デレマス◇ラブストーリーズ《完結》   作:室賀小史郎

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上京してる設定です。


杉坂海編

 

 自分で言うのも変だけど

 

 ウチはちょろいとこがある

 

 アイドルになったのも

 

 "キレイ"なんてノせられたから

 

 でも人を見る目はあるよ

 

 だからこの人にならって

 

 思ったからアイドルになった

 

 ―――――――――

 

「海〜、どうしてそんなに怒ってるんだよ〜?」

「………………」

「シカトするなよ〜。流石に無視は悲しいんだけど……」

「無視してごめんね、〇〇さん」

「…………」

 

 ウチは今、ポスター撮影を終えて専属プロデューサーさんの運転で事務所に引き上げてるとこ。

 今日はサーフグッズの宣伝ポスターのモデルになれてとっても気分良かったのに、今のウチの気分は超が付くほど悪い。

 その理由はプロデューサーさんがウチが撮影してた時に撮影スタッフさんの女性陣に『キレイですね。アイドルになりませんか?』ってナンパしてたから。

 流石にナンパって言うと語弊があるかもしれないね……プロデューサーさんだって常にアイドルの素質がある子を見つけては声をかけてるから、今回もいつものようにスカウトしてたんだと思う。

 

 でもね……ウチだって我慢の限界なんだよ。

 

 プロデューサーさんは『キレイだね』ってのが口癖みたいなとこがあって、事務所にいるアイドルはもちろんのこと、事務員さんたちや今回みたいに事務所の外でもかなりの頻度で言ってる。

 だったら"そういう人だ"ってことでウチが済ませばいいって思うかもしれないけど、恋人がそんなんだったらみんなウチみたいになると思うんだよね。

 

 ウチは半年前からプロデューサーさんと秘密恋愛をしてる。

 きっかけはウチがプロデューサーさんに惚れて告白したからで、惚れた理由は普段見せてる軽そうなとことは別に、裏でかなり真剣にプロデューサーとしてアイドルのことを考えてるとこ。

 ウチがちょろいとこもあるけど、お世辞でも真剣に『キレイだね』って言われてドキッとしない女の子なんていないと思う。

 でも付き合う前からプロデューサーさんの軽いとこは苦手で……だからウチがこの人の一番になれば直ると思って告白して、ウチなりに努力してきた。得意な裁縫でさり気なく出来る女アピールもしてきた。

 

 なのにプロデューサーさんは全く……1ミリも変わってくれない。今日のことでつくづくそう思った。

 だから……今夜別れを切り出そうと思う。

 

 ―――――――――

 

 と言っても、今日はまだ昼過ぎ。プロデューサーさんとは事務所に戻れば別行動。ウチはこれからユニットでレッスンがあるから、それまでにどう別れを切り出そうか考えようと思ってる。

 

「ほら、海! あんただけワンテンポズレてる! やる気あんの!?」

「ごめんなさいっ! もう一度お願いします!」

 

 あぁ、やっぱウチは2つのことは同時に出来ない。考えるのはあとにして今はレッスンのことだけ考えよ。

 

 ―――

 ―――

 ―――

 

「はい、じゃあ今回はここまで! ストレッチして体を冷やさないように!」

『ありがとうございました!』

 

 やっとレッスンが終わった……終わったけど、本当にボロボロ。ウチのせいでみんなに迷惑かけちゃった。

 

「二人共、ごめんね。ウチのせいで何度も同じとこでつっかえちゃって……」

 

 トレーナーさんが退出したあとで、ウチは一緒に"ハートウォーマー"というユニットを組んでる朋ちゃんと雪菜ちゃんに謝った。

 二人はユニットも組んでて、歳も近いからアイドル仲間というよりは友達に近い存在。これまでもプロデューサーさんとのことで二人にはたくさん相談に乗ってもらった。

 

「大丈夫大丈夫。そんな日もあるよ♪」

「そうだよ〜。それより海ちゃんの方こそ大丈夫?」

 

 二人共本当に優しい。だからウチは二人の優しさにちょっと甘えることにして、これまでの経緯を話すことにした。

 

 ―――

 

「えっ、プロデューサーさんと別れる!?」

「ちょ、朋ちゃん、声抑えてっ……海ちゃん、本気なの?」

 

 めっちゃ驚く朋を軽く制しながら、雪菜ちゃんは落ち着いた声色でウチに訊ねてくる。ユニットの中では一番年下なのに、こういう時はなんか一番安心出来るなぁ。

 

「うん……ウチ、もう疲れちゃった。プロデューサーさんの目には常に色んな女の子が映ってるんだもん」

 

 ウチが胸の内を明かすと、

 

「そりゃ100%ないよ……海ちゃん」

「海ちゃんって案外鈍感だったんだね……」

 

 二人して呆れたような反応を見せた。

 え、待って。ウチが悪いの? なんでそんな目で見られなきゃいけないの!?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきも話したでしょ!?」

「うん。それは聞いた。でも海ちゃんが別れを切り出そうとしてる理由がちょっと分からない。二人共相性占いは最高だったし……」

「占いはともかく、プロデューサーさんは海ちゃんのこと大好きなんだなぁって思ったよ?」

「えぇ……」

 

 なんなの……ウチの心が狭いの? 今ってみんなオープンに挨拶のように『キレイだね』っていうのが当たり前なの!? ウチってそんなに時代遅れなの!!?

 

「………………」

「ねぇ、海ちゃん」

「? 何、雪菜?」

「私も今日、海ちゃんのプロデューサーさんから『キレイだね』って言われたの」

「……で?」

「でも海ちゃんみたいに『可愛いね』とは言われたことないのよ?」

「へ?」

 

 雪菜の言葉にウチは変な声で返してしまった。

 だってプロデューサーさんがウチにしか『可愛いね』って言わないなんて思ったこともなかったから。

 

「まあ海ちゃんはプロデューサーさん大好きだから、嫉妬しちゃうんだろうねぇ。そんな人から毎日可愛い可愛いって言われてるのに、それだけじゃ満足出来ない体になっちゃったんだ〜♪」

「う、うるさいな! それと、変な言い方するな! う、ウチはべべ、別に……」

 

 どうしよう……二人に言われて気づけたのは良かったけど、今度は恥ずかしいしわ嬉しいわでどんな顔したらいいか分かんない。

 

「おやおやぁ? ニヤニヤしちゃってぇ、オカンはもうご機嫌直ったのかなぁ〜?」

「オカン言うな……ウチの方が年下なんだからな!」

「ふふふっ、これならもう大丈夫そうだね。でも今度からは海ちゃんも、もう少し冷静にプロデューサーさんのこと見てあげてね?」

 

 まあ、プロデューサーさんにも悪いとこはあったけど……って雪菜は笑ってた。

 でも良かった……二人のお陰で深刻なことにならなずに済んだ。お礼に今度ご飯ご馳走しよう。もちろんプロデューサーの奢りで、へへっ♪

 

 ―――――――――

 

 さて、二人ともお別れして、ウチはプロデューサーさんにレッスンが終わったことを報告しにきたんだけど……

 

「お疲れ。それと、今夜ちょっと仕事のことで打ち合わせがあるから、寮の方に連絡しといてくれ」

 

 ……ということで、レッスンを終えたウチは足早にプロデューサーさんと事務所をあとにした。

 

 そしてプロデューサーさんに連れて来られたのは―――

 

「ここで打ち合わせするの?」

 

 ―――事務所の最寄り駅から二駅先にある駅前の公園だった。

 ここはウチが上京して初めてプロデューサーさんに連れて来てもらった場所で、ウチが告白した場所で、初めてキスもした素敵な思い出がいっぱい詰まった場所。

 こんなところで打ち合わせなんて何かあったのかと思ったら、

 

「打ち合わせなんてない。海がずっと俺のこと無視してたから、機嫌直してもらおうと思って連れてきたんだ」

 

 そういうことらしい。

 普段は何に対してもポジティブで弱い部分なんて見せないのに……ウチがほんの少し無視してただけでこんなにしょぼくれるなんて、変なの♡

 さっきの二人のお陰で今のウチはプロデューサーさんに別れ話をすることもない。寧ろ今、この瞬間にプロデューサーさんがどれだけウチのこと好きなのかも分かって、上機嫌さ♡

 

 確かにウチがちょっと勘違いしてのが理由なんだけど、雪菜ちゃんが言ったようにプロデューサーさんにも悪いとこはあったから、ちょっと仕返ししちゃお♪

 

「ウチな……少し前までプロデューサーさんに別れを切り出そうとしてたんだ」

「え……」

「だってプロデューサーさんがすぐ色んな人に『キレイだね』って言うからさ……だからウチはプロデューサーさんの一番になれないんだって思って……でも―――」

 

 本当はウチが勘違いしてただけだった……そう伝えようとしたのに、

 

「―――嫌だ! 俺は海と別れるなんて考えたくない! 大好きなんだ! 本当に本当に大好きなんだ!」

 

 プロデューサーさんが必死になってウチへの思いを叫んでくれた。

 周りに人いるし、めっちゃ注目されてるんだけど……でも周りのことも気にならないくらい真剣になってるプロデューサーさんの目を逸らせなかった。

 

「ウチ、自分で思ってたよりも嫉妬深いんだ」

「それはごめん……でも本当に好きな子には軽い気持ちで『キレイだね』なんて言えないんだ、俺」

「確かに最近はウチのこと『可愛い』って言うもんね?」

「…………それは本当に可愛い、から……」

 

 へへっ、や〜ば〜い〜!♡ 嬉しくて顔ニヤける〜!♡

 

「ウチと別れたくない?♡」

「うん!」

「ウチがプロデューサーさんの一番?♡」

「当然! これまでもこれからも!」

「じゃあ、先ずはこの状況からウチを助けてみて?♡」

「ん?」

 

 ウチが『周りを見て』って目配せすると、プロデューサーさんは自分の目で周りを確認してかなり焦った。

 だってアイドルとプロデューサーが公園のど真ん中で、しかも大声で好きだのなんだのって話してるんだからな♡

 

「あ、あの皆さん、お騒がせして申し訳ありません! 今、芝居の練習してまして、もう僕ら帰るので! 本当にお騒がせしましたー!」

 

 プロデューサーさんはそう言ってウチの手を掴んで公園をあとにする。そんなプロデューサーさんは表情こそは堂々としてたけど、ウチからよく見えてるプロデューサーさんの耳はとっても赤く染まってた♡

 

 ―――――――――

 

 それからまた事務所に戻ってきたウチとプロデューサーさん。プロデューサーさんが仕事で使ってる個室に入ると、ウチは我慢してた思いが爆発したかのようにプロデューサーさんをソファーに押し倒してた。

 

「う、海?」

「安心したら甘えたくなった。ウチを甘やかせ♡」

「お、お〜、よしよし?」

「ウチは子どもか!」

「え、え〜と……ちゅっ」

「へへっ、そうそう♡ ウチはオカンとか言われるけど、本当は甘えん坊なんだから!♡」

「そんな海も可愛いよ」

「へへっ、じゃあもっとして♡」

「任せろ」

 

 こうしてウチとプロデューサーさんはもっと仲良くなれたんだけど、ウチらの仲を知ってる子たちから『惚気過ぎ』って言われるようになってしまった……―――。

 

 杉坂海⦿完




杉坂海編終わりです!

これだけキレイなのに海ちゃんはまだ18歳! なので可愛い海ちゃんにしました!

お粗末様でした☆

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