を突破して本戦に進んだ時くらいだ」

「でもその時にバレたりしたら……」

「珠美は怖がりだからね。重役たちのオーラの前に萎縮して俺への好き好きオーラを出すことは無理だろ」

「…………」

 

 納得してしまう自分を叩きたいです。

 

「だから大丈夫。それとも珠美は俺とラブラブな恋愛をしたくない?」

「し、したいに決まってますっ!」

 

 あ、つい本音が。

 

「ならいいじゃん。環境は整ってるから」

「プロデューサー殿には敵いませんね」

「敏腕ですから♪」

「……もう♡」

 

 でもこの人だから、珠美は惚れ込んだんです。この人だから、愛されたいと思ったんです。現にこんなにも幸せなのですから、自分であれこれ考えて無駄な抵抗はしない方がいいですね。

 

「んじゃ、これからレッスンスタジオ行って、居残りダンスレッスンな。終わったら一緒に飯食って、寮に送ってやる」

「分かりましたっ! お願いしますね、プロデューサー殿っ!♡」

 

 だってこの人のことだから、珠美の考えている以上にうまく進めてくれますよね。だからこそ珠美だけのプロデューサー殿なんですから。

 

 ―――――――――

 

 そして居残りダンスレッスンも無事に終わりました。

 それでプロデューサー殿に事務所から近い、仲間のみんなともよく行くファミリーレストランに来ました。

 

 レッスンはトレーナーさんの代わりにプロデューサー殿がご指導してくれましたが、どうしてあんなにもキレッキレなダンスが踊れるんでしょうか。振り付けを考えた本人だからでしょうか。プロデューサーではなく、スーパー超人の方がしっくりきますよ。

 

「メニュー決まったか?」

「いえ、他のことを考えていました。えっと、このミックスグリルで」

「ご飯は大盛りな。いっぱい食べないと」

「お腹減ってますからいけます」

 

 プロデューサー殿と関わってから、珠美は食べる量が増えました。でも太りません。背も大きくなりません。胸も……ちっ!

 でもコンプレックスもプロデューサー殿が愛してくれていればどうでもよく思うようになりました。愛って偉大ですね。

 

「珠美」

「はい?」

「1人でもう悩むなよ? 俺はプロデューサーで、恋人だ。それに歳も珠美と14離れてるから、それだけの知恵が備わってる」

「…………」

「心配するなとは言わない。でも不安の中にいてほしくないんだ。それだけ俺は腹をくくってる」

「……はい、信じます♡」

「ならいい。一緒にトップアイドルを目指そうな」

「はいっ♡」

 

 あなたとなら、きっと大丈夫。たまに愚かな珠美が不安になりますが、その時はまたこのように救ってくれるでしょう。

 だからもう悩みません。好きって気持ちを日々強くして参ります。

 そしていつかは、珠美をトップアイドルの座から連れ去ってくださいね♡―――

 

 脇山珠美♢完




脇山珠美編終わりです!

不器用な珠美ちゃんはこんな恋愛が似合うと思いまして!

お粗末様でした☆

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