デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


和久井留美編

 

 努力は人を裏切らない

 

 そんな言葉

 

 嘘だと思ってた

 

 どんなに努力しても

 

 他人は私のことを認めては

 

 くれなかったもの

 

 努力して秘書になっても

 

 寧ろ厄介者扱いされてた

 

 だから辞めた

 

 そうしたら

 

 私の前に1人の魔法使いが現れ

 

 私の環境を一変させたの

 

 ―――――――――

 

「っ……単刀直入に言わせていただきます! 兄にどんなお願いをされたのか知りませんが、気にしないでいいので帰ってください!」

 

 私、和久井留美はオフの穏やかな昼下がりのこの日、私を拾ってくれた専属プロデューサー君に誘われて、都内では結構高いホテルのレストランへ誘われた。

 ドレスコードに合わせて、プロデューサー君から贈られたドレスを着、通されたのはレストランの個室。

 

 私が1人、テーブルに座って待っていると、彼は女性を連れて入ってきた。

 最初はそういうことかとも思った。けれど彼の隣にいた女性はすぐに私の側まで来ると、さっきの言葉を私に告げたの。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 私はアイドルをしている。前にいた会社での待遇に耐えきれなくて辞めたの。

 でもその日の晩にヤケ酒をしていたらプロデューサー君にスカウトされた。

 

 その時の私は酔っていて頭が回らなかった。それでも覚えていたのは、彼が誠心誠意を尽くして私に手を差し伸べてくれていたこと。

 だから信用出来ると思って、数日後に彼の元を訪ねた。

 

 それからは本当に目まぐるしく時間が過ぎた。

 慣れないアイドルのレッスン。秘書とは違う自分を見せる仕草……どれも初めてのことだった。

 でも一番、私が思ったのは、努力したらしただけ彼が褒めてくれるということ。

 

 だもの、彼に夢中になったわ。

 私はプロデューサー君なんて呼んでるけど、彼の方が2つ年上。でも彼は親しく呼ばれるのが嬉しいみたいで、私がそう呼ぶと常に柔らかく微笑んでくれる。

 

 そんな私たちが秘密恋愛をする関係になった頃、彼に言われたの―――

 

『君を手放した愚かな人たちを見返しましょう』

 

 ―――って。

 最初は何を言っているのか分からなかった。

 でも次の仕事の資料を見せてもらった時に、私は震えたの。いい意味でね。

 何せ元いた会社から事務所のアイドルに我が社の社員たちのためにパフォーマンスを披露してほしいというオファーだったから。

 

 私の今の実力なら見返すことなんて夢じゃない。

 努力したから、プロデューサー君が手を差し伸べてくれたから、私はアイドルになれたんだもの。

 

 結果、私を知る会社の人たちは驚いた様子だった。

 社長なんて、手を伸ばせば触れられるところにあった私が雲の上のような存在に思えたとまで言ってた。

 あの手この手で私をまた会社に戻す算段でも考えないか心配になったけど、プロデューサー君が事務所の社長を通して『和久井留美はうちのアイドルだ』と言ってくれた。

 その時の寂しそうな社長の顔は最高だったわ。

 

 プロデューサー君は私をプロデュースする前から、芸能界では一目置かれる程のプロデューサー。そんな彼が私をプロデュースしているのに奪えるはずがない。

 そもそも力が違い過ぎるのだから。

 

 だから元いた会社との縁も綺麗に切れた。

 そして私は今度の日本1のアイドルを決める祭典『アイドルマスター・シンデレラガールズ・スターライトステージ』の本戦ステージで歌う。今大会最年長でね。

 でも私はそんなの気にしてない。私は愛する彼に今ある私の全てを見てもらうつもり。

 愛する貴方のために、今の私は輝いているから。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 だから今回の食事も景気付けにプロデューサー君が用意してくれたと思ってたの。でも流石に今この状況では浮かれていられないわね。

 

「あの、今のお言葉はどういう……」

 

「兄は! 仕事一筋でこれまで恋人なんて出来たこともなかったんです! 見てくれはいいけど、仕事が趣味みたいな人でしたから! なのに先日、兄から『お前も知ってる人とお付き合いしてる』なんて報告されたんですよ! それが私が大好きなアイドルのるーみんなんですよ! 信じられる訳ないじゃないですか!」

 

「……彼が話したことに偽りはないわ。私、ちゃんと貴女のお兄さんを愛しているの」

 

 ご家族にこんなことを言うのは恥ずかしいけれど、恥ずかしがってはいられない。

 

「ほら、だから留美さんは俺とちゃんと付き合ってるって何度も説明しだろ!」

「私がるーみんのファンだからそういう設定にしてんでしょ!? お兄ちゃん、いつも私に何か頼み込む時は私の好きなもの用意するもん!」

「いやだから、頼みたいことは確かにあるけど……」

「ほら見なさい! るーみんまで出してなんのつもり!? お金!? プロデューサーのくせに借金したの!?」

「んな訳ないだろうが!」

「じゃあなんだって言うのよ!」

 

 私をそっちのけで今度は兄妹喧嘩が勃発した。

 プロデューサー君から妹さんのことは色々と聞いてるけど、話に聞いていたより兄想いのいい方だと思うわ。歳が離れているし、プロデューサー君のご両親は共働きだったからずっと彼が面倒を見ていたらしいし、お兄ちゃん子なのね。

 

 私がそんな風に微笑ましく思っていると、突然プロデューサー君に肩を抱き寄せられた。

 

「だから! お前に留美さんのウェディングドレスを仕立ててほしくて呼んだんだ! 本気で俺は留美さんと結婚する気でいるんだ! 指輪も用意してきたし、婚姻届も用意してきた!」

 

 まさかの言葉に私は胸がきゅっと詰まった。そうなったらいいと思っていたことが、現実になったんだもの。それを理解した途端に、私の詰まった胸が嬉しい悲鳴をあげたわ。

 だから私もプロデューサー君のその胸板に頬擦りしたの。

 

「待ってたわ……私も、ずっと……貴方とそうなりたかった♡ 私は今、とても幸せよ……貴方♡」

 

 妹さんの目の前だなんて気にしない。私は愛する彼の唇に自身の唇を重ねた。プロポーズは彼からだもの。その返事はキスが1番よね。

 

「んはぁ……留美さん」

「さん付けはもういや。呼び捨てにして。私はもう貴方だけの女になれたんだもの♡」

「留美……」

「あぁ……もっと呼んで♡」

「愛してるよ、留美」

「私も……私も愛しているわ♡」

 

「ま、ままま、マジですかーーーー!!!!!?」

 

 あ、本気で妹さんのこと忘れていたわ。

 

 ―――――――――

 

 それから妹さんを加えて、私たちは食事をした。

 婚姻届を提出するのも、記者会見をするのもまだもう少し先のことになるから、妹さんには黙っててもらうことになった。

 本当なら食事して、いい雰囲気になったらプロポーズっていうプランだったらしいんだけど、妹さんがあの調子だったからああなったみたい。

 

 妹さんは被服関係の職に就いてて、大きな仕事を探していたらしいわ。そこでプロデューサー君がオファーを出したみたい。

 

 食事中、妹さんはまだ私たちに疑いの眼差しを向けていたけれど、帰る際には「こんな兄ですが、よろしくお願いします」と頭を下げられちゃったわ。

 

「留美さん、その……お騒がせして申し訳なかったです、本当に」

「あら、私は嬉しかったわよ? 一生忘れないプロポーズになったもの♡」

「もっとスマートにやりたかったです」

「ふふっ、過ぎた時間は戻せないわよ♡ それと、さん付けと敬語が復活してるわ。そっちの方がとても寂しいんだけど?」

「ご、ごめん、留美」

「いいわよ♡」

 

 こんなことになるなんて、想像つかない。あの頃の私が今の私を見たら、きっと卒倒するでしょうね。これでも初めての恋人なのよ、プロデューサー君が。

 

「じゃあ、留美のマンションまで送るよ。車で来てるから」

「妹さんは?」

「あいつはさっき別れてすぐに職場に向かったみたい。『私のるーみんが私の作ったウェディングドレス着てくれる!』ってやる気に燃えてた」

「そう……まるで貴方の妹さんと結婚するみたいね」

「俺だ」

「っ……ふふっ、もうむきにならないの♡」

 

 そんなに可愛い反応されたら嬉しくなっちゃうじゃない。

 

「送ってもらうついでに、私の部屋で一休みしていかない?♡ もう少しこの幸せな余韻を味わっていたいの♡」

「断ることなんて出来ないよ」

 

 ―――――――――

 

 私のマンションにやってきたプロデューサー君はいつものように落ち着いてた。

 でも私の方が浮足立ってたから、部屋に着くなり彼をリビングのソファーに押し倒してたの。

 

「留美に押し倒された」

「押し倒しちゃった♡」

 

 ドレスがしわになるなんて気にせず、私は彼の上に覆い被さったまま、何度も何度も彼にキスを落とす。

 らしくないかもしれない。でも、私をそうさせるだけ彼からしてもらったことか嬉しかったの。それに……彼のスーツ姿もいつもの物と違って本当に素敵だから、余計に私は浮かれているのかも。

 

「留美って本当にキス魔だね」

「キスを私に仕込んだのは貴方よ?♡」

「まさかファーストキスすらまだったとは思ってなくて……」

「それだけつまらない女だったのよ」

「で、今は俺色に染まってる、と」

「ふふふ、そうよ♡ だから責任持って私をこれからも可愛がってね?♡ じゃなきゃ、泣くから♡」

「もちろん」

 

 そして彼からキスをしてもらった私は、もう誰にも止められなかった。彼がほしくて堪らなかったから。

 

 ―――――――――

 

「ん……」

 

 カーテンからもれている日差しに起こされた私。

 隣ではプロデューサー君が眠ってる。昨晩、ちょっと無理させちゃったからまだ起きないと思う。でも昨晩からずっと、私とは指を絡めて手を繋いでくれている。それだけで私はときめくの。

 

 してる最中もずっと握っていてくれたし……♡

 

 彼を起こさないように体勢を彼の方へ向ける。

 すると至近距離で彼の寝顔を拝めるの。私だけの特等席よ。

 

 無防備な寝顔をこうして眺めるのは何度もしてるけど、全く飽きが来ないのは不思議。きっとそれだけ私が彼に夢中だからなのよね。

 

 これからも愛してるわ……貴方♡

 

 ちゅっ♡

 

 眠る彼の首筋にキスを落とすと、流石の彼も起きてしまった。でも寝惚けてる。だって私をより抱き寄せてあと、すぐに寝息が聞こえたもの。

 あぁ、何をされても、何をしていても、彼のことが愛おしい。胸が彼への愛で満たされていく。どんなに抑えても、この愛はとめどなく溢れてくる。

 だから私は目の前にあった彼の胸元へ吸い付いた。彼が起きるまで、ずっと♡

 そうだわ、起きたら彼シャツというものをしてあげようかしら。あわよくば朝も彼を感じたいもの。

 

 これからも私を貴方色に染めてね、旦那様♡―――

 

 和久井留美♢完




和久井留美編終わりです!

わくわくさんは個人的にお気に入りのアイドルなので、可愛い感じにしました!

それでわ行も終わったので、次回から新しくデビューしたアイドルの甘々を投稿予定です。
新参アイドルの担当プロデューサーの方々、お待たせして申し訳ありませんが、もう暫くお待ちください!
今後も頑張ります故、お楽しみに☆

ではでは、お粗末様でした☆

※お知らせ※

本年の更新はこれで終わりたいと思います。
次回は元旦から投稿予定で、ちとせお嬢様と千夜ちゃんのお話をアップします!

早いですが、読者の皆様、良い年末をお過ごしください♪

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