別に読モの仕事に不満はなかった
でもアイドルの方がよかった
だってアイドルの方が
楽しいこと多そうじゃん?
ダンスしたり歌ったり
モデルじゃ出来ないこと
沢山出来るからね
だから声をかけてもらった時に
既にアイドルやる気満々だった
現に全く後悔してないもんね★
―――――――――
アタシはカリスマギャルアイドル・城ヶ崎美嘉。今は学校も終わったから、アタシ専属のプロデューサーとの待ち合わせ場所にしてるコーヒーショップに入って、プロデューサーを待ってるとこ。
今日はこれから単独ライブに向けてみっちりヴォーカルレッスンするんだ★
最近のアタシって仕事は絶好調だし、プロデューサーが頭いいから事務所で空いてる時は勉強も教わってて、その結果成績も上がっていいこと尽くめ★
ちょっと前まで小うるさかった先生たちも服装とか頭髪とかあんまり言わなくなったし、順風満帆……なはずなんだけど―――
「私の彼氏さ〜、全然好きとか言ってくれないんだよ〜? ひどくな〜い?」
「え〜、それヤバくな〜い?」
「私はウザいくらい好きとか言っちゃう派なのにさ〜。なのに私にはほんのたまにしか好きって言ってくんないんだよ? マジありえなくない!?」
「うわ〜、マジそんな冷たい彼氏無理なんですけど〜」
―――たまたまアタシが座るテーブルの後ろのテーブルから聞こえてくる話し声に、アタシは居心地が悪くなった。
実を言うとアタシとプロデューサーは半年前から付き合ってる。もちろん事務所の方には内緒ね。でも莉嘉は当然として、アイドル仲間にはアタシたちの関係を教えてる。みんなに隠し事したくないし、何かあった時に結局頼りになるのはみんなだから。
そんなアタシがどうして今の話し声で居心地が悪くなってるのか……それは今の話が立場を逆にしたアタシとプロデューサーそのものなんだよね。
アタシのプロデューサーはアタシのことが好きっていうか……自分で言うのもなんだけど好き過ぎてんの。
仕事の確認電話でも切る際に必ず『大好きだよ』って言ってから切るし、事務所で会えば耳元でそっと『今日も可愛い。大好き』って言ってくるしで……ことあるごとに好き好き言ってくる。まあそれはめっちゃ嬉しいんだけどね♡
その一方でアタシはというと、全く好きとか言ってない。だって恥ずかしいじゃん。てかお互い好き好き言い合ってたら馬鹿みたいじゃん。
……ってことで、居心地が悪い。
やっぱアタシからも言わなきゃだよね……プロデューサーだってあんなにアタシに好きだって言ってくれてるんだもん。
でも……でもさ、アタシだってプロデューサーから好きって言われたらちゃんと頷いたり、「アタシも」って伝えてるし、いいよね? だってやっぱめっちゃ恥ずかしいもん。今軽く考えただけでもめっちゃ顔熱いもん!
「ごめん、ちょっと仕事の電話で遅くなった」
「っ……ううん、いいよ、別に!」
タイミングがいいんだか、悪いんだか……。
「? なんか顔が赤くないか?」
「え……あ、あぁ、さっきまでスマホで恋愛小説読んでたから、かな?」
「へぇ、そうなのか。面白かったら今度教えてくれ」
「う、うん。それよりほら、もう行かない? プロデューサーのお持ち帰りコーヒーならもう買ってあるから」
「お、サンキュ。んじゃ、行こうか」
「うん★」
そしてアタシが立ち上がると―――
「ありがとう、美嘉。大好きだよ」
―――プロデューサーが耳元で優しくささやいてきた♡ これだよ、これ。嬉しいけど、ホント心臓に悪い! そんでアタシも言おうと思ったけど、結局恥ずかしくて言えなかったっていうね。とほほ……。
―――――――――
それから数日後。
アタシはまたいつものコーヒーショップでプロデューサーと待ち合わせしてた。
あれから何度かアタシからも好きってプロデューサーに言おうとしたけど、恥ずかしいが先に来ちゃって言えてない。
ホント、自分でも呆れるくらい。
「ねぇ、この前話してた彼氏とはどうなった〜?」
するとまたこの前話をしてた人たちがアタシの座るテーブルの側に座ってた。普段なら他の人の話し声なんて気にしないけど、今回はどうしても気になってアタシは聞き耳を立てちゃった。
「あ〜、あの人? 別れたよ〜……」
アタシはその言葉を聞いた瞬間、もう彼女たちの会話は入って来なかった。
好きって言わないだけで好きな人と別れることになる……そんなの絶対嫌!
「お〜っす」
するとプロデューサーが来た。
「あ、プロデューサー……」
「? なんか暗い顔してるけど、なんかあったのか?」
ほんの僅かな変化でもアタシのことはすぐに何か感じ取る。嬉しい……けど、今のアタシは―――
「う、ううん、別に……」
―――なんて返しちゃった。
「そうか。まあ、なんかあったら些細なことでもいいから相談してくれよ?」
「……うん」
そのあとも相変わらずプロデューサーは優しかった。でも今はその優しさに応えられない自分が情けなくて、余計に凹んだ。
―――――――――
大きなミスもなく今回のレッスンを終えたアタシ。ただ、振り付けの先生からは『次はもっと自然な笑顔をするように』って言われちゃった。それも全部自分のせいだから、プロデューサーが優しく頭を撫でてくれたのにアタシは逃げるようにロッカールームに入ったの。マジでダサい。
「………………よしっ」
ちゃんとアタシからも好きって言おう!
せっかくプロデューサーの彼女になれたんだもん。恥ずかしいなんて思って逃げてたら、プロデューサーに嫌われちゃう!
―――
「着替え終わったよ〜」
「お〜、お疲れ」
レッスンスタジオが入ってるビルのロビーにプロデューサーはいつも通りの笑顔でアタシを出迎えてくれた。
今なら自然に『ありがと、好き』って言えるはず!
「ね、ねぇ、プロ――」
「――明日はレッスンもないし美嘉も学校休みだから、これから食事でも行かないか?」
「え……」
ぐぬぬ、被って言えなかった。
「何か食べたいものあるか?」
「え、えっと……」
食べたいものなんてない。アタシは今、それどころじゃないの!
「だ、だい……」
「タイ? 魚? それともタイ料理?」
「え、いや、そうじゃなくて……」
あ〜、もう! グズグズしてるアタシもアタシだけどさ! プロデューサーもグイグイ来過ぎでしょ!
「だ、台所貸して!」
「へ、台所? 俺んとこの?」
「う、うん……アタシが自分で作る」
「マジ? 愛する美嘉の手料理食えるの?」
「う、うっさい。今日学校で調理実習があって、たまたま上手く出来たから……」
「マジか……生きててよかった! それじゃ、事務所に連絡してくるから車の中で待っててくれ! 帰りにスーパー寄って帰ろうな!」
「うん……」
う、嘘は吐いてない。調理実習ちゃんとあったもん。それにプロデューサーが暮らしてるマンションの部屋なら二人きりだし、チャンスもあるはず。
下着も……うん、可愛いやつ着けてるから大丈夫!
―――――――――
こうしてアタシはスーパーに寄って食材を買って、プロデューサーの部屋に上がり込んだ。もう何度もお邪魔してるし、お泊まりもしてるし、実は何着か着替えも置いてもらってる。プロデューサーの部屋に行くと、ほぼお泊まりコース確定だから……♡
「美嘉の学校は調理実習で酢豚なんて作るのか……」
「う、うん」
まあ、調理実習の時とは違ってあえるだけのにしちゃったし、お肉はミートボールの方が安かったからそっちにしちゃったけどね……。パイナップルはアタシとしてはどっちでもいいけど、プロデューサーが『てめぇだけはダメだ』って言ったから入れてない。
「いただきます!」
「召し上がれ……」
ちゃんとレシピ通りに作ったし、味見もしたけどめっちゃ不安なんだけど……。
「もぐもぐ……」
「ど、どう……いい感じ?」
大好きなプロデューサーのために作ったんだよ?
「美味しい! 何より美嘉の手料理ってだけで、おかわりする!」
「も、もう……大袈裟過ぎだよ〜♡」
やった〜!♡ 家庭科の先生ありがとー!!
ってダメじゃん! 喜んでないで、ちゃんとプロデューサーにアタシから好きって伝えなきゃ!
「す……すぅ……酸っぱくない?」
「? ちょうどいいぞ? 豚のもも肉代わりに入れたミートボールもいい感じだ!」
「そ、そう……」
あ〜、ダメだ〜! いざ言おうとすると言えない〜! これじゃ莉嘉に『カリスマギャル笑』って馬鹿にされる〜!
「そういや、美嘉」
「……何?」
「今夜、泊まってってくれる?」
「…………うん♡」
「ありがとう……ちゃんと親御さんには連絡入れとけよ?」
「うん♡」
―――――――――
洗い物も終わって、アタシは先にシャワー浴びてきた。気持ちをクールダウンさせたかったのもある。
んで、今はプロデューサーが入りに行ったから、アタシは髪を乾かしながらソファーで適当にテレビ観てた。
『やはり、相性って大切ですよね』
『うんうん。相性悪いとお付き合いなんて出来ませんしね〜』
テレビの向こうではカリスマオネエのタレントさんとゲストの占い師のお姉さんが相性について話してる。
こういう番組ってプロデューサーと付き合う前は「占いなんて……」とか思って観る気も起きなかったけど、今はめっちゃ気になる。
自分でも単純って思うけど、占いであれなんであれ、自分が好きな人と上手く行く保証?みたいなのがあると安心するんだよね。
でも説明聞いててもさっぱり……たはは。
「お〜、この占い師さん、最近よくメディアに出てるな」
「あ、プロデューサー。おかえり〜。ちゃんと髪乾かした?」
「せっかくだから大好きな美嘉に乾かしてもらおうかな〜?」
「えぇ〜、仕方ないなぁ〜♡ 隣座って♡」
「頼む〜♪」
こういうプロデューサーの素直なとこ好き。なんか可愛いし、甘えてきてくれるから♡
今なら言えるんじゃない?
「あ、あい……あいあい……」
「?」
「相性っていいと思う?」
ダメでした……。やっぱ無理でした……。
「相性なぁ。俺はいいと思ってるけど……左手貸してみ?」
「あれ、プロデューサー手相占いとか出来るの? 初めて知ったし!」
「んなもん出来ねぇよ」
「え、じゃあどうしてアタシの手を?」
「手相とか意味分かんねぇけど、美嘉の左手の薬指からは俺と結ばれてる赤い糸が見えねぇかな〜と思って」
「………………」
ギュンって言った。今アタシの心臓がギュンって言ったよ。ギュンって。
ここだよアタシ! ここで言わなきゃ!
「ぷ、プロデューサー……アタシぃ……」
「無理に言わなくてもいい」
「へ?」
「何があったのかは知らないが、大丈夫。俺はずっと美嘉のことが大好きだよ」
「…………うん♡」
あぁ、もう好き!♡ この人の彼女になれてホントよかった!♡
「今夜も沢山……朝までキスしような」
「うん、いっぱいして♡」
こうしてアタシは結局プロデューサーに好きって言えなかった。でもその代わりにいっぱい態度で好きって伝えようと思う。今度からお母さんに料理教えてもらお!
大好きなプロデューサーのために♡―――
城ヶ崎美嘉⦿完
城ヶ崎美嘉編終わりです!
好きって言えないけど、態度はますますデレデレにってことで!
お粗末様でした★