デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

150 / 196
上京してる設定です。


財前時子編

 

 この世はつまらない

 

 以前の私はそう感じてた

 

 豚が豚に媚びへつらい

 

 豚が豚に飼われて生きてる

 

 浅ましい俗物

 

 いや……俗豚かしら

 

 でも今の私は少しは楽しんでる

 

 それもこれも

 

 全ては優秀な豚が

 

 泥臭く這いずり回ってるから

 

 ―――――――――

 

「ほら豚、早くなさい。二度は言わないわよ」

「ほいほい、時子様」

 

 私は今、私に群がる豚共に躾(ライブ)をしてきて事務所へ帰るために車まで移動するところ。豚共がいい悲鳴をあげるもんだから、こっちまで楽しくなっていつも以上に体力を使ってしまったわ。

 だから私専属の豚トロP-1(プロデューサー)に私を車まで運ばせて(お姫様抱っこ)いるところ。豚に触れられるのは正直嬉しくはないけど、コイツなら話は別。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 私がコイツと出会うのは必然だった。

 この世の全てに飽き飽きしてたのに、コイツときたらそのつまんない世の中で必死に鳴いて、私に『アイドルになりませんか?』なんて言ってきた。

 だから私はその口車に乗ってあげたの。

 

 でも豚のくせにコイツはそこらの豚とは違った。無駄口に見せて分析力があり、私の思考を完璧に熟知してる。そして根っからの奴隷基質。

 

 だから私はコイツを私色に染めてみたいと思った。

 泥水を啜って生きてきた醜い豚が私の手によってどんなに綺麗な豚になるのか、それが見たくなったの。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 それでコイツはもう私だけの愛しい豚。事務所の連中には話す義理すらないから話してはいないけど、いずれその時が来たら高らかに宣言してやるつもり。でも味方は作っておいて損はないから、アイドル仲間の何人かには教えてるわ。

 

「着きましたよ、時子様」

「そんなの見れば分かるわ」

 

 事務所に着いても私は自ら歩くなんてことはせず、豚に運ばせる。勿論豚は嬉しそうに私を運ぶから、ある意味ではご褒美になってる。私ってなんて優しいのかしら……いえ、寧ろ優し過ぎるのかもしれないわ。

 

 ―――

 

「僕は上に報告をしに行ってきますので、時子様は休憩室でお待ちください」

「………………」

「………………」

 

 ちゅっ♡

 

「よろしい♡」

「では、失礼します」

 

 飼い主である私の目を見ただけで私のスネにキスをするよう伝わったのはいいことだわ。これも私の教育の賜物ね♡

 

「相変わらず女王様してんな〜」

「アァ?」

 

 不意に声をかけられた私。声がした方へ目をやると、そこにはつかさが立ってた。その隣にはのあもいる。

 この二人は事務所の中でも私が対等に思う人間。つかさは豚の扱いを心得ているし、のあの方は人畜無害だから。

 

「何、貴女たち?」

「アタシは自分の会社と今度コラボする打ち合わせで、のあっちはそのポスター撮影してきたとこ♪」

「そう、取り敢えずお疲れ様」

「あんがと♪」

「どうも」

 

 二人はそう言うと私の許可なく同じテーブルにつく。

 それも腹立たしいけれど、もっと腹立たしいことがあった。

 それは―――

 

「それよりつかさ。相変わらず女王様してるとは聞き捨てならないわね」

 

 ―――つかさから言われた言葉だ。

 

 私が女王様? ふざけたこと吐かしてるんじゃないわよ。相変わらずも何も豚の前で飼い主面して何が女王様なのよ。

 

「だってさ〜、さっき事務所の中だってのに自分のプロデューサーにキスさせてたじゃん? しかもスネ。スネへのキスって服従って意味なんだぜ?」

「家畜が飼い主に服従して何が悪いの?」

「いや、まあ……二人がそれでいいならいいじゃね」

 

 何、それ。いいも悪いもないじゃない。そんなことのために使った時間を返してほしいくらいだわ。

 

「そういえば、〇〇さんって貴女と付き合ってからかなり変わられましたよね」

「そうね……真の家畜精神が板についたってところじゃないかしら?」

 

 のあはのあでまた変なことを言う。でもこの子は他人に飼い慣らされてきた過去を持つから、アイツみたいに心から悦んでいる家畜の幸せを目の当たりにしたことはない。だからそう思うのは仕方ないことなのかもしれないわ。

 

「あ、それアタシも思った♪ アイツ、前まではかなりデブってたのに、近頃シュッとしたよな♪ 事務所内の女子社員らからの評判もうなぎのぼりらしいぜ?」

 

 ピクッ

 

「私もその手の話はいくつか聞いたわ。元々お優しい方というのもあって今と相まって話題の的なんだとか」

 

 ピクピクッ

 

「とっきーもうかうかしてられないんじゃね? いっつも鞭打ちとかヒールのかかとで踏みつけてないで、ちょっとは優しくしないとプロデューサーに逃げられちまうぞ? 女子社員らなんて『あんな風に扱われててかわいそー』とか言ってるし」

 

 ブチッ

 

「つかさ……随分好き勝手言ってくれるのね。私とアイツの関係を良くも知らないのに」

「怖っ……顔めっちゃ怖っ! アイドルのしていい顔じゃねぇから、それ! それにアタシが言ったワケじゃねぇし!」

「お黙りなさい。いい? 言っておくけど、私はアイツのことを鞭で叩いたり、ましてやヒールのかかとで踏みつけたりしたことないから」

「え、それマジ? あんだけ自分のいいようにこき使ってて?」

「"こき使って"という言い方がそもそもの間違いなのよ。アイツは私に己の意思で尽くしてるの。私のことが尊くて神々しい飼い主だから」

 

 家畜としては飼い主に尽くすのは当然のこと。寧ろそれが悦びなのだから……まあお子ちゃまの女子高生にはまだまだ知り得ない世界なのかもしれないわね。

 

「時子さんは〇〇さんのこと心から愛してるものね」

「っ!?」

「え、のあっちにはそう見えてんの? 今度いい眼科紹介しようか?」

「つ〜か〜さ〜?」

「ひぃっ!?」

 

「私の目から見れば、〇〇さんと時子さんは相思相愛に見えて、とても微笑ましく思います」

「え〜、あれのどこが〜?」

「つかささんは〇〇さんが時子さんにキスをしている時、どこを見ているの?」

「アタシ? アタシは……やっぱプロデューサーかな? 今日も健気にやってるわ〜って」

「ならば次は時子さんを見てみるといいわ。とても幸せそうに微笑んでるから」

「のあ!?」

 

 私は断じてそんな顔なんてしてないわ! あの豚に対して私がそんな……そんなこと!

 

「あり得ないっ!!」

「うおっ……なんだよ、いきなり……」

「ふふっ、そうね。貴女がそういうのなら、私の見間違いかもしれないわ」

 

 ムカつく……本当にムカつくわっ!

 

 ―――――――――

 

「時子様?」

「………………黙りなさい、豚」

「…………」

 

 あれからすぐに豚が来たから、私は豚の耳を引っ張ってコイツが仕事するオフィスに来た。逃げた訳じゃないわ。戦略的撤退よ。

 それで今は豚をソファーに寝かせて、私がその上に乗ってあげているの。つかさやのあのせいで私の機嫌は最悪だったから。

 

「………………」

 

 ナデナデ

 

「何許可なく気安く撫でてんのよ?」

「すみません。撫でてもよろしいでしょうか?」

「ふんっ……豚のくせに♡」

 

 本当にムカつく豚ね♡

 

 ―――

 

 少しだけ冷静になった私はそのあともずっと豚のもも肉枕の上にいる。でも冷静になったお陰で思い出したことがあるわ。

 

「アンタ……家畜のくせに最近調子に乗ってるようね?」

「そうですか?」

「メス豚にちやほやされる気分はそんなにいいのかしら?」

 

 そう、この豚に……あろうことか私の家畜にメス豚がわらわら群がってるみたいじゃない。本当に人間の豚共は浅ましくて醜いわ。実際の豚は綺麗好きなのに雲泥の差ね。見た目が少し伴っただけで態度を変えるなんて、豚を通り越してゴミ屑でしかない。

 

「アンタは誰の?」

「時子様のです」

 

 そうよ。

 

「アンタが仕えるべき主人は?」

「時子様です」

 

 そう。

 

「アンタの全ては?」

「永遠に時子様のです」

 

 そう……分かってるじゃない♡ それでいい……貴方は永遠に私の家畜。これまでもこれからも……♡

 

「分かってるならいいわ。これからも私を崇め、常に私への感謝の念を抱いて日々を過ごしなさい♡」

「はい」

 

「朝起きた時には?」

「今朝も素晴らしい朝を迎えられました。ありがとうございます時子様」

 

「寝る前は?」

「今日も素晴らしい1日を過ごせました。ありがとうございます時子様」

 

 分かってるじゃない♡

 

「なら、今ここで上半身裸になりなさい♡」

「……はい」

「間があったわね? 何か不服?」

「いえ、誰かに見られたらどうしようかと……」

「貴方がそんな心配する必要はないわ。見つかれば貴方の醜い姿が晒されるだけだもの」

「いえ、そうではなく」

「アァン?」

「時子様以外に見られたくないんです」

 

 トゥンク♡

 

「そう……私は気にしないから、さっさと脱ぎなさい♡」

 

 たまらない……この上なく背筋がゾクゾクするわ♡

 その羞恥と私に見られる悦びが入り交じって歪んでいく顔がなんとも言えない♡

 

 ―――

 

「あ、あの、脱ぎました……」

「うつ伏せになりなさい♡」

「はい」

 

 広くて醜い背中……肥満だったから無駄な脂肪で背中のあちこちにブツブツがある上に、余った皮も残ってる。

 

 ちゅっ♡

 

 そんな背中に口づけられるのなんて私くらいよ……恵まれ過ぎてる豚♡

 

「と、時子様……!?」

「お黙り……これは躾よ♡ アンタがどんなメス豚に群がられても私を感じるようにする、躾♡」

「き、汚いですっ」

「ちゅっ……んっ、そうね、とても汚らしいわ……ちゅ~っ♡」

「で、では――」

「――止める訳ないでしょ? はむっ、れろっ……ずちゅ〜っ♡」

 

 小刻みに震えて……なんて醜いのかしら♡ もっとその醜い姿を私に晒しなさい♡

 

「そこら辺の豚ってのは汚らしいんじゃなくて、それ以上なのよ」

「は、はい……」

「でもアナタは違う……この私が愛情を持って世話して躾した、まだキレイな豚♡」

「時子様……」

「アナタは誰の?♡ ちゅ~っ♡」

「時子様のです!」

「ちゅぱっ……ふふ、そう♡ アナタが死ぬまで、ね?♡ いや、死んでも尚私の豚よ♡」

「はいっ!」

 

 なんて幸せそうに鳴くのかしら♡ 腹立たしい♡

 

 ―――――――――

 

「と、時子様……」

「何?」

「も、もう入りません……うっぷ」

 

 躾のあとに私はこの豚を連れて私が使う自分だけの屋敷に帰ってきた。

 他のメス豚が群がってくるなら、また前のように肥やせればいい。だから自慢のシェフに色々と作らせて食べさせてやってるのに、1時間くらいで音を上げた。

 

「ハァ? 豚のくせにご主人様の愛も分からないの?」

「そ、それは伝わっていますっ……しかし……っ」

 

 ハァ……本当にどうしようもない駄豚ね。

 

「いいわ……なら少し運動するわよ」

「え」

「大丈夫……ほんの軽い有酸素運動よ♡ アナタは豚らしく鳴きながら、必死に腰を振っていればそれで済む運動だから♡」

「は、はいっ」

 

 こうして私は豚を連れて寝室に向かったわ。そして私の気が済むまで運動と食事を与え、豚は嬉しい悲鳴をあげていたわ♡―――

 

 財前時子⦿完




財前時子編終わりです!

超ドSの時子様。そのドS行為の裏には愛された者のみが知り得る愛があるのかと!

お粗末様でした☆

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。